3話 決意
「次の者、前へ……いや、何やってんのお前ら!?」
「はっ!?」
突然の大声に、舞夜の意識が覚醒する。
ここは都市の入り口。
声の主は検問をする門番だ。
甲冑姿を見るに、騎士かなにかだろうか。
それはさておき。
彼の疑問も当然だ。
舞夜は、アリーシャの優しい抱擁と、どこか安心する甘い匂いのせいで意識が朦朧。
気づけば、彼女の胸の中に再びダイブ。
おまけに体を支えられている状態が出来上がっていたのだ。
エルフ……なんという恐ろしい生き物でしょう。
「すみません。ちょっと具合が悪くて……」
「ああ、そういうことか。入市するなら2人で銀貨2枚だぞ?」
とっさに考えた言い訳に、門番の騎士も納得する。
銀貨もリーサルバイトの持ち物から拝借したものを無事払い終える。
バッ! と舞夜が離れた際に「あんっ、起きちゃった……」と、アリーシャが悩ましげな声で残念そうにするが、無視する。
「入市の目的は、そのエルフの売買か?」
「いえ、冒険者ギルドに用があって来ました」
「なるほど。だったら、ギルドはすぐだ。少し行くと白くてデカい建物が見えるからそこを目指して歩けばいい。何か聞きたい事はあるか?」
聞きたい事と門番に問われ、舞夜はある事を思い出す。
「実は彼女を奴隷から解放したいのですが、隷属魔法の解除方法を知りませんか?」
「……売っぱらうんじゃなくて、解放だと?」
舞夜の言葉に、門番が大きく目を開く。
そして、アリーシャまでも「ご主人様!?」と驚きの声を……。
解放されるというのに、その顔は暗く、血の気が引いている。
一体どういう事だろうか。
「あんちゃんの見た目……この辺の人間じゃないな? だったら奴隷の事なんかよく知らなくて当然か。いいだろう教えてやる」
そう言って門番は、話し始めた。
奴隷解放の方法は2つ。
1つ、奴隷市場にて解除の手続きをしてもらう方法。
これには金貨50枚が必要。
2つ、隷属魔法なんか無視して放棄。
しかし、これをされた奴隷の末路は悲惨だ。
その辺のゴロツキに、いいようにされた挙句、飽きたら奴隷市場行き……。
「……」
これに舞夜は黙り込んでしまう。
まず1つ目、解除に金貨50枚という話だが、この大きな迷宮都市でも、金貨2枚あれば、4人家族がひと月暮らせていける。
それが50枚ともなれば、今の舞夜には不可能だ。
残されたのは、放棄か売り払うか……。
どちらにしても、アリーシャを待つのは地獄だろう。
そして、アリーシャの先ほどまでの機嫌の良さが、その悲惨な運命から逃れらると思っていたからだと、思い至る。
「……ご主人様、わたしを売ってください。大丈夫です。エルフは貴重ですから、売られてもひどい事はされません」
呆然とする舞夜に、笑顔を作りアリーシャが言葉をかけるが……嘘だろう。
その証拠に体が震えている。
それに、舞夜は村の女性たちが「変態貴族の慰みものにならずに済んで良かった」と、アリーシャに話しかけるのを聞いていたのだ。
にも関わらず、舞夜を気づかう彼女の姿に舞夜は……
「決めた。アリーシャさん、ぼくと一緒に暮らしましょう」
「え、でも……」
「村で話した通り、ぼくはこの辺の事が何も分かりません。だから一緒にいてくれると助かります。まぁ、アリーシャさんが嫌じゃなければですが……」
「嫌なんてありえません……! ふぇ……ご主人様ぁ〜……」
舞夜の答えに、感極まってアリーシャは泣き出してしまった。
そしてまたもや、抱きつき顔面メロンダイブ。
幸せな感触の中、舞夜は思う。
どうせ自分は死んでいる。
目的もなければ、失うものもない。
ならば、困っている少女の為に、全力で生きてみるのも悪くない。
と——。
「へへっ。なんとなくだがそう言うと思ってたぜ、あんちゃん? そら行け!!」
その様子を見た門番の騎士が、2人の背中を押し、都市の中へと押し入れる。
その際に、舞夜は尻のポケットに違和感を感じ……見れば、それは渡したはずの銀貨だった。
門番の気づかいに小さく笑い、舞夜は言う。
「では、これからよろしくお願いします。アリーシャさん」
「はい、ご主人様!」
涙を流し、元気よく答えたアリーシャの笑顔は、舞夜が今まで見てきたどんなものよりも眩しく、美しかった。
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