35話 闇魔力の猛威
「どうしたッ、図体がデカいだけの木偶の坊か、貴様ら!!」
『ゲバッ……』 『グゲェ……』
休息後、安全地帯を後にした舞夜たちを、数体のトロールが待ち構えていた。
そのトロールうち2体は、サクラがギガントシールドによるチャージアタックで壁に叩きつけた。
しかし、2体の抵抗の力が弱い。
表情と声も弱々しいものだ。
「おらぁぁっ喰らえ!」
「げひゃひゃひゃひゃッ!! まさか、それがし達がトロールを圧倒する日が来ようとは!」
押さえつけたトロールへ盾越しに、ダニーとハワードが次々と黒い斬撃と打撃を浴びせる。
騎士隊の武器、それにサクラの盾には真っ黒なオーラが纏わりついている。
正体は舞夜の闇魔力だ。
融合魔法の発動に成功した舞夜は、休憩中、試しに皆の武器に魔力付与を施してみたのだ。
結果は成功。
舞夜の考えていたとおり、融合魔法の発動より、魔力付与は簡単だった。
特にサクラのギガントシールドは、質量が大きいため、大量の闇魔力を付与できた。
付与できた魔力量は《黒ノ魔槍》の、およそ10倍。
生命力を奪う特性を持つ闇魔力を、そんなとんでもない量を纏った物体に押しつけられれば、いかにトロールといえども抵抗する力も弱まるというものだ。
そこへ、さらに闇魔力を纏った斬撃の嵐。
ハワードの言ったとおり、まさに圧倒だ。
「ご主人様の与えてくださった、大切な装備に触れた報いです。苦しんで死になさい……!」
『ピギャアァァァァァァッ!!??』
底冷えするようなアリーシャの声。
その直後に、鳴り響くトロールの絶叫。
アリーシャがトロールの急所を刎ね飛ばしたのだ。
もちろん舞夜は、アリーシャの刀と脇差しにも、闇魔力を付与した。
すると彼女は、どうしても1人でトロールと戦わせて欲しいと言い出した。
許可を出したあと、危なくなったら、いつでも援護出来るように身構える舞夜だったが、結果は圧勝。
魔力付与による斬撃が有効だったのはもちろん、新装備であるヴィブラウム合金のガントレットの性能は優秀で、トロールの剛腕による衝撃を完全に打ち消し、見事受けってみせた。
さらに、アリーシャの攻撃は全てトロールの急所……睾丸へとヒットしていた。
休憩中、トロールの再生能力の核は睾丸にあると、サクラから情報を得たアリーシャは、迷うことなく、その場所のみを狙ったのだ。
普通であれば、トロールの攻撃範囲は広く、
懐に入ろうものなら、ほぼ間違いなく殺される。
それゆえ、狙う者は少ない。
だがアリーシャは、《剣聖ノ加護》と先代勇者に叩き込まれた月天輝夜流。
そして、新装備の高い防御力をフル活用。
躱し、いなし、時には受けきることで、無傷でトロールを倒してしまった。
夜は、柔らかな手つきで包み込んでくれる、アリーシャ。
だというのに、敵のモノとなれば容赦無く潰し、斬りとばす。
その女の恐ろしさに、舞夜は少しだけ、具合が悪くなるのだった。
「すごいですの! あのトロールがただの的ですの!」
「……ん。いけ《雷蟲》、《キマイラ》追撃」
さらにその奥では、シエラとリリアもトロールを圧倒している。
シエラの弓にも、魔力を付与してある。
弓が当たるたびに、トロールの動きが鈍くなっていく。
そしてリリア。
ここにきて《召聖ノ加護》で新たな戦力を召喚した。
名は《雷蟲》。
某電気ネズミのような名だが、その見た目はグロテスク。
人間の頭ほどもある体に、その体の半分ほどを占める、巨大な顎門を持った飛行蟲だ。
標的まで一気に羽ばたき辿り着くと、かぶりついて、そのまま体内に電流を流し込むという、えげつない能力を持っている。
それに加え、キマイラによる猛攻。
アリーシャより時間はかかったものの、2人とも遠距離で戦っていたので、トロール相手に一番安全に渡り合ったと言えるだろう。
魔力付与を駆使すれば、こうも簡単にトロールを倒せる。
この事実に、舞夜はもっと積極的に、この世界の戦い方、そして魔法技術の研究に取り組むこととなる。
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