32話 魔力付与
「ここからは、魔法を含めた全ての戦闘技術の使用を許可する! 舞夜殿も戦闘に加わってくれ」
6層目に足を踏み込み、新たな敵の姿を目視したところで、サクラが指示を飛ばす。
「“ミノタウロス”に“ローパー”、それに“スモールトレント”と“ワーサラマンダー”か……。確かに、そろそろ舞夜くんの手を借りないとまずいね」
「であるな。副隊長、スモールトレントを頼めぬか? それがしはワーサラマンダーを引き受けよう」
「了解だよ、ハワード。……よっと——」
会話を交わすセドリックとハワード。
分担を決めると、セドリックが剣を構える。
すると次の瞬間、ボウッ! とその剣に炎が音を立てて纏わりついた。
「それがしもいくぞ。ぬん……ッ!」
ハワードも拳を構える。
今度は彼のガントレットを水の膜が覆った。
——あれは魔法……なのか?
炎と水。
その両方から魔力を感じ取れる。
だが、この世界において魔法は魔法名を詠唱しないと発動ができないと聞いていたので、舞夜は疑問に思ったのだ。
「よし。それでは、スモールトレントには副隊長とダニーで、ワーサラマンダーにはハワードとケニー、マリエッタでかかれ。ローパーどもには私が突撃する。そのあとからアリーシャとリリアが追撃。舞夜殿はミノタウロスを。シエラ様は適時援護射撃をお願いする!」
セドリックたちの様子を見て、サクラが改めて指示を飛ばす。
2人の魔法技術が気になる舞夜だが、今は目の前の敵を優先。
質問は後にする。
「いくぞ! 総員、突撃ぃぃぃぃッ——!!」
それにしても、この女隊長ノリノリである。
スキルは防御特化なのに、暴れたがりなこの性格。
女のくせに腹筋が割れている事を馬鹿にしたダニーが、ぶちのめされという話は事実のようだ。
「はははははぁぁッ!! イイ声で鳴いてくれよ!?」
「ヒャッハァァァッ!!!」
セドリックがヤバい顔で後に続き、ダニーも世紀末のならず者のようなセリフを叫ぶ。
「ゲヒャヒャヒャッ!! 血祭りである!!」
「楽に死ねると思わない事だねぇぇ!」
「ストレス発散なのですぅ! なのですぅ!!」
——全員脳筋!?
やっと全力で戦えるが嬉しいというのもあるのだろうが、セドリックは殺しが好きな異常性欲者。
他の者たちは、最後のマリエッタの叫びを察するに、平民出身の為、騎士団の中で溜まった鬱憤を晴らすのに全力なのだろう。
「さて、ようやくだ」
やっと、と言えば舞夜も同じ。
サクラから任されたミノタウロス計7体と対峙する。
ミノタウロスは牛型二足歩行の魔物だ。
それぞれが剣に槍、そして弓を装備している。
遠距離武器も扱える、なんとも厄介な敵だが、舞夜の敵ではない。
「《七星ノ闇魔剣》——!!」
7つの魔剣が敵の頭上から降り注ぐ。
ミノタウロスの数はちょうど7体。
この魔法はぴったりだ。
あっという間に、それぞれの脳天を貫き殲滅する。
『『『モ゛ォォォォォ——オッ!!??』』』
断末魔の叫びが牛のそれと同じで、なんとも締まらない。
「はぁぁぁぁぁッ——!!」
その手前ではアリーシャが鋭く叫び、空中で回転。
襲い来るローパーの触手を次々と切断してゆく。
ローパーは触手を持った植物型の魔物だ。
艶かしく光る緑のボディ。
その全身からはヌメヌメとした粘液が滴り落ちる。
そう……あのローパーだ。
えっちなゲームや薄い本で、他の追随を許さない活躍を見せつける、卑猥という言葉が一人歩きしているような魔法生物に、女騎士とエルフの3人で挑む——。
そんな男子の憧れシチュエーションに、舞夜は密かに「触手プレイキタコレ!」と歓喜するのだが、現実は甘くなかった。
アリーシャは有無を言わさず触手を刈り取ってしまう。
女騎士×触手という定番の絵面に期待するも——
「……《キマイラ》噛みちぎれ」
他のローパーも、リリアが呼び出した《キマイラ》によって、次々に駆逐されていく。
「トドメですの!」
そして最後。
サクラがギガントシールドで押さえつけていた、残りの数体もシエラが自慢の弓の腕前で射抜いてしまった。
哀れローパーは“ぬるぬる触手の陵辱プレイ”という本来の役目を果たすことなく、天に召されるのだった。
唯一の救いといえば、サクラがローパーを壁に叩きつけた際に、飛び散った粘液が彼女の顔にぶっかかり擬似的なアレを成し遂げられたことくらいか。
色もミルキーで、近接戦で紅潮し、汗ばんだサクラの顔も合わさり、なかなかの完成度。
舞夜は及第点を押すのだった。
そして謎の魔法技術を発動させていた、セドリック達はというと——
セドリックの方は炎を纏った剣で、木の魔物、スモールトレントに次々斬撃を見舞う。
攻撃が当たるたびに、木の体に炎が燃え移り、動きがどんどん弱まっていく。
その隣ではダニーが枝による攻撃が、セドリックに当たらないようにガード。
隙があれば追撃……といった感じの連携で圧倒していた。
ハワードたちの方も似たような立ち回りだ。
ワーサラマンダーは燃えさかる体を持つ、蜥蜴型モンスター。
リザードマンのハワードと違い、人間らしい体つきでもなければ、知性も感じられない。
ハワードが水の拳撃を浴びせるたびに、体の炎を小さくしていく。
女騎士のケニーとマリエッタもスタッフによる攻撃で追撃していく。
攻撃のたびにビキニアーマー越しの胸が立体機動し、舞夜の視線を釘付けにする。
「ハワードさん、さっき使っていた術はなんなのか、教えてもらえませんか?」
無事敵も倒し終わり、皆がひと息ついた頃、舞夜が気になっていたことを尋ねる。
「む? 舞夜殿は“魔力付与”を知らないのであるか? あれほどの魔法を使えるというのに」
「魔力付与……ですか?」
「そうだよ。といっても舞夜くんには関係ないと思うけどね」
不思議そうな顔をする舞夜を見て、セドリックも会話に加わってくる。
「魔力付与を使う者には2つのパターンが存在するのである。1つは、属性の素養や魔力はあるが肝心のスキルが無いので、魔力を魔法として扱う事が出来ない者」
「もう1つは、スキルはあるのに魔力量が足りなくて、発動出来ない。或いは節約の為に少量の魔力で属性攻撃を放てる魔力付与を使っている……僕とハワードはこれだね」
——魔力付与……地球ではそんな発想にたどり着かなかったな。
舞夜の感想も当然だ。
何故なら、地球には魔力を付与した武器なんかよりも優秀なモノが揃っているからだ。
銃に爆弾、ミサイル、接近戦であればスタンガンに振動ナイフなんていう凶悪なモノまで選り取り見取りだ。
だが、そこまで発達した武器が普及してなくて、ある属性に極端に弱い魔物がいるこの世界なら魔力付与は使えるだけで、戦いをかなり有利に行う事が出来るだろう。
2人の戦う姿を見て、舞夜の頭の中には様々な戦い方……新たな魔法技術のビジョンが浮かんで来るのだった。
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