30話 女騎士隊長
「おい見ろ。この都市5人目の金等級冒険者のお出ましだ」
「なに? 金等級になったのって、あの黒髪のガキだったのか」
「ああ、2回目のクエストでトロールを単独撃破したらしい」
「嘘だろ? あんなガキがそんなこと出来るわけねーだろ」
「いや、本当だ。アナが言ってたから間違いない。それにほら、金のタグ下げてるだろ」
「ああ、それにあの装備、あの色はオリハルコンにミスリル……ヴィブラウムまで使われているぞ」
「それよか、あの舞夜って奴……魔法使いのはずだろ、なんでタワーシールドをあんな軽々持てる?」
「金等級で上級魔法使い、腕力もあって、エルフにダークエルフまで、はべらせてるとか……世の中、不平等過ぎやしねえか」
侯爵家を後にし、指名依頼されたクエストを受けにギルドを訪れた舞夜たちにそんな冒険者たちのささやきが聞こえてくる。
金等級冒険者になることがいかに困難なことかが伺い知れる。
「あなたが舞夜殿だな?」
とそこへ。
凛とした声とともに1人の女性が現れる。
長い黒銀の髪を後ろで結った甲冑姿の女騎士だ。
その様相を見るに……
「今回同行する騎士の方ですね?」
舞夜はそう察し、問う。
「ああ、私の名は“サクラ・アカギ”。今回の件の依頼もとである騎士団の7番隊の隊長だ。よろしく頼む」
——この人が隊長か……。
アーナルドからの話で、要塞のような防御力スキルを持った騎士と聞いていた舞夜は、てっきり超人ハ◯クみたいな偉丈夫がくると思っていたので、驚いた顔をする。
それと、サクラの日本人に似た容姿と名前も理由の1つだ。
「こちらこそ、指名をいただきありがとうございます。えっと……、アカギ卿とお呼びすればいいですか?」
「ふふ、そうかしこまらないでくれ。これから一緒に戦いに赴くのだ。サクラでいい。それに、私の隊の者たちは他の隊と違い、ほとんどが平民出身だからな」
「そうだぜ、あんちゃん。堅苦しいのはなしだ。んでもって久しぶりだな! 元気してっか? アリーシャちゃんも」
サクラの言葉に乗っかり、気さくな声が割り込んでくる。
その正体は……
「ダニーさん! それにみなさんもお久しぶりです!」
「お久しぶりです。わたしもご主人様も元気です!」
声の主はダニー。
舞夜たちがこの都市に来た時に検問を担当し、その夜酒場で彼らに酒をおごった門番の騎士だ。
「久しぶりであるな」
「2人ともうまくいってるみたいで安心したよ」
「ですぅ!」
さらにその後ろには、同じく宿酒場で飲み明かしたリザードマンのハワード。
ビキニアーマー2人組、ケニーにマリエッタまでいる。
「今回のクエストにみなさんも同行するんですか?」
「そういうこった。こういうあぶねー任務はセドリック副隊長みたいな変わりもん以外、貴族の坊っちゃんたちはやりだがらねーからな。だから、俺たちみたいな平民部隊にまわってくんだよ。わははは!」
そう言って大笑いするダニーの姿を見て舞夜は安心する。
騎士たちと数日過ごすと聞いて、内心かなり気構えてたのだが、気さくなダニーたちであれば、やりやすいというものだ。
そんな平民ばかりの部隊に、なぜセドリックのような者がいるのか気になり、舞夜が本人に聞いて見ると……
「実戦部隊にいれば、魔物はもちろん、犯罪者であれば合法的に人殺しが出来るからね。堪らないだろう?」
とかなりヤバめな答えが返ってくるのだった。
どうやら、ホモなうえに、とんだ異常性癖を持ち合わせているようだ。
「では、これより依頼内容の詳細を伝える。まず……」
ひと通りの自己紹介。
さらにリリアや、シエラが今回のクエストの加わること。
そして各々の戦闘スタイルを大まかに教えあったところで、いよいよ本題。
サクラがクエストの詳細を語り始める。
依頼内容は事前に聞いていたとおり、魔物の異常発生した迷宮の攻略及び調査。
クエストの期間は数日、長くて一週間。
調査範囲は迷宮の15層目まで。
迷宮の階層は全部で30階層だが、これには理由がある。
15層目を超えた先、16層目には“海底領域”と呼ばれる、階層全体が水に沈んだ領域があるのだ。
越えるには水の上級魔法スキルが必要だが、今は使える者がいない。
よって攻略は、15層目までというわけだ。
休憩や就寝は数階層ごとにある“安全地帯”と呼ばれる、魔物の寄りつかない場所でとる。
「それでは、出発だ!」
サクラの号令のもと、舞夜たちは迷宮へと動きだす。
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