2話 エロフ?
アリーシャや村の人々を助け出した後、舞夜は、お礼をしたいと村長を名乗る老人の家に案内され、情報を手に入れる機会を得た。
それに際し、まずは自分が魔法使いであることを明かした。
敵の1人が普通に魔法を使っていたのを見て、この辺では魔法が一般に認知されていると踏んだからだ。
その上で、魔法の実験中に魔力が暴走を起こし、気付いたらあの現場に転移していたと説明。
ゆえに自分が今どこにいるのかも分からず、この辺りの知識も一切無いので教えて欲しいと告げたのだ。
結果は成功。
村長達は喜んで舞夜に情報を与えた。
まずは場所。
ここは“アウシューラ帝国”と呼ばれる国の領土の中にある村の1つで、名は“エリオット村”。
この時点で、舞夜はお手上げだと感じた。
国の名を聞いた事もなければ、説明する際に目の前に広げられた地図を見ても、自分の知る国や都市が1つもなかったからだ。
混乱に陥りそうになる舞夜だが、これだけでは終わらなかった。
というのも現在、この国は“魔王軍”と戦争の真っ最中だと告げられたのだ。
さすがに、「からかってますよね?」と尋ねたのだが、その場にいる全員に「何言ってんだこいつ?」とでも言いたげな顔をされ、本気なのだと確信する。
更に聞けば、魔王は7人いて“七大魔王”と呼ばれている事や“勇者”も存在するという事も分かった。
勇者には2つの種類が存在し、1つは魔王に対抗できる能力を持って生まれてきた者。もう1つは“地球から召喚された者”だと言う。
そこで舞夜は、うっすら気づき始めていた事実に確信を得る。
ここは“異世界”であると。
にわかに信じがたいが、冷静になれば合点がいく。
明らかに未発達な村、魔法が一般に知られている事、それにビッグファングとかいう化物(魔物というらしい)、そしてエルフの存在に。
そして、そのエルフ、アリーシャはというと——
「あ、都市が見えて来ました。もうすぐですね、ご主人様っ」
と、透き通った優しい声で舞夜へと語りかける。
男達(盗賊団リーサルバイトという)に捕らえられていた時は、ボロ布1枚の奴隷服を身にしていた彼女だが、今は殺された商人の持ち物から拝借したメイド服を着ている。
エルフ耳にメイド服、そしてそれを持ち上げるメロンの様な胸。
トドメにご主人様呼ばわり……。
男子のツボをわきまえ過ぎだろうと、舞夜が悶絶したのは言うまでもあるまい。
そしてアリーシャが舞夜をご主人様と呼ぶ理由だが……
アリーシャは、リーサルバイトの頭目が言っていた通り奴隷で、もともとは今2人が向かっている“迷宮都市リューイン”の奴隷市場に売り出される予定だったと言う。
その移動の最中、エリオット村に立寄った際に盗賊団リーサルバイトの襲撃を受けたのだった。
狙われた理由はアリーシャがエルフだからだ。
エルフはそのほとんどが美しく、高額で取引される。
リーサルバイトは指名手配されるほど凶悪な盗賊団で、村人達では歯が立たなかった。
そんな時、現れたのが舞夜だ。
そして、アリーシャを助け出し、彼女の胸に強制ダイブさせられた直後、それは起きた。
アリーシャの首輪と舞夜の手の甲が突然輝きを放ったのだ。
何事かと驚くのも束の間、光はすぐに止み、改めて手の甲を確認すると幾何学的な紋様が浮かび上がっていた。
その正体は“隷属支配の紋章”。
この世界において奴隷は《隷属魔法》というものにより行動を支配され、主人と繋がりが出来る様になっている。
紋章はその証だ。
そんなものが舞夜の体に刻まれた理由は2つ。
1つは所有者である奴隷商人が殺されたから。
もう1つは、舞夜に助けられたアリーシャが「この方なら……」と思い、彼の奴隷となる事を望んだからだ。
後者については、舞夜の知るところではないが……。
ともあれ、条件が揃った事でアリーシャの首輪に込められた《隷属魔法》は発動し、舞夜を彼女の主人とした。
これがアリーシャが舞夜を“ご主人様”と呼ぶ理由だ。
次に2人がこの先の迷宮都市に向かっているわけだ。
いきなりの出来事。
舞夜が一文無しなのは言うまでもあるまい。
何か金銭を得る方法はないかと、村長に尋ねると、迷宮都市にある“冒険者ギルド”に行くといいと言われる。
そこでリーサルバイトの討伐報告をすれば、懸賞金が支払われるのだ。
であれば行くしかない。
村長が用意してくれた、被害状況や舞夜が村を救ってくれた旨を記した手紙を受け取り、2人は移動を開始した。
舞夜はそこで得た報奨金の一部をアリーシャに与え、彼女を奴隷から解放するつもりだ。
エルフの奴隷。
男の夢ではあるが、自分の生活もままならぬ状態で、他人の面倒を見るなど、不可能というもの。
その後は、“冒険者”として生計を立てる計画だ。
ビッグファングの様な魔物を討伐したり、採取した素材をギルドに持ち込む事で報酬が得られると聞いたのが、決意した理由だ。
と、ここで。
「アリーシャさん。そろそろ離れて歩きませんか?」
舞夜が問いかける。
というのも、村を出てからというもの、アリーシャが舞夜の腕に手を回し密着しっ放しなのだ。
身長差のせいで、歩くたびに彼女の大きな胸が、むにゅんむにゅんっ! たぷんたぷんっ! と舞夜の顔や肩に襲い掛かり、気が気ではないのだ。
そんな言葉を聞いたアリーシャは——
「え……」
と、悲しそうな表情を浮かべ、今まで上機嫌にピコピコと上下していた耳をシュンと垂れ下げてしまった。
「あ、ほら。いつまでもぼくなんかに、くっついていても嫌でしょう? それともまだ襲われたのが怖いんですか?」
アリーシャの様子を見て、慌てて質問する舞夜。
自分が主人になったから、機嫌をとるためにこんな事をしてるのではないか?
もしくは、襲われた恐怖心から縋っているのではないか?
そう思ってのものだ。
「嫌なんかじゃありません! それにもう怖くもありませんよ?」
——なるほどな……。
アリーシャの言葉に、彼女の行動が前者であったのだと、舞夜は落胆する。
が、それさえも、どうでもよくなってしまう発言が彼女の口から飛び出る——
「わたしは、強くて優しい。そして愛らしい見た目のご主人様に、“メスとして欲情”しているだけです! ご主人様のお側にいるだけで、大事なトコロがキュンキュンしてきて……胸くらい押しつけたくなって当然です!」
——は……? それって事は彼女はぼくを……いや待て。その前になんて事口走ってやがる!?
天使みたいな顔して、メスや欲情などと口走るアリーシャに、舞夜は戦慄を覚える。
だがアリーシャは止まらない。
「ふふっ……」
絶句する舞夜に小さく笑い。
むにゅんっ!!
身をかがめ、更に強く胸を押しつけて来た。
2人の間で潰れる2つのぷるぷるメロン。
村での強制ぱふぱふに続き、童貞の舞夜には刺激が強すぎたのだろう。
思わず「ひう!?」と情けない声をあげてしまう。
「やんっ。今の声……ご主人様ったら、かわいっ……」
その様子を見て、艶かしく笑うと、アリーシャはさらなる力を込めてくる。
——まじか? まじで発情してんのか!?
アリーシャの顔は赤く、息も「はぁはぁ」と荒い。
更にどういう構造になっているのか、アイスブルーの瞳の奥に、小さなピンクのハートが浮かんでいるのが見てとれる。
——ああ、まずいぞ。なんだかクラクラしてきた……。
柔らかな感触による興奮。
そして密着してると漂ってくる、アリーシャのなんとも言えない甘い匂いに、舞夜の意識は朦朧としてゆく——。
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