27話 侯爵の思惑
食事会で侯爵一家の策略に嵌まり、舞夜たちのお泊まりは決定してしまった。
その食事会が終わったあと、舞夜は男だけで話をしようと、侯爵とセドリックに侯爵の私室へと招かれていた。
アリーシャたちはその逆。
女同士でとコーネリアの私室へ。
「さて舞夜くん、早速だけど」
「貴殿はシエラをどう思う?」
——うわぁ、どストレートな……。
「その、可愛らしいと思います。振る舞いも上品ですし、自慢の娘さんなのでは?」
逃げるために下手なことを言えば、あとが怖い。
そう判断し、舞夜は素直な感想を口にした。
「ふむ、やはりそう思うか?」
侯爵が満足げに頷く。
そして普段は猛獣のような鋭い目つきも、にへら形が崩れ、どこまでも優しげだ。
侯爵が、いかにシエラを大切に思っているのかが伺える。
「でもね舞夜くん。実はシエラはつい最近まで、とんでもなくおてんばだったんだよ。先日まで家出してたくらいにね」
「うむ、冒険者をやっていたと聞いて心臓が止まるかと思ったわい」
「家出、ですか……?」
セドリックと侯爵の言葉に、——あのシエラが? と舞夜は思わず聞き返す。
だが、そうであれば、高貴な身分にもかかわらず冒険者稼業なんかに勤しんでいた理由にも納得する。
「もともと元気な娘でな。小さい頃から冒険者に憧れていたのだ。《弓聖ノ加護》を持って産まれて来たのも理由のひとつだったのだろう」
——確かに、あれはすごかったな……。
《弓聖ノ加護》、その単語を聞いて、舞夜は百発百中のシエラの弓の腕前を思い出す。
「あとは間違いなくアレが原因だよね、父さん」
「ああ、アレは悪夢だった……」
「あの、なんですかアレって?」
急にげっそりした顔になった2人に、舞夜が聞く。
「実はシエラにはもともと、このアウシューラ帝国の第二皇子と結婚させる話があってな、少し前にその皇子に合わせてみたのだが……」
「シエラは可愛いだろう? 第二皇子はあった瞬間にシエラに夢中になってしまってね。色目を使ってシエラの肩に触れたんだ。それで……」
「それで?」
「「皇子の股間を蹴り飛ばしたんだ」」
「え゛!?」
「ハイポーションがなかったら、危うくお世継ぎ問題に発展するところだったわ! ふはははは——!」
——いや、笑いごとじゃないだろう!? 皇族のタ◯蹴り潰すなんて……。
「そんなおてんばシエラが2日前に帰って来た。今まででの振る舞いがウソのようにしおらしくなってな……。そして冒険者をしていたこと、貴殿に助けられこと、その恩を返すために私の力を借りたいと言ってきた。目と耳を疑ってしまったぞ」
「舞夜くんのことを語るシエラの姿……、アレは完全にメスの顔だったね」
「そうだなセドリック。それにな、ぶっちゃけ第二皇子のヤツ、皇族のくせして不細工だし頭も悪いしな。あいつ嫌いだったのだ私」
「第一皇子の“ジュリウス”様は顔も頭もいいんだけど……。でも勇者の力に目覚めたせいで皇位継承権蹴っちゃったし、今は魔王軍との決戦の最中だからね」
「……」
シエラが皇族に金的を見舞い。
その皇族……第二皇子を侯爵たちが能なしの不細工呼ばわり。
その上、まさかその兄である、第一皇子本人が勇者で魔王との決戦に赴いている。
ツッコミどころが多すぎて、舞夜は黙ってしまう。
「そこでだ、舞夜よ。どうだ? 今夜あたりシエルと1発キメてデキ婚せんか?」
「な!!??」
——軽いノリでとんでもないこと言い出した!?
「大丈夫。子どもができたら侯爵家でしっかり育てるから。舞夜くんみたいな優秀な魔法使いの血なら、将来産まれてくる子は冒険者に上級騎士、果ては宮廷魔法使いになることもできるだろう。侯爵家の繁栄は約束されたも同然。大歓迎だよ」
「そのとおりだ。なんなら私の側室の娘や、メイドも綺麗どころから何人かどうだろうか? 種付けしてもらえると非常にありがたいのだが……」
「ち、ちょっと待って下さい! いきなりそんなこと言われても……。あれ? でも魔法使いの血が欲しいならセドリック様がいるじゃないですか。食事会の席で魔法騎士って言ってましたよね? 十分では……?」
畳み掛けてくる公爵とセドリックを前に舞夜はそのことを思い出し反論する。
すると侯爵が顔をしかめ、「む……それはだな……」ともごもごしだしてしまう。
そこにセドリックが……
「舞夜くん。僕は養子なんだ。幼いころに魔法の才能を買われてこの家にやってきたんだ。でもダメなんだ。なんたって僕はホモだからね! シエラはかわいいと思うけど、女となんてまっぴらごめんだ!!」
——いや待て、今なんて!?
スラっとした肉体に、鳶色の髪が似合うイケメン好青年。
まだ若いというのに騎士団で副隊長を勤め、そのうえ魔法騎士。
そんな高スペック過ぎるセドリックがホモだったとは……。
あまりのもったいなさに、舞夜はがっかりせずにはいられない。
「せ、セドリック様の事情はわかりました。ですが、ぼくはシエラ様と結ばれるつもりはありません。申し訳ありませんが……」
セドリックのことはさておき。
舞夜はアリーシャとリリアで手一杯だ。
そのうえ、シエラともなると……。
それに倫理観の問題もだ。
「むう……。まぁ、いきなりの話であったから仕方あるまい」
「でも、きっと君はシエラに落とされると思うよ? アリーシャさんもリリアさんも、出会った次の日にはおいしく頂かれたって言ってたしね」
——あいつら、なんてことばらしてやがる!
だが、自分も勢いでGOした手前。
舞夜も強く言うことはできないだろう。
だが、とりあえずひと安心。
侯爵権限で、強制ズッコンバッ婚——。
なんてことにならずに済んだのでよしとするのだった。
「ところで舞夜よ。夜伽のメイドの下着はどんなものを所望する? Tバックか? それともスケスケがよいか?」
——いい加減にしろこの腐れ貴族!!
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