24話 指名依頼
「いや〜ん! 可愛いダークエルフちゃんね!!」
自宅に帰る舞夜たち。
だが、玄関前にはとある人物が待ち受けていた。
その人物はボンデージアーマー姿のリリアを見ると、ひと昔前のギャル口調で彼女を抱きしめてしまう。
ボンデージといえばこの人。
筋骨隆々の肉体にスキンヘッド。
濃いめの盛りメイクを施した絶対無敵のガチムチ受付嬢。
アーナルド・ホズィルズネッガーさんだ。
突如現れた化け物にリリアが「……ひっ」と、小さく悲鳴をあげる。
あまりの恐怖でハイブーツに包まれたちっちゃなあんよが子鹿の様にプルプル震えてしまう。
同じボンデージ姿でも片方は小悪魔みたいで可愛らしいというのに、もう片方はアークデーモンを具現化した様な姿……。
「あ、アナさん、どうしてここに?」
恐怖で震えるリリアをさりげなく抱っこして、救い出しながら舞夜が問う。
リリアは恐怖から解放された安心感で「……ご主人様、ご主人様ぁ」と舞夜の胸にグリグリと頭をなすりつけている。
「実は、舞夜ちゃんたちにお話があってきたのよん。ちょっと長くなるから、中にお邪魔してもいいかしらん?」
ギルドの職員がわざわざ出向いてくる話とはなんだろうと、考えつつも舞夜は彼女(?)を中へと招き入れる。
「“指名依頼”、ですか?」
「ええ、指名依頼よん。依頼もとはこの都市の騎士団で、内容は……」
アーナルドがやってきた理由は、舞夜に名指しでの依頼が入ったことを知らせにくるためだった。
依頼内容は迷宮の調査、および魔物の一斉駆除というものだった。
「実はこの間、舞夜ちゃんたちがトロールを倒した後から迷宮の様子がおかしいの。普段は中層にいる様な魔物が低層に現れる様になって、重傷者が20人。死者が5人ととんでもない事態になってるのよん」
この事態を受け、都市の騎士団は迷宮内で何が起こっているのかを調査し、可能であればその原因を駆除することを決定したのだ。
それに際し、凄腕の冒険者を雇いたいとギルドに要請。
ギルド側は舞夜を推薦したという。
「なぜ、ぼくなんですか?」
「そんなの決まってるじゃない、舞夜ちゃんが金等級冒険者だからよん」
「そうは言っても、ぼくよりも優秀な金等級もいるはずじゃ……」
「たしかに、金等級は他にもいるわ。でもね、その金等級の子たちは今はいないのよ、今頃は帝都で勇者様のパーティと一緒に魔王との決戦の最中なのよん」
この都市には4人の金等級がいたが、そんな理由で今は不在。
残る金等級は舞夜1人というわけだ。
「これ以上の被害を防ぐために出発は明日。この都市の安全のためにも受けてもらえないかしら?」
「……申し訳ありませんが、お断りさせて下さい」
——あらん、意外ね。舞夜ちゃんなら受けてくれると思ったのに……。
以前、盗賊団リーサルバイトに襲われたエリオット村を損得なしに窮地から救い、先日はトロールに襲われたシエラを命がけで守りきった。
それほどの正義感を舞夜が持っていることをアーナルドは知っていた。
なのに、今回の依頼を蹴ろうとする舞夜に首を傾げる。
舞夜が嫌がる理由は、依頼もとが騎士団だからだ。
地球で聖教会に殺された舞夜にとって、宗教や権力者は忌避する対象だ。
騎士団ともなれば、団員に貴族出身のものも多いだろう。
そんな者たちとお近づきになんてなりたくない。
そう考えての返答だった。
——仲良くなるのは、ダニーさんみたく気さくな人たちで十分。
例外があるとすれば、アリーシャとともにこの都市に訪れた際、舞夜たちに優しく接し、酒を奢ってくれたダニーを含めた門番の騎士くらいだろう。
「いろいろ事情があるのねん……。でも、せめて依頼票だけでも見てもらえないかしらん?」
舞夜の様子に、何かしら譲れないものがあるとアーナルドは見抜く。
しかし、自分も仕事で来ている。
この依頼を受けてもらえなければ上から大目玉だ。
なんとか受けてもらえないかと、詳細を書いた依頼票を差し出すのだった。
「これは……!?」
その依頼票を見て舞夜の表情が変わった。
「すごい報酬ですね……」
「……おまけに条件もいい」
横から覗き込んだアリーシャとリリアも思わずそう漏らす。
依頼内容はアーナルドからも説明されたとおり、迷宮の調査・大規模攻略。
そしてその報酬が、なんと白金貨10枚。
おまけに、迷宮で倒した魔物の素材は全て舞夜のものにしていいというものだった。
——どうしよ、受けたくなって来た。
舞夜の心が揺らぐ。
一見、舞夜は金に困っていないように見えるがそれは違う。
たしかに、しばらくの間なら多少の贅沢をしても十分に暮らしていけるだろう。
しかし、彼の奴隷……愛すべきアリーシャとリリアはエルフ。
そしてエルフは長寿だ。
その寿命は永遠にも等しいとすら言われている。
対し、舞夜はただの人間。
どんなに長く生きたとしてもあと80年やそこらが限界。
冒険者として働ける期間ともなればもっと少ないだろう。
舞夜の生きる目的は彼女たちのみ。
自分が死んだ後も、2人が生活に困らないようにするために、舞夜は自分の全てを捧げ、金を稼ぐつもりなのだ。
ゆえに、今回の依頼条件は魅力的だ。
だが、ひとつ問題が……
「ご主人様、お受けになるなら、わたしも連れて行って下さいね?」
——ですよねぇ……。
にこにこ笑いながら言ってくるアリーシャに舞夜は困ってしまう。
舞夜が行くとなればアリーシャは必ずついて来ようとする。
アリーシャは絶対に舞夜から離れようとしない。
トイレにすら「お手伝いします」と言って入って来ようとする徹底ぶりで、舞夜を恐怖させるほどだ。
加えて、舞夜は前回のクエストで死にかけたから尚更だ。
次に《隷属魔法》で、舞夜が犠牲になるような命令をしてきたら、その場で自害すると脅されてすらいる。
「……アリーシャねえさま。抜け駆け、ダメぜったい」
反対の席ではリリアがそう言い、舞夜の腕を抱きしめる
彼女もついて来る気満々のようだ。
依頼は受けたい舞夜だが、彼女たちが心配だ。
もし失うようなことがあれば、舞夜も後を追ってしまうだろう。
「ねえ舞夜ちゃん。危険過ぎるからっていう理由でためらってるなら、その心配はほぼないわよん?」
「どういうことですか、アナさん?」
「今回同行する隊の隊長さんが、防御に特化した“上級スキル”の持ち主なのよん。トロールを3体くらい相手してもなんともないくらいに強力なの」
「ば、化け物みたいですね」
アーナルドみたいな筋骨隆々のイカつい男を舞夜は想像する。
そして、依頼票を確認すると最後にこんなことが書かれていることに気づく。
“危険と判断した場合は、独自の判断で撤退を許可。報酬にペナルティなどは課さない”
アリーシャたちの護衛は、その騎士隊長とやらにお願いすればいい。
いざとなったら自分が……。
舞夜は依頼を受けることを決意した。
「それじゃあ、私は受託してもらえたことを報告しに帰るわねん。明日またギルドで会いましょ。その時に隊長さんから挨拶と細かい説明があるわ」
そう言ってアーナルドはウィンクするとギルドへと戻っていった。
窓から見えた、帰る姿は乙女のようなルンルンスキップだった。
「ではご主人様?」
「……ご奉仕タイム」
「ダーメ」
「そんな!? ご主人様がわたしとの交◯を拒むなんて……!」
「……肉◯器生活2日目にして、お預けプレイ? 冗談はピ――の大きさだけにしてほしい」
「おい黙れ、駄エルフども」
本当にしょうもないなと、舞夜はげんなりする。
「出発は明日だ。今のうちに食料の買い出しとかしないといけないだろう?」
「でしたらせめて1発だけでも……」
「……ダメ、アリーシャねえさま。私が、ごっくんする」
なおも食いつく淫奴隷たち。
アリーシャに至ってはお気に入りの黒のショーツを脱ぎかけていたので、舞夜が無理やり履かせようとする。
その隙をついてリリアが舞夜のズボンに手をかけてようとした、その時——
コンコンっ。
玄関のドアからノック音が響く。
そして、この新たな来訪者が、舞夜をさらなる混沌へと突き落とすことになるのだった。
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