23話 新装備
武具店ヴァルカンズ——。
「ご主人様、本当にいいのですか? こんなにいい装備を買っていただいて……」
「……ん。さすがにコレはやり過ぎ」
新装備の試着を終えたアリーシャとリリアが遠慮がちに言う。
2人の装備はそれくらい高価なものなのだ。
だが、舞夜は「安全の為ならこれくらいしないと」と、2人の意見を一蹴した。
まずは、アリーシャの装備。
武器は鉄製の長剣と短剣から、“刀”と“脇差し”に持ち替えた。
本来、アリーシャは刀を得物とする流派の使い手だ。
しかし、刀は高価で、この都市に来た当初は買うことが出来ず、長剣と短剣で代用していたのだ。
トロールの一件でまとまった金が入ったので、ようやく本来の武器を手に入れることができたというわけだ。
刀の素材は“玉鋼”と“オリハルコン”という金属を少量含んだ合金製。
玉鋼は地球のものと違い、そういう種類の鉱石があり、刀を打つのにもっとも適していると言われている。
オリハルコンは鉄以上の硬度を持ちながら、その1/10以下の軽さしかない奇跡の鉱石だ。
その2つを組みわせたことにより、刀の斬れ味を保ちつつ、刃こぼれひとつしない軽量武器と仕上がっている。
続いて防具。
革製の鎧は、鉄とオリハルコン合金の戦闘装束に……。ガントレットとハイブーツは、鉄と“ヴィブラウム”という名の合金製のものに一新。
ヴィブラウムは、あらゆる衝撃を吸収し、そのまま消し去ってしまうという特性を持つ金属だ。
これにより、例えトロールに襲われようとも、その一撃に耐え抜くほどの防御力を得た。
オリハルコン合金は蒼銀に。ヴィブラウム合金は白銀に輝き、今のアリーシャの姿はさながら神話の登場人物、“戦乙女”のように美しい。
次にリリア。
彼女は、光沢のある黒の革地に、ヴィブラウム合金の装甲を施したノースリーブにハイレグカットの……つまり“ボンデージ”型の防具を着している。
なんでよりにもよって、そんなマニアックな防具を……と、疑問を覚えるかもしれないが、これには理由がある。
リリアの能力、《召聖ノ加護》は強力な力だが、アリーシャの《剣聖ノ加護》の様に発動の条件がある。
その条件とは“脇と脚の付け根を露出してなければならない”というもの。
それゆえ、こんな装備にならざるをえないのだ。
これにヴィブラウム合金のガントレットとハイブーツを揃えたリリアは、ロリっ娘女王といった様相だ。
レベルの高い紳士であれば、踏まれただけでアレなことになってしまうことだろう。
——《召聖ノ加護》、男に備わったら地獄絵図だな……。
舞夜は思うのだった。
そして、その舞夜の武具。
杖はヤドリギ製だが、その全体を鉄と“ミスリル”の合金でコーティングしたものを用意した。
ミスリルは魔力を保存する性質があり、舞夜の使う《黒の魔槍》であれば5発分くらいの魔力が保存できる様になっている。
防具は体にフィットしたタイプの鉄とオリハルコン、ヴィブラウム、そしてミスリルの4種類を使った合金製だ。
オリハルコンを使ってあるとはいえ、舞夜の筋力ではかなり重く感じる重量だ。
だが、この鎧にはミスリルが含まれている。
舞夜はミスリルに魔力を溜め込み、そのアシストを得て身軽に動くことが可能なので問題なしだ。
ちなみに色は4種が混ざったことで落ち着いた鈍色をしている。
寸法の問題だが、3人の防具には《サイズ》という魔法が込められており、1メートル前後であれば着用者の着丈に自動調整される様になっているので、爆乳なアリーシャはもちろん、小柄な舞夜とリリアも問題なく着ることが出来る。
「他には何か入り用かにゃん?」
無事に試着を終えた3人にヴァルカンがたずねる。
相変わらず、オーバーオールに前掛けのみの姿で、横乳がはみ出てぷるんっと揺れている。
「そうですね。あとは盾が欲しいです。あ、これなんか良さそう」
ちらりと、ヴァルカンの乳を堪能しながら、舞夜はある盾を指差す。
黒い輝きを放つ大盾……“黒曜鉄”製のタワーシールドだ。
黒曜鉄は頑丈だがオリハルコンと反対に鉄より重い。
だが、防具に蓄積させた魔力のアシストを受ければ——
「あ、ひょいっと」
簡単に持ち上げることが出来る。
別に鎧だけでも十分なのだが、盾があればアリーシャ達を守る事が出来ると舞夜は考えたのだ。
うまく使いこなせれば、タンクをしながら魔法攻撃……ということもできる様になるだろう。
装備は全部で白金貨10枚に収まった。
貴重な金属が使われた装備ばかりだが、どれもが鉄との合金製なので、こんなもので済む。
純正のものだとこの倍を出しても揃えることは不可能だ。
その後は道具屋に寄り、魔力切れをおこした時用にポーションを多めに購入した。
あとは3人で自宅でゆっくり過ごす。
……はずだったのだが……。
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