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19話 目覚めたら金等級冒険者

「ここは……」


 冷たい地面の上、アリーシャは目を覚ます。


 ——たしか、わたしはご主人様と迷宮に……。


 そして思い出す。


 一時的にパーティを組んだピーターたちが、どういうわけかこの低層でトロールに追われてこちらに向かってきたこと。

 その際に、仲間に見捨てられたシエラを助けようと舞夜が飛び出し、自分と彼女を逃がそうと隷属魔法を使ったこと。

 そして、自分はそれに抗い、気絶したのだと——


「ご主人様! どこですかご主人様!?」


「ア、アーシャ……良かった。起きたんだね……」


 背後に聞こえる舞夜の声。

 良かった、自分の愛する主は無事だったのだ。


「ああ、ご主人様……。どうしてあんな命令……を……」


 振り返り、アリーシャは目を疑った。

 そこには片腕を失い、全身血塗れで、自分の剣が突きたったゴブリンの死体の上へ倒れる主の姿があったからだ。


「うそ……嘘っ……いやぁぁぁぁっ!! ご主人様! ご主人様あぁぁぁ!」


「ご、ごめん、なんとか、トロールは倒したんだけど……腕、なく……なっちゃって、もう……アーシャの為に戦えないかも、奴隷……から解……放して、あげられな……ゲホッ……」


 舞夜は虚ろな目で、そう言うと血を吐き出してしまう。


「何を、何を言っているんですか!! こんな状態になってまで……ご主人様ぁ……」


「ごめ……ちょっと、もう意識が……シエラを外まで……」


 そう言うと、舞夜は意識を失ってしまった。

 アリーシャは、まさかと心配になったが呼吸は安定している。

 腕の傷も塞がっているようで一安心した。


 だが、このままではいずれ……。

 早く外に出なければならないと、舞夜を抱きかかえたところで、シエラが目に留まる。


 主はこの少女を外に連れて行けと言った。

 だが、本当にそうするべきなのか?


 この少女のせいで、主はこんな姿に……。

 腕を失い、全身傷だらけ、魔力も切れたのだろう。

 まともに扱うことも出来ない剣で、文字通り命懸けで守ってくれて……。


 それなのに、この少女はのうのうと眠って……。


 ——いっそこの手で……。


「いいえ、ダメです。そんな事をしては、ご主人様の優しさを裏切る事になります」


 アリーシャは憎しみを抑えつけ、舞夜とシエラを抱え迷宮の外へと向かう。





「うっ……」


 うめき声とともに舞夜は目覚めた。

 同時に左肩に違和感を覚える。


 ——たしか、アーシャが目を覚ましたところで……。あのあとどうなったんだ? アーシャもシエラも無事なのかな?


「ああっ、ご主人様、お目覚めに……!」


 頭上から優しい声が降り注ぐ。

 そこで舞夜は気づく、自分は彼女に抱きしめられて眠っていたのだと。


「アーシャ、ここは? あの後どうなったの?」


「ここはギルドの仮眠室です。ご主人様のおかげで3人とも無事に脱出する事ができました」


「そっか、良かっ——」


「ご主人様ぁぁぁ!!」


「むぐぅぅぅ!?」


 感極まったアリーシャが舞夜の頭を自慢の胸で挟み込んでしまった。

 埋めるではない、挟むだ。


 何を言っているのか分からないかもしれないが、あてるとか押しつけるとかそんなちゃちなものではない。

 アリーシャの体の本当に恐ろしいところ、舞夜は、その片鱗を味わったのだ。


「ご主人様、なぜあんな命令をしたのですか……。助けたいのに体がいうこと効かなくて……苦しくて……。目が覚めたら、ご主人様はボロボロで……。あんな……あんな思いするくらいなら、ひっく、死んだ方がマシです……!」


 抱きしめながら、アリーシャは泣き出してしまう。

 舞夜はどうしていいか分からず、とりあえず両手で彼女の頬を……。


 ——ん? 両手……っ!?


 そこで気づく、自分のなくなったはずの左腕が、元どおりになっていることに。


「ア、アーシャ。ぼくの腕が……!」


「ひっく……、それでしたら、ご主人様が寝ている間に“ハイポーション”を飲ませたのです。シエラちゃんが持っていたので……」


「はいぽーしょん?」


 舞夜がなにそれ? とアリーシャに問いかける。


 ハイポーションとは、ポーションの上位に位置する秘薬のことだ。

 ポーションとの違いは、傷を負ったその日のうちであれば、欠損を含めたあらゆる傷を治してしまえるというところだ。


 だが、秘薬と呼ばれるだけあり非常に高価。

 普通であれば、貴族くらいしか所持していない代物だ。


「そんな貴重なものをぼくに……。そういえば、それは使ってくれたシエラはどこにいるの?」


「シエラちゃんなら、ご主人様にハイポーションを飲ませたあと、帰って行きました。近いうちに助けてもらったお礼(・・)をすると言ってましたよ?」


「そうなんだ……」


 お礼のイントネーションに舞夜は違和感を覚える。

 そして、その違和感は嫌な予感へと変わり……数日後に当たることとなる。





「は……?」


「自分でしでかしておいて、ビックリしてんじゃないわよん」


 ギルドカウンター。

 目の前の光景に舞夜が呆けた声を漏らし、アーナルドがあきれた顔をする。


「こんな大金、わたし初めて見ました……」


 続いて、アリーシャも思わず感想を漏らす。


 カウンターの上には、上品な輝きを放つ、大ぶりな硬貨……白金貨が18枚。

 それに金貨が9枚も並んでいる。


 日本円にして、約1,800万円。

 これらのほとんどは、トロールの死体の買取報酬だ。


 なぜこんなに高く売れるのか?


 それは先ほど話にも出た、ハイポーションの素材の一部にトロールの骨が使われているのが大きな理由だ。

 トロールはその強さはもちろん、巨大なので運搬が難しく、まとまった量が市場に出回る事があまりない。

 ゆえに、ここまで高額になるというわけだ。


「ということは、これでアーシャを奴隷から解放——」


「絶対イヤです」


 即答である。

 彼女にとって、舞夜の奴隷というステータスは絶対的なものらしい。


「ところで舞夜ちゃん。あなたにはコレを渡しておくわねん」


「これって……!?」


「金等級のタグよん♪ トロールを1人で倒しちゃったんですもの当然よ〜」


「すごいです。ご主人様!」


 舞夜は金等級となった。

 今回、トロールを倒すことで金等級の条件……銀等級チームが複数で倒すような相手を単独で討伐。という条件をクリアしたからだ。


 ——本当にいいのかなぁ?


 いきなりの飛び級に舞夜は疑問を覚える。


 確かにトロールは強力な魔物だ。

 現に舞夜は片腕を失う瀕死の重症を負った。


 だが、それは今回の戦う条件が悪すぎたからだ。

 戦闘不能のシエラやアリーシャがいなければ、恐らく舞夜は遠くから時間をかけ無傷で勝つことができるだろう。


 その程度の相手に勝利しただけで、英雄とも呼ばれる等級に自分がなってしまっていいのかと思ったのだ。


 舞夜は気づいていない。

 自分がこの世界において、どれだけの強者であるかということに——

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