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1話 エルフは最高だぜ!

「あはははぁ! 痛いぃ? 痛いよねぇ〜? でも大丈夫よぉ。お姉さんがこれから、気持ちよぉ〜くしてあ・げ・る・か・ら」


 純白の修道服の様なものに身を包んだ女が、舞夜に跨り喋りかける。


 対する舞夜は、虚ろげな目をして何も喋らない。

 否、喋れないでいた。


 よく見れば、舞夜は体のいたるところから出血している。

 そして、女の片手には拳銃が……。


 なぜ、舞夜は狂った様な笑みを浮かべる、この女に殺されかけているのか。


 それは、彼が“魔法使い”だからだ。


 舞夜の一族、十六夜家は、古くから続く魔法使いの家系だ。


 対し、女は武装宗教組織“聖協会”の一員。


 聖教会は魔法使いと同じく、古来から存在する魔法を良しとしない殺人者集団だ。


 そして今日。

 十六夜家は聖教会による襲撃を受け、敗北した。


「ふふふふ……僕ったら本当に可愛い顔してるわぁ。お姉さんねぇ、かわいい男の子の死体にイタズラするのが、だぁぁぁい好きなのぉぉぉぉぉ!!」


 女が興奮した声を上げる。

 頬を紅潮させ、瞳孔が開いているのを見るに本気の言葉の様だ。


 ——ああ、最悪だ。ロクな人生送ってこなかったってのに死んだ後すら、こんなヤツに……でも、これで終わるならそれでもいいか。


 舞夜は諦めた様に心で呟く。


 実際、彼の人生は惨めなものだった。

 家にいれば、両親から魔法教育と言う名の虐待にさらされていた。


 その内容は凄惨。

 教えた魔法をうまく行使出来なければ、鞭で打つ。

 酷い時は回復魔法の練習の為に、目玉を潰されるというものまであった。


 学校へ行っても友達はいない。


 魔法使いは秘匿された存在。

 自分が魔法使いであるという秘密を抱えた舞夜にとって、心から友達と呼べる存在はできなかったのだ。


 無論、彼女もいない。


 それどころか、少女の様な容姿のせいで女子からはそれをからかわれ、イジメを受けていた。


 蘇る嫌な思い出。


 そしてついに、女に体を貪られる不快な感触の中、舞夜の命の灯火は消え去った。


 はずだった——。





「なに、これ……」


 意識が闇に飲まれた直後。

 舞夜の意識は覚醒した。

 同時に、目の前に広がる光景を見て愕然とする。


 辺りは死体が散乱し、血の海と化していた。


 剣が突き刺さったもの、焼け死んだ様なもの、猛獣か何かの歯型がついたものまで様々だ。


 これでは、まるで……


「地獄、なのか?」


 凄惨たる光景に思わずそう漏らすが、そうでは無さそうだと、すぐに思い至る。


 死体の周りには、民家の様な建物が、いくつも建っていたからだ。

 だが、そのどれもが木造の簡単な造りで、古い安アパートの方がマシという有様だ。


 他にも、地面は土。

 車どころか、電柱すら見当たらない。

 まるで、文明に取り残された、外国の村の様な印象を受ける。


 ——とにかく、まずは生きてる人を探さないと……


 情報を得るため歩き出す舞夜。


「声……?」


 歩くこと少し、人の声が聞こえてくる。

 目の前には、ひと際大きな家。

 どうやら、声はその向こう側からする様だ。


 本当なら、駆けて行き一刻も早く接触を図りたいところだが、そうはいかない。

 なにせ死体が転がっていたのだから。

 声の主は、その犯人かもしれない。


 舞夜は家の影に隠れ、慎重にその向こうを覗き見る。

 すると——


「お願いです! 金と食料は差し出しますから、どうか村人は見逃して下さい……っ!」


「わははははあっ! アホか、何でそんな事しなくちゃならない? 金と食料は貰う、女は俺らで楽しんだあと売っぱらって、男は皆殺しだァ!」


「お頭ぁ、殺すんだったらなるべく、キレイに殺して下さいよ? いくら、おいらが死◯好きだからって、さっきの男達みたいにズタボロじゃ使えませんぜ」


「うるせぇな。だったらお目当の野郎は、てめぇで殺れよ!」


 怯える人々。

 それを守るかの様に、前に出て懇願する老人。


 そして、その周りを取り囲む、剣や槍で武装した数人の男達の姿……なんともベタな略奪現場が目に飛び込んで来た。


 これを見て、舞夜は……


 ——ここにも死◯好きの変態がいやがった! しかもホモとか天敵過ぎるんだけど!?


 勘弁してくれ! と内心叫ぶ。

 先ほどまで、聖教会の女にヤラレていた行為を考えれば無理もない。


 ともあれ、もっと情報が必要だ。

 更に奥に目をやる。


「なんだあれは……」


 思わず声が漏れた。


 男達の1人、そのすぐ側に、3体の狼の様な生き物がいる。

 だが、決して狼などではない。

 まず、大きさがありえいのだ。

 4足歩行だというのに人間と同じ位置に顔がある。

 そして異常なほどに膨れ上がった筋肉が、その存在感を引き立てている。


 ——化け物……。


 そんな言葉が頭に浮かんだ。


 あまりの光景に、一瞬、映画かなにかの撮影か? とも思ったが、それは無さそうだ。


 カメラは見当たらないし、何より、ここに来るまでに見た死体が本物だったからだ。


「諦めんだな、村長さんよぉ。そんでもって恨むんなら、こんな上玉連れ回してた、この奴隷商を恨みな!」


 死姦ホモ男に、お頭と呼ばれていた男が、叫びながら足元に転がる死体をグリグリと踏みにじる。

 更に、手には鎖が握られ、その先には金髪の女の子が繋がれていのが見える。


 ——ちょっと、ついて行けませんねぇ……。


 殺されたかと思ったら知らない所で目覚めて、いきなり死体の山とご対面。

 武器を持った男に狼の化け物。

 おまけに奴隷という単語。


 見なかった事にしたい。

 けど後味が……。


 舞夜はどうすべきか逡巡する。

 そんな時……


 パキッ。


 乾いた音が響く。

 落ちてる枝を踏んでしまったのだ。


「誰だ、そこにいるのは!? いけぇ! “ビッグファング”どもぉッ!!」


 無論、バレないはずがない。

 男の1人が指示を飛ばすと、ビッグファングというらしい3体のバケモノ狼が、舞夜のいる方へ猛然と駆けて来る。


 ——こうなれば仕方ない、男達からここの人々を救い出そう。これが略奪行為なのは明らかだ。それに、黙って殺されてやる理由は無い……いや、もう死んでるんだっけ? まぁいいや。


 そう決め、舞夜は動き出す。

 まずは、奥へ下がり待ち伏せる。

 すぐに、ビッグファングが回り込んで来た。


『ガルッッ!!』


 ダンッ! と1体が舞夜を噛みちぎろう飛びかかって来る。

 とんでもない巨体だというのに、なんという身の軽さ。

 だがそれと同時、舞夜も魔法を放った。


 ギュン! という風切り音と共に、両者の間に黒い閃光が迸る。

 閃光は、ビッグファングの鋭い牙が覗く口へと飛び込むと、そのまま脳天まで刺し貫いた。


 何が起きたのか、理解出来なかったのだろう。

 絶命し、光の消えた目は大きく見開かれている。


 閃光の正体は、歪な形をした“魔槍”。


 魔法名、《黒ノ魔槍(ブラック・ジャベリン)

 属性は“闇”その特性は“奪う”。

 威力による殺傷力とは別に、相手の生命力そのものを奪い取ることができるのだ。


 そして後方。

 残りの2体も頭上から出現した魔槍に地面ごと穿たれ、亡骸と化している。


 巨体に飛びかかられたので、プレッシャーはすごかった。

 だが、それだけだ。

 聖教会の女に襲われ、銃弾の雨にさらされた舞夜にとって獣3体程度、恐るに足らなかった。


「おい、どうなった? 音が止んだのに、ビッグファングが戻って来ねえぞ!?」


「お前、見て来いよ」


「はぁ!? お、お前が行きゃあいいだろう!」


 焦った声が聞こえる。

 どうやら、男達が異常に気付いた様だ。


 ——銃なんかは持っていないみたいだし、こちらから打って出るか。


 いつでも魔法を放てるように、魔力を高めながら舞夜は歩を進める。


「ほう? 奴隷と村娘目当てに来てみれば、珍しい……黒髪黒目のガキか……。しかも変態貴族の好きそうな顔してやがる。おい野郎ども! こいつは高く売れる、殺さずに捕えるぞ!!」


 姿を現した舞夜を見て、頭目と思しき男が好き勝手に指示を飛ばす。

 それに構わず、舞夜は周囲を見渡す。


 ——なるほど。確かに、みんな明るい髪色をしている。それに顔立ちも日本人じゃないな。


「へへっ、ついてるなこりゃ」


「なんだよ、死姦出来ねぇじゃねぇか」


 指示を受け、舌舐めずりする男に、残念そうな死姦マニアのホモ。

 これに舞夜は「いい加減、死姦から離れろ!」と、ゲンナリする。


「んで、仲間はどこにいる? ビッグファングを引きつけてんだろう?」


 頭目が言う。

 どうやら、見た目にも非力な舞夜を見て、そう判断したらしい。


「仲間なんていない。あの3体ならぼくが倒した」


「ぷっ……はは、はははははぁッ!! 聞いたか野郎ども!? この女みたいな顔した、おチビちゃんが1人で、ビッグファングを倒しちまったんだとよ!!」


「あひゃひゃひゃっ! 武器も持ってねえのによくもそんなホラを——あれ?」


 舞夜の答えに、大笑いする手下達。

 その中の1人、ビッグファングを側に控えさせていた男が、急に不思議そうな顔をして笑いを止めた。


「繋がりが……ビッグファングとの繋がりが切れてる!? “スキル”が発動しねえ!?」


「何!? じゃあ本当にコイツが……やれ、ホモルド!!」


 ——繋がりに、スキル?


 いったい何を言っているんだ? と疑問を抱く舞夜。

 だが、考えるヒマは無かった。

 なぜなら——


「喰らえ! 《ファイアー・ボール》!!」


 言葉と同時、死◯ホモ……ホモルドが目の前の空間から火球を放ったからだ。

 見た事のない技だったが、舞夜は火球から魔力を感じ取り、それが魔法だと見当をつける。


《黒の魔槍》——!!


 舞夜も魔槍を放ち迎撃する。

 バシュウッ! と音を立てると火球を打ち消し——


「がぁぁぁぁッ!? 肩……が……」


 魔槍に肩を撃ち抜かれ、ホモルドは最後まで言い終えずに崩れ落ちた。


 ——とりあえず1人目。一撃で打ち消し、更に殺せたということは、《ファイアーボール》とかいう魔法は、そこまで強力なモノじゃないみたいだな。


「う、嘘だろッ、こんなガキが……《ファイアーボール》を打ち消しただと!?」


「そ、それに、黒い槍の“魔法スキル”なんて聞いた事ないぞ!」


 男達は混乱に陥っている。

 再び飛び出たスキルという単語は気になるものの、この好機を見逃す手はない。


「汚物は消毒だぁ!」


 叫ぶと同時に魔法を発動。


 いくつもの球状の魔力の塊が飛び出し。

 男たちを滅多撃ちにする。


 闇魔法、《黒の魔弾(ブラック・バレット)》。

 殺傷力は低いが、《黒の魔槍》と同じく、相手の生命力を僅かだが奪い去る。

 無力化するだけならこれで十分だ。


「フィニッシュだ!」


 トドメの一撃。

《黒の魔弾》をそれぞれの股間へと放つ。

 あまりの激痛に「えんっ!」と叫ぶ男たち。

 そして、そのまま気絶。


 ——チン行に及ぼうとした罰だ。


 とそこへ。


「あの! 助けて頂き、ありがとうございました……!」


 舞夜が気絶した男達を見ていると、鎖で繋がれていた少女が近づいて来る。

 その姿を見て舞夜の世界が止まった。


 今まで見て来た“可愛い”や“綺麗”など、全て吹き飛んでしまうほどの美少女だったからだ。


 恐らく歳は16〜18。

 舞夜よりも年上、それに背も上だ。


 白磁の肌に、涼しげなアイスブルーの瞳、陽に照らされて輝くプラチナブロンドの長髪、そしてその長髪の横からは、少しとがった長い耳がピクピクと上下していた。


「エルフ……?」


 その単語が自然と漏れた。

 特徴的な耳に幻想的な容姿、ファンタジーのお約束であり、全健全男子及び紳士の憧れ、あのエルフと完全に一致しているのだ。


「? はい、確かにわたしはエルフですが……」


 ——マジですか? 本当にあのエルフ様ですか!? 死んでよかった!!


「あの……」


 歓喜のあまり錯乱する舞夜に、エルフの少女が訝しげな声をあげる。


「気にしないで下さい。あのままでは、ぼくも危なかったので……成り行きですから」


 なにカッコつけてんだ、とか言うのは無しだ。

 こんな美少女を前にすれば、どんな男も同じ様な事を口にせざるを得ないだろう。


「そんな事ありません! 見なかった事にして逃げる事も出来たはずなのに……あぁ、なんてお優しいの……」


「え、ちょっ……むぐぅ!?」


 エルフの少女は勢いよく、舞夜の言葉を否定したかと思えば、急にうっとりとした表情をして更に彼へと近づき——


 むにゅんっ!


 そのまま舞夜の頭を抱きしめ、「ちょっと待って」の言葉を、大きな胸で物理的に遮ってしまった。

 身長差があるのがいけなかった。

 胸のど真ん中に強制ダイブ状態になってしまっている。


 ——や、柔らかっ。それにこの大きさ、ぼくの頭よりも……まるでメロン……。まったく、エルフは最高だぜ!!


 これが舞夜と、エルフの少女……アリーシャの出会いだった。

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