18話 聖魔槍
「《七星ノ闇魔剣》!!」
再び魔剣がトロールめがけ飛んでいく。
このままでは倒せない。
そう判断し、舞夜は賭けに出ることにした。
まずは今放った魔剣で再びトロールの身動きを奪う。
その隙に、残った魔力で発動できる最大火力の魔法を叩きこむ作戦だ。
『グフフフッ……』
迫り来る魔剣を前にトロールが嗤う。
するとどうだろう。
トロールは頭、それと腕に迫ってくる魔剣のみに意識を集中し、それを回避してしまったではないか。
他の箇所に魔剣が突き刺さろうと、お構いなしに舞夜へと突っ込んでくる。
「くそッ!!」
振り下ろされるトロールの拳。
咄嗟にガントレットを構え防御。
激しい衝突音が鳴り響く。
棍棒ではないというのに、とんでもない威力だ。
ガントレットにはとうとうヒビが入り、舞夜の片腕はへし折られてしまった。
だが、それと同時。
舞夜の魔法が完成する。
舞夜は地球で魔法教育と言う名の虐待を受けていた。
その内容は凄惨だった。
ゆえに、激痛に耐えきり、魔法構築を続ける事が出来たのだ。
「喰らえ、《黒闇天ノ聖魔槍》……!」
唱えた瞬間、辺りを漆黒の闇が包む。
本能で危機を察知したトロールが後ろへ飛び退くが、もう遅い。
広がった闇が舞夜の前へと集まり……爆ぜる。
するとそこには美しい槍が現れた。
だが、その見た目に反し放つ光は邪悪。
暗黒の輝きが目の前の敵を喰らい尽くそうと暴れ狂う。
「死ね」
言葉とともに、飛び出した槍が再び辺りを闇で包む。
甲高い……破滅の福音が鳴り響く。
そして、闇は霧散する——。
舞夜の目の前には、首だけになったトロールが転がっていた。
これで魔力はほぼゼロ。
もしこれで決まらなければ……
『ゲ……バ……』
——くそっ……。
ズリュ……グチュ、グチュ……。
舞夜を見上げるトロール。
首から下が再生していく。
だが——
『ゲバ……?』
トロールの様子がおかしい。
そして舞夜は気づく。
「再生が……止まった?」
見れば、両腕を生やしたところでトロールは再生を止めていた。
生命力の限界が訪れたのだ。
だが、それでもトロールは腕を巧みに使い、舞夜へズリズリと向かってくる
——でも、もう魔力はない。どうすれば……。
『その杖は刺突にも使えるにゃん』
そんな時、舞夜は思い出す。
武具店で聞いたヴァルカンの言葉を。
「やるしかない……! いくぞ化け物!!」
残った僅かな魔力を爆発させ、トロールの懐にロケットの様に飛び込む。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ——ッ!!」
叫びを上げ、何度も何度もトロールの胸に杖の先端を突き刺す。
ガシ——!
その最中、杖を持つのとは反対の腕、そして胴体を掴まれる。
ミシミシ、ミシミシと音が上がり激痛が走る。
「こいつまさか……! くそっ、死ね! しねぇぇぇぇ!!」
突き刺す手を速める。
しかし——
「あぎゃぁぁぁぁぁあ——!!??」
鳴り響く声。
舞夜の腕は引きちぎられた。
だがトロールもそれが最後の抵抗だったようだ。
ちぎった舞夜の腕をポロリと落とし、白眼を剥くと崩れ落ちるのだった。
「うぐ……ぽ、ポーション……」
朦朧とする頭でトロールの腕の中から抜け出し、気絶するアリーシャの腰からポーションを取ると一気に飲み干す。
だが血は止まらない。
ポーションに欠損を治す力はないのだ。
「《黒ノ再動》……!」
このまま死ぬわけにはいかない。
舞夜は片腕を諦め、修復魔法で腕の傷を塞ぐ。
他にも体は体中傷だらけ、骨も何本か折れていたので、かなりの魔力を消費してしまった。
「ははっ、寝てる……」
見ればシエラも気絶していた。
戦闘中に恐怖で……といったところだろう。
「そうだ、トロールを回収しよう。上級の魔物って言ってたから、高く売れそうだ」
残った魔力を使い、トロールを《黒次元の黒匣》で回収。
あとはアリーシャが起きるのを待って脱出するのみ……のはずだった。
『グギャ……』
『グギギ』
——ああ、トロールの死体なんて放っておけば良かった……。
舞夜はトロールを倒した安心感で失念していた。
まだ、ここが魔物の巣窟、迷宮であることを……
ゴブリンが現れたのだ。
それも2体。
「少しは休ませろよ……!」
腕を失い、めちゃくちゃになった平衡感覚の中、アリーシャの剣を残った片手に取り舞夜は立ち上がる。
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