17話 トロールの悪夢
トロール。
あらゆる冒険者が恐る上級の魔物。
その腕力は凄まじいの一言、1発殴られただけで即死させられてしまうほどだ。
だがしかし、トロールのもっとも恐ろしいところは、腕力などではない。
では何か。
それは“再生能力”だ。
トロールは特別な生命力を持つ魔物だ。
その生命力が尽きぬ限り、腕を斬られようが頭を潰されようが、何度でも再生してしまう。
そして今、舞夜はそんな化け物を相手に危機に立たされていた。
「ご主人様、ここはわたしが……」
「ダメだ!!」
ご主人様を危険な目に合わせるわけにはいかない。
アリーシャはその想いで、トロールを引き受けようとするが、それは舞夜に制止される。
——ダメだ。いくらアリーシャが強くても……。
例え《剣聖ノ加護》で身体能力が強化されたとしても、軽装備のアリーシャでは1発でももらったら終わりだ。
その上、舞夜の後ろにはシエラがいる。
おぶって逃げたところで、トロールのスピードに追いつかれ皆殺しにされるのが落ちだ。
ならばと、舞夜はある決心をする。
「『アーシャ、命令だ。シエラを連れて迷宮の外まで逃げろ』」
舞夜は《隷属魔法》を発動した。
正直、勝てるかどうか怪しい相手だ。
ならば、自分が壁になり、彼女たちだけでも守り抜こうと考えたのだ。
——どうせ一度は死んだ命、だしな。
「いや……いや! やめてご主人様!! 今すぐ命令を解除してください! あぁぁぁぁぁ——!?」
隷属魔法に抵抗しようと、アリーシャが苦しそうな声を上げる。
——ごめん、アーシャ。これしかないんだ。
結局、彼女を奴隷から解放できなかったな……と、胸の内で謝罪をする舞夜。
ドサっ——……
そんな彼の耳にそんな音が響き渡る。
恐る恐る、うしろを見れば、気絶し倒れ伏すアリーシャの姿が目に飛び込んでくる。
アリーシャは、その想いの強さで体を支配しようとする隷属魔法に抗い続けた。
計り知れない苦痛に見舞われ、意識を落としてしまったのだ。
そして、これは最悪の事態だ。
敵は棍棒を一撃で人を殺してしまうほどの魔物。
対し、舞夜は魔法使いだというのに、アリーシャ達を守る為、一歩も引くことが出来くなってしまったのだから。
——やるしかない!!
「《黒ノ魔槍》!!」
『ゲバッ!?』
覚悟し、魔槍を発動。
まずは敵の得物、棍棒を破壊した。
突如、砕け散った棍棒に驚くトロール。
その隙に、次なる魔法を放つ。
「《七星ノ闇魔剣》!!」
トロールの頭上に7つの漆黒の魔光が浮かび上がる。
次の瞬間、魔光は激しい輝きを放つと禍々しい剣の形を成した。
そして、一気に襲いかかる——
「ゲギャァァァァァアアッ!?」
響くトロールの絶叫。
魔剣は、頭に腹に腕に足。
あらゆるところに殺到し、血や脳みそ、膓をブチまけ、手足を斬り飛ばしてゆく。
《七星ノ闇魔剣》——破壊力もさることながら、生命力奪取の効果は《黒の魔槍》の10倍以上。
魔力の消費は大きいが強力な魔法だ。
——頼む、死んでくれよ……。
そう願いつつ、舞夜は魔力回復の為、腰に装備したポーションを煽る。
そしてこれが最後の1本だ。
残りは最初にかすった脇腹への攻撃で、破壊されてしまっていた。
『ゲブッ……、ゲババババババ……』
——嘘だろ……。
舞夜の願い虚しくトロールは再生し、再びいやらしく顔を歪める。
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