16話 弓聖ノ加護
迷宮2層目——
「《黒ノ魔弾》!」
「いきますの!」
舞夜が前衛に襲いかかるゴブリンを魔弾で弾き飛ばす。
その横でシエラが矢を放ち別のゴブリンの肩を射抜く。
「うおりゃああああ!!」
「僕も行きますよ!」
そこへすかさず、ピーターが剣。
デールがナイフでそれぞれトドメを刺す。
さらに——
「《黒ノ魔槍》!」
別の位置から迫ってきた2体の豚人型の魔物、“オーク”。
舞夜はそのうちの1体に魔槍を放つ。
残る1体へは、アリーシャが飛び出す。
体格差があるにも関わらず、《剣聖ノ加護》の力を使い、敵の顔の高さまで難なく跳躍。舞夜の魔槍がもう1体の心臓を貫くと同時、こちらは首を斬り飛ばしてみせる。
——杖の扱いにもだいぶ慣れてきたな。
舞夜は杖を使いこなしつつあった。
同じ魔法の連続発動や同時展開はもちろん、今の様に自分の力のみで魔弾を発動し味方を援護。同時に杖のアシストを得て、本命の敵へ魔槍を放つという事まで可能となったのだ。
この世界において異なる魔法の同時発動には、《二重詠唱》という上級スキルが必要であり、それを難なくこなす舞夜にピーター達は目を見開いて驚いた。
「こっちも頼むっス!」
スタッキーの声が響く。
構えた盾と棍棒でオークを足止めしている。
更にその背後に2体ゴブリンが迫る——
「舞夜様、一緒にお願いしますの!」
「了解です。シエラさん!」
舞夜は《黒ノ魔槍》でオークの頭を吹き飛ばす。
シエラは矢を2本つがえると同時に発射。
スタッキーに迫る2体の胸を貫く事に成功した。
「いやぁ、舞夜にアリーシャ。あんた達すごいな!」
「ほんとっス! オークを単独で倒しちまうなんて」
周囲の敵の掃討を終えたところで、ピーターとスタッキーが興奮した様子で2人を絶賛する。
「それを言うならみなさんもです」
褒められ、恥ずかしそうに返す舞夜。
だが、これはお世辞ではない。
実際、ピーター達の実力は銅等級としてはなかなかのものだった。
1層目でお互いのできることを実践し合うと、指示を出し、初めて組む相手にも関わらず、それなりの連携をしてみせた。
だが、なによりすごかったのはシエラだ。
彼女の得物は大弓。
身の丈に合わぬその武器を涼しい顔で放ち、的確に味方を援護するのだ。
中には彼女が一撃で倒したオークもいるほどだ。
そして彼女の力には秘密がある。
それはアリーシャと同じく限られたエルフのみが持つ力、加護を持っている事だ。
その名も《弓聖ノ加護》。
能力は全射撃武器の適正化。
重量の無視や命中率の超向上といったチート能力だ。
「ピーター、3層目の入り口を見つけたぞ!」
そこへ、デールが言いながら戻ってくる。
シーカーの本来の役割、先行探索を終えてきたのだ。
「わかった。……2人のおかげで助かったぜ! まさかここまで楽して来れるとはな。帰ったら一杯奢らせてくれ」
「こちらこそ、おかげでかなり稼げました。ぜひみんなで飲みましょう」
3層目にたどり着けば、舞夜たちの役割は終わり。
一緒に来ないかとも言われたが、安全の為、それは断る事にした。
それぞれ言葉と握手を交わすと、4人は迷宮の奥へと消えていった。
◆
「痛っ——!?」
アリーシャが小さく呻く。
見れば掌から少量の出血をしている。
ピーターやシエラ達と別れた後、舞夜達はもう少しだけ魔物の討伐を継続することにした。
その途中、オークを倒した際に擦りむいてしまったのだ。
「アーシャ! ほらポーションだ」
「だ、大丈夫です。ご主人様! こんな小さな傷でポーションなん——んも゛ぉっ!?」
——いいから飲みやがれ!!
舞夜は有無を言わせず、アリーシャの小さくて可愛いおくちに、ポーションの瓶を無理やりぶち込むと、中の液をグイグイ飲ませていく。
「ぷはぁっ……! もう、ご主人様ったら乱暴です! 突っ込むのは、ピ――だけにしてください!!」
「おい、だまれ」
迷宮とはいえ、淫語を堂々と口にする変態エルフに、舞夜は冷たい目を向ける。
「それより、そろそろ戻ろうか?」
「そうですね。ご主人様、今日は何が食べたいですか?」
「そうだな。せっかくここまで来たんだし、たまには外で——」
「おぉぉいっ!」
「逃げろお前ら!!!!」
夕食の話で盛り上がろうとした直後。
2人の間に絶叫が割って入った。
声の主は先ほど別れ、3層目へと向かったピーター達だ。
——何だあれは……!?
その姿……正確にはその背後に迫る化け物の姿を見て、舞夜が絶句する。
ピーター達の倍はある土色の巨体。
丸太のような手足に、ゴブリン以上に醜い顔を持った魔物が巨大な棍棒を振り回し、彼らを追い回しているのだ。
「“トロール”!? ご主人様、逃げましょう!」
「アーシャ、知ってるのか!?」
「はい! 銀等級の冒険者チームが、いくつも集まっても倒せるかどうかと言われている、上級の魔物です!」
——マジで化け物じゃないか!
『ゲバババァァァァ!!』
アリーシャの言葉に、即座の撤退を決断した直後。
トロールが咆哮をあげる。
そして事は起きた。
トロールが跳躍。
そのまま棍棒を振りかぶり——
ドパンッ!!
追われているうちの1人、スタッキーの頭を吹き飛ばした。
「いやぁぁぁっ!? スタッキー……!」
その光景を真横で見たシエラが、ショックでその場にへたり込んでしまう。
「立て、シエラ!!」
「構うなデール、俺たちもやられるぞ!」
そんなやり取りをして、ピーターとデールは舞夜達の横を駆け抜けていってしまう。
「《黒ノ魔弾》!!」
仲間を見捨てる2人の薄情さにショックを受けるのも束の間。
舞夜は魔弾を放つ。
へたり込み、すすり泣くシエラに向かって、トロールが棍棒を振り下ろしていたからだ。
魔弾は棍棒の先端にヒット。
その軌道を逸らし、ギリギリでシエラを救うことに成功する。
「今行くぞ!」
魔力を足元で爆発させ、舞夜がロケットの様に飛び出す。
「おい、逃げるぞ!!」
「だ、だめぇ……、立てませんの……」
——くそっ、足がすくんでるのか!
「ご主人様!!」
アリーシャの警告の声。
態勢を立て直したトロールが、舞夜めがけて棍棒を薙ぎ払う——
「やられるかよ!!」
腕をクロスする舞夜。
ガキンッ! という重い音が響く。
ガントレットでガードした音だ。
だが、舞夜の顔が歪む。
金属のガントレットでガードしたというのに、衝撃が凄まじく彼の骨にヒビが入ったからだ。
その上、脇腹に棍棒をがかすり、血が滴っている。
——けど、これで終わりだ!!
「《黒ノ魔槍》!!」
苦痛に耐えながら、魔槍を放つ。
魔力を普段の倍注ぎ、巨大化したそれは見事トロールの顔面を直撃。
スタッキーの仇とばかりに派手な音を立てて、頭を吹き飛ばした。
「ぐ……り、《黒ノ再動》」
舞夜の腕と脇腹が漆黒の輝きに包まれる。
《黒ノ再動》。
闇魔法で今まで奪ってきた生命力を使い、傷を癒すことのできる魔法だ。
——よし、治った。このままシエラを連れて……
「逃げてください、ご主人様! トロールは——」
再びアリーシャが叫ぶ。
まさかと思い舞夜はバッと、うしろを振り返る。
トロールの首がなくなった箇所から、グチュグチュと音が聞こえる。
するとそこから赤い繊維の様なものが生え、絡み合い——
「再生するんです!!」
アリーシャが言い終わるのと、頭が再生したトロールが『ゲバァァァァ……』と嗤うのは同時だった。
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