14話 奴隷エルフの恐るべき計画
翌朝。
「んん〜、やっぱり魚はお刺身が一番ですねっ」
うっとりした顔でアリーシャが魚の切り身を口にする。
水路の張り巡らされたこの都市には近くに海がある。
なので、朝から新鮮な魚が食卓に並ぶのは珍しいことではない。
もっとも、刺身に関してはその限りではないが……。
なぜなら、刺身という食し方は舞夜が教えたものであり、それにかける醤油も、彼がたまたま地球で製法を知る機会があり、その知識を使い作り上げたものだからだ。
そのほかにも食卓には、ご飯に味噌汁(味噌も醤油同様に舞夜が作った)が並び、目の前に座るのが金髪エルフのアリーシャである事を除けば、さながら日本の食卓だ。
アリーシャは奉仕(意味深)もさることながら、料理(そういう意味もある)がうまい。舞夜が教えた日本食の数々をいたく気に入り、あらゆるレシピをあっという間に覚えてしまった。
「アーシャ。今日こそクエストを受けに行こう」
食事を終えたタイミングで舞夜が切り出す。
「はい、ご主人様。ではまず身支度を……ふふっ」
その言葉を受け、アリーシャがいたずらっぽく笑い、舞夜にすり寄ってくる。
そして彼の召しものに手をかけようとするが——
「おっと、アリーシャ。今日は着替えさせっこなしだ」
「むむ、今日は手ごわいですね。素直じゃないご主人様も可愛いですが……どうかなさいましたか?」
舞夜は彼女の魔の手をヒラリとかわす。
着替えさせっこなどすれば、またご奉仕プレイが始まってしまうからだ。
籠絡に失敗したアリーシャが途中から真面目な表情に変わる。
いつもと違う舞夜の様子に何かを感じ取ったのだろう。
両手の指はワキワキさせたままだが……。
「どうかしたのかもなにも、このままじゃダメだ。このひと月、何も仕事をしてない。このままじゃダメになる」
「いいじゃないですかダメになったって、大丈夫です。ご主人様にはわたしがついてます。さぁ、今日もわたしのおっぱいに甘えて……ね?」
——またこれだ……。
淫靡な口調と仕草で抱きしめようとしてくるアリーシャに、舞夜はため息をつく。
——こうなったら最終手段だ。
「『アーシャ。なんでぼくが働こうとするのを止めるのか、理由を言うんだ』」
「なっ……、これは《隷属魔法》!? ご主人様、やめてください……くっ!」
アリーシャの言うとおり、舞夜は《隷属魔法》を発動させた。
本当はこんな手段はとりたくなかったのだが、このままではアリーシャを奴隷から解放する資金を稼ぐことすらままならない。
背に腹はかえらないと判断し強行にでたのだ。
「『さあ、答えるんだ』」
「いや……言うわけには……」
抵抗するがそれはムダだ。
隷属魔法は絶対強制の力。
アリーシャは抵抗虚しく言葉を紡ぐ——
「こ、このままお金が貯まってしまったら、ご主人様の奴隷でいられなくなってしまいます……。もちろん、ご主人様がそれでお別れなんて言わないのは分かっています。ですが、愛するご主人様とは気持ちだけでなく、魔法も繋がっていたいのです。じゃないと不安で……」
——アーシャ……。
素直な想いを口にするアリーシャに舞夜は涙が出そうになる。
そこまで自分の事を思っていてくれてたのかと。
「大丈夫だよアーシャ、ぼくは君と離れたりなんか——「というのも理由のひとつです」
——は?
「わたしの目的は、このままご主人様を徹底的に堕落させて、働くなんて考えをなくしてしまうことです! そうすれば、わたしはご主人様を一生養えて甘やかし放題! いずれは食事やトイレも1人でできなくして、永遠の奉仕を——ああっ! どこへ行くのですかご主人様ぁ!?」
——なんつー、恐ろしいこと考えてやがる!?
アリーシャさんマジ天使。とか思っていたところで明かされた恐るべき奴隷の計画(アリーシャ命名“ご主人様ダメ男化計画”)に、天使は天使でも“堕”のつくほうじゃないか! と舞夜は席を立ち……
——こうなったら、1人で稼ぎにいく!
と、家を飛び出す。
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