129話 久しぶりの虎耳娘
とある日の夜――
「んにゃ〜! 今日もたくさん頑張ったにゃん!」
大きく伸びをしながら、鍛冶士の少女ヴァルカンが声を漏らす。
依頼を受けていた分の鍛冶仕事は全て終わり、あとは店を閉めるだけだ。
「今日は早めに仕事も終わったし、外に飲みにでも行こうかにゃ?」
工房の片付けをしながら、仕事終わりの一杯に思いを馳せる……そんな時だった。
店の入り口から、来店を知らせるベルの音が鳴り響いてきた。
「んにゃ〜、申し訳ないんにゃけど今日は閉店にゃ……って舞夜ちゃん!?」
驚いた表情を浮かべるヴァルカン。
無理もない。来客の正体はこの国の英雄、舞夜だったのだから。
「お久しぶりです、ヴァルカンさん。閉店の時間に押しかけて申し訳ないのですが、少しお話がありまして……」
「この国を救った英雄さんならいつだって大歓迎にゃん! 今日はどういったご用件ですかにゃ?」
舞夜を中へと案内しながら、用件を問うヴァルカン。
席へと通された舞夜が「実は……」と言って、とある鉱石を懐から取り出す。
「これは……こんな真っ赤は鉱石、初めて見たにゃ。いったい何なのにゃ?」
鉱石を手に取り、ヴァルカンが不思議そうな表情を浮かべる。
「ヒヒイロカネです」
「……………………にゃ?」
舞夜の言葉に、ぽかんとした様子のヴァルカン。
しかし、その表情がみるみるうちに驚愕へと染まっていく。
「ヒ、ヒヒイロカネ!? あの伝説のッッ!?」
金の瞳を見開き、ヴァルカンが大きな声で叫ぶ。
ヒヒイロカネ、それはこの世界のとある伝説の中に登場する、幻の鉱石の名だ。
凄腕の鍛冶士であるヴァルカンでも見たこともない鉱石とともに、その名が舞夜の口から出てきたことで、脳の理解が追いつかないといったところだろうか。
「たしか、ヴァルカンさんは鑑定系の上級スキルを持っていると前に言っていましたよね? ぜひ確認してみてください」
「え、えっと、それじゃあ失礼して……《ハイパーステータス》、発動にゃ!」
舞夜の言葉を聞き、ヴァルカンが自身の持つ鑑定系のスキルを発動する。
すると――
「んにゃあぁぁぁぁぁ!? 本物のヒヒイロカネにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――とんでもなく興奮した様子で叫ぶヴァルカン。
発動した鑑定スキル《ハイパーステータス》によって、目の前の鉱石の上にヒヒイロカネの名が表示されたからだ。
「ま、まさか、伝説の鉱石が本当に存在していたにゃんて……。ま、舞夜ちゃん、いったいそれをどうやって手に入れたにゃん!?」
「どうやって手に入れたか、それを答える前にぼくから一つ質問させてもらってもいいですか?」
「もちろんにゃ! 何でも答えるにゃ!」
舞夜の言葉に、ヴァルカンはブンブンと頷く。
「ヴァルカンさん、ぼくは最後の魔王戦に向けて、とある場所で武器を開発してします。その開発にヴァルカンさんも参加してくれませんか? もちろん、そこでのことは口外禁止です」
「……にゃるほど、その武器の開発に、ヒヒイロカネが関わっているにゃね?」
舞夜からの誘いに、ヴァルカンは瞳をキラキラさせながらそんな風に問い返す。
彼女の言葉に、舞夜は「その通りです」と頷いてみせる。
「私は鍛冶仕事に生涯を捧げると決めているにゃ。そんな私の前に伝説のヒヒイロカネが現れたら、どんな条件だって飲み込んで関わらせてもらいたいにゃん!」
元気よく、そして真剣な表情で思いを口にするヴァルカン。
(うん、やっぱりヴァルカンさんなら信用できそうだ)
そんな感想を抱きながら、静かに頷く舞夜。
初めてヴァルカンに会った時から、舞夜は彼女が生粋の鍛冶職人であり、心から鍛冶仕事を愛しているのだと感じていた。
そんな彼女であれば信頼できるし、この話を持ちかけても引き受けてくれるだろうと思って、この店に訪ねてきたのだ。
「では、さっそく拠点へと案内してもいいですか?」
「もちろんにゃ!」
そんなやり取りを交わし、二人は店をあとにする。