124話 乱れ撃ち&狙い撃ち
翌朝――
「さぁ、行きましょう」
そんな声とともに、キャンピングカーに乗り込む舞夜。
ジュリウス皇子を始めとした面々もそれに続いて乗り込んでいく。
いよいよ、魔王ルシフェルの眠る森林型の迷宮に向かうのだ。
「よいしょっと♪」
機嫌良さそうに、舞夜の隣――助手席に座る桃花。
昨日の風呂での件があったので、舞夜は一瞬ドキッとしてしまう。
「むぅ……」
自然に舞夜の隣に座った桃花を見て、凛は複雑な表情を浮かべる。
昨日の件を知っているわけではないが、女の勘で何かを察したようだ。
それはさておき。
街道を進むこと二時間――
件の森林型の迷宮が見えてきた。
どこまでも続くかのように思える広大な森林。
出入口はいくつかしかなく、他の場所から無理やり入ろうとしても結界に阻まれてしまう。
森林型の迷宮とはそのような存在なのだと、舞夜は事前に話を聞いていた。
「ジュリウス、魔王ルシフェルは迷宮のどの位置に封印されているのですか?」
「過去の記録では迷宮の中心部に祭壇があり、そこに封印されていると記されている」
舞夜の問いに答えるジュリウス皇子。
それを聞き、試しにキャンピングカーで迷宮に入ろうと試みるも、話に聞いていた通り見えない壁――結界に阻まれてしまった。
どうやらここからは徒歩で行くしかないようだ。
「みんな、やっぱり車の中に残っていては……くれないよね?」
アリーシャたちエルフ嫁三人と、レオナに問いかける舞夜。
しかし、やはりというべきか、四人ともついてくる気満々であり、それぞれ装備を整えている。
「勇大、剛也、先頭は任せたぞ」
「了解です、殿下!」
「任せてください!」
ジュリウス皇子の指示に、張り切った様子で応える二人の勇者。
二人を先頭、そして舞夜を真ん中に隊列を組み、一行は森林型の迷宮の中を進んでいく。
迷宮の中を進むこと少し――
『キキー!』
『ウキキ!』
そんな甲高い声とともに、二体の異形が現れた。
茶色の毛並みに包まれた二メートルほどの巨体……猿型のCランクモンスター〝ジャイアントエイプ〟だ。
「いくぞ、剛也!」
「応っ!」
掛け声とともに、飛び出す勇大と剛也。
勇大は走りながら剣を抜き、そのままジャイアントエイプの懐に飛び込むと、どの土手っ腹に剣を突き刺す。
剛也は駆ける途中で大きく跳躍し、そのままもう一方のジャイアントエイプの首に、渾身の飛び蹴りを叩き込む。
勇大は腹を貫かれたジャイアントエイプから剣を引き抜き、間髪入れずトドメを刺す。
剛也も着地とともに、今度はパンチを首に叩き込み、こちらも首の骨を完全に折ることでトドメを刺すことに成功する。
「二人とも、強くなってますね」
「ああ、毎日欠かさず訓練していたからな」
二人の戦いぶりを見て、感心したように呟く舞夜に、ジュリウス皇子が満足げにうなずく。
出会ったばかりの頃、勇大と剛也はアーティファクトの能力を使うことばかりに気を取られ、その力に振り回されていた。
しかし今は、Cランクモンスターを相手にスキルを使うことなく、純粋な剣術と体術で勝利してみせた。毎日、血が滲むような努力をしてきた証だろう。
せっかくなので、舞夜の闇魔法――《黒次元ノ黒匣》でジャイアントエイプの死体を回収しつつ、一行は奥へと進む。
◆
勇大と剛也の活躍により、迷宮攻略は着々と進んでいく。
凛と桃花の魔法技術も洗練されており、舞夜やアリーシャたちの出番がないくらいに順調だ。
そんな中――
「ん……? この気配は……」
――舞夜が足を止める。
「気づいたか、舞夜」
そう言いながら、舞夜の隣にくるジュリウス皇子。
迷宮の少し奥の方から、今までのモンスターとは比べ物にならないプレッシャーを、二人は感じ取ったのだ。
警戒しながら進む一行。
すると開けた場所に出た。
そして一行の視線の先には、巨大な二体の異形が佇んでいた。
『『グォォォォォォォォォォ――ンッッ!』』
舞夜たちの姿を見つけると、二つの巨大な影が咆哮を轟かせた。
「なるほど、〝トレントドレイク〟か」
二体を見つめながら、ジュリウス皇子が呟く。
トレントドレイク――
木の体を持つ、二足歩行のドラゴン族モンスターだ。
体長は約四メートル、強さはBランクほどである。
「さて……それじゃあ、いくとするか!」
「ああ、今のオレたちならドラゴン族モンスターにだって負けはしないぜ!」
剣を、拳を構える勇大と剛也。
そんな二人が飛び出そうとしたその時だった。
「……待って」
「ここはシエラたちがやりますの!」
リリアとシエラが、そう言いながら前に出てしまう。
「え、ちょ……!」
この二人は何を言ってるの!?
そんな様子で舞夜は二人を止めようとするのだが――
「……来て、キマイラ」
「お兄さまの力をお借りしますの! 《黒次元ノ黒匣》!」
リリアは《召聖ノ加護》の力を使い、キマイラを召喚。
シエラは自分の服に、予め舞夜によって付与してもらっていた《黒次元ノ黒匣》を発動。
キマイラの体と、シエラの腕が黒い霧に包まれる。
そして霧が晴れると――
「な……ッッ!?」
――そんな声とともに、瞳を見開く舞夜。
キマイラの体には、まさかの〝ガトリングガン〟が固定され、そしてシエラの手の中にはスナイパーライフルが握られていたのだ。
しかも、今までに開発したものの中には存在しない形をしているのが見て取れる。
舞夜は気づいた――
ジャックにカブ! ぼくに内緒で二人用の武器を開発していたな!
――と……。
恐らく、リリアとシエラの二人に頼まれて、ジャックたちは舞夜に心配をかけまいと、極秘に二人用の武器を開発していたのだ。
「……いけ、キマイラ」
『ガルッ!』
リリアの指示でキマイラが飛び出した。
そして一体のトレントドレイクの周りを旋回するように走り出した……その瞬間だった――
ズガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!
凄まじい轟音と、マズルフラッシュが炸裂する。
キマイラの背中のガトリングガンから弾丸が連続射出されたのだ。
『グギャァァァァァァァッ!?』
耳をつんざくような悲鳴とともに、トレントドレイクの体が蜂の巣と化していく。
コイツはヤバイ……!
そんな考えに至ったもう一体のトレントドレイクが、一目散に迷宮の奥へと逃げ出そうとする。
その刹那だった……
パァン――ッッ!
……一条の光とともに、腹に響くような音が鳴り響いた。
そして次の瞬間、逃げ出したトレントドレイクがその場に崩れ落ちていく。
よく見れば、その後頭部には小さな穴が開いている。
「狙い撃ち、成功ですの!」
得意げな声を上げ、スナイパーライフルの構えを解くシエラ。
シエラの持つ《弓聖ノ加護》は射撃武器の命中精度を飛躍的にアップさせる能力を持つ。
つまり、弓でなくてもその力を発揮する。
たとえそれがスナイパーライフルであっても……だ。
「「何、これ……?」」
リリアとシエラの圧倒的な力の前に、戦う気満々だった勇大と剛也は、げっそりした表情を浮かべるのであった。




