120話 ゼハートへの旅路①
「な、何というスピードだ……」
「それに馬車と違って揺れもほとんどない……こんなモノを召喚できるとは、さすがは私の旦那様だ!」
発進してすぐのこと、ジュリウス皇子とサクラが驚愕、そして興奮した様子でそんな感想を漏らす。
サクラの言葉に触れてもめんどくさそうだったので、舞夜はスルーする。
同じく初めて車というモノに乗ったレオナは言葉を失っている。
孤島で採れた様々な希少鉱石をふんだんに使ったこのキャンピングカーは、サクラの言う通り揺れはほとんどない。
広々とした空間も相まって、まさに快適といった感じだ。
「はわ〜、クラスメイトが車を運転してるなんて、何だか不思議な気分だよ〜」
グングンと舞夜がスピードを上げる中、助手席から彼に向かって桃花が微笑みながら話しかけてくる。
助手席を賭けて、舞夜ラブな少女たちによるジャンケン大会が繰り広げられることになったのだが……何故かそれに桃花も加わり、勝利を納めて助手席に座る権利を得たのである。
「西蓮さん、興味があるなら後で運転してみる?」
「え? 私も運転できるの、舞くん?」
「うん、地球の車よりも操作が簡略化されてるから、できるはずだよ」
「そっか、そもそも他に車もいないから、ウィンカーとかもないんだね〜」
舞夜の説明に「はわはわ」と笑いながら受け答えする桃花。そんな二人の少し楽しげな様子に、アリーシャ、リリア、シエラのエルフ嫁三人が――
「む〜、ご主人様がわたしたちの知らない地球の知識について話している様子です」
「……ん。少し嫉妬」
「シエラもお兄さまの故郷の知識をもっと知りたいですの!」
――と、桃花に向かって羨ましげな視線を向けている。
皆、舞夜にこれでもかと愛されているのは自覚しているが、やはり自分たちの知らない知識を含んだ会話を、他の少女がしているとなると羨ましく感じてしまうようだ。
(あれ? 桃花のほっぺが少し赤いような……気のせいよね? 気のせいよね!?)
よく見れば舞夜と話す桃花の頬がほんのり赤く染まっている気がする。それに気づいた凛が、そんな不安感を抱くのだが、果たして……。
「そういえば、ジュリウス。ゼハートにいる魔王……サタンでしたっけ? どんな力を持っているのか判明しているのですか?」
舞夜がこれから戦うことになるであろう魔王について、情報をジュリウスから聞き出そうと質問をする。
するとジュリウス皇子は――
「舞夜、そうだな……過去の記録によると強力な防御力と、途轍もない威力の近接攻撃手段を有していたようだ。恐らくマモンのように《ドラゴニックフォース》などの防御スキルを持っていると見て間違いないだろう」
――と答える。どうやら、またもや魔法使いである舞夜にとっては苦手とするタイプの魔王のようだ。
しかし、ここでジュリウス皇子が不敵な笑みを浮かべる。そして言葉を続ける。
「安心しろ舞夜。今回は勇大たちも十分に鍛えて成長している。前のように不覚を取ることはないだろう」
そんなジュリウス皇子の言葉に続き、雄大と剛也が――
「そうだ舞夜、僕たちはあれからアーティファクトの扱いだけでなく、自身の戦闘スキルも磨いてきた」
「ああ、魔王を倒すまではいかなくても、凛や桃花とも連携すれば封印くらいならやってみせるぜ!」
――と、自信ありげな表情で言う。
舞夜が無理して倒さなくても、勇者組で魔王を封印できれば被害は最小限になる。
前回は勇者見習いだった勇大たちが、マモンの一撃でノックアウトされてしまったが、今回は前のような驕りではなく、自信を感じとることができる。
(まぁ、それでも色々用意するに越したことはないよね……)
勇大たちの言葉に微笑みながら、舞夜は「期待してるね」と頷きつつも、そんなことを考えるのだった。
◆
「む……舞夜、魔物の群れがいるようだ。あれはオークか」
街道を飛ばすことしばらく、進路上にオークの群れがいることに、自分も助手席に座ってみたいと言って桃花と交代したジュリウス皇子が気付く。
そしていつでも出撃できるように彼の得物であるグレートソードを用意しようとするのだが……。
「ああ、大丈夫ですよジュリウス。そのままでいてください。いけ、《爆砕魔槍》……!」
……舞夜は涼しい顔でジュリウス皇子を制止すると、ハンドルの中央にいくつか取り付けられたボタンの内の一つを押す。
するとキャンピングカーのフロントに漆黒色の魔法陣が浮かび上がった。そしてその中から……ギュン――ッ! と空を切り裂くような鋭い音とともに、真紅と漆黒のコントラストに染まった舞夜お得意の魔法、《黒ノ魔槍》が勢いよく飛び出した。
そして魔槍はオークたちのいる中心地点に着弾した。そして……。
ドゴォォォォォォォン――――ッッ!
凄まじい轟音とともに大爆発を起こした。哀れオークたちは反応することすら許されず、その身を木っ端微塵に吹き飛ばされた。
ジュリウス皇子たち勇者組、レオナやサクラは「嘘だろ(でしょ)……」と、乾いた笑いを漏らし、アリーシャたちエルフ嫁は「どやっ」とした表情を浮かべ、舞夜を誇らしく思うのだった。
舞夜が取り組んでいたのは武器の開発だけではない。自身の魔法の技術もさらに磨いていた。
今のは《黒ノ魔槍》に炎、そして風の属性を融合させ、爆発を起こすように改良した魔法だ。
爆発の威力はもちろん、闇属性の生命力を〝奪う〟という特性も健在である。
その後も魔物の群れに遭遇することはあったが、全てキャンピングカーに予め付与しておいた改良型の《黒ノ魔槍》で一撃のもとに蹴散らした。
そして数時間の走行をこなし、一行はいよいよ山脈へとたどり着くのであった。




