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地球で虐げられた《最強》闇魔術士は、異世界でエルフ嫁たちに愛される  作者: 銀翼のぞみ
四章

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110話 約束の口づけ

「お留守番……だと……ッ!?」

「ご、拷問なのですっ!」


 帝都の――舞夜がジュリウスから貰い受けた屋敷のエントランスホールで、ゼノビアとナタリアがそんな声を漏らす。


 この場には他のエルフメイドたちも揃っている。

 そしてどのメイドも皆、同じようなリアクションをしている。


 アリーシャたちへのプロポーズを終えた舞夜は皆を集め、これから少しの間屋敷を空けることを説明した。

 アリーシャたち以外はお留守番と聞いてエルフメイドたちは騒然としていた。


「無理です〜! 一日一回ご主人様の愛らしいお姿を見ないと死んでしまいます〜!」


 一人のエルフメイドが言う。


「私も! 実際、さっきも〝さん付け〟で呼ばれただけで死にかけました!」


 他のメイドが言う。

 彼女はエントランスに来た際に、舞夜に挨拶をしたところ、ゼノビアとナタリアのようにさん付けで呼ばれてかっ血して倒れた内の一人だ。


 一人……ということは、もちろん他にも被害者(?)はいる。

 ここに来た大半のエルフメイドがそうだ。

 みんなして舞夜にさん付けで呼ばれて、次々と血を吐いて倒れて行く様は地獄絵図であった。


 騒然とするエントランスホール。

 舞夜はどうしたものかと思案顔を浮かべる。


 そんな時だった……。


「静まりなさい! ご主人様が困っていらっしゃいます。主人を困らせるなど、この屋敷のメイドとして失格ですよ?」


 凛とした――アリーシャの声がエントランスホールに響き渡る。

 彼女は澄んだ声は、大きな声を出さなくてもよく通る。


 それだけではい。

 メイドとして主人を困らせるなど言語道断。

 言葉とともに威圧を放ち、メイドたちを黙らせた。

 さすが魔王の側近、レヴィを圧倒しただけのことはある。


「聞きなさい、これからご主人様はこの国――いえ、世界の命運に関わる偉業を成し遂げる予定です。あなたたちはそれを邪魔するとでも言うのですか?」

「世界の命運……」

「ご主人様……まだ何かを成し遂げる気でいたのです!?」


 アリーシャの言葉で、静まり返ったメイドたちの間でそんな囁きが交わされる。


 その中にはこんな声も……。


「もし、ご主人様が世界を救ったとなれば……」

「そんなお方に、お姉ちゃんと呼んで甘えてもらえる……」

「世界最強の子種を私の中に……」


 欲望ダダ漏れである。


(もうイヤ、この屋敷のメイドたち……)


 舞夜は白眼を剥いて、心の中でため息を吐く。

 だが、これでエルフメイドたちの抗議の声は収まった。


 出発の日に舞夜が着替えた服を誰が洗うかで熾烈な戦いが繰り広げられたりしたが……。

 舞夜がそれを知る由はなかった。





「はぁ……」


 帝都の一角、とある小さなワンルームで一人の少女が深いため息を吐いていた。


 黒い髪に愛らしい顔立ち。

 もう寝ようとしていたのか、淡い黄色のネグリジェを着ている。

 体のラインが分かるネグリジェだからこそ、彼女の胸が平坦なのがよく分かる。


 必殺胸骨アタックさんこと、異界の女勇者、東堂凛だ。


 ため息の理由は、以前舞夜を籠絡する為に、媚薬の芳香という禁じ手を使ったのがアリーシャたちにバレて、舞夜の屋敷への出入りが禁止されてしまったからだ。


 そのおかげで、ここしばらくアリーシャたちに幼児退行調教されていたせいで、外へ出ることをやめていた舞夜に全く会うことが出来ていない。


 彼に恋する凛にとって、それは拷問に等しい罰であった。


 もっとも、媚薬は流石にやり過ぎたと反省することにはなったので、いい薬ではあるのだが……。


 そんな彼女の耳に――


 コンコンッと、玄関からノックの音が聞こえてくる。


「こんな時間に……桃花かしら?」


 彼女の級友、同じく異界の女勇者である桃花は、よく夜更けに凛のもとへやってきて、お喋りすることが多い。


 そんなわけで、凛は誰が来たのか確認するまでもないとドアを開けるのだが……。


「こんばんは、東堂さん――って、ごめん! まさかそんな格好してるなんて思わなくて!」

「え……ま、舞くん!? そんな格好って……あ!」


 来客は桃花ではなく、今まさに思っていた少年、舞夜だった。

 凛の格好を見るなり、慌てて視線を横に逸らす。


 その反応を見て、ようやく凛は思い至った。

 自分が今、随分と露出の多い格好で彼の前に出てしまっているのだと。


(あ……っ、でも恥ずかしがる舞くん可愛い〜!)


 恥ずかしさを覚える凛ではあったが、自分の肌を見られていると思うとドキドキしてくる。

 そして何より、ドギマギした様子で視線を逸らす舞夜の様子が可愛らしくてたまらない。


「どうしたの舞くん、こんな時間に……」

「ひぃ!?」


 舞夜の腕に手を回し、部屋の中へと誘おうとする凛。

 そんな彼女の大胆な行動に、舞夜は前回の彼女との出来事を思い出し、情けない声を漏らす。


 アリーシャたちからのせめてもの慈悲と言うべきか、舞夜自身は凛に媚薬の芳香を使われたという事実は知らされていない。

 だからこそ、自分がまた同じような行動に出てしまうのではないかと恐怖しているのだ。


「と、東堂さん、今日少し話があって来たんだ」

「舞くんから私に話なんて珍しいね、どんな内容?」


 舞夜の腕を引き、彼をベッドの上に座らせようとする凛。

 舞夜は前回のこともあったので、逡巡したが……結局それに従った。

 今日の話をする為には、前回と同じシチュエーションの方が良いかもしれないと思ったからだ。


「東堂さん、ぼくは東堂さんのことが好き……なのかもしれない」

「…………へ?」


 舞夜の突然の告白、それに凛は一瞬理解が及ばず、なんとも間抜けな声を漏らす。


「前にこの部屋に来た時、ぼくはなんだか変な気持ちになって、東堂さんととんでもないことをしようとした。実際、勇大が来なかったらぼくは……」


 そこまで言って、舞夜は視線を下へと落としてしまう。

 媚薬が原因と知らない彼には、そのことが罪の意識として心のどこかに根ざしていたのだ。


(ああ、そういうこと……)


 舞夜の様子を見て、凛はそれを感じ取った。

 だからこそ、自分が汚い手を使ったことを白状することにする――のだが……。


「舞くん実は――」

「聞いて東堂さん!」

「え、はい……」


 言葉の途中で、舞夜に遮られた。

 そして、真剣な目つきで自分を見つめてくる彼に、凛は思わず従ってしまう。


「今日、ここに来て気づいた。今、ぼくの目には東堂さんがすごく可愛く写っている。それに、東堂さんといると胸がドキドキしてくるんだ」


(え……それってつまり舞くんが媚薬の芳香なしで私のことを……?)


 凛の胸が高鳴る。

 当然だ。地球にいた頃から恋をしていた少年から、自分に気があると取れる言葉を聞くことがが出来たのだから。


 舞夜は理解した。

 自分を好きでいてくれる。

 自分の胸の小ささを気にして恥ずかしがる姿が可愛らしい。

 ちょっとアグレッシブ過ぎて、地球にいた頃は誤解を生んでしまったが、それも苦手意識さえ乗り越えてしまえば、どうとでもなる。


 そんなことを――


 媚薬はそんな彼の思いを気づかせてくれるきっかけに過ぎなかったのだ。


「東堂さん、ぼくにはこれからやらなくちゃならないことがある。けどそれが終わった時、改めて自分の気持ちを整理出来たら、東堂さんにしっかりとした気持ちを伝えようと思う。だからそれまで待っていて欲しいんだ」


 静かに舞夜が言葉を続ける。

 凛からの気持ち、そして凛へ抱いている気持ちをそのままにするのは良くないと思ったからだ。

 だからこそ、今出せる答えを、彼女に伝えるべきだと思ったのだ。


「まぁ……アリーシャたちとも一緒になることを許してくれればの話なんだけど……」


 バツの悪そうな顔で舞夜は言う。

 舞夜には最愛のアリーシャたちがいる。


 この世界において、貴族が一夫多妻なのは当たり前だが、地球から来た凛には受け入れ難いことかもしれない。

 そのこともしっかり理解してもらわなければならない。


「ふふっ……好きになった人がモテると困っちゃうねっ。……でも大丈夫、アリーシャさんたちがいても私の気持ちは変わらないよ。だから待ってるね、舞くんが答えを出せる日を……」


 苦笑しながら、凛は答える。

 そして、静かに立ち上がると……。

 ちゅっ――と、舞夜の唇の……横に静かに口づけをする。


 彼女は心待ちにする。

 いつか、彼の――舞夜の方から唇を奪ってくれるその日を……。


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