105話 ママの秘め事
とある日のこと――
「さぁ、舞夜ちゃん起きましょう。もうお昼ですよ?」
「あぅ……ママ、もうそんな時間?」
ベッドの上。
柔らかな抱擁。
そして、甘く優しい声の中、舞夜は目覚める。
パッチリとした黒の瞳は細められ、ひどく眠たげだ。
ママ――もとい、レオナは慈愛を感じさせる微笑みを浮かべながら、舞夜の頭を優しく、優しく撫でてやる。
それに舞夜は、さらに目を細め。
彼女の豊満な胸に顔を沈め、すりすり、すりすり……と甘え始める。
「まぁまぁ。こんなに素直に甘えられるようになって……いい子よ?」
幼な子のような彼の行動。
レオナは、それを咎めることはしない。
それどころか、甘えられた事を褒めて、さらに深く自分の谷間の中へと誘う。
――……ママの匂い。安心する……。
ここしばらくで。
アリーシャたちによる、“ご主人様、幼児退行調教”を施された舞夜は、すっかり幼児帰りしてしまい、幼な子のような自分の行動。そして、それを受け入れてもらえることに何の疑問も持たなくなっていた。
「ん……っ、そろそろマズイわ……」
急にレオナが、そんなことを呟き小さく身震いする。
頬はほのかに赤く染まり、息も少々荒い。
「……? ママ、どうかしたの?」
「な、なんでもないわ、舞夜ちゃん。……それより、そろそろ、お顔を洗ってらっしゃい? ご飯にしましょう」
レオナの様子に、不思議そうな表情で尋ねる舞夜。
だが、レオナはなんでもないように装うと、顔を洗ってくるように促し、舞夜を洗面所へと向かわせる。
「あ、ご主人様、おはようございますなのです! 私が、お顔を洗うのをお手伝いするのです!!」
「ありがとう、ナタリアお姉ちゃん」
廊下から、そんなやりとりが聞こえてくる。
対応の早さを考えるに、どうやら舞夜の身支度を整える仕事を確保する為に、部屋の前で張っていたようだ。
「ふふっ、危なかったわ。舞夜ちゃんが戻って来る前に処理してしまわないと……」
そう言って、レオナが自分の寝間着の中へと手を滑り込ませる……とそこへ――
「お母さま、ナニをしようとしているのですか?」
「――っ!? あ、アリーシャ? べ、別に何もしようとしてないわ……それより、何か用かしら?」
音もなく現れたアリーシャに。
レオナはギョッと目を見開くと、慌てて居住まいを正す。
「そうですか? それにしては、お顔が赤いようですね。息も荒いようですし……まぁいいです。それよりお話があるのですが、よろしいですか?」
「え、ええ。もちろんよ」
何とかごまかせた。
その事実に一安心といった様子でレオナが先を促す。
「お母さま。少々、ご主人様を甘やかし過ぎではありませんか?」
「まぁまぁ。皆をそういう風に先導しているあなたが、どうしたのアリーシャ? それに舞夜ちゃんは、義理とはいえ私の息子……ママとして甘やかすのは当然のことよ?」
「ご主人様を甘やかしてくれるのは良いのです。ですが、加減というものをして下さい。本当なら、ご主人様は昨日は私とネンネする日だったのですよ?」
アリーシャが静かに。
しかし、珍しくイライラとした様子で、レオナに詰め寄る。
仕方なかろう。
なにせ、ここのところ舞夜はレオナの卓越した甘やかし技術で、ずっと彼女にベッタリ状態だったのだ。
言ってしまえば、レオナの一人占め状態。
アリーシャを始め、リリア、シエラは欲求不満。
アマゾネスメイドたちや、破廉恥ロイヤルズの面々も、舞夜成分を摂取できず、不満が爆発寸前なのだ。
「まぁまぁ。そうだったの? でも、私も甘えてくる舞夜ちゃんを拒むことは出来なくて……舞夜ちゃんは、あなたたちが言ったとおり“純粋な母性”を求めてるから、それも仕方ないかもしれないわね」
しかし、レオナはそう言って、アリーシャの意見を流そうとする。
舞夜を一人占めすることに、何ら罪悪感は持っていない様だ。
「純粋な母性……よく言いますね、お母さま?」
「……ッ、ど、どういうことかしら、アリーシャ?」
「最近、ご主人様の下着が足りなくなることがあるんですよね……何か、ご存知ないですか?」
「――ッ!? し、知らないわ。な、ナタリアたちのしわざじゃないかしら? あの娘たちも溜まっているでしょうし……」
「お母さまのベッドの下――覗いてもいいですか?」
「だだだだだ、ダメよ!」
レオナが目に見えて狼狽る。
対し、アリーシャは「ムダです。バレてますと」と言い、レオナの制止を《剣聖ノ加護》で強化した身のこなしで掻い潜り、ベッドの下へと手を突っ込む。
すると、出てくるわ出てくるわ。
失くなったはずの舞夜の下着が何着も……。
「これ、どうするつもりだったのですか?」
「し、知らないわ! き、きっと寝ぼけた舞夜ちゃんがそこへ――「ご主人様にバラすぞ?」
「お願いやめて! 使ってました! だってしょうがないでしょ!? あんなに愛らしい男の娘が、何の疑いも持たずに甘えてくるのよ!? 私だって女よ、劣情のひとつやふたつくらい持ってるわよ!!」
アリーシャの脅し。
それにレオナは逆ギレし、とうとうそういった感情を抱いている事を暴露した。
さすがは親子。
血は争えないというわけだ。
ただひとつ違うところと言えば。
アリーシャと違い、レオナは舞夜を一人占めにし、ゆくゆくは自分だけの色に染めようとしていたところだろう。
だが、それを知ったアリーシャの表情は何故か上機嫌そうだ。
――ふふっ、これでリリアにシエラちゃん。それにお母さまを加えた“家族丼”へと一歩近づきました。
アリーシャのハーレムへの渇望は止まる事を知らない。
【お詫び】
更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。
まだまだ更新頻度も遅く、今後も同じようなことがあるかもしれませんが、決してエタらせることはしませんのでご安心ください。
【お知らせ】
さて、話は変わりますが、この度、姉妹作品である「Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士として暮らしてます」の書籍化とコミカライズが決定しました!
「エルフ嫁」からも複数のキャラクターが登場している上に、小説版には〝あのキャラクター〟がチラリと登場したりしなかったり……。発売の際はぜひお手に取って頂けると幸いです。




