第49話 検索しました
「佐倉、そこの文法が間違っているぞ」
「なんだとう」
「ここはだな……」
倉持の家でノートと教科書と問題集を開き、問題を解く。
佐々木と多々良が死にそうな顔をしている。
秋川は眠そう、姫川は黙々とやっている。
今日は倉持の家の勉強会に参加している。
「佐々木と花丸さん、寝たら終わりだぞ?」
「待ってくれ、ちょっと休ませてくれ」
「そーだよ!休憩はだいじ!アッキーだって眠そうだし!」
秋川に矛先を投げたぞ。
「休憩ってまだ1時間しか経ってにゃくにゃいか?」
「……まあ、みんなが倉持みたいに集中力が続くわけじゃないんだし、休憩は大事だよ」
「確かに、姫川の話は一理あるか……」
昨日どんだけ勉強したんだろう。
帰ってきた後多々良が俺の部屋に来なかったってことは、よほど疲れてたんだろうし。
珍しく連絡とか何もなかったしなあ。
「だー!!」
「にゃー!!」
佐々木と多々良が同時に大の字になる。
息ぴったりだね。
「佐倉は続けるのか?」
「まあ、昨日参加してないしな。佐々木と多々良は昨日もがんばってたんだろ?」
「そうだにゃあ、2人ともいつもよりかにゃり頑張ってたぞ」
「ちょっとー、俺もがんばってたんだけどー?」
秋川が不満そうに言う。
「そういうけどにゃ?秋川は普段とそんにゃに変わってにゃかったぞ?」
「俺には俺のペースがあるからねー」
「ペースって……今までほとんど勉強してにゃかっただろ」
「大丈夫、今回はいつもよりやる気だからね~」
さすがの秋川、いつでもマイペースだ。
「まあ秋川は割とできる方だしにゃ……間違っていれば教えればいいか」
「分からないところあったら聞くわー」
と言いながら大の字になる秋川。
休んだらやる気になるのかな?
「……せっかくならうちもちょっとだけ休もうかな」
そういって姫川が身体を倒し、横になる。
「佐倉も休みたかったら休んでいいぞ」
「俺は大丈夫だ。昨日も早く寝たからちょっと体力が余ってるんだ」
「にゃるほど」
勉強を続けていると、十分休んだのか佐々木と多々良が起き上がった。
そしてまた勉強に取り掛かる。
「よーし、俺もやろうかな」
秋川もやる気を取り戻したところで、寝息が聞こえてきた。
見ると、姫川が寝ていた。
「一番眠そうじゃなかったやつが寝たな」
「綺月、かーわいー」
多々良がニコニコしながら言う。
「男の家で寝るとは無防備なもんだな」
「4人いるのにねえ」
「……」
倉持は寝ている姫川を見ている。
「こらー!エッチにゃこと考えにゃいのー!!」
多々良に怒られた。
「ん……」
多々良が大きな声を出したことにより、姫川が起きた。
「あ、綺月ごめん……」
「大丈夫。どうやらうちが貞操の危機だったみたいだから」
「綺月のことはたたらが守るよ!」
「いや、俺らも言うだけで行動に起こす気ないからな?」
佐々木がすかさず言う。
残念ながら一番説得力ないが。
「佐々木は実績あるから説得力がないね、ね、多々良」
「そういえばそんにゃこともあったねー。えへへ、確かに説得力にゃいかも」
「ぐ……」
佐々木が言葉に詰まる。
まあやっちまった以上は何も言えないよな。
未遂で終わったけど。
「よし、そろそろ勉強を再開するぞみんな」
倉持が一声かけると、みんなが嫌そうな顔をした。
「ここに!何のために!来てるんだ!」
「そうだねえ……やらにゃいとね~」
「仕方ないね~」
各々が勉強を再開する。
姫川はやっぱり眠そうだ。
さっきは普通にしてたけど、我慢してたんだろうか。
「……あ」
姫川がノートを見て声を出す。
一部が子どもの落書き帳と化していた。
よくあるよね、こう眠い時になるやつ。
「倉持、俺から提案だ。姫川を寝させてやろう」
「……うん、まあこれは仕方にゃいにゃ。布団あるから寝ていいぞ」
「ありがとう……」
姫川がのそりと立ち上がり、布団にダイブする。
そのまま、すぐに寝てしまった。
「そんにゃに眠かったのかにゃあ」
「まあどうにも眠い時ってあるよねえ。倉持優しいじゃん」
「その優しさを俺たちにも分けて寝させてくれたらなあ?」
「佐々木は補習ににゃってもいいにゃら別にいいぞ?」
「……」
黙って佐々木がペンを動かす。
まあ補習になったら冬の大会出れなくなるもんな。
「やー、だいぶやったねー!」
多々良が伸びをする。
「まあこれくらいやれば補習は多分にゃいだろ……佐々木は明日も来い」
「むしろ行かせてくれ」
「いい心がけじゃにゃいか」
なぜか佐々木は素直になっていた。
「姫川は結局ほぼ寝てたな」
「うん……なんか今日はダメだった」
「まあ姫川にゃらある程度大丈夫だと思うけどにゃ。不安にゃら明日も来るか?」
「……そうだね。明日もおじゃまします」
「じゃあたたらも行こうかにゃー。ユキちゃんはどうする?」
「俺もいいか?」
「ああ、大丈夫だぞ」
やるしかねーな。
「俺は明日バイトだから行けないかなー」
「僕としては佐々木以外は大丈夫だと思うんだけどにゃ。みんにゃがやる気にゃら付き合うよ」
佐々木はいまだに安心できないらしい。
スポーツ推薦組は油断しやすいということだろうか。
「うちは帰ります」
「気をつけて帰れよ。姫川の家が一番遠いからな」
「ありがとう佐倉」
飛んで帰るというのもあって姫川の家まで送っていける人がいない。
飛んでいけば最短距離で行けるが、徒歩で姫川の家に行くとなるとここから40分以上かかる。
何せ山の上だし。
「多々良、外見えるか?」
「ほぼ見えにゃい」
ですよね。
「じゃあこっちだ」
「ありがと~」
多々良が俺の背中におぶさってくる。
冬は着込むから何も考えなくていい。
「そんじゃあな~」
「またねー」
佐々木と秋川が反対の方向へ帰って行く。
倉持の家からなら佐々木と秋川は途中まで一緒なんだっけか。
「それじゃ」
広い道まで出て飛び去っていく姫川。
倉持の家は入り口が路地裏だから飛びづらいのか。
「それじゃ、倉持また明日な」
「ああ、また明日」
「ばいばーい!」
そういう多々良は倉持の方向から若干ずれている。
「よし多々良帰るぞ」
「うん!ユキちゃんれっつごー!」
「……にゃ?」
おぶさっていた多々良がもぞもぞ動く。
「どうしたんだ?」
「にゃんかあっちが明るい気がする」
多々良が向いている方には電飾付きの大きなクリスマスツリーが置かれていた。
「これだな?」
「おおー、クリスマスツリーだねー。これ何色?」
「これは青色だな」
「上の星は?」
オーナメントのことか。
「あれ自体は光ってるけど色はないな。透明だ」
「んー、透明……」
難しそうな顔をする多々良。
多々良にとっては色っていう概念がないからな……。
「透明ってさあ、窓ガラスとおんにゃじ色だよね?」
「そうだな。それが一番近いかも」
「窓ガラスは何とも思わにゃいけど、あれは綺麗だね」
「そうだな」
造形の大切さが分かる。
……多々良と出かけるの、楽しみだな。
「よし多々良、家に着いたぞ」
「ユキちゃんありがとー!!」
多々良が俺の背中から降りる。
家の扉を開けると、多々良の母さんが立っていた。
「おかえり、多々良」
「おかーさんただいまー!」
「幸くん、いつも多々良をありがとね」
「いえいえ、これが俺の役目です」
「これはまたいつかお礼をしないとねえ」
お礼……前に築地に行った時の手料理のことだろうか。
多々良の母さん、魚料理は絶品だからな。
……そういえば築地に行ったとき板前みたいな猫人の人いたけど、あの人の料理も絶品なんだろうか。
あれ、あの人確か料理長とか言ってたっけ。
もしかしたら調べれば出てきたりして?
いや、もしかしたらまた築地で会えるかもしれない。
「幸くん?ぼーっとしてどうしたの?」
「あっ!?考え事してました!」
そうだここは多々良の家の前だ。
さっさと帰ってしまおう。
「それじゃ」
「またね」
「ユキちゃんまた明日ねー!」
よし、夕飯も食ったし風呂も入ったし、明日の用意もしたしあとは寝るだけだ。
……うん、やっぱりさっきのことが気になって来たぞ。
よし、こういう時はスマホでチェックだ。
文明の利器はこういうことがらくらくできちゃうのがいいよな。
確か料亭って言ってたよな。
よし、じゃあ何かと高いイメージのある銀座で検索してみよう。
まあ日本にゴマンとある料理屋から探すってなると大変そうだけど……。
「まずはランキングからか……?」
自分で料亭のって言うくらいだから人気店なんじゃないだろうか。
じゃあまずは○べログだ。
……うわ、すげえ。
どの店も格式高すぎて高校生の俺には入ることも無理そうだ。
……あ、18歳未満お断りの店もあるんだ?
「やっぱホームページとかで顔が出てるんだな……」
上から順番に見ていって、ランキング5位の店。
ホームページを開いてみると、確かに見覚えのある人が写っていた。
「あっ!この人だ!!」
思わず大きな声を出してしまった。
すげえ、銀座に店持ってんのか。
しかもランキング5位……!?
あの時何の気なしに話しかけたあの人はかなりすごい人のようだった。
「蟹田屋武章って言うのか……名前にまで魚介類入ってるじゃん」
「なんか勉強したおかげか今日の授業がちょっと理解できたぞ」
嬉しそうに言う佐々木。
普段から勉強していればいいんだぞ。
まあ俺も人のこと言えないけど。
「たたらもちょっと理解できたよ!」
「さすがに多々良は普段から全く理解できてないわけじゃないだろ」
「いつもより理解してノート取れたよ」
「なるほどね」
たしかに俺も普段より内容を理解してノートが取れた気がするぞ。
書いてあること暗記でテストに挑んでいたこともあったしな。
「そうだろ?勉強はいいもんだぞ」
倉持が胸を張る。
こいつはいつも授業内容をすべて理解してノートを取ってるわけだな。
「俺は家に帰ったら寝ていたい気もするけどねー」
眠そうな顔で秋川がいう。
多分昨日勉強した反動で今眠いんだろう。
「学生の本分は勉強だろ?未来への投資だにゃ」
「でも未来のことって考えるの難しいよね。俺らが生きてるのって今なわけだし」
確かに。
基本的には目先の物しか見えないもんなあ。
「僕としては正直お金で苦労したくにゃいからにゃ。今のうちに勉強しておいた方がいいと思ったんだ」
「お金かあ……確かにお金がにゃくて大変にゃ思いをするのは嫌だねえ……」
多々良がしみじみ言う。
金は死活問題だもんな、ないと何もできない。
「そういえばそろそろお年玉の季節だねぇ」
「もらえるのも今のうちだもんな、俺は親から高校卒業したらなしって言われたぜ」
なるほど、佐々木は卒業までか。
俺いつまでもらえるかな。
おおすげえぞ、英語の授業が理解できる。
さすがは倉持だ、俺のできないところを矯正してくれただけはある。
まさか中学生の内容からやり直しをさせられるとは思ってなかったけど。
本当に基礎って大事なんだね。
時間がないわけではないし、今からでも遅くないのかなあ。
「じゃあ倉持くん、答えを黒板に書いてください」
「はい」
倉持が黒板の前に立ち答えを書く。
「そうですね、正解です」
あ、これで合ってるんだ。
珍しく俺でも答えられたな。
席に戻ろうとする倉持と目が合った。
なぜか微笑みとうなずきで返された。
どういうことだろう。
まさか俺も合っていたことが分かったとか?
エスパーかな?
いや、『あんだけやったんだからこれくらいできるだろ』ってことだろう、きっと。
後ろを見るとなぜか佐々木が驚いた顔をしていた。
まさか……正解していたというのか……?
いや、それで今までどうやって赤点を回避してきたんだ……?
「答えられただろう?」
「ああ、倉持のおかげだな」
「俺もまさか授業中に解けるとは思ってなかったぜ!」
「ふふん」
得意気な倉持を見ていると耳辺りをはたきたくなってきますね。
「べし」
「にゃにをする!!」
一瞬でしっぽが上を向いた。
瞳孔が細くなり耳が前を向く。
おう、臨戦態勢だ。
「いくら猫人とはいえ今の爪じゃ怖くないぞ?」
「いやケンカするつもりじゃにゃいからにゃ?」
ちゃんと短く詰めを整えてて偉いですね。
でもよく見るとやっぱり人間とはちょっと違う構造してんのね?
伸びてる状態で引っ掻かれたら絶対怪我するわ。
「まああれだよな……人間と亜人だと戦闘力は全然違うよなあ」
「佐倉の目の前にかにゃりの戦闘力を持つ亜人がいるぞ」
「そうだね」
別に身長は大きくないけどかなりガタイのいい男、佐々木だ。
小学生の時から腕相撲では一度も勝ったことがない。
というか、単純な力で考えると人間が勝てる亜人はあまりいない。
いくら身長が小さいからとはいえ、亜人は強いのだ。
例えば、姫川相手に腕相撲では勝てるだろうけど、蹴られたら絶対に勝てない。
倉持や多々良に対しても腕っぷしでは負けないかもしれないが、爪で攻撃されたら確実に怪我をする。
……人間弱いな。
「格闘技とか種族別の階級があるもんな」
「だって人間のチャンピオンだって猿人のチャンピオンには敵わないわけだし。狼人とかもってのほかだしな」
「まあそこは手を取り合っていくしかないだろ」
力の強い亜人が人間をねじ伏せることなど容易だ。
それがされていないのは、現在まで人間と亜人が共存してきた結果だ。
「久しぶりに腕相撲でもしてみるか?」
「どんくらい力の差があるんだろ」
「じゃあ僕が審判をしてやろう」
佐々木と向き合い、お互い手を握る。
んー、この時点で負けそうな予感。
「よーし、それでは……はじめっ」
「ふんっ……!」
「……」
びくとも動かない。
さすがに俺の力も強くなっているだろうと思い全力で相手しているはずなんだけど。
……いや、力が強くなったのは俺だけではないということだな?
「ほいっと」
「あああああああああ!?」
一瞬で腕を持っていかれた。
「終了!」
「ぜってぇ勝てねえ!」
「昔よりは強くなったんじゃないか?」
「余裕かよ!!」
「にゃ~、まあしょうがにゃいよねえ」
多々良が笑いながら近づいてくる。
どうやら見られていたらしい。
「たたらとやる?」
「それで勝ってもみじめになるだけでしょうよ」
「さすがに腕ではユキちゃんにかにゃわにゃいからねー」
「佐々木、俺とやろ」
「おおー、そういえば秋川とやったことねえな」
秋川も力は相当強いはずだ。
亜人の中でもキメラ種は身体能力が元より強化されることがある。
キメラ種の亜人の身長が高いのもそれが原因だ。
もともとヘビやトカゲの種類と人間が交配することで生まれる竜人は身長が高いのだが。
「くらもっちゃん、たたらとやる?」
「いや……僕はやめておくよ。力に自信があるわけでもにゃいしね」
「たたらもくらもっちゃんもおんにゃじくらいだもんねえ」
純粋な筋力で言えば猫人よりも人間の方が強いと言える。
でも猫人は爪が明らかに武器になる。
人間に勝ち目があるとも考えづらい。
「それじゃあ佐々木っちとアッキー、見合って見合って~……残った!」
お互いの右腕に力が入る。
佐々木、さっきよりも力入ってない?
俺そんなに弱かったの?
お互いの力が拮抗しているのか、初期位置からなかなか動かない。
「ふんっ……!」
「んんっ……!」
力が入っているからか、いつもより太い声を出す秋川。
あなたそんな声出るんですね。
「ユキちゃんが相手したら腕折れてたんじゃにゃい?」
「十分あり得る」
「亜人にケンカ売られたら逃げにゃいとだね」
「逃げたところで巻けるかなあ……」
「そこも問題だねえ……」
「その時はうちが逃がしてあげる」
「いつの間に来たの」
「今」
何食わぬ顔で後ろに立っている姫川。
足音一つなかったんだけど?
「綺月、たたらと腕相撲する?」
「うーん、鳥人の腕力じゃちょっと……」
「脚力はすごいけどねえ」
「よっしゃあああああああ!!」
「負けたー!」
佐々木が勝利の声を上げる。
「さすがに佐々木には勝てないかー!」
「秋川もすげえ強かったけどな!」
「佐々木に善戦している時点で相当じゃにゃいか……?」
うん、秋川にも絶対敵わないね。