第46話 勉強しました 2
「ユキちゃん?」
「なんだ?」
「にゃ……にゃんでもにゃい……」
多々良が体育すわりのまま下を向く。
家に帰った後多々良が俺の部屋に来たと思ったらずっとこんな調子だ。
「多々良?」
「にゃ……」
顔を上げると、多々良が赤い顔をしている。
「風邪か?」
「そ、そういうわけじゃにゃいけど……」
「んん……?」
「ゆ、ユキちゃん」
「どうしたんだ?」
「さ、さっきのって、本気……?」
「さっきの?」
「……ユキちゃん、自分が何言ったか、覚えてにゃいの?」
「えっ」
すると、多々良が力が抜けたような顔をした。
「ああそっか。もう、ユキちゃんったら」
「ごめん、俺何を言った?」
「多分ユキちゃんビックリするよ」
あの時のことだろう。
テンパってたから本気で何を言ったのか覚えていない。
「本人を前にして言えるかって言われたんだけど」
「……」
まじ?
「……えーと」
「ほ、本気?」
「……」
「た、多々良と一緒にお風呂入りたい、とか?」
……昔入った記憶はある。
今もそりゃあ……好きだし。
ただなあ……。
「一緒にお風呂入るとかはいいんだけど」
「うん」
「それが原因で多々良と変な感じになるのは嫌だ」
「……というと?」
「多々良とは仲良くしていたいからさ」
「にゃあ……」
赤い顔の多々良。
「ゆ、ユキちゃんは本当にたたらが大好きだね」
「前から言ってるだろ」
「まあ……たたらもユキちゃんと変にゃ感じににゃるのは嫌だし……」
「だ、だろ?」
「だから……まああれだ、旅行とかにゃら一緒に入ってあげてもいいよ?」
「マジか」
「というかさあ」
「うん?」
「ユキちゃんの周りには本当に女の子が多いねー。そりゃあ目移りしちゃうよねー」
多々良の目線が痛い。
「まあ男の子だから仕方にゃいけどね。ユキちゃんのスケベ」
「思春期だから許して」
「あ、開き直った」
多々良が笑う。
「なんか、いろいろごめんな」
「大丈夫だよ。まあビックリはしたけど」
部屋の隅っこにいた多々良が、笑いながら近づいてきた。
「それにしてもさ~、ユキちゃんの夢の中に出てきたツクヨミちゃんとか綺月、にゃんかおっぱいが大きくにゃってにゃかった?」
「し、知らないな。細かいところまでは覚えていないんだよ」
「もったいにゃいね」
「覚えていたかった……」
「ふふん、ユキちゃんのスケベ」
「うるせっ」
「楽しそうなお話しをされていますね~」
そういって、ウズメが部屋に入ってきた。
「おいコラウズメ。何勝手に多々良に俺の秘密を暴露してくれちゃってんだコラ?」
「面白かったでしょう?」
「面白くねえよ!さっきまでちょっと変な感じになっちゃったじゃねえか!」
「多々良さんとエッチな話をしていたんですか?」
「ウズメさんにゃんか楽しんでにゃい!?」
「ちょっと楽しかったです」
俺と多々良で遊んでやがったのか……。
「ちなみに幸さんの夢の中で胸を大きくしたのは私です」
「さっきの話聞いてたんだね!?」
この女神やっぱ危険なんじゃない?
「少し変な感じになってしまったのは謝ります。ごめんなさい」
「おう、許さんぞ」
「でも幸さんと多々良さんを見てると面白くて何かしたくなってしまうんです」
こいつ確信犯だ!
「幸さんとツクヨミさんでも同様です」
「確信犯だねえ!?」
多々良も同じことを思ったようだ。
「あれですよ」
「どれだよ」
「私は恋愛の対象に入らないと思うのでいろいろやりたいですね」
「やんなくていいから!」
「え~」
ウズメを部屋から追い出し、多々良の方に向き直る。
「なんか……うちの女神がほんとスンマセン」
「いやあ、ユキちゃんは悪くにゃいと思うよ」
あいつ今度家から追い出してやろうか。
「まああんにゃ夢見にゃくてもユキちゃんがスケベにゃのは分かってたことだしね」
「そ、そうだよ」
「このスケベ~」
しっぽで顔をぺしぺしされる。
回数多くないですかね。
「あ、ポテチもーらい」
「俺のなんだけど」
「いいじゃん、一緒に食べようよ」
袋を開けて、多々良と一緒にポテチを食べる。
「これいいね、おいしい」
「前に新商品として出てたから買っておいたんだよ」
「あごだし味か……今度買っておこー」
「トビウオってそのまま食ったことないよな」
「にゃいねー」
「そもそも食べ方を知らないんだけど」
「刺身とか塩焼で食べるみたいよ?まあでも埼玉だと食べる機会にゃいよね」
「だよな」
普段から食べれるものじゃなくて、なんというかこう、珍しいものを食べてみたい。
「多々良は食べてみたい魚とかあるのか?」
「いろいろあるね~!やっぱり地方とか行かにゃいと食べれにゃい魚とかあるじゃん?」
「あるね」
「例えば……北海道じゃにゃいとニシンの刺身って食べれにゃいみたいだし、そういうのを食べてみたい!」
「いいね、ニシンは俺も好きだし、刺身でも食べてみたいかも」
「それにゃら旅行に行かにゃいとね~」
旅行か……いいね。
「あら、幸さんが勉強していますね」
「してちゃ悪いか」
「いえ、多々良さんが学校をお休みした時以外はなかったものですから」
……否定はできない。
「ちょっとちゃんと勉強してみようかなって思っただけだ」
「気の迷いにならないことを応援してますね」
「なんだとコラ」
今のちょっとイラっと来たから勉強してやろう。
英語は分からないけど。
「あー、幸くんが勉強してる!」
「びっくりした!!!」
いきなり後ろから声をかけられた。
出現が無音なのは本当に勘弁してほしい。
「ああ、ごめんね!邪魔しちゃったよね」
申し訳なさそうな顔をするツクヨミ。
「別にいいよ、大丈夫」
「幸くん、英語苦手なんだね?」
「い、いや?そそ、そうでもないよ?」
「教科書と問題集、英語だけ全く用意されてないんだけど……」
……。
「苦手だけど何か?」
「開き直ったね!?」
「こ、今度友達に聞くからいいんだよ」
「……私、古文なら教えられるよ?」
「古文……」
なるほど。
ツクヨミたち神さまは実際にその時代を生きてきたから知ってるのか。
「現代文もまあ教えられないこともないかな……英語は無理だけどねえ」
「教えていただいてもよいのですか……?」
「敬語!?」
現代文とかは割と得意な方ではあるけど、それでも他に比べればの話。
成績がいいというわけではない。
教えていただけるというのであれば……!
それにまあ、俺が勉強できるようになれば、倉持の負担も減るし。
そのかわりツクヨミに負担が行ってしまうことになるけど……。
「……あ、でも私から幸くんに教えてもいいのかな」
「う、うん?」
「ほら、私たちは神さまだから、あんまり強く個人に干渉しちゃうのはちょっと……ね?」
「あー……」
なるほど。
そうか、もしかしたらまずいかもしれないのか。
「姉さんに確認してくるね!」
ツクヨミが黒い球体の中へ戻る。
「教えてもらえるのは願ってもないんだけど……ツクヨミはいいのかな……?」
黒い球体が消えた後の空間につぶやく。
すると、直後にまた球体が現れた。
「私なら大丈夫だよ!」
それだけ言って球体の中に戻り、また消えた。
聞こえてたのか……。
ツクヨミはすぐに帰ってきた。
「幸くん!姉さんに聞いたら大丈夫だって!」
「あ、いいんだ?」
「そのくらいなら問題ないって!今日はちょっと遅くなっちゃったから、明日から教えてあげるね!」
「ありがとう!」
「じゃあ今日は勉強してる幸くんを見てよっかな~」
ツクヨミが近づいてくる。
「人が頑張ってるところを見ると、私は応援したくなっちゃうんだよね」
「そ、そうなのか」
「幸くんが頑張るなら、私も応援しちゃうからねー」
そういって、こちらをガン見してくるツクヨミ。
……。
「がんばれー、がんばれー」
気が散らないための配慮か、ものすごく小さい声で応援してくれるツクヨミ。
「ツクヨミさん?」
「うん?」
「何をしていらっしゃるの?」
「応援だよ!」
「うーん……」
気が散ることこの上ない。
「……邪魔だったかな」
「いやあ、ツクヨミが邪魔ってことはないんだよ」
ただ応援の方法がね?
気遣いが感じられるのはかわいらしいのですけれども。
「ほら、私はこの日本を担当する神さまだから、他の国の言語とかは分からないし……」
「他の国にも神さまはいるんだね?」
「いるよ。外国の神話とかに出てくる神さまは、存在してる」
「マジか……」
日本だけじゃなかったか……。
「それに、学校とかも行ったことはないからそういうところで習うものは分からないから……」
「そうだったんだな」
「私たちは本来、この世界を守ることが使命だからね。この世界のことに関しては、人間や亜人の方が詳しいんだよ」
そういうことだったんだな。
「だから、私が教えられるのは現代文?とか古文とか……あとは応援くらいしか……」
「いやあ、現代文や古文を教えていただけるだけでも十分ですよ」
「また敬語だ!?」
いやもうほんと頭が上がりません。
「幸くんの成績ってそんなに悪いの?」
「普段ならとりあえず一夜漬けで赤点は回避するような点数だなあ」
「よくないねえ!?」
そこまではっきり言われると傷ついちゃうよ。
ツクヨミの応援は終わり、いつも通り外へ出ていった。
そろそろ夕飯の時間だろうか?
「そういえば今日は夕飯食っていかなかったんだな……」
『幸さん、お夕飯の時間ですよ』
扉をノックして、ウズメが部屋に入ってきた。
「おお、タイミングいいな」
「ええ、幸さんが「そろそろかな?」ってきょろきょろし始めたところを狙いましたから」
「気持ち悪っ!!」
なにこいつ俺のこと監視してんの?
「透視くらいならできますよ!」
「頭の中を読むんじゃねえ!!」
こいつはそういうことができるから腹立つ。
見透かされている感じは好きじゃないんだ。
「なるほど!見透かされている感じは好きじゃないんですね!」
「お前バカだろ!?」
「なんでですか!!」
「そういうところだよ!!!」
こいつ本当に頭おかしいんじゃないだろうか。
「もう、幸さんったら失礼ですね!私は神さまですよ!おバカなはずがありません!」
間違いない、バカのセリフだ。
『幸ー!早く降りてきなさーい!夕飯できたって言われてるでしょー!』
下から母さんの声が聞こえてくる。
「ウズメのせいで母さんに注意されたじゃねえか」
「私のせいですか!?」
「そうだよ」
「え~」
ウズメが不満そうな表情をする。
そのあとサバの味噌煮を口に入れた時点でそんな表情はどこかへ消えてしまったが。
「さて、勉強の続きでもしようかね」
机に向かって教科書とノートを開く。
部屋のドアには「ウズメ入室禁止」の張り紙をした。
これで邪魔はされないはずだ。
別に打ち込むような趣味もないし、これを機にやってみるのも悪くはないだろう。
しばらく勉強していると、ケータイが鳴った。
こんな夜に電話……多々良だ。
「もしもし?」
『あ、ユキちゃん?』
「どうしたんだ?何かあったか?」
『いや、特に何かあるわけじゃにゃいんだけどね?』
「うん?」
『にゃんで勉強してんの?』
えっ。
窓を開けて外を見ると、同じく窓から顔を出している多々良がいた。
よく見ると俺の部屋がケータイのライトで照らされていた。
「夜でも俺の部屋が見えるんだな」
「そうだよー!」
「ご近所迷惑になるから外で叫ぶんじゃない!」
そういうと多々良が部屋に戻った。
『部屋の電気がついてる時にケータイのライトを使うとユキちゃんの部屋が見えることに気付いた!』
「じゃあこれからはカーテンをちゃんと閉めないとな」
『えー』
「いいかい?多々良の部屋から俺が見えるってことは、逆もあり得るんだからな?」
『……あっ』
考えていなかったらしい。
「プライバシーはちゃんと守ろう、幼なじみだからってお互い全部が全部見られてもいいわけじゃないだろ?」
『もしかしたらユキちゃんがエッチにゃ本読んでるかもしれにゃいしね』
「……まあ、そういうことだ」
『読んでるんだ』
「そういう意味じゃなくてな!?」
『冗談だよ』
からかわれた、こんちくしょう。
「多々良は勉強しなくてもいいのか?」
『くらもっちゃんに教えてもらうよ』
「そう……」
『まあ、ユキちゃんが一緒に勉強してくれるにゃらいいけど』
「俺は別にかまわないぞ」
『んー……そっか。じゃあ明日から放課後お邪魔するね』
「んー」にものすごくめんどくさそうなニュアンスが含まれていたが、まあいいだろう。
ちょっとでも勉強しようとすればまあ、テストの点だって良くなるだろう。
『多々良とふたりきりだからって変にゃことしちゃだめだからね?』
「二人きりは普段からだろ」
『まあそうか。じゃあ、また明日ね』
「おう」
電話を切って窓を閉めると、窓にウズメが写っていた。
「……いつからいた?」
「幸さんが勉強を始めたあたりからいましたよ」
「貼り紙は?」
「そんなものありましたか?」
しらばっくれやがるウズメ。
「部屋の扉に貼ってあったと思うんだけど」
「なかったですよ」
「嘘つけ!!」
部屋の扉を開けると、ウズメ入室禁止の張り紙がちゃんと貼ってあった。
「これ見たか?」
「いやあ、見えてなかったですね」
「ちゃんとウズメの目線辺りに貼ってあげたはずなんだけど」
「あら、私の身長を考えてくれたんですか?やっぱり幸さんは優しいですね」
「話が通じねえ……」
「冗談ですよ。頑張ってる幸さんを見たくて来たんです」
「ほんとかよ」
「ほんとですよー?私、頑張っている人は好きなんです。なんだったら踊りで応援してあげましょうか?」
踊り……。
「いやあ、動かれると集中できないな」
「そうですか。静かにしていればここにいてもいいですか?」
「……まあ、邪魔だったら部屋に戻ってもらうぞ」
「分かりました」
ウズメが俺のベッドに座る。
本当に静かにしててくれるんだろうな。
「……」
机に向かい、中断していた勉強を再開する。
あれ、この問題どこまで解いてたっけ。
……仕方ない、最初からやり直すか。
こういう数学の問題は苦手なんだよな。
こう、問1の問題の答えがベースになってくるやつ。
「……んん」
これ、そもそも問1が間違ってたらその先全部間違ってるんだよな……。
数学は倉持にちゃんと教えてもらおうかな……。
まあ、できるところは自分でやっていこう。
「本当に幸が勉強してる」
「母さんまで来た……」
夜に母さんが2階に上がってくることなんてほとんどない。
何事だ。
「ウズメさんから幸が勉強してるって聞いたから」
どうやら母さんはお茶を入れてくれたらしい。
「なんでいきなりやる気になったのかは知らないけど、まあ頑張るといいよ」
「ありがとう」
「大人になるとねー、『あん時勉強しとけばよかったわ~~』って思うことが結構あるから」
「そっか」
「そうそう。勉強なんて今のうちしかできないから。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
何だろう、母さんも前はやりたいことがあったんだろうか。
「私も勉強すれば何かお仕事もできるようになりますかね」
「素行の問題で無理だと思う」
「ひどいですね!!」
「はいはい、勉強するから静かにしててね」
「ムキー!」
「私もそろそろ眠くなってきたので部屋に戻りますね」
「おう」
「あまり根を詰めすぎないようにすることが勉強を続ける秘訣ですよ」
「おう」
「では、おやすみなさい」
「おやすみ」
ウズメが部屋から出ていく。
時計を見ると、もう10時半。
今日は、そろそろいいか。
よし、じゃあ風呂でも入るか。
「あ~~~~~~~~……」
風呂に入る時ってこういう声出るよね?
「ねむ……」
張り切って勉強してみたせいか、急に眠くなってきた。
いつもなら寝てるような時間じゃないんだけど……。
「これやべえな。風呂で寝ちまう」
テレビで見たことがあるような気がするが、確か風呂で寝てしまうのはよくないはずだ。
「まあ、あと5分くらい浸かったら……」
……。
「……」
……さん、……。
……?
ゆ…さん!
「幸さん!!」
「ん……?」
視界がぼやけている。
何事だろう。
「幸さん!!目を覚ましましたか!?」
「あ……」
この声はウズメだろうか。
「大丈夫ですか!?」
「ウ、ズメ……?」
「そうですウズメです!と、とりあえずお水を……」
口に何かが突っ込まれる。
ペットボトルだろうか。
水を飲むと、だんだんと意識がはっきりしてきた。
「あれ?風呂か……」
「ああよかった。幸さんがお風呂に行ったっきり戻ってこなかったので……」
「そう、なのか……」
「幸さんがお風呂に入ってから、もう1時間も経ってるんですよ」
「……ええ!?」
パネルに書いてある時間を見ると、すでに11時半を過ぎていた。
「寝てたのか……」
「口が湯船に浸かっていましたよ」
「あっぶな……」
もう少し寝ていたら湯船におぼれていたかもしれない。
「ありがとな、ウズメ」
「いえいえ、大事に至らなくてよかったです」
今回ばかりは本当に助けられた。
でもなんでいきなり風呂で寝てしまったんだろう。
まさか勉強したからだろうか。
それなら結構ショックだ。
ちょっと勉強したくらいで……。
「お風呂からは上がれそうですか?」
「多分大丈夫だと思う」
「手伝いましょうか?」
「い、いいよ。裸だし」
「もう見えてるんで大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃなく手だね……」
平気でそういうこと言うもんなあ、こいつ。
「それに、これがもしツクヨミさんなら問答無用でお風呂から引き揚げられてますよ」
「俺は魚か」
「力が強いですから」
確かにツクヨミなら俺のことを持ち上げるのなんて容易だろう。
全裸で風呂から引き揚げられる俺……うん、かっこ悪い。
「よっ……と、とと」
「幸さん、やっぱり私手伝いますね」
「すまん……」
結局ウズメの力を借りて部屋まで戻った。
「気分はどうですか?」
「まあ、大丈夫だよ」
「よかったです。ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとう」
「幸さんがゆっくり休めるように、私も隣で頑張りますから!」
「しなくていい」
ウズメを追い返し、部屋の電気を消す。
添い寝なんかされたら逆に眠れねえよ。
「起きる時間だー!!」
布団が一気にはがされる。
「さむ……」
「起きにゃければ窓も開けちゃうぞ~」
「それはやめろ」
多々良が悪い顔をしたので起きることにする。
「ユキちゃん、おはよう!」
「ああ、おはよう」
「体調悪いとかにゃい?」
そういって、多々良が俺の顔を覗き込んできた。
「うん?大丈夫だけど……」
「昨日ユキちゃんがお風呂の中で寝てたって聞いたから、もしかしたら体調崩してるかにゃって」
「あいつほんとに何でもしゃべるな……まあなんともないよ」
「どれどれ~」
多々良が俺の額に手を当てた。
「ユキちゃんのおでこ冷たいよ!病気!?」
「多々良の手が温かいだけだ」
人間よりも体温が高いからね。
「自分を基準にしたら、学校来たばっかりの秋川とかすごいことになるだろ?」
「確かにそうだね!」
逆に姫川は熱があることになるだろう。
やっぱり人間と亜人だとだいぶ違うな……。
「ほら、早く着替えにゃいとまたユキちゃんのおかーさんにどやされるよ?」
「そうだな」
「じゃ、たたらは先に下に行ってるね」
「おう」
制服に着替え、下に降りる。
多々良はソファに座ってニュースを見ていた。
「幸さん、おはようございます」
「おう、おはよう。昨日はありがとな」
「いえいえ」
「幸おはよう。あんたお風呂入る時は気をつけなさいよ?」
「おはよう。母さんもウズメから聞いたのか」
「当たり前でしょ。溺れようもんなら次からはこのお母さんがひっぱたくからね」
「はい……」
なんとも怖いお母さんだ。
『次に、天気予報をお伝えします。関東地方・東北地方・北海道では、冬型の気圧配置が見られ、しばらくの間は大雪に対する警戒が必要です』
「えぇ……また雪降るのー?」
多々良が嫌そうな声を上げる。
まあ、雪だと移動が大変だもんな。
『12月にしては例年より雪が多い気もしますが、天気予報士の天見さん、いかがですか?』
『そうですね、今年は例年よりも降雪量が多くなりそうです。クリスマスシーズンにも雪が降ると予想されるのは、関東地方では珍しいかもしれません。』
クリスマスシーズンの雪か……。
「……」
「……」
一瞬、多々良と目が合った。
同じことを考えていたのだろうか。
まあ、デート当日に雪が降ったら、それとなくロマンチックだ。
多々良からどう見えるかは分からないけど。
「そういえば幸、今回のテストは大丈夫そうなの?」
「ま、まあ勉強してるよ」
「まあ昨日見たけどさ、あんたも多々良ちゃんも毎回赤点取らないくらいの点数だから、お母さんは心配です」
こ、今回は頑張ってみるし……もう遅いかもしれないけど。
「たたらもユキちゃんと一緒に勉強するよ!」
「大丈夫?2人だと遊ばない?」
「「んー」」
「せめて否定くらいしなさいよ」
「みなさんおはようございますー。そろそろ期末テストが迫ってきていますので、みなさん勉強を怠らないようにしましょうねー」
こう、テスト前になると周りの大人が一斉にテストを意識させるような発言をするようになるの、好きじゃない。
もっと学生たちが主体性をもって勉強できるような呼びかけを……まあ、よほどの勉強好きじゃない限りは自分から勉強しようってやつはいないか。
勉強するより、遊んでいた方が楽しいもんな。
「ちなみに、赤点になった場合の補習日程ですが、12月の24日、25日になりましたー」
教室から悲鳴が上がる。
まさかクリスマスをすべて潰されようとは。
学校側も鬼畜ですのう。
「脅しというわけではありませんが、クリスマスを楽しく過ごしたかったらテストでいい結果を残しましょう~」
クラス……どころか学年から反対声明が起こりそうだ。
まあ、木晴先生がにらみを利かせればそんな意見なくなるだろうけど。
「……」
多々良がこちらに目を向けた。
きっと「がんばろうね!」とかそういった感じだろう。
まあ補習が決定したらその時点で多々良とのデートが消えるしな。
「く、倉持がいるから大丈夫だよな?」
佐々木が恐る恐る聞いてくる。
「佐々木はやばいかもな」
「なんでだよ!?」
「だって一番成績が低いからねえ……」
スポーツ推薦だからいいけど、もし運動できなくなったら大学も危ういのでは。
「それではみなさん、一限の用意をしてくださいね~」
「倉持、俺を補習にならないようにしてくれ」
「教えるのはいいがその先は自分でにゃんとかしろよ」
「そこをにゃんとか!」
「馬鹿にしてんのか!!」
倉持がキレる。
「補習組は冬の大会出れないんだよ。やばいんだって!」
「勉強してにゃかった佐々木が悪いんじゃにゃいのか」
「そこはまあ……毎回倉持くんがね?」
「くん付け気持ち悪っ!!!」
倉持がガチで引いてた。
「そうそうくらもっちゃん!昨日の夜ユキちゃんが自分から勉強してたんだよ!」
「お、にゃんだ佐倉、やる気ににゃったのか?」
「まあ、やってみようかなって」
「いいことじゃにゃいか。僕は応援するぞ」
「なんだよ佐倉~お前はこっち側だろ~?」
「こっちもどっちもねえだろ……」
佐々木と同じ側はなんか嫌だな。
さすがにそこまでは成績悪くないぞ、多分。
「佐倉が自分から勉強とかすげー。俺もやってみよっかな~」
秋川が肩を回しながら言う。
それだとパンチングマシーンをプレイするみたいに見える。
「お前ら裏切りか!?勉強しない同盟は俺と姫川しかいないのか!?」
いつの間にできたんだそんな同盟。
「……秋川がやるんだったらうちもやってみようかな」
「姫川は自分の教室に戻った方がいいんじゃにゃいのか」
「じゃ」
そういって教室から出ていく姫川。
何のために来たんだ……。
「マジか……俺は一人になっちまったのか……?」
勉強しない同盟、破れたり。
「といってもさ、勉強をあまりしてこなかった俺たちには……とある問題があるんだな」
秋川がそんなことを言う。
「問題ってにゃーに?」
「いや、多分倉持以外なら勉強しようと思ってこの問題に直面したことがあると思うんだよね」
「んー?」
多々良が不思議そうな顔をする。
なんだろう。
勉強しようとすると直面する問題……。
あれか、ついつい遊んじゃう、って感じか?
「……やってみたはいいものの、どこから勉強していいか分からないっていうやつ」
「「「あー……」」」
俺と倉持と多々良が反応した。
ちなみに佐々木は反応しなかった。
やろうとしたことすらなかったんだな……。
昨日はまあ覚えてる範囲でできないことをやったけど。
「というわけで、あとでどこからやればいいのか教えてくれない?」
秋川が倉持の方を向いた。
「あとで……放課後か?」
「いや、昼休みにちょろっとでいいから」
「そういうことにゃら全然いいぞ」
「よーし!じゃあ今夜ちょっと勉強してみよーっと」
秋川が意気揚々と自分の机に戻る。
「じゃーあとでたたらにも教えてー」
「いいぞ」
「俺もいい?」
「もちろん」
「……」
そして俺たちの目が佐々木の方に向く。
「……え」
「「「……」」」
佐々木が口を開く。
「じ、じゃあ俺も……」
「よし、その意気だぞ佐々木」
「……じゃあ、うちも」
「姫川、お前はそろそろ本当に教室に戻った方がいいんじゃにゃいか?」
「そうだね」