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第45話 頼みました

「ユキちゃんおはよう!」

「おお、おはよう」

 部屋の扉が開き、多々良が入ってくる。

「……さみい」

 布団から出ようとしたが、一気に出たくなくなった。

「ユキちゃん早く用意してよ」

「あと10分だけこの中にいたい……」

「たたらだって寒いの我慢してるんだからー!」

 多々良が俺のところまできてぐいぐい布団を引っ張ってくる。

 しかし、急に多々良の動きが止まる。

「……あったかそうだね」

「寝てたからな」

「ごくり」

「多々良?」

 次の瞬間、急に多々良が布団に潜り込んできた。

「多々良さん!?」

「ちょ、ちょっとだけ!多々良も寒かったから!」

 冷えた制服から発せられる冷気に体が冷やされる。

「さ、寒いんだけど!!」

「あったか~い」

「もう丸まってる!?」

 猫はこたつで丸くなるとはよく言ったもんだ。

 こたつじゃないけど。

 多々良が入ってきてしまったので仕方がない、学校に行く準備をしよう。

 3日間も休校だったけど、学校でなんかあったんだろうか。

「ユキちゃんおしりにパンツが食い込んでるよ」

「見んな」

 見られるのは恥ずかしがるくせにこいつなんで俺のは平気で見るんだ?

 いや、たまに赤くなる時あるよな……分からん。

「早く朝ご飯食べちゃってね。多々良はここで待ってるから~」

「俺のベッドなんだけど……」

「気にしにゃい気にしにゃい」


「まあこうなるとは思ってたよ」

 準備を終えて部屋に戻ってきたら、多々良は寝ていた。

「にゃふ……」

「どっせーい」

「さっむ!!!」

 布団をすべて引きはがすと、丸まっていた多々良がさらに小さくなった。

「行くよ」

「うぅぅぅ……最初に抵抗したのユキちゃんじゃん……」

「布団はがそうとしたのは多々良だよね」

「分かったよぅ……」

 多々良を連れて外へ出る。

 降り続いた雪が見事に積もっていた。

「埼玉でもこんにゃに降るとはねー」

「毎年このくらいは降ってないか?」

「1月とか2月にゃら分かるんだけどね?まだ12月前半だよ」

「確かに……」

 最近異常気象が多いとか聞くしな。

 来年はもっと雪が降るかもしれない。

「ん、電話だー」

 多々良のケータイが鳴る。

「もしもし綺月ー?」

 相手は姫川のようだ。

「にゃるほどー、確かにそうだね!わかったー!じゃあまたあとでね!」

 電話を切ると、多々良がずんずん歩き出した。

「転ぶぞー」

「子どもじゃにゃいんだから大丈夫だよ!一歩一歩踏みしめて歩けばね!」

「靴の中に雪が入るぞ」

「靴下の替えがあるからへーき」

「転ばれても困るから。ほら」

「はーい」

 手を出すと、素直につないでくれる多々良。

「で、姫川はなんだって?」

「今日は直接学校に向かうって」

「なるほどね」

 鳥の種類にもよるが、姫川の足は地上で踏ん張るのは向いていない構造をしている。

 転ぶと危険だという判断だろう。

「そういえば、にゃんで3日間も休校ににゃったんだろうね」

「ああ、俺もそれ気になってた」

「きっとにゃんか大変にゃことがあったんだろうね」

「だろうな」

 まあ学校に行けば説明があるだろう。

「寒いね」

「だな」

 雪が積もっているのもそうだが、風も吹いているのでなお寒い。

「タイツ穿いてても寒いのか?」

「寒いものは寒いんだよ」

「そうなのか」

 タイツって寒さから身を守ってくれるわけじゃないのか。

 大変そうだな。

「日差しが欲しいね」

「曇ってるし風も吹いてるし、容赦ないよな……」

 スカートはめちゃくちゃ寒そうだ。

「男子の制服はいいよね。ズボンでいいんだもん」

「ああ、やろうと思えばこの中にレギンス穿けるからな」

「ずるい」

 そういって俺のズボンの裾を上げてきやがる。

「ぎゃースネ毛」

「うるせー」

 てか寒い、すげー寒い。

「ちなみに多々良はスネ毛処理してる男ってどう思う?」

「好きにすればいいんじゃにゃい」

「ああそう?」

 スネ毛がキモいとかスネ毛処理している男はキモいとかよくわからねえことテレビで言ってるからな。

「たたらはスネ毛があってもにゃくても気にしにゃいよ。たたらだって放っておくと手とか毛が生えてくるし」

「猫だもんな……」

「そうそう、だから気にしにゃくていいんじゃにゃい」

「そうだな」

「それにほら、ユキちゃんよりも毛が濃い人にゃんていっぱいいるよ。そもそも佐々木っちとかアッキーだってそうじゃにゃい」

「そう……だな」

 佐々木はいろんなところが濃いからな。

「でもあれだね、毛が濃い方があったかそうだよね」

「そんなでもないぞ?」

「ユキちゃんはそこまで言うほど濃くないじゃにゃい」

「まあね?」

 よし分かった、毛は気にしないことにしよう。

「そういえば今日の夜また雪が降るかもって言ってたよ」

「また降るのかよ」

「そうみたい。やだねー」

「あんまり寒いのは好きじゃないからなあ」

「こたつに入りたいにゃあ」

「あれはダメだ、多々良が出てこなくなる」

「否定出来にゃいんだよねえ」


「倉持、おはよう」

「ああ佐倉、おはよう」

「くらもっちゃん、おはよう!」

花丸(はにゃまる)さんも、おはよう」

 佐々木と秋川はまだ来ていなかった。

「くらもっちゃん休みの間は(にゃに)してた?」

「そうだにゃあ……勉強してバイトして、こたつにこもってたかも」

「こたつ!やっぱたたらもこたつほしいにゃあ……」

 多々良がこたつに入ろうもんなら本格的に何もしなくなるだろう。

 倉持はほら、日常的に勉強とかちゃんとしてるし……。

「にゃんだったら今度僕の家に来るか?みんにゃで勉強とか」

「いいね!」

「やめとけ倉持。こたつに入った多々良は絶対に勉強しない」

 金はあるはずの花丸家にこたつが一つもない理由は、入ったら最後出られなくなることを多々良の母さんが警戒しているからだ。

 多々良の母さんも多々良と同じ猫人。

 あの人もこたつに入れば何もできなくなる。

 こたつにはそういう魔力があるのだ。

 その魔力に打ち勝つことのできる倉持は、いったい何者なんだろう。

「だってー、くらもっちゃんの部屋にしかこたつがにゃいんだもん」

「僕もたまに寝そうににゃるから撤去しようか考えてるんだけど……」

 寝そうになるから撤去、すげえ、鋼の精神だ。

 ちなみに部屋にこたつがない理由はそれぞれだ。

 佐々木は熱いからこたつが嫌い、秋川は体温が上がりすぎて危険になる可能性があるから。

 俺は多々良がこたつに入り浸る可能性があるからで、姫川は焼き鳥になりかねないからだそうだ。

「たたらがおばあちゃんににゃったらこたつに入っててもいいのかな」

「知らないねえ」

「じゃあたたらは一生こたつに入れにゃいかもしれにゃい……」

「小さい時入っただろ。出てこなくなったけど」

「そうだったっけ……」

 とにかくこたつは危険なのだ。

「おっーす」

 佐々木が教室に入ってきた。

「雪が積もってるとさみーなー」

「おはよう佐々木。なんで髪の毛濡れてんの?」

 何事もないかのように入ってきたが、顔は赤いし髪が濡れている。

「さっき滑って転んでよー。積もってる雪に頭から突っ込んだんだよ」

「面白い事したんだにゃ」

「おもしろくねーよ。おかげでさみーっつーの」

「佐々木っち大丈夫?」

「俺に優しいのはお前だけだよ……さっきも姫川に笑われたんだぜ」

 姫川が笑ったのか、そりゃ珍しいな。

「まあ秋川が来たらもっと笑うだろうけどな」

「間違いないな」

「寒いからテンション下がってるんじゃにゃいのー?」

「そっちの可能性の方が高そうだな」

 そう考えると変温動物って結構大変なんだな……。

「さーむーいー……」

 噂をすれば、ってこういうことを言うんだよな。

「よっす秋川」

「おはよー……」

 ゆっくりとストーブの前に移動する秋川。

「あ~………………」

 真っ白だった顔に血の色が巡っていく。

「大丈夫か?」

「今日は風が吹いてるから外が寒いよね~……」

 声に全く力がない。

 復活までしばらくかかりそうだ。

「佐々木もそれ乾かさないと風邪ひくぞ?」

「そうだよな……俺もストーブであったまるか」

「たたらも~」

「多々良はストーブの前から動かなくなるからダメ」

「ユキちゃんはたたらにばっかり意地悪する!フシャー!」

「意地悪じゃねえんだって!」

 ちゃんと多々良を思ってのことです!!

 とりあえず多々良にそういうめちゃくちゃあったかいものはダメだ。

「おはようございます~。ストーブの周りにいる人たちは席についてくださーい」

 木晴(こはる)先生が教室に入ってくる。

「あら、佐々木くんはどうされましたかー?」

「学校に来る途中に滑って転んで雪にダイブしました」

「あら~、濡れたままはよくないですねー。タオルは持ってきていないんですかー?」

「部活がないので持ってきてないっす」

「みなさんも普段からタオルは常備しておいてくださいねー。佐々木くん、多分保健室で借りられると思うので行ってきてください」

「はーい」

 教室から出ていく佐々木。

 タオルって保健室で借りられるんだ、知らなかった。

「突然休校になってびっくりしたとは思われますが、みなさん地震は大丈夫でしたかー?」

 地震は大丈夫だった。

 休校は嬉しかった。

「休校になった理由ですが、地震の影響で学校の下水管が破裂してしまったので臨時で工事をしていたからですー」

 なるほどね。

 下水管が使えないとなるとトイレが使えないもんな。

「というわけで、みなさんは休校になった分……」

 冬休みが、減るというのか……。

 クリスマスに学校なんて行きたくないぞ。

 俺は多々良とデートするんだ。

「は、土曜日の授業になります~」

 えっ。

 土曜日だってぇ!?

 休日返上ですか!?

「休日なのに学校!?と思っている方もいるとは思いますが、クリスマスを学校の予定で潰させないという学校側の配慮ですー」

 それは嬉しいけど……土曜日に学校かー。

 多々良は……ホッとしてる。

 じゃあまあ、いいか。

「それと、しばらくかなり冷え込むとの予報が出ていますので、体温が変わりやすい人は特に注意してくださいねー」

「えぇー……」

 秋川がものすごく嫌そうな顔をする。

 まあ秋川には犬の血も混ざっているから、他の変温動物の特性を持つ亜人よりは体温の上がり下がりが激しくないんだろうけど。

 北の方に住んでいる人たちはどう体温調節をしているんだろう。

「もし体調を悪くしてしまったら我慢せずに保健室に行ってくださいねー。それでは朝のHRを終わりにします」

 木晴先生が教室から出ていくのと入れ替わりで、日本史の先生が入ってきた。

 まあまだ授業が始まるまで10分くらいあるけどな!

「秋川、大丈夫か?」

「先が思いやられるなー……」

「ユキちゃん、とりあえずクリスマスは大丈夫そうだね」

「ん、ああ、そうだな」

「え、なになに、佐倉とマルちゃんクリスマスに出かけるの?」

「そう!」

「へぇ~」

 ニヤケ顔でこちらを見てくる秋川。

「秋川くんもクリスマスに予定あるんじゃないですかね~?」

「……な、ないよ?」

 ビンゴ。

「なるほど、大学生のお姉さんとクリスマスにデートか」

「「なん(にゃん)だってぇ!?」」

 聞きつけた倉持と佐々木が飛んできた。

「その話は本当にゃのか秋川!」

「佐倉と多々良のデートなんざどうでもいいが秋川お前マジか!!」

 おいコラ佐々木。

「佐々木っちひどいにゃー!」

「お前らよく出かけてんじゃねえか」

 何言ってるんだ、多々良と2人で出かけるのは久しぶりだぞ。

「そういえば佐倉!今度築地に行くときは連れて行けよ!」

「それは声かけるって。な、多々良?」

「もちろん!くらもっちゃんもお(さかにゃ)食べに行こうねー!」

 話がずれてきている。

「コラ秋川。本当のことを吐きやがれ」

「なんでそんなに詰め寄ってくるんだよー!ただ出かけるだけだってー!」

「クリスマスに出かけるとかそれもうデートじゃんか!!すげーな!」

「だったら佐々木だってマネージャーの子誘えばいいじゃん!」

「他の人と予定入ってるって言われたんだよ!」

「「「「……」」」」

 一斉に黙る俺たち。

 そして自然と秋川の周りから解散していく。

「お、おい!やめろ!女同士でパーティって言われたんだよ!」

「振られたわけじゃないんだ」

「コクってすらいねえんだよぶっ飛ばすぞ」

 告白はする気なのか。

「じゃあ」

「「「うおっ」」」

 いつの間にか姫川が教室に入ってきていた。

 そろそろ授業始まるぞ。

「そんな寂しい佐々木のためにクリスマスはうちが会いに行ってあげようか」

「い、いらねえいらねえ」

「それともデート中の秋川に会いに行って修羅場を起こすか」

「やめてね?」

「ちなみに倉持は?」

「バイトだが」

「……じゃあ、倉持のバイト先に行ってあげるよ」

「来にゃくていいから」

 拒否され続ける姫川。

 かわいそうな気もするけど、修羅場を起こすのはやめてあげろ。

「佐倉は……ああ、やっぱいいや」

「ああってなんだよ」

「ふふふ」

「その顔やめろ」

 ふふふとか言いながら顔は全く笑ってないんだよコイツは。

「今朝は大丈夫だったか?」

「直接学校に来たから平気」

「帰りも気をつけろよ」

「飛ぶから平気」

「あっそう」

 まあ地面に足がつかなければいい話だもんな。

「うちもクリスマスにどこか出かけたい」

「佐倉と多々良と秋川は出かけるみたいだから、俺と倉持と姫川の3人でどっか飯でも行こうぜ」

「会いに来なくてもいいって言ってたのに」

「こまけーことはいいんだよ。倉持もバイトが終わった後ならいいだろ?」

「かまわにゃいぞ」

「じゃあ決まり。姫川もいいよな?」

「うん」

 よかった、クリスマスの予定は全員埋まったようだ。

「そろそろ授業始まるぞー。席着けー」

「じゃあ、うちはこれで。また後で」

「おう、じゃあな」


 日本史は授業としては楽な方だ。

 なんたって暗記科目だからな!

 変に頭使うよりこっちの方が得意なんだ。

 数学ⅡとかBとかよくわかりませんよ。

 今度倉持に教えてもらおう。

 教わったところで覚えられるかどうかわからないけど。

 そういえば寒がっていた秋川は大丈夫だろうか。

 ……やっぱそうなるか。

 ストーブに一番近い秋川だが、その表情は微妙。

 理由は席が端っこの廊下側にあるからだ。

 廊下側にも窓があるタイプの作りなので、廊下側も割と寒い。

 あそこは温かさと寒さのダブルパンチなんだよな。

 多々良さんは……寝てますね。

 あの子テスト大丈夫かしら。

 後ろからも睡眠の気配がする。

 佐々木が寝ているんだろう。

 倉持は見えないけどヤツは絶対に寝ていない。

 彼はそういう男だ。

 俺ら本当にテスト大丈夫かなあ……。

 日本史は多分大丈夫だ。

 問題は英語と数学と物理と化学だ。

 テスト前にみんなで倉持の家に集まらないとな……。

 とりあえず板書は写しておこう。

 日本史のテストはほとんど板書の内容からしか出ないし。


「にゃあ、花丸さんも佐々木も寝てて大丈夫か……?」

「倉持が教えてくれるから」

「へーき!」

「息を合わせて言うことじゃにゃい!」

 自信満々で言う2人に倉持が叫ぶ。

「そもそも冬はバイトが忙しいんだ!教えられにゃいかもしれにゃいぞ!」

 その言葉を聞いて倉持以外の全員が青ざめた。

「お、おいおい、嘘だろ?」

「時間は取れにゃいかもしれにゃい」

「く、くらもっちゃんにゃら助けてくれるよね?」

「できにゃい可能性がある」

 ……?

「俺ら倉持の助けがないと冬休み遊べなくなるよ~!」

「秋川はあれだ、大学生のお姉さんに教えてもらえばいいんじゃにゃいか」

「えーっ!」

「僕は忙しいから、みんにゃのために時間が取れにゃいかもしれにゃいんだ!」

「これはまずい……」

 話を聞いていたらしい姫川が、まったくまずそうじゃない表情でつぶやく。

 誰も突然の登場に反応しない辺りさすがだ。

「赤点を回避できればいいんだ!頼む!」

「そ、そんにゃことを言われてもだにゃ……」

 倉持が困惑の声を上げるが、これはきっと大丈夫なヤツだ。

 いつもみんなが倉持を頼るから今回は頼らせないという雰囲気を作って、テスト前に時間を作ってくれるタイプのヤツだ。

 そうやって感謝をいただこうってか?卑しいやつめ!

 いや多分倉持はそこまで考えてないだろうけど。

「でもあれだなあ、俺と多々良が赤点取ると倉持は困るんじゃないか?」

「にゃ、にゃにがだ」

「俺らが赤点をとって、冬休みが補習になってしまったら……どうなる?」

「佐倉たちの冬休みが消えるだけだろ?」

「聡明な倉持くんだったら分かるんじゃないかなぁ~、多々良も困っちゃうもんな」

「クリスマス……」

 多々良はクリスマスが消えることが心配らしい。

 俺も心配だけど。

「花丸さんと、僕……?あっ!」

 気付いたようだ。

「まあ別に倉持だけで行ってもいいんだけどね?」

「……」

 そう、俺らの冬休みがつぶれてしまうと3人で築地に行けなくなる。

 多分倉持は多々良と行きたいんだろうし、俺らが行けなくなるのは困るだろう。

 まあ倉持と多々良だけで行かせてもいいんだけど、身長の小さい2人が人の多い場所に行くと考えるとちょっと不安だし。

「倉持が勉強を見てくれれば、多分冬休みの補習も出なくて済むんだけどなぁ~」

 我ながら嫌なヤツだ。

 普段から勉強してないのが悪いんだけど。

「……仕方にゃいにゃ。僕は忙しいけど、みんにゃの為に少しだけ時間を空けてやろうかにゃ」

「助かるぜ倉持~!」

 佐々木が倉持の背中を叩く。

「よかった~!」

 秋川は倉持の頭を撫でる。

「ありがとう~!」

 多々良は倉持の手を握る。

「嬉しい」

 姫川は倉持に近づく。

「うぅっとおしい!!」

 倉持が大きな声を出した。

 手を振り上げたせいで、倉持の手が姫川の胸にヒットした。

「……倉持、教室内でずいぶんと大胆だね」

「ももももももも申し訳にゃい!!!」

 倉持がものすごい勢いで土下座をした。

「うちの胸はまったくないから、ノーカンだよ」

「そういうことじゃにゃいだろう!?」

 まったく気にしない姫川もすげえな……。

「くらもっちゃん、わざと?」

「違う!!」

 土下座するくらい謝っている相手にすげえ言いようだ。

 まあ冗談だろうけど。

「本当に申し訳にゃい、姫川」

「……じゃあ、勉強教えて」

「分かった、教える」

「よかった」

 見方によってはむしろ姫川の方がわざとじゃ……そんなわけないか。

「仕方にゃいからみんにゃの勉強は見てやる。時間もちゃんと確保する。その代わり、授業中に寝にゃかった人だけだぞ」

「寝ちゃいけないってのか!?そりゃないぜ倉持!」

「授業は寝るものじゃにゃいからにゃ!?」

「「「えええっ!?」」」

「驚くところじゃにゃいから!!」

 多々良と佐々木と秋川が驚いたところに倉持がツッコむ。

「うちはクラスが違うから寝ても分からないね」

「姫川の友達に監視してもらおう」

「……ひどい。というか、うちの友達分かるの?」

「兎人の女子生徒がいただろう」

「……」

 姫川が黙る。

 修学旅行の時に話したもんな。

 ほんの少しだから名前も知らないんだけど。

「仕方ない、冬休みまでは眠気と闘う」

「普段からちゃんとしてくれればこんにゃことにもにゃらにゃいだろ……」

「倉持、にゃんにゃん分かりづらいよー」

「仕方にゃいだろ!!」

 ほとんどの猫人に共通する特徴だ、仕方ない。

 たまに聞き取りづらいのは否定できないんだけどね。

「じゃあたたらもがんばるかー」

「仕方ないなー」

「佐倉、俺が寝そうになったら起こしてくれ」

「佐々木から睡魔に抗う意思が感じられないんだけど」

「ほら、授業中ってどうしても眠くなるじゃん?」

 それはキミに聞く気がないからだよ。

 まあ眠くなるのは分からなくもないけど。

「というか成績は進路に関わってくるんじゃにゃいのか?」

「まあ確かに……」

「俺は大丈夫だぜ?大学はもう決まってるようなもんだしな」

「そうにゃのか?」

「ほらほら、俺はサッカー部のエースだぜ?」

 なるほど。

 それはいいな。

 ……ずるいな。

 でもあれか、それは佐々木が頑張ってる証拠だもんな。

「進路かあ……そうだよねえ」

「姫川だってやりたいことがあるんだろ?」

「……確かにある。その時は倉持を頼る」

「頼り切られるのはいやだぞ」

「倉持は助けてくれる」

「そうだな、倉持はそういう男だ」

「佐倉まで」

「たたらもくらもっちゃんを信じてる!」

「……ぐ」

「俺も倉持に助けてもらおー」

「とりあえず自分で頑張れよ……」

 倉持が疲れたような声を出した。


「倉持も大変だな」

「よく言う。佐倉だって大変にゃ要素の一因にゃんだが」

「まあまあそう言わずにさ」

「というか、普段から勉強すれば佐倉はできるだろ。花丸さんが休んだ時はしっかり授業を聞いているじゃにゃいか」

「それは……まあ」

「佐倉は今やりたいことがにゃいって言ってたし、それにゃら勉強ができて悪いことはにゃいぞ?選択肢が広がる」

「ぐ……」

 そこを突かれると痛い。

 これがやりたいってことがないから、あらかじめ選択肢を広げておくのか。

 でも今からか……。

「佐倉、にゃにか気にしてるようだけど今から始めたって遅いにゃんてことはにゃいからにゃ?佐倉だって、やりたいことができたのに遅かったってにゃったら嫌だろ?」

「そうだけど……」

「中学までの成績は悪くにゃかったんだし、復習だって今からやっても遅くにゃんてにゃい」

 本当だろうか。

 つってもなあ……。

「それに、イケメンで勉強できていい仕事に就ければモテにモテるぞ」

「なんだと……いや、あんまりモテたくない」

「他人とあまり(はにゃ)せにゃいんだった……」

「まあでも考えてみる。本気で勉強しようと思えたらまあ、その時はよろしく」

「やる気があるにゃら僕はいつでも手伝うぞ」

「ありがとう。あとにゃんにゃん多いぞ」

「仕方にゃいだろ!!」


 とりあえずは、授業を聞くところから始めてみよう。

 しかしこれは英語の授業。

 高校1年で諦めた俺にとってはもはや何を言っていてるのかわからない。

 教科書にそれっぽく書き込むことで精いっぱいだ。

 倉持に条件を付けられたからか、多々良も秋川も寝ていない。

 問題は佐々木だが……寝そうだ。

「起きろ佐々木」

「ん……いやほら、英語とか訳分かんねえじゃん?」

「分かんないけど、内申下げられて合格取り消しになっても知らないぞ?」

「……それは困るけど、今更だよなあ」

「とりあえず起きとけって」

「分かったよ……急に真面目になったな」


「佐々木っち、ユキちゃんに寝かせてもらえにゃかったね」

「そうなんだよ、佐倉が急に勉強に目覚めやがったんだよ」

「多分くらもっちゃんに(にゃに)か言われたんでしょ。ユキちゃん影響されやすいからね」

 多々良にあっさり言われる。

 まあ確かに影響されやすいってのはある気がする。

「ユキちゃんったらエッチにゃ(はにゃし)聞いただけでその夜にエッチにゃ夢見ちゃうくらいだからね」

「すげえな佐倉」

「な、何の話だ」

「にゃんかちょっと聞いた話にゃんだけど~、女の人と温泉って話を聞いたらー?」

「その話はやめるんだ」

 おい誰に聞いたんだそれは。

 どう考えてもあいつしかいないんだけど。

 ウズメの野郎帰ったらぶっ飛ばしてやる。

「佐倉~、今の話の続きを聞かせてくれよ~」

「な、なんの夢を見たか忘れたなあ」

「しらばっくれるつもりみたいだぞ多々良」

「ね~」

 ニヤニヤしている多々良と佐々木。

 多々良はどこまで知っているんだろう。

「トイレ行ってくるわ」

「「あ、逃げた」」

 てっきり佐々木はついてくるかと思ったが、そうでもなかったみたいだ。

 俺をからかえればいいだけなのかあいつは。 

 いや、教室に帰ったらまた質問される可能性もある。

 それなら休み時間終了間際に教室に戻るか……?

「あ、ユキちゃん出てきた」

「多々良!?」

 廊下で多々良が腕を組んで待っていた。

 なんなのそのポーズは……。

「あの話、ウズメから聞いたんだろ」

「もちろん!!」

「あんの野郎……」

「多々良もユキちゃんが見た夢を見せてもらったの!」

 ……は?

「ずいぶんいい夢を見させてもらったみたいだねえ?」

「あっ!あれはウズメが勝手に……!」

「それは知ってるよー?ユキちゃんは誰がよかったのかなー?」

 夢に出てきた人にそれを聞かれるのはだいぶきついものがあるな。

「みんなちゃーんと裸だったもんね?」

「学校の廊下でそれを聞かれるのはどういう羞恥プレイなんだ?」

「いいじゃん、4人もいたんだから教えてよ」

「……」

 どうにか逃げられないものか。

 だれでもいいから通りかかってくれ。

 ……あ、姫川以外で。

 多々良に勘違いされちゃう。

 しかしあまり話せるような人は俺には……。

「ユキちゃーん?」

「ほ、本人を前にして言えるかっ!」

 三十六計逃げるに如かず!

「……え?ユキちゃん?」

 逃げる途中、多々良の不思議そうな声が耳についた。


 授業が始まる直前、多々良がよくわからない顔をして教室に入ってきた。

 一瞬だけこっちを向き、すぐに目をそらす。

 どういうことです……?

「佐倉、お前多々良に何か言ったのか?」

「え、いや……」

 何も言ってないはず。

 あれ、俺何か言った?

「もしかしてあれか?エロい夢って多々良の夢だったのか?」

「そそっ、そんなわけないだろ!?」

 4分の1正解だけど。

「じゅ、授業始まるぞ」

「ああ、多々良がこっち見てるぞ」

「え?」

 確かに、多々良がこっちを見ている。 

 若干、顔が赤いような気がする。

「……っ!」

 目が合うと、多々良はそっぽを向いた。

 な、なんなんだ……?

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