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第44話 捻りました

「雪、止んじゃったか」

 窓を開けて外を見た姫川が少し残念そうな声を出した。

 あんまり開けていると寒いので早く閉めていただきたい。

「本当は泊まりたかったけど今日は帰る」

「おう、気を付けてな」

「うん、また学校で」

「またな」

綺月(きづき)、じゃーねー!」

「多々良、またね」

 姫川が勢いよく飛び去って行く。

 あんな速度で飛んでいったら身体冷えそう。

「多々良も帰ろうかにゃー」

「転ぶなよ」

「それじゃーユキちゃんが連れてってー」

 ……外はすでにくらい。

 夜になると光がない限り多々良は目が見えない。

 雪も積もっているし、さすがに多々良だけで返すには危険かもしれない。

「分かった。行こうか」

「ありがとー」

 そういうと、多々良が背中に乗っかってきた。

「せっかくだから楽しちゃえ」

「仕方ねーなー」

 多々良を背負って部屋から出る。

 さっきまで吹雪いていたせいか、風だけが吹いている。

「さ、さむー!」

「確かに寒いな……姫川大丈夫かな」

 多々良が身を縮こまらせる。

 多々良を届けたら早く帰ろう。

「ほい着いた」

「ありがとね!」

「んじゃ、俺は帰る」

「また明日ユキちゃんの部屋に行ってもいい?」

「別にいつでもきていいぞ」

「うん!またね!」

 寒い、早く帰ろう。

「うごっ!?」

 急ごうとして走ったところ、積もった雪に足を取られて転んでしまった。

 そのまま顔から雪にダイブする。

「つ、つめてえ……」

 服の中にも雪が入ってきて、急速に体が冷やされる。

 若干足を痛めてしまったのか、なんだか動きづらい。

 やべ、どうしよ。

「幸くん、大丈夫!?」

 聞きなれた声と同時に、身体を起こされた。

 声がした方に顔を向けると、ツクヨミが心配そうな顔をしていた。

「ごめん、ちょっと滑ってさ、足やらかしたかも」

「え、そうなの!?急いでお部屋に戻ろう!」

 ツクヨミに担がれ、部屋に戻る。

 やっぱり宙に浮くの慣れねえなあ……。

「ちょっと足見るね」

「ごめんな」

「というか服もびしょびしょだ……あのタンスの中にある?」

「ああ、二番目の段に寝間着が入ってるからそれを取ってほしい」

「分かった!」

 その間に靴下を脱ぐと、ひねったであろう部分が赤く腫れていた。

 これ若干どころじゃねえな……。

「これでいいのかな」

 ツクヨミが寝間着を持ってきてくれた。

 そうそう、その黒いやつ。

「結構腫れてるね……捻挫かな」

「かもしれないな」

「さっきはなんであんなところに?」

「ああ、多々良を家まで送ってたんだ。隣だけど多々良は夜何も見えないからさ」

「それで転んじゃったんだね」

「寒かったから早く帰りたくてな……失敗したよ」

 そんなにひどくはないだろうけど、結構痛いかも。

「そういえばツクヨミはなんでここに?」

「今日は私の役目の代わりをしてくれる神さまがいたから、早めに戻って来たんだ」

「そうだったのか」

「そしたら部屋に幸くんがいなくて……外を見てみたら雪に埋もれてたからビックリしちゃったよ」

「それは申し訳ない」

「急がば回れって言葉もあるくらいだし、焦っちゃだめだよ?」

「心に刻んでおきます……」

 さて、これからどうしたものか。

 明日はまだ学校が休みだからいいとして、それ以降はまた多々良を学校に連れていかなければならない。

 そう考えると……。

「お困りのようだね」

 俺の様子を見てか、ツクヨミがニヤリと笑った。

 心でも読めるんだろうか。

「まあ本当はこういうことしちゃいけないんだけど……姉さんとかには、内緒だよ?」

 ツクヨミが腫れている部分に手を当てる。

「いてっ」

「ごめんね、ちょっとだけ我慢してて」

 ツクヨミが目を閉じる。

 すると、触れた部分が淡く発光し始める。

 すげえ、アニメとかゲームで見るやつだ。

「……ふう、どうかな」

「事実は小説よりも奇なりとかよく言うけど……すげえ」

 さっきまで痛かったのに、本当に痛みが消えている。

 本当にこんなことがあるとは……。

「ありがとうツクヨミ。でもなんでアマテラスとかには言っちゃいけないんだ?」

「まあその、私たちは人を見守る神さまだから。基本的に結婚でもしない限り個人への過度な干渉はあまりよしとされていないんだ」

「なるほど……」

「お出かけとかは構わないんだけどね。こういうことはあんまり、ね」

 確かに、こんな力があれば医者もいらないもんな。

「さて幸くん、私はこれから暇なのです」

「はい」

「だからさ……もうちょっとここにいてもいいかな?」

「おう、全然いいぞ」

「ありがとう!」

 にぱっと笑うツクヨミ。

 何だその笑顔は、かわいいじゃないか。

「あ、ちょっと電話してもいいか?」

「ん?いいよ」

 ラインを起動して、姫川に電話をかける。

『どうしたの?』

「出るのはえーな」

『ふふふ』

「ちゃんと家に着いたよな?」

『大丈夫』

「寒かっただろ。風邪とか気をつけろよ」

『いつも通り、佐倉は優しい。ありがとう』

「おう、またな」

『うん、また』

 相変わらず、姫川との電話は短い。

 体調を崩していないなら何よりだ。

「ふっふっふ~」

 見ると、ツクヨミがこちらを見てニヤニヤ笑っていた。

「な、なんだよ」

「幸くんはやっぱり優しいんだね。ツクヨミは幸くんをますます気に入りました」

「あ、ありがとう?」

 神さまに気に入ってもらえるならなんかいいことがありそうだ。

「うんうん、気遣いのできる男の人はモテるよ!」

「モテる……」

 

「あれ、また雪が……」

「え、予報だともう降らないって言ってたんだけどな」

 風はさっきよりもおさまったが、また雪が降ってきていた。

 しかも割と大粒だ。

「明日の朝雪かきする必要がありそうだな……」

「私も手伝う?」

「いや、俺の家の前ならウズメに手伝わせるから平気」

「ウズメかあ……」

 ツクヨミはいつも頑張ってるし休んでいても文句は言われないだろう。

 ……ウズメが頑張ってるところってあんまり見たことないんだよなあ。

 母さんの手伝いは毎日してるみたいだけど。

「雪かきって大変そうだよね」

「雪国の人たちは毎日やってるんだよな……俺には無理だ」

 そんな体力ないし。

 そもそも雪かき自体2年ぶりくらいになるんだろうか。

「雪国かあ……」

「ツクヨミは経験あるか?」

「ううん、私は下界に定住することもないから……今は幸くんに会いに来てるけどねっ」

「……お、おう」

 面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいな……。

 ただ俺も勘違いしそうになるんでそう言った発言は控えていただきたい。

「姉さんは昔蝦夷地(えぞち)に住んでたから、もしかしたら経験あるかもね」

「シンタマチさんか」

「あ、そうそう」

「じゃあ月子ちゃんは……ぐふぅ」

 ふざけて戸籍上の名前で呼んだら鋭い一撃が飛んできた。

「も、もちろん会いに行ったこともあるよ。つ、ツクヨミとしてだけどね!ツクヨミとして!」

 ツクヨミの部分をやたら強調する。

 そんなに嫌か。

「そういえば、普段はこっちにいるときは人間として振る舞ってるけど、神さまとして人間の前に姿を現すことってあるの?」

「それは……あるよ」

「へえ、どういうときに?」

「月読宮っていう私のことを祀った神社があって、年に一度だけね」

「神さまがそういうことをしてるのに世間一般で神さまの認知って低いんだな」

「神職に就かない限りなかなかないよ。幸くんが特別なだけなんだから」

「俺が特別ねえ……」

 俺自身、あまり自分が特別だという感じはしない。

 まあ普通そう思う人の方が少ないんだろうけど。

「私としても、幸くんは一人しかいない私の男友達だから、特別だよ!」

「神さまが友達って考えるとすげえよなあ……」

「人間や亜人の友達をたくさん作ってる神さまもいるんだよ」

「そうなのか」

「人との交流が好きな神さまだよね」

「ツクヨミは?」

「私は……友達は、その」

 人見知りするもんな。

 まあよくここまで仲良くなれたとは思うけど。

「また幸くんとお出かけしたいな」

「俺は予定が合えばいつでもいいぞ」

「それなら、また誘うね」

「おう」

「クリスマスは予定が入ってるんだよね」

「まあ、多々良とな」

 早く行きたい。

 早く……見せてやりたい。

「デートだね!」

「そ、そうだな」

「今度私ともデートしてもらわないとなー」

「その時はその時で」

 前にツクヨミと出かけた時は楽しかった。

 またあんな風に楽しく出かけられるなら出かけたい。

 ……まあ、最後はツクヨミが酔っ払っちゃったけど。

「楽しみにしてるね!」

「まあ、俺も楽しみにしてるよ」

「えっへへ」

 次はどこに出かけるんだろう。

 また、ツクヨミがあまり見たことないであろうところにでも行こうかな。


「じゃあ、今日は帰るね」

「おう、またな」

「うん!明日も来るね!」

 ツクヨミが黒い球体の中へ入っていく。

 また天界に行ってみたいなあ。

 ……そうだ、次のお出かけは天界を提案してみよう。

 許されるかどうかわからないけど。

 ウズメに聞いてみようかな。

 そういえばアマテラスに呼び出されてたみたいだけど、もう帰ってきてるかな。

 一緒に行ったツクヨミも戻ってきてたし、多分帰ってきてるよな。

 ウズメの部屋の前に立ち、扉をノックする。

「ウズメ、いるか?」

『幸さんですか?どうぞ~』

 ウズメの部屋に入ると、座椅子に座ってくつろいでいた。

「何かありましたか?」

「いや、ちょっと聞きたいことがあってさ」

「き、聞きたいことですか!?なんですか!?」

「何その反応」

 何も言っていないのにウズメが急に慌てだした。

「ななな、何でもないですよ?」

「今日アマテラスに呼び出されたこと?」

「そ、そんなことないですよ!?つ、ツクヨミさんは途中で抜けてしまいましたし!!」

 余計なこと言ってないですかね。

「アマテラスと何話してたんだ?」

「気にしないでください!!」

 ウズメが急に大きな声を出した。

 驚いてそのまま固まってしまう。

「あ、すみません……」

「い、いいよ。変に聞いてごめんな」

「いえ……」

 申し訳なさそうにするウズメ。

 よほど大切なことを話していたんだな。

「その、ウズメに聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「さ、先ほどの話の内容以外でしたら」

「その話は聞かないよ。今度またツクヨミと出かけることになったんだけどさ」

「まあ!」

 ウズメの表情が明るくなる。

「それで、前は水族館に行ったり料理屋に行ったりしたからさ、今度はツクヨミに天界を案内してもらいたいなって思ったんだ。その、天界へのお出かけは大丈夫?許される?」

「そういう話ですか……そうですね、ツクヨミさんが一緒であれば許されるとは思いますよ」

「そうかな」

「大丈夫だとは思いますが……以前にも言った通り、天界には人間を快く思っていない神もいますから……一応、気を付けた方がいいと思います」

「分かった。じゃあ、今度ツクヨミに提案してみるよ」

「幸さんとのデートならツクヨミさんも喜んで案内してくれると思いますよ」

「で、デートじゃないって」

「いいじゃないですか」

 にやにや笑うウズメ。

「ちなみにウズメにお願いしても天界って案内してもらえるのか?」

「ちょっと現状だと天界まで歩いていくのが面倒ですね」

「面倒!?」

 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 まあ氷川女體神社はここからだとちょっと遠いもんな。

 にしたってよ。

「せっかくのデートなんですし、天界の案内はツクヨミさんにしてもらってください」

「まあ、そうだな」

「それに、ツクヨミさんと混浴の温泉に入れるチャンスですよ」

「恥ずかしいわ!!」

 ツクヨミと混浴だと!?

 恥ずかしいとは言ったけどめっちゃ興味ある。

「幸さん、顔赤いですよ」

「……悪いかよ」

 男子高校生だぞ、女性の裸に興味がないわけないだろ。

「それとも私とお風呂に入りたいですか?」

「チェンジ」

「失礼ですね!!」

 ウズメが怒る。

 しかし、すぐにニヤニヤとした顔に戻る。

「幸さん、やっぱり顔赤いですよ?」

「うるせえよ」

「幸さん見境がないですね」

「やめて?」

 そういわれるとちょっと悲しい。

 でも健全な男子高校生なんですよ、許してくださいよ。

 ツクヨミやウズメだけじゃなく、多々良や姫川だって赤くなってしまいますよ。

「幸さんがエッチなのは以前から知ってますからね、今日はこのくらいで許してあげましょう」

「ぶっ飛ばすぞお前」

 くそっ、こいつにからかわれるとなんだかむかつく。

「ツクヨミさんとはいつお出かけされるのですか?クリスマスにデートですか?」

「いや、クリスマスは多々良とデートだ」

「あら、それではその後ですか。お正月の時期はやめておいた方がいいですよ」

「え、そうなのか?」

 やめておいた方がいいというのはどういうことだろう。

「ええ、三箇日(さんがにち)は高天原に誰もいなくなる時期ですので」

「誰もいなくなるってどういう状態なんだ」

「それぞれが祀られている神社に行かないといけないのです。人間を快く思っていない神であっても例外ではないんですよ」

「なるほど……ん?」

 ウズメの言葉に何かが引っかかる。

 つまりは毎年だよな。

 こいつって確か……。

「なあ、もう一ついいか?」

「はい?」

「俺と初めて会った時さ、久しぶりに地上に来たみたいな話してなかったか?」

「……あー」

 微妙な顔をするウズメ。

「地球ってこんなに重力がなんちゃらとか言ってたよな?」

「……私もね?三箇日はちゃんと神社にいたんですよ」

「ほう?」

「それからしばらく天界で暮らしていたんですけどね?半年ほど地上に降りなかっただけでああなるとは私も思っていなかったんです」

「つまり?」

「まったく原因が分からないんですよね……」

 それは、あの、俺からしてもまったく意味が分からないんですが……。

「あの時幸さんに助けていただいて本当に感謝してるんですよ?」

「あ、そう……」

「ええそうです。それで、三箇日は神社に行き、そのあとは高天原にすべての神が集まって大宴会です!」

 それも人間は参加できなさそうだな。

 神さまだけの大宴会ということだろう。

「おそらく、幸さんも呼ばれるのではないでしょうか」

「は、なんで?」

 今参加できなさそうとか思ってたのに。

「スサノオさんが会いたがっているんですよね?スサノオさんはお正月くらいしか高天原に戻って来ないので、おそらくですがその時に会うと思います」

「えぇ……」

 わざわざ正月にそんな大変な思いをしにいかないといけないのか……。

「大宴会には呼ばれないと思うので安心してください」

「そういう問題じゃなくてだね……」

 大宴会って神さましかいないんだろ。

 息が詰まりそうだ。

 そういう意味では呼ばれないのはいいかもしれない。

「スサノオさんと会うのが心配でしたら私も一緒に行きますよ。ツクヨミさんも一緒なんでしょう?」

「ああ、そうみたいだけど」

「私とツクヨミさんがいれば大丈夫です!」

 どうしよう、こいつが来るとか一気に心配になってきた。

「ちなみにだけどさ、さっきウズメが慌ててた話の内容って―――」

「おやすみなさい♪」


 じゃぼじゃぼと、何か液体が流れる音が聞こえる。

 先ほどまでの記憶も飛んでしまい、状況が飲み込めない。

「……ふう」

 なんだここ、温泉?

 よく見ると、外は雪が降っていた。

 不思議と寒くもない。

 へえ、温泉に入ってると雪が降ってても寒くないのか。

「幸くん、隣失礼するね」

 隣を見ると、ツクヨミが入ってきていた。

「温泉、いいもんだなあ」

「うん、気持ちいいよね」

 隣で身体を伸ばすツクヨミは、何もまとっていない。

 そうだね、タオルを巻いて入浴するのはよくないもんね。

「幸くんは、温泉好き?」

 そういって、ツクヨミが身体を寄せてくる。

「ああ、温泉ってなんか非日常って感じがして好きだぞ」

「えへへ、私も温泉は好きなんだー」

「あー!ユキちゃんたちもう先に入っちゃってるー!」

 次に温泉に入ってきたのは多々良だった。

 そのまま俺の右隣に移動してくる。

「ちょっとあついね」

「そうか?」

「うん、人間と猫人の差だねー」

 そういって頭を寄せてくる多々良も、身に何もまとっていなかった。

 かくいう俺も何も着けていない。

 まあ、これが正しい風呂のスタイルだ。

「……佐倉、両手に花だね」

 今度は姫川が入ってきた。

 天国かここは。

 温泉に入れて女の子たちとも触れ合えて眺めも最高とか……。

 それに、普段より月が大きく見える気がする。

 雪と月の組み合わせが……月?

 上を見上げると、雪が降っているのに雲は一つもなかった。

 え、なにこれ?

 というか、ツクヨミも多々良も姫川も裸じゃないか。

 ん~~~??

「あら幸さん、立ち上がっていないで温泉を楽しみましょうよ」

 まさかのウズメまで入ってきた。

 ……おおお。

 よくわからないけど、この状況はきっと楽しんだもの勝ちだな?

 よーし!


「……っは」

 あたりを見回すと、そこは温泉ではなく俺の部屋だった。

 夢か……。

 なんかウズメの部屋にいたのは覚えてるけど、ここどう見ても俺の部屋だよな。

 何があったんだっけ……。

 それにしてもすげえ夢だったな。

 ウズメに混浴とか言われてすぐに夢見ちゃうとか刺激されすぎでは?

 本当にあの状態だったらきっと直視できていないはず。

 完全に夢でしたね。

 くっそ、内容をしっかり思い出せればいいんだけど風呂に入っていたってことしか思い出せない。

 もうちょっと思い出すべきものがあるでしょうよ。

 くそっ……!

『幸さん、失礼しますね』

「オォア!?」

 驚いて変な声を上げてしまう。

 だって今夜中の3時だぞ!?

 俺が起きているともわからない時間にピンポイントで来るなんておかしいだろ!?

「お目覚めですか」

「お、おう、今ちょっと目が覚めちゃってな。なんでここに?」

「幸さんからスケベなオーラを感じました」

「どういうことだよ!!」

 実際ちょっとスケベな夢を見たけどさ!!

「せっかくなのでちょっといい夢を見てもらったのですが、いかがでしたか?」

「お前のせいか!!」

 というかさ。

「ウズメ、神さまっぽい力はほとんどないって言ってなかった?」

「ツクヨミさんやアマテラスさんに比べるとそれほどでもないですし……」

「任意に夢を見せるのもすげえよ……」

 やっぱこいつちゃんとした神さまなんだな。

「ちなみに夢の内容は覚えていますか?」

「内容は覚えてるんだけど一番大事なところを覚えてない」

「あら……やはり幸さんはスケベですね」

「仕方ないだろ、俺だって男なんだよ」

「ふふふ、もう一度見せてあげるようなことはしませんよ?」

「なんだよ!」

 見せてくれないのかよ!!

 そしたらしっかり覚えて起きるのに!

「誰が一番うれしかったですか?」

「言えるか!!」

 誰であっても悪い気はしないけど!!

「ちなみに寝ている幸さんの顔を見ていましたが、多々良さんが出てきた辺りで笑っていましたよ」

「気持ち悪いなお前!!」 

 人の寝顔を観察してんじゃねえよ!

「大丈夫です、幸さんが多々良さんのことを大好きなのは知っていますから」

「うるせえよ」

 こいつ夢ののぞき見までできるのかよ。

 てか最後の方に自分が突撃してきたじゃねえか。

 やっぱこいつ痴女か?

「ちなみに俺がウズメに頼んだら好きな夢を見せてもらえるのか?」

「できないこともないですが、夢から戻ってきたくなくなる可能性があるのでそれはしません。夢は夢ですから」

「あっそ」

 ダメでした。

「ちなみに俺の夢に干渉してきたのは今回が初めてなのか?」

「そうですね」

 よかった。

 今までに見たそういう系の夢が全部コイツの仕業だったら悲しくなるところだった。


 学校の臨時休校3日目。

 さすがに暇だ。

 今日に限って多々良も姫川も、佐々木たちも来ないし。

 雪がまだ続いてるから仕方ないのかもしれないけど。

 昨日よりも寒い気がするぞ。

『幸ー!起きてるー?』

 下の階から母さんの声が聞こえる。

 部屋に入ってこないで呼ぶということは、きっとめんどくさいことだろう。

「なにー?」

『このままだと車出せなくなるから雪かきしてもらっていーい?』

 雪かき……とな。

 冬の時期のめんどくさいイベントじゃないか。

 なんでこのクソ寒い中外に出て雪かきをしなきゃならないんだ。

 とりあえず下へ向かう。

「母さんもやるの?」

「腰痛くしちゃう」

「……仕方ないね、じゃあやってくるよ」

 というか昨日の予報だと今日は雪降らないって言ってた気がするんだけど。

 やっぱり天気予報はあてにならないな。

 一度着替えて雪かきの用意をする。

 そして、となりの部屋で寝ているウズメを叩き起こす。

「ウズメ起きろ」

「あら、おはようございます幸さん」

「もう昼なんだよね」

「朝ご飯を作るために起きていたんですが、そのあとまた寝てしまいました」

「……まあいいや、雪かき手伝ってくれる?」

「雪かきですか、大変そうですね」

「うん大変なの。だから手伝ってくれる?」

「分かりました、ちょっと待っててくださいね」

 ウズメが服を脱いで着替え始める。

 俺が部屋を出てから着替えてくれませんかね。

 ガードが堅いんだかゆるゆるなんだかよくわからねえな。

「じゃあ母さん、やってくるから」

「ありがとね。終わったらお昼ごはんがあるからね」


「幸さん!これは腰が痛くなる人が多いのもうなずけますね!」

「そうだね!!」

 寝てる間にそんなに降ってたのかってくらい雪が積もっている。

「明日は腰痛で寝てるかもしれません!」

「おばあちゃんか!!」

「失礼ですね!私はまだまだ現役です!」

 神さまに現役とかあるんだろうか。

「あら幸ちゃん!雪かきかい?えらいねえ!」

 あら近所のおばさんじゃないですか。

「こんにちは!車が出られなくなるって母さんに言われたので!」

「がんばってねえ!あたしは家でお汁粉でも飲んでるよー!」

 スコップを担いで帰って行くおばさん。

 お汁粉か、いいなあ。

 ……あれ?

「あの人、ウズメに気付いてなかったよね?」

「今ちょっとしゃがんでいたので見えなかったのかもしれません」

「何してんの?」

「寒かったんです」

「カイロとか持ってないの?」

「持ってないですね」

 ……仕方ない。

「ウズメ、これ使え」

「え?」

 コートの両方のポケットに入っていたカイロを一つ渡す。

「あら、あったかいですね」

「防寒くらいしっかりしとけ」

「ふふ、ありがとうございます。幸さんはやっぱり優しいですね」

 そりゃ寒いって言われたら……。

「てか、半分分けたせいで俺が寒くなるんだから、とっとと終わらせるぞ」

「ふふ、分かりました」

 そうは言ったものの、やっぱり雪の量が多かった。

 結局、雪かきが終わったのはそれから一時間半以上経った後だった。

「母さん、雪かき終わったよ」

「ありがとう!寒かったでしょ?生姜とネギの味噌汁用意してるからねー」

 そりゃ温まりそうだ。

「幸さんと一緒にお昼ご飯を食べるのは珍しいですね」

「確かに」

 平日は学校に行ってるから仕方ないけど、休日はこいつ家にいないんだよなあ。

 なにしてるんだろ。

「休みの日って何してんの?」

「基本的にはアマテラスさんと一緒にいますよ」

「なるほどね?」

「お仕事のお手伝いをさせてもらってます」

「仕事してんの!?」

 初耳なんだけど!?

「お手伝いですけどね」

「前に仕事を辞めるって言ってなかったっけ」

「私が手伝うと言ったらそのまま続けることにしたそうです」

 人手が足りなかったんだろうか。

「俺らが学校行ってる間は?」

「お母様かアマテラスさんのお手伝いをしてますね」

「手伝ってばっかじゃね?」

 こいつこんなに働き者だったっけ。

「今日はいいのか?」

「ええ、今日はお休みです」

「なんか、雪かき手伝わせてごめんな」

 正直普段から何もしてないと思ってた。

 考えを改めよう。

「このお味噌汁おいしいですね!」

「うまいなあ」

「あったまるでしょ。寒いからねえ」

 母さんの心遣いに感謝だ。

 いいね、生姜とネギの味噌汁。

「私にも後でこのお味噌汁の作り方を教えてください」

「ああ、あれは簡単だよ。ねぎをみじん切りにして生姜をすりおろしたらかつおぶしと混ぜればいいだけだから」

「分かりました!」

 ウズメもどんどん家庭的になっていくなあ……。

 これ、むしろ俺が何もしてないんじゃ。

「どうせなら幸さんも一緒にご飯を作りませんか?」

 一緒にか……。

 確かにやってもいいかもしれないな……。

「じゃあ、やろうかな」

「幸も入ったらキッチンが狭くなっちゃうよ」

「なるほど」

 ダメじゃん。

「それではお母様が休まれてはいかがですか?私が幸さんに料理を教えます」

「それはダメ」

 母さんがきっぱりと断った。

「だ、ダメですか?」

「ウズメさんごめんね?でも台所は私の仕事場だから、それだけは譲れない」

「な、なるほど、分かりました」

 自分の役割を奪われたくないということか。

「ウズメさんは最近頑張ってるしさ、たまには休んでくれていいからね?幸が料理したいって言うんなら私が教えるから」

「そうですか……」

 ちょっと不服そうなウズメ。

「ウズメ?」

「あ、いえ……ここに住まわせていただいて本当に感謝しているので、何かお役に立てるようにと思ったのですが……」

「ウズメさん、そこまで気にしなくていいんだよ?」

「そ、そうですか?」

「だって私今でもすっごい感謝してるもん。これ以上は求められないし、これまで通り一緒にいてくれれば、私はそれでいいと思うんだよね」

「お母様……」

「幸は?」

 なんでこっちに聞いてくるんだよ。

「幸さん……」

 ちょっと心配そうな目でこっちを見るんじゃない。

 ……まあ。

「母さんがこう言ってるならいいんじゃない?」

「素直にこのまま家にいてほしいって言えばいいのに」

「幸さんはかわいいですね!」

「ふざけんじゃねえ!」

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