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第43話 勉強しました

「何かするの?」

「何もすることないから寝ようかなって思ってたところだったんだよ」

「……じゃあ、うちと一緒に」

「寝ない」

「……むう」

 姫川の表情が若干変わる。

「佐倉」

「なんだ?」

「……えい」

 姫川が後ろからくっついてきた。

 腕でロックされているのと、羽で全方向の視界が覆われている。

「姫川さん?」

「まだ寒い」

「めっちゃ温かくない?」

「……まだ」

 十分温かいような気がするのは俺だけだろうか。

「佐倉、あったかい」

「姫川の方が温かいと思うけどね?」

「……お互いの身体で温めあう、の」

「変な言い方はやめようか」

 拘束を解いて姫川から脱出する。

「逃げられた」

「周りが全く見えないからね」

「……むう」

 姫川が黙ってしまった。

 さて、どうしたもんか。

 やることないしなあ。

 一応勉強でもしとくか……。

「……あつくなってきた」

 姫川がそんなことを言って、上を脱ぎ始めた。

「お、おい」

「……別に気にしない」

 そういって上がキャミソールだけになる姫川。

 この部屋そんなに暑くないだろ。

 と、もう一つ気になったことが。

「姫川さん?」

「なに」

「……下着は?」

 キャミソールの下にあってもいいものが無いように見えるんだけど……。

「……多々良ならともかく、うちにそんなものは必要ない」

「必要あるから!!」

 なんでノーブラなんだよコイツ!!

「さすがにもう一枚上に着て」

「えー」

「それがこの部屋にいる条件です」

「……それなら、仕方ない」

 しぶしぶ上にシャツを着る姫川。

 途中何かが見えたような気がしたがおそらく気のせいだろう。

「別にうちは佐倉に見られても気にしないけど」

「俺が気にするんだよ」

「もし佐倉が襲い掛かってきてくれたら嬉しいし」

「帰ってくれ」

「冗談」

 姫川が言うと冗談なのか本気なのか分からないんだよなあ……。

「なんにせよ、佐倉と一緒にいるのは楽しい」

「俺も嫌なわけじゃないんだけどね?」

「じゃあ、一緒に寝る」

「寝ません」

「うちが佐倉を抱き枕にする」

「……」

 この前のことを思い出してしまった。

 俺が姫川に抱き枕にされた時のこと。

 心臓の音がうるさかった気がする。

「佐倉、顔が赤い」

「な、何でもないです」

「この前は、佐倉の顔をわざとうちの胸に当ててた」

「確信犯かよ!!」

「これでも喜んでくれるかなって」

「びっくりするからやめてほしいのが本音なんだ」

「……それはびっくり」

 なんでだよ。


「佐倉」

「なんだ?」

「宿題をしよう」

 姫川がカバンから宿題のプリントを取り出した。

「宿題は……」

「なるほど、昨日のうちに多々良とやったのね」

「そ、そうだな」

「……じゃあ、隣に来て、教えて」

 姫川がちゃぶ台の前に座る。

「座布団使うか?」

「ありがとう」

 姫川の隣に座り、宿題を見ていく。

 まあ姫川も頭がいいわけではないから、ちょいちょい間違えているところが……。

 俺も指摘できるほど頭よくないけど。

「もっと近寄ってもいいよ」

「近寄らないかな」

「むう」

 一応姫川の宿題を監視しているが、ちょこちょこ間違えている以外はだらける様子もない。

 家では結構真面目なのかもしれない。

「佐倉、ここ分からないんだけど」

「これはなあ……答えは分かるんだけど説明できないんだよなあ……」

「我らが倉持に聞かないと」

「それが一番いいよなあ」

 どうせ今日も休みなんだし、倉持もおそらく暇していることだろう。

「通話しながら教えてもらおうか」

「それいい、電話する」

 姫川がラインを起動し、倉持に電話をかける。

 倉持はすぐに出てくれた。

『にゃんだ、今度は姫川か』

「……今度は?」

『ああ、さっき秋川と佐々木がかけてきたんだ』

 秋川と佐々木か。

 あいつら今一緒にいるんだな。

「内容は?」

『宿題で分からないところを教えてくれってにゃ』

 俺らと同じじゃん。

「うちも同じ」

「俺にも頼む」

『あれ、佐倉もいるのか』

 倉持の声が若干驚いたものになる。

「ああ、姫川が突撃してきてな。いま俺の家にいるんだよ」

『そうにゃのか。それで一緒に宿題をやっていたと』

「暇だし、せっかくだから」

「まあ俺は昨日多々良とやっちゃったんだけど、分からないところがあったからさ」

『いいぞ、どこが分からにゃいんだ?』

「まずは……」


『もうにゃいか?』

「大丈夫。ありがとう倉持、これで提出できる」

「倉持ありがとな!」

『いいぞ。テストもしっかりにゃ』

「善処する」

『……赤点だとクリスマス補習ににゃるぞ』

「それは困る。佐倉は大丈夫そう?」

「まあ……赤点は取らない……と思う」

 多分。

『じゃあ僕はこれで切るぞ、休みににゃったからバイトの時間を早めてもらったんだ』

「分かった」

「おう、頑張れよ」

『ああ、またにゃ』

 テキストを閉じ、姫川が俺のベッドにダイブする。

 その衝撃で、ベッドに羽が散らばる。

「掃除しないと……」

「うちの香りに包まれて寝るがよろし」

「羽ってそんなに匂いするのか……?」

 一つ手に取って匂いを嗅いでみる。

 ……なんだろうこの匂い。

 獣の匂い……?

「……羽には、水をはじくように薄く油脂で覆われていまして」

「そういうことね」

「くさいとか思ったでしょ」

「いや別にそうは言ってないけど」

「本当?」

「ああ、本当」

「……じゃあ、一緒に寝よう」

「なんでそうなるんだ」


「よし、宿題全部終わり」

「おう」

 結構時間がかかってしまったため途中で監視役に飽きてしまった。

「というわけでうちにかまって」

 多々良から借りて読んでいたグラウンド・ゼノを取り上げられてしまった。

「かまうったって何をするんだよ」

「外行こうよ」

「外見てから言おうね?」

 外の雪は、姫川が来た時よりも強くなっている。

 地球温暖化だか何だかで地球が温かくなっているとかはよく聞くが、ここ数年はむしろ冬の寒さが厳しくなっている。

 やっぱり異常気象ってやつなのかな。

「これはさすがに出れないな……帰れるかな」

「さすがにこんな雪がずっと降ってるわけじゃないと思うけど……」

「もしダメだったら今日は佐倉の家に泊まる」

「マジか」

 昨日は多々良が泊まって、今日は姫川が泊まるってか?

 なんかすげえプレイボーイみたいな感じじゃん。

「まあ、雪は夜までに止むみたいだけど」

 姫川がスマホを見せてくる。

 天気予報には夜は曇りと書いてあった。

「さて、佐倉の何もない部屋で外にも出れない中うちと佐倉がすることとは……」

 そういってじっと見つめてくる姫川。

 なんだなんだ。

「……寒い中、お互いの身体を温め合う行為を」

「お前そういう話本当に好きだね!?」

 隙あらば下ネタを挟んでくるな!?

「佐倉だって興味がないわけじゃないでしょ?男同士で話してるわけだし」

「まあ……」

「女性がまったくそういうことを考えないとは思わない方がいい」

「姫川を見てそんなことを思うわけないと思うんだけど」

「じゃあ、うちはいい例だね」

 問題はそのネタを普通にぶっ放してくることなんだけどな。

「処女の戯言だと思って聞き流してくれればいいよ」

「聞き流すのね、はいはい」

「女の子からそういうネタを振られることに耐性がない佐倉のことだから難しいかもしれないけど」

「うっせ」

 下ネタを普通に振ってくる女の子が少ないだけだろ。

 多々良とかツクヨミはそういうこと言わないし……あ、アマテラスが振ってくるか。

「てか、あんまりそういう話ばっかりしてると簡単にやれそうとか思われるぞ?」

「言うのは佐倉たちだけだから安心して」

「安心って……」

 実際俺たちだってどうなるか分からない。

 発情の度合いが非常に強い佐々木とか。

 頭の中が意外とスケベな秋川とか。

 倉持は……ないな。

「そういうことはないと思ってるから言ってるだけだから」

「本当にそう思う?」

「えっ?」

 隣に座っている姫川を、俺はおもむろに押し倒した。

 右手の手首をつかみ、顔を近づける。

「姫川がそういうことはないって思ってても、相手はそうじゃないかもしれないぞ?」

「さ、佐倉?」

 姫川の目から若干動揺が見て取れる。

 普段は鷲特有の鋭い目が、今は丸く見開かれている。

 驚いているせいか、姫川からの抵抗はない。

 身体に触ることなんてできないが、もう一押ししてみよう。

「姫川がどう思ってるか知らないけどさ、俺だって男だぞ……?」

「あ……」

 姫川が若干身をよじるが、全然力が入っていない。

 なるほど、押されると弱いタイプか。

「……」

「……」

 お互い、無言で見つめ合う。

 ……さて、ここからどうしたものか。

 一回驚かせようと思って姫川を押し倒したのはいいものの、そこから何をするかは全く決めていなかった。

 そこから先のことをするなんてもってのほかだし、俺に姫川の胸や身体を触るような勇気はない。

 ここで見つめ合ってるだけっていうのもおかしい話だし。

「佐倉」

「なんだ?」

「……うちを驚かせようとしただけでしょ」

「……」

「佐倉の表情、緊張しっぱなし」

「最初から分かってたのかよ……」

 じゃああれは演技だったってことか。

 してやられたな。

「ごめんな、手首痛かっただろ」

 つかんでいた右手首を離す。

 すると、下になっていた姫川にいきなり抱きしめられた。

「なっ!?」

「ふふふ」

 離してもらおうともがくが、姫川の力が意外と強い。

 脚力が強いのは知ってたけど……。

 あ、そうか、腕って鳥からすれば羽みたいなもんだからそれなりに力があるのか!

 前力には自信ないって言ってなかったっけ!?

「うちのこと心配してくれたんでしょ?」

「そういうことじゃないんだけど……」

 本当に驚かせようと思ってただけ。

「それにしても、つかんでた手が震えてた」

「ま、マジか」

「佐倉は、演技苦手だね」

「緊張するんだよ……」

 実際押し倒すのだってかなり緊張した。

「うちなら別に触ってくれていいのに」

「いや、それは……」

「ふふ、でも佐倉のそういうところ好き」

「そろそろ離してくれ」

「ん、仕方ない」

 姫川の拘束から逃れる。

 心臓が早鐘を打っているのが分かる。

 してやられた……。

「お、俺ちょっと勉強しようかな」

「……」

 姫川はベッドに体育座りをしたまま動かない。

 顔が若干赤くなっている。

 もしかしてさっきの結構効いた?

「姫川?」

「……あ、ご自由にどうぞ」

「ここ俺の部屋なんですけど」

「……そうだね」

 こちらに顔を向けようとしない姫川。

 ……やっぱりけっこう効いていた?

「姫川さん?」

 試しに近づいてみる。

「……や」

 若干後ずさる姫川。

 これは……。

「分かった、落ち着くまでそこにいてくれ」

「……ごめんね」

 姫川から距離をとって勉強を始める。

 まあこれでちょっとテストの点数がよくなればいいかな。

 それだったら倉持と一緒にみんなに教えてあげられるかもしれないし。

 姫川は……すげえ、微動だにしない。

 なんかこっちを見ているような気がするけど。

 まあいいや、勉強しよう。


「……」

「……」

 ……姫川の視線がアツい。

 やりすぎた気がする。

 もともと姫川が俺のことを想ってくれているのは知っているんだ。

 俺、良くないことをしてしまったかもしれない……。

 と、その時。

「うおっ」

「わ」

 部屋の真ん中に黒い球体が現れた。

 球体が開き、中からツクヨミが出てくる。

「あれ?綺月(きづき)ちゃんだ!」

「どうも」

 ベッドの上で小さくなっている姫川を発見し笑顔を浮かべるツクヨミ。

「あ、幸くんが勉強してる!」

「お、俺だってたまには勉強するんだよ」

「綺月ちゃんはどうしたの?」

「外にいたら雪がすごかったから避難しに来た」

「なるほどー!ほんとだ、結構雪が降ってるねえ」

 さっきより弱まっている気はするが、依然としてかなり降っている状態だ。

 これじゃ飛ぶのは厳しいだろう。

「帰れないことはないんだけどね、できればもうちょっと止んでからがいいな」

「そうなんだね!」

「佐倉、一緒に勉強しよう」

「おう、いいぞ」

 部屋に3人いる割に、静かな時間が流れる。

 俺と姫川は勉強、ツクヨミは本を読んでいる。

「……そういえば佐倉、テストはできそう?」

「出来なければ学校に補習として拘束されるだけだぜ」

「それは、頑張らないと」

 さすがに拘束されるのは絶対に嫌だし。

 多々良と出かけられなくなってしまうし。

「……あ」

「どうした?」

「うーん……」

 上を向き、何かを考える姫川。

「何かあったのか?」

「そういえば、私の部屋の窓、開けっぱなしだったなって」

「えっ」

 風も吹いていないし、多分雪は部屋に入っていないだろう。

 それでも部屋が寒いことになっているだろう。

「まあ帰ったら閉めて暖房をつければいいか」

「寒いと言えば、秋川は大丈夫かな」

「……ああ」

 基本的には亜人も人間の特徴を大いに受け継いでいるが、中にはそうでないものもいる。

 秋川は若干体温が変わりやすいのだ。

「冷えて固まってなければいいね」

「可能性はなくはないな」

「……お」

 部屋が若干揺れる。

「また地震か」

「昨日はすごかったね」

「ああ、そうな、うおっ!!」

 急に大きな揺れが来た。

 緊急地震速報がないということは、それほど大きくないということだろう。

 震度は4くらいかな。

「びっくりした」

「ああ、ツクヨミは大丈……夫そうだね」

 揺れに気付いたからか、ツクヨミは宙に浮いていた。

「やっぱりしばらく地震に警戒しないといけないみたいだね」

「そうだな……」

 姫川が近くに寄ってきた。

「な、なんだ?」

「いや、怖かったなって」

「……本当に?」

 びっくりしたって言いながらそう驚いてもいなさそうだったけど。

 すると、ツクヨミも近づいてきた。

「ツクヨミさん?」

「わ、私も昨日怖かったし……」

「今関係なくない?」

 なんで両側からすり寄られているんですかね。

「姫川、勉強しない?」

「……そうだね」

 と、その時。

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 階下からは不協和音が聞こえてくる。

「やばい!!」

「っ!」

 緊急地震速報だ。

 ツクヨミがまた空中に浮かび上がる。

 俺と姫川は机の下に隠れた。

 直後、先ほどよりも大きな地震が襲ってきた。

「佐倉……っ」

 姫川がくっついてくる。

 その身体は若干震えている。

「あれ、本当に怖かったんだ?」

「……まあ」

 それは知らなかった。

 昨日ほどの長さの揺れではなく、大きな揺れはすぐに収まった。

 ラインを起動し、多々良に電話をかける。

「多々良、大丈夫か?」

『ユキちゃん!今おかーさんと一緒にいる!』

「それならよかった。けがとかしてないよな?」

『大丈夫!ありがとね!』

 多々良の安全確認が取れたので電話を切る。

「多々良が心配?」

 耳元で姫川がそんなことを言ってきた。

「そりゃ心配になるよ。あともう離れてね?」

「……むう」

 左右にくっついていた姫川とツクヨミが離れる。

 テレビをつけると、やっていたであろう番組がニュース速報に切り替わっていた。

 千葉県で震度5強、結構大きかったみたいだ。

 こっちは震度5弱か。

 昨日震度5強を体験してこれだからなあ。

 じつはまだこの地震は序の口だった、とかそういうのはやめてくれよ?

「幸くん、私ちょっと外が心配だから行ってくるね」

 ツクヨミが窓を開けた。

「大丈夫なのか?」

「うん、私は大丈夫。でも雪も降ってるし昨日よりも混乱しちゃうかも」

「そうか、じゃあ頑張ってな」

「うん、またね」

 ツクヨミが窓から飛び去って行く。

「……神さまは大変だね」

「まあ、ツクヨミは優しいしな」

「そっか」

 姫川が外を見つめる。

「雪、夜まで止まなかったらどうしよう」

「さっき泊まるって言ってなかったっけ?」

「迷惑でしょ」

「いや、別に離れて寝てくれれば問題はないよ?」

「……なるほど」

 どうせ寝てる間にこっちに来るんだろうけど。

「それか、多々良の家に泊めてもらおうかな」

「俺としてはそうしてくれた方がありがたいな」

 もちろんいきなり行くことになるから花丸家に迷惑をかけることになるけど。

「実際にはもうちょっと止んでくれれば飛べないわけではないんだけどさ」

「怪我されても困る」

「そういうとこ、佐倉は優しいよね」

「普通だと思うけどな」

「気遣い、大事」

「そうですか」

「アイス食べたい」

「いきなりですね」

 まあ姫川がいきなりなのはいつものことだけど。

「アイスね、今あったかな」

「え、くれるの」

「ちょっと待ってな」

 確か冷凍庫の中にあったような気がしなくもない。

「母さん、冷凍庫の中にアイスってあったっけ」

「うん?まあたぶんあると思うよ?」

「じゃあ2つほど」

「あれ、誰か来てるの?」

「ああ、姫川がちょっとね」

「え、綺月ちゃん?久しぶりじゃない!」

「雪すごいからって避難しに来たんだよ。でアイス食べたいって」

「外寒いのにアイス食べんのね。まあ持っていきな」

「ありがとう」

 冷凍庫を開けると雪見だいふくが10パックも入っていた。

「なんでこんなに雪見だいふくがあるんだい?」

「あー、そういえばお父さんが食べたいって行ってて買ったの忘れてたわ」

「忘れてんのかい」

 と、その時。

 ぴんぽーん

「こんな雪降ってんのに誰だ」

 インターホンのカメラを確認すると、多々良が来ていた。

『ユキちゃーん!あがってもいーい?』

「おう、ちょっと待ってなー」

「アイス、3つ持ってっていいよ」

「ありがとう」

 母さんは優しいなあ。

「おじゃましまーす」

「何かあったのか?」

「おかーさんの手伝いが終わって暇ににゃったから遊びに来たんだよー」

「なるほどね。今姫川が来てるぞ」

「えっ、綺月が?」

「ああ、雪がすごくてうちに避難しにきたんだ」

「にゃるほど」

 

「綺月ー!元気してるー?」

「あれ、多々良」

「暇ににゃったから遊びに来たの!」

「なるほど」

「綺月はユキちゃんとにゃにしてたの?」

「……エッチなこと」

「に゛ゃっ!?」

 多々良がなかなか聞かないような変な声を出した。

「アツくなっちゃったから、一緒にアイスを食べようって」

「ゆ、ユキちゃん?」

「俺がそんなことする勇気あると思う?」

「……にゃいね」

「佐倉、さっきうちのこと押し倒したのに」

「ヴェッ!?」

「ユキちゃん!?ちょっと来て!!」

 多々良に引っ張られ廊下まで連れ出される。

「どどどっ、どういうこと!?」

「説明する!だからいったん落ち着いてくれ!!」

 多々良さんの顔が怖い。

 毛が逆立っているのが分かる。

「い、いいか?」

「聞こうじゃにゃいの」

「ほ、ほら、姫川さんってばよくそういうネタを振ってくるじゃないですか」

「そうだね?」

「あんまりに言ってくるもんだからちょっと驚かせてやろうと思ってさ、こ、この前の多々良みたいに?」

「……!」

 この前のことを思い出したのか、多々良の顔が赤くなった。

「だからって!そういうことをするのはよくにゃいと思うんだ!!」

「軽率だった!申し訳ない!」

「もう!」

 ジャンプしたと同時に顔をしっぽではたかれた。

 痛くないのが救いだ。

「まあ理由が分かったしいいよ。綺月は本気にしかねないからやめてよね」

「分かりました」

 部屋の中に入ると、姫川はすでにアイスに手を出していた。

「……誤解は解けた?」

「わざと言ったんだね!!!」

 多々良が姫川に襲い掛かる。

「多々良がびっくりすると思って」

「ユキちゃんが!そういうことをする勇気がにゃいのは!!分かってたけど!!!」

 ……いや、ないよ?

 ないんだけどさ?

 そういわれると……ね?

「ほら、多々良もアイス食べようよ」

「……むう」

「佐倉も立ってないで、溶けちゃう」

「あっ、はい」

 3人でアイスを食べていたら、なんだかうやむやになってしまった。

「ちなみにさっき、佐倉に抱き着いた」

「……にゃんで?」

「地震、怖かった」

「あー……」

 多々良が微妙な表情をする。

 昨日は抱き着くだけじゃすまなかったもんね。

 人のこと言えませんわな。

「昨日の地震は気付かにゃかったの?」

「昨日は飛んでた」

「にゃるほど」

 そりゃ飛んでたら気付かないよな。

「あれ、多々良ちゃんも来てたんだ?」

 用を終えたのか、ツクヨミが窓から入ってきた。

「ツクヨミちゃん!」

「おう、大丈夫だったのか?」

「うん!昨日のこともあったし意外と混乱もしてなかったよ!」

「それならよかった」

 窓を閉めて座ろうとしたその時、部屋のドアがノックされた。

『幸さん、入りますね。』

 返事を待たず、ウズメが入ってきた。

「あ、ウズメ!」

「あらツクヨミさん、こんにちは」

 ツクヨミの顔を見て笑顔を浮かべるウズメ。

 そして俺の部屋に多々良、姫川、ツクヨミがいる状況を見て一言。

「ハーレムですね」

「ふざけんじゃねえ」

「そ、そんにゃつもりにゃいよ!?」

「……ハーレム」

「う、ウズメ!?何言ってんの!?」

 反応はそれぞれだったが、唯一ツクヨミだけが顔を赤くした。

「私も混ざりましょうか」

「部屋が人でいっぱいなんだけど」

「にゃに言ってんのユキちゃん、今この部屋に人間はユキちゃんしかいにゃいよ」

 多々良と姫川は亜人、ウズメとツクヨミは神さま。

 確かに人間は俺だけだな?

「いやそうじゃねえから!ウズメとツクヨミはともかく多々良と姫川は人に分類されるだろ!?」

「確かに、うちも人」

「わ、私も姿形としては人だよ!」

 まあ、一応見た目は全員人なんだよなあ。

「というかね、狭い」

 さすがに俺の部屋に5人はね?

 まあ最高は6人だけど……。

「あ、そうでした。ツクヨミさん、これからアマテラスさんのところに行きますよ!」

「え、姉さんのところ?」

「ええ、ちょっと3人で話したいことがあるらしいんですよ」

「そうなんだね、分かった!」

「それでは幸さん、ちょっと行ってきますね」

「おう、行ってらっしゃい」

 ウズメとツクヨミが部屋から出ていった。

「ユキちゃん、狭くにゃくにゃったよ」

「邪魔者みたいな感じになってるじゃんか」

「そんにゃつもりじゃにゃいけど」

「これからどうする?」

「え、これから?」

「宿題も終わったし、やることないなって」

「あー、確かにそうだな」

「佐倉はうちらと何したい?」

「何したいって言ってもなあ」

 姫川も多々良もいるんだしどうせなら佐々木たちも呼びたいところだ。

 まあ俺の部屋にはそんな大人数は入らないけど。

「ユキちゃんの部屋って遊べるようにゃものがにゃいんだよね」

「確かに、殺風景」

「なんとでもいえ」

 趣味と呼べるようなものがないんだよ。

「テレビはあるけどゲームにゃいもんね」

「アニメを録画してるわけでもないし」

「アニメの録画くらいしてるぞ?」

「アクアリオだけでしょー?」

 その通りでございますが。

「今ってにゃにやってるの?」

「ポチー」

 多々良の問いに、姫川が勝手に応える。

 テレビに映し出されたのは、街頭インタビューだった。

『現在、渋谷では大雪に見舞われております!』

 渋谷じゃなくても大雪だよ。

 家の前の道路とか真っ白だぞ。

『それでは、道行くカップルにお話を聞いてみましょう!』

 アナウンサーのお姉さんがカップルに突撃していく。

『すみませーん、この雪の中デートですか?』

『あ、はい。仕事の休みがやっと合ったので』

『雪に見舞われて大変ではないですか?』

『そうですね……でも、恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです』

「「「ブフッ!!」」」

 突如男性が発したキザなセリフに俺たち全員が吹き出した。

「ちょっ……にゃに今の……ふっふ」

 多々良は口を押えながらプルプル震えている。

「ふ……ふふっ……ふふ」

 姫川は下を向いてプルプル震えている。

 そしてそんな男性の隣にいた女性も恥ずかしかったのか両手で顔を覆って下を向いていた。

 もし今のをスクショしてる人がいようものならツイッターでトレンドに上がるだろう。

 すごいことを平気で言い放つ人もいるもんだな。

「佐倉」

 そして、姫川が俺の腕をガシッと掴んできた。

「な、なんです?」

「いまからうちと出かけよう」

「なんで!?」

「うちにも同じようなことを言ってほしい」

「言わねえよ!?」

「ゆ、ユキちゃんがそんにゃこと言えるわけにゃいじゃん!」

 多々良、もうちょっとましなフォローしてくれないかな。

「というか普通に出かけたい」

「外見てくれないかな」

 いまだに雪は弱まる気配がない。

 さすがにこんな状況で外には出たくない。

 特に鳥人はね、羽が雪まみれになるし。

「ユキちゃん、多々良にゃらいい?」

「外見てくれる?」

 多々良だからいいとかそういうことじゃねえんだよ。

「というか何?2人して俺のことデートに誘うって何さ?お、俺のこと大好きですか?」

「顔赤くにゃるくらいにゃら言わにゃい方がいいんじゃにゃいかにゃ」

「にゃんにゃん言い過ぎでは」

「仕方にゃいじゃん!!」

「でも佐倉、本当に顔赤いね」

「……」

 言うの緊張した……。

「まあ、うちは佐倉のそういうところ好き」

「ぐっ……」

 ああそうだ、姫川は直球で言ってくるんだよ。

「多々良はどうなの?」

「え、えっ!?」

 姫川の言葉に、多々良が驚く。

「多々良は、佐倉のこと好きじゃないの?」

「き、綺月!?」

 今度は多々良が顔を赤くして慌てる。

「好きじゃないの?」

「あ、あぇ……嫌いじゃにゃいけど……」

 顔を真っ赤にした多々良が布団の中に隠れる。

「ねぇ、佐倉」

 姫川が耳元まで近づき、小さな声で囁いてくる。

「多々良のかわいい反応が見れてよかったね?」

「……ぐ」

 姫川が読めない。

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