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第42話 揺れました

「……」

「……」

 部屋にはノートの上をペンが走る小さな音が絶えず聞こえている。

 俺も今日はそれなりに勉強を頑張っているはずだが、さすがに絶えずというのは難しい。

 そのペンの音は、目の前の女の子から鳴っている。

「た、多々良?」

「……」

 多々良は呼びかけに応じない。

 そもそも俺たちは勉強をすること自体が珍しい。

 だというのにこの多々良の様子。

 今までのことを考えると、明日は雪が降るんじゃないだろうか。

 季節的には、いくら雪が降ってもおかしくないんだけど。

「多々良ー?」

「……」

 それにしても多々良のこの集中力、すごい。

 それとも、意図的に無視されているんだろうか。

 まあ勉強中って邪魔しちゃ悪いのは分かってるけど。

 たださすがに様子がいつもと違いすぎる。

「多々良ー」

「にゃっ!?」

 顔を寄せて正面から名前を読んだだけなのに、大層驚かれてしまった。

 多々良のしっぽと耳がピンと立つ。

 あれ、そんなつもりじゃなかったんだけどな。

「にゃ、にゃに?」

「多々良、体調悪い?」

「え、にゃんで?」

 一応聞いてみたけど、どうやら違うらしい。 

 まあ体調悪そうには見えなかったしな。

「なんかいつもと様子が違うからさ」

「そ、そうかにゃ?」

「ああ、そもそも俺たちが勉強って時点でいつもとだいぶ違うと思うよ?」

「まあ確かに……さすがに成績をこれ以上悪くしたくにゃいってのもあるけどね」

「そうなのか」

 まあ多々良の母さん怖いからな。

 そう考えると今までの成績で何も言われてこなかったのかが心配だけど。

 俺も多々良も、成績は下から数えた方が絶対に早いからな。

「あと、こうやってユキちゃんと2人っていうのもにゃんか久しぶりだし……ね?」

「割といつもうちにいるような気はするんだよな」

「いやほら、ツクヨミちゃんとかウズメさんとかいるじゃん」

「なるほど?」

 確かに純粋に多々良と2人きりっていうのも久しぶりな気がする。

「にゃんだろうね、たたら自分でもどうしたいのかよく分からにゃくてね」

「うん?」

「にゃんか最近、ユキちゃんと誰かが……っ!!」

 多々良が何かを言いかけた途端、多々良の表情が強張った。

 ただ今のは俺も分かった。

「ユキちゃん!!」

「分かってる!!」

 多々良の表情が変わった途端、ごく小さな揺れを感じた。

 よく言う初期微動とかいうやつだろう。

 行動を起こそうとした瞬間、ケータイからサイレンが鳴った。

「多々良、来い!」

「う、うん!」

 先に机の下に隠れ、飛び込んできた多々良の身体を抱きとめる。

 地震を怖がっていたから、俺がそばにいてあげないと。

 直後、強い揺れが俺たちを襲った。

 それは今朝の地震よりも大きかった。

「だ、大丈夫か!?」

「フーッ!フーッ!」

 多々良の呼吸が荒い。

 緊張している証拠だ。

 激しい揺れで、机の上からケースに入ったアメジストの結晶が落ちてきた。

「あ゛ーっ!!」

 もし割れていたら結構ショックが大きい。

 ケースに入ってるから何とも言えないけど。

 外でもサイレンが鳴っている。

 1分ほどして、揺れはまた収まった。

「大丈夫だったか?」

「まあその……ちょっと怖かったかにゃ」

 と言いつつ多々良が俺のそばから離れようとしない。

「よーしよし」

 多々良の頭を撫で、また胡坐をかいてそこに座らせる。

 さっきと違うのは、多々良がこっちを向いていることだ。

「俺がいてやるから大丈夫だぞー」

「にゃんか頼りにゃさそう」

「なんだとコラ」

 とは言っているものの、多々良は俺にしがみついている。

 なんかセミみたいだ。

「きょ、今日……やっぱり泊まってもいい?」

「じゃあ多々良の母さんに連絡だな」

「……うん」


 多々良が電話を終えたらしく部屋に戻ってきた。

「勉強続けるか?」

「ん~……だいぶやったし、今日はもういいかにゃあって」

「まあそうだな。地震に邪魔されたけど、結構やったよな」

「そういえば、結局ウズメさんは帰ってこにゃかったね」

「あ、ほんとだ」

 すっかり忘れていた。

 アマテラスの家に行ってるんだっけ。

 じゃあ今日はウズメも泊まりかな?

「ユキちゃんの家に泊まるのはいいけど、ユキちゃんの部屋ってあんまり物置いてにゃいよね」

「まあ多々良から借りた漫画くらいだよな」

「普段夜とかどうやって過ごしてるんだっけ」

「多々良と話してるかウズメと話してるかツクヨミと話してるかしてるんじゃない?」

(はにゃ)してばっかだね……」

 一人でいるときは……あれ、最近夜一人でいた記憶がないな。

 あと夜といえばたまに姫川が突撃してくるし。

「そういえばユキちゃんの部屋ってエッチにゃ本にゃいの?」

「な、ないよ?」

 そういえばアマテラスに探されてから存在をすっかり忘れていた。

 つまり、クローゼットに隠してあるままだ。

 多々良に見つかるとさすがにやばいな……。

 いや、待てよ。

 今日は多々良が俺の家に泊まる。

 そして俺が隠し持っているのは猫人特集の男の聖なる教科書(セイント・バイブル)だ。

 それを多々良が見たら……。

『も、もー、ユキちゃんったらこんにゃの見てるんだね、仕方にゃいねー』

『そ、そんにゃに見たいにゃら、たっ、たたらに言ってくれれば……』

『ゆ、ユキちゃん……その、優しくしてね?』

 ―――ワンチャンあるっ!?

「せいっ!!!」

「ぐおっほぉ!!」

 多々良の頭が俺の腹に直撃した。

 身長差を生かした頭突きですか……。

「ユキちゃん、正直に今にゃに考えてたか教えて?」

「……」

「ユキちゃん?」

「……」

「教えてくれにゃいのかにゃあ?」

 笑顔のまま言う多々良さん。

 怖い、怖いです。

「まあどーせエッチにゃこと考えてたんでしょ」

「……考えてました」

 俺の頭の中の妄想が勝手にいろいろ言い始めたんです、許して。

「まあさっきの反応でユキちゃんがこの部屋にエッチにゃ本を隠し持っていることが分かったよ」

「い、いや、ないよ?」

「大体見当つくんだけど探していい?」

「ど、どこにあるというのかね」

 そ、そんな多々良だって超能力者とかそういうわけじゃないんだからあてられるはず……。

「うーん、クローゼットにあるランドセルの(にゃか)じゃにゃい?」

 超能力者かよ……。

「まあいいや、たたらお風呂入ってくるね」

「い、いってらっしゃい」

「覗いちゃダメだからね?」

 そういって多々良が風呂に向かう。

 これはいわゆるフリというやつですか?

 ……とはいえ、風呂は1階。

 そして、1階には母親がいる。

 さすがに覗きを実行する勇気はない。

 なので多々良の後に風呂に入り、さっさと寝床に戻った。

「ふー、さっぱりさっぱり」

「……」

 部屋に戻ると、多々良がベッドの上で体育座りをしていた。

「どうした?」

「……あ、ユキちゃん」

「何かあったのか?」

「うん?(にゃに)もにゃいよ?」

「なんかずいぶん寂しそうな気がしたけど」

「寂しそう……うん、にゃんかちょっと寂しかったかも」

「大丈夫か?」

「にゃんか心細かったかも」

 そういえば今日は地震を怖がって泊まりになったんだもんな。

 一人にしておくのは間違いだったかもしれない。

「一緒に風呂入るのもよかったかもな」

「さ、さすがにそれは恥ずかしいけど……」

「俺は何かすることあるか?」

「そ、そうだね……」

 多々良が微妙に顔を赤くしてチラチラとこちらを見る。

「俺ができることなら何でもするぞ?」

「……にゃ、にゃんでもするとか、言わにゃいほうがいいよ」

「ん?」

「じゃあ……ちょっとこっち、来て」

 多々良に言われたとおり、そばまで行って腰を下ろす。

「俺は何をすればいい?」

「よいしょっと」

 多々良はそれに答えず、俺の股の間に座った。

「た、多々良さん?」

「あ、あのさっ」

「うん?」

「今だけでいいから、このまま多々良のこと後ろからぎゅってしてて」

 ……Oh。

「い、いいんですか」

「にゃんでもしてくれるんでしょ?」

「お、おう」

 俺の背中に体を預ける多々良を抱きしめる。

 密着している部分から、多々良の体温を感じる。

 やっぱり、俺より温かい。

「い、一緒にテレビでも見ようよ」

「い、いいぞ」

 俺の部屋には小さなテレビが置いてある。

 今何がやっているかは知らないが、まあつけてみよう。

 この部屋のテレビをつけるのも久しぶりな気がする。

『先ほどの地震で……』

「ありゃ、緊急放送になってる」

「にゃー、にゃんもおもしろいのはやってにゃさそうだね」

「まあ、大きい被害がなかったみたいでよかったじゃんか」

「確かにねー。他のチャンネルは?」

 チャンネルを切り替えても、特に面白そうな話はやっていなかった。

「あ、ユキちゃん、たたらこれ見たい」

 多々良が見たいといったのは、いろいろな動物の赤ちゃんの姿を特集している番組だ。

 動物の中には、もちろん人間や亜人の赤ちゃんも映されている。

「いやー、赤ちゃんはかわいいねー」

「そうだなー」

 猫の赤ちゃんが親猫に頑張ってついていこうとする映像。

 頑張って歩く姿が愛らしい。

「あ、竜人族の亜人って赤ちゃんはこんにゃ感じにゃんだね」

「トカゲの血が強いのかな……ウロコがすげえ」

「あ、赤ちゃんがレモン食べようとしてる」

「すげえ顔が来るぞ……」

 赤ちゃんがレモンを口に入れた直後、顔をものすごくひきつらせた。

「やっぱそういう顔ににゃっちゃうよね」

「あれは仕方ないな」

 あんな酸っぱいのを初めて経験したんだから、そんな顔にもなるだろう。

「多々良はレモン好きだっけ?」

「あんまり……酸っぱいのそこまで好きじゃにゃいし……」

「今食べてもあんな顔になるんじゃない?」

「や、やめてよ。ユキちゃんは嫌いにゃものあったっけ?」

「うーん……砂肝、かな?」

「コメントしづらいにゃ……」

 食感がだめなんですよ。

「あ、地震」

 また弱めの地震が来た。

 今日はずっと地震に見舞われてるな。

「もういいよ地震」

「まあでもしばらくは警戒しないとだよな」

「そうにゃんだよねー」

 明日も明後日も休みだけど、逆に警戒心が強くなるかもしれない。

 そんな状態になってしまえば家にいても気が休まらないなんてことになってしまうけど。

「ツクヨミちゃん、頑張ってるかにゃ」

「さっきも大きい地震があったし、混乱を抑えるために頑張ってるんじゃないの?」

「もしかしたらテレビに映ってるかもしれにゃいよ?」

「そんなことあったら面白いけどな」

 一応ニュース番組の方にチャンネルを変えてみる。

『現在渋谷駅では地震による電車の運転見合わせにより帰宅困難者であふれかえっています!』

 テレビに映し出されていたのは、帰宅困難者でハチ公前が大変なことになっている渋谷駅だった。

 若干怒りの叫びも聞こえている。

 そして、それをなだめる銀髪の美少女の姿も。

 ……。

「ユキちゃん」

「ああ……」

「噂をすればって本当にあるよね」

「あるよな……」

 本当にツクヨミがテレビに映っているなんて。

「家にいてよかったねー」

「そうだなー、外にいたら帰ってこれなかったかもな」

「さっきの地震、震度6弱だったんだねー」

「あ、そんなに強かったのか」

「これからもっと強いのが来るかもしれにゃいよー?」

「確かに……」  

 前には震度7が2回も来た地震とかあったもんな。

 しばらく油断はできないな。

津波(つにゃみ)の心配はにゃし」

「関東圏なのにどっから来るんだよ津波」

「……東京湾?」

「やべえだろそれ」

 東京湾から津波とか怖すぎる。

 しばらく首都圏がやばくなりそう。

「あとさ」

「うん?」

「俺、いつまでこうしてればいい?」

 さっきからずっと多々良のことを抱えっぱなし。

 別にいいんだけど、何となく恥ずかしい。

「……たたらがいいって言うまで」

「なるほど」

 ただ多々良の顔も若干赤いのを俺は見逃さない。

 耳も微妙に動いてるし。

「……あ、多々良、耳掃除でもするか?」

「あー……そういえば最近してにゃかったね。お願いしてもいい?」

「ちょっと待ってな」

 綿棒は部屋に置いてあるが、多々良のイヤークリーナーは部屋に置いていないので取ってくるしかない。

 多々良を部屋に一人にしてしまうわけだけども……。

「あっ……」

 急に離れた俺の方へ振り替える多々良。

「すぐ戻ってくるから、な?」

「うん……」

 若干寂しそうにしている。

 そんな多々良さんのためにも、直ぐに戻ってきてやらないとね。


「ほれ、持ってきたぞー」

「遅い!」

「えぇ……」

 1分も経ってないんだけど。

「そんじゃ、やりますか」

「お願い」

 多々良の耳をめくり、綿棒にイヤークリーナーをしみこませる。

「つめたっ」

「ほーれガマンガマン」

 びくっとした多々良の頭を撫でる。

 するとすぐに落ち着いてくれた。

「く、臭くにゃい?」

「気にしなーい」

 誰にでも汚れなんてあるもんだろう。

 それに猫は耳垢溜まりやすいからなー。

 人間ほど耳の通気性がいいわけでもないしな。

「気持ちいいか?」

「にゃ……」

 うん、大丈夫そうだ。

「かゆいところはあるか?」

「もうちょっと奥の方まで……」

「奥ね、動くなよー」

 ちょっとだけ奥に綿棒を押し込む。

 猫の耳は複雑な形をしてるから、あまり奥の方までは入れられない。

「う、うぅ~」

「痛いか?」

「いや~、気持ちいいね」

「そりゃあよかった」

「ユキちゃん、もっと……」

「おう、じゃあ欲しがりさんのために逆の耳もやるからなー」

「はーい」

 多々良が反対を向く。

 最近耳掃除するのを忘れていたせいか、ちょっと汚れ気味だ。

 やっぱり人間よりも耳垢が溜まりやすいんだろう。

「そんじゃ入れるぞー」

「ばっちこい」

「それ」

「にゃまらしゃっこい!!」

 どこから出てきたんだその方言。

 なまら……北海道か?

 ティッシュの上に置いた綿棒を見て、多々良が顔をしかめる。

「色が分からにゃくても(きたにゃ)いのが分かるんだけど……」

「まあ、次から忘れずにちゃんとやらないとな」

「ユキちゃん申し訳にゃい……」

「いいっていいって」

 耳の中で綿棒を回し、多々良の耳をきれいにしていく。

 気持ちいいのか、しっぽがぴくぴく震えているのが面白い。

「あ、多々良耳倒さないで」

「にゃっ、あぁ、ごめんね」

 耳を倒しているということはリラックスしている証ではあるんだけど、耳掃除中にそうなると困る。

「俺が耳を立たせてあげようか?」

「にゃっ!」

 その言葉だけで、多々良の耳が立った。

「フシャー!」

「はいはい、動くと危ないぞ~」

「にゃっ……」

 多々良が大人しくなった。

 素直でかわいいですね。

 まあ言葉だけでもいいけど猫の特徴なのか腹を触るとめちゃくちゃ警戒される。

 耳を立たせるにはそれが一番楽なんだけど。

「じゃ、奥の方掃除したら終わりだからなー」

「うん」


「ユキちゃん、ありがとう!」

「おう、耳はどうだ?」

「にゃんかすーすーする!」

「お、それならよかった」

 多々良が耳をぴくぴく動かす。

「多々良の調子も上がったみたいだな」

「うん?」

「さっきより顔色が明るいぞ」

「えっ、そっかなー」

 若干声の調子も上がっている。

 耳掃除して正解だったな。

「ずーっと地震に警戒してる感じだったからさ。ちょっとは肩の力抜かないと疲れるぞ?」

「えへへ、そうだね」

『それでは、町の人にお話を聞いてみましょう』

 ニュース番組をつけっぱなしだったのを忘れていた。

 どうやら帰宅困難者であふれかえる渋谷で街頭インタビューをするみたいだ。

『ちょっとお話いいですか?』

『え、あ、はい?私ですか?』

「「ぶふっ!」」

 なんと呼び止められたのはツクヨミだった。

「ユキちゃんあれ」

「笑ってやるな」

 多々良が笑いをこらえるようにプルプル震えている。

『いまだに電車も動きませんがどうですか?』

『えっ、そ、そうですね……た、タクシーもすごく並んでいるし、このまま帰れないのはた、大変ですね……』

 マイクを向けられることになれていないんだろう。

 ツクヨミが緊張した様子でインタビューを受けている。

「ツクヨミちゃんって電車とかタクシーに乗らにゃくても」

「言ってやるな」

 多々良は今にも笑い出しそうだ。

「ユキちゃんも笑いたそうにゃ顔してるよ」

「いや、俺は耐えてるから」

「笑ってるって自白してるようにゃもんじゃん!」

 だって面白すぎるでしょこの光景。

「ねえユキちゃん」

「なんだ?」

「そろそろ、寝よっか」

 時計を見ると、すでに11時を回っていた。

 確かに今日は地震だったり勉強だったりでちょっと疲れたかもしれない。

「そうだな、寝るか」

 電気を消すと、多々良が近くに寄ってきた。

「あったかいね」

「多々良の体温じゃないか?」

「そうかにゃ~」

 多々良がベッドの中で丸くなる。

 丸まって寝るのはやっぱり猫の習性なんだろうか。

「こうやって寝るの、持久走大会以来だね」

「割と最近な気もするけどな……」

「小さい頃はよく一緒に寝てたじゃにゃい」

「そうだな」

 昔と比べて、若干緊張するようになった。

 多々良の方は、どうか分からないけど。

「あ……」

 若干、部屋が揺れた。

 また地震だ。

「多々良」

「にゃっ」

 少し揺れが強くなったので多々良を近くに寄せる。

 ……布団の中で抱き合うとか、選択を失敗したかもしれない。

「だ、大丈夫か?」

「うん、ユキちゃんがそばにいたから大丈夫だよ」

「そっか」

 多々良から手を放そうとすると、多々良が手を握ってきた。

「あ、あのさユキちゃん」

「う、うん?」

「……も、もうちょっとだけ、このままで」

 な、なんと。

 布団の中で抱きしめているこの状態。

 多々良さんは継続の意を示すだと。

 い、いいのか?

 でも多々良がこのままって言ってるし……。

「ねえユキちゃん」

「うん?」

「クリスマスのお出かけ、楽しみにしてるからね」

「お、俺も楽しみだよ」

「んふふ、ユキちゃんと久しぶりに一緒にお出かけだもんね」

「そうだな」

「たたらさ……」

「うん?」

 そこで多々良が言葉を止める。

「……やっぱりにゃんでもにゃい」

「気になる」

「い、いいって」

 何を言おうとしていたんだろう。

「ユキちゃんは……えっと、にゃにも言わないでそうしてて」

「え、えー」

「……」

 それきり多々良は何も言ってくれなくなった。

 もうちょっと話していたい気分だったけど、多々良がそうじゃないらしい。

 仕方ないか……。

「じゃあ、お休み」

 目を閉じて眠る準備をする。

 明日も明後日も休みっぽいし、どうしようかなあ。

 ……なんか、多々良が温かいせいかすごく眠くなってきた。

「ありがとう、ユキちゃん。おやすみ」


「大丈夫かなと思って帰って来たけど……大丈夫そうだね」

「……あれ、なんだろ」

「こんなの……初めて」

「私……」


「ん……」

 何かが動く感じがする。

「ん、んー!」

 えーと……?

「ユキちゃん……くるしい」

「ん、ああ……ごめん」

 若干多々良に覆いかぶさる形になっていた。

 昨日の態勢のまま寝てたのか……。

 ってことはずっと……。

「お、おはよう多々良」

「うん、おはようユキちゃん」

「もう、大丈夫か?」

「うん、ユキちゃんのおかげで大丈夫だよ!にゃんかすごい安心しちゃった!」

「そうか、それならよかった」

 多々良がニコニコしながら布団から出る。

「にゃんかお布団温かいから戻りたくにゃってきた……」

「まあ今日は休みだしいいんじゃないか?」

「確かにー!」

 多々良がベッドにダイブする。

「窓拭かないと」

 若干結露ができている。

 カビ生えても困るしな。

「あったかいとまた眠くにゃってきちゃうにゃー」

「おう、おやすみー」

「えー……ユキちゃんはどうするのー?」

「朝飯でも食おうかなー」

「ん~……じゃあ多々良も起きる~」

 若干眠たそうな多々良が俺の背中に飛び乗ってくる。

 ああ、俺がしゃがまなくても多々良は乗っかってくるんだ。

「ユキちゃんれっつごー」

「はいはい、お嬢様」


「あ、幸おはよう」

「おはよう母さん」

「あら~、多々良ちゃんもおはよう」

「おはよーございます!」

「朝ご飯はできてるから食べちゃってねー」

 母さんの用意してくれたご飯を食べる。

 朝から味噌汁飲めるっていいよね。

「あ、幸さん多々良さん、おはようございますー」

 キッチンからウズメが出てきた。

 そういえば昨日はアマテラスのところに行ってたんだっけ。

「お味噌汁、おいしいですか?」

 ……なるほど、ウズメが作ったのか。

「おいしいよー!」

「ありがとうございます」

 多々良の返答にニコニコするウズメ。

 そしてこちらを向く。

「……」

「幸さん?」

「……」

「あの……」

「ん、なに?」

「お味の方は……」

「自信がある人は味の良し悪しは聞かないんだぜ?」

「そうなんですね」

「おいしいから安心していいよ」

「あ、ありがとうございます!」

「ユキちゃんのイジワル」

「なんとでも言え」


「多々良、この後はどうするんだ?」

「うーん、いったん帰る!」

「そっか」

「あんまりユキちゃんちに長居(にゃがい)するのもよくにゃいしねー」

「俺は別に気にしないぞ?」

「あとおかーさんのお手伝いもするから!」

「分かった。じゃあ、いつでもきていいからな」

「ありがとー!」

 多々良が帰ってしまった。

 ……俺としては、もうちょっと一緒にいたい気もしたけど。

『あー!』

 外で多々良が何か声を上げた。

 忘れ物かと思ったけど、そのまま戻ってこない。

 特に何かあったわけでもないのかな?

「昨日は多々良さんがお泊りに来ていたのですね」

「そうそう、一緒に勉強してたんだよ」

「それだけですか?」

「そ……それだけだよ?」

「そうですか」

 特に追及するわけでもなく、ウズメが引き下がる。

 なんだよ。

「幸さん、今日はどうされるのですか?」

「うーん……まあ特にやることもないしなー……」

「私は今日もアマテラスさんとお出かけしてきますね」

「ああそう」

 何をするのか聞かれたからどこかに連れていかれるのかと思ったけど。

 まあいいや、今日はゆっくり過ごすかね。

 休みの日は部屋でごろごろするに限る、ってな。

 よし、そうと決まれば……寝よ。


 ドン!!

「ヴァッ!?」

 せっかく寝ていたのに、急に何かに起こされた。

 なんだ今の音。

 窓を見ると、外に何者かの影が映っている。

 ……俺の部屋は2階。

 その時点で相手は空を飛べる誰かだ。

 そして影で分かる特徴としては、ショートの髪、大きな羽、そして高身長。

 ということは……。

「……来るなら連絡してくれるとありがたいんだけど」

「寒いから入れて」

 姫川さんでした。

 頭を見ると、髪の毛に雪が積もっていた。

「おお、雪が降ってる」

「……そう、佐倉が大量に」

「漢字が違うんだよなあ……」

 とにかく、若干震えている姫川を部屋に入れる。

「大丈夫か?」

「寒い」

「何か飲むか?」

「ココア」

「ちょっと待ってろ」

 姫川のお望み通りココア……と、一応タオルを用意する。

 てかいつの間に雪が……。

 あ、だからさっき多々良が大きな声出してたのか。

「姫川ー、ほれココア」

「ありがとう」

「あと一応頭も拭いとけ」

「……お願い」

「自分で拭けばいいんじゃないですかね……」

「……うちの両手はココアで埋まってる」

 両手でカップをがっしり掴んでいる姫川。

 熱くないんだろうか。

「し、仕方ねーな」

 タオルで姫川の濡れた髪を拭く。

 白いなー……。

「佐倉、今うちのうなじに興奮してる」

「してないよ?」

 言われたのでそちらに目を向ける。

 うん、まあ確かにきれいな首筋だ。

「羽も、お願い」

 ああそうか、こっちもやるのか。

「拭くだけでいいのか?」

「整えてくれるの?」

「やり方は分からないけど」

「羽の方向を整えてくれるだけでいい」

 姫川が羽を開く。

 でかいなー……。

「ココアおいしい」

「そりゃよかった」

 羽を見たところで、全く濡れていないことに気付く。

「羽、濡れてないんだな」

「水をはじく」

「そうなんだ」

 知らなかった。

 手で羽の向きを整えていく。

「佐倉、上手」

「おお、ありがとう。もう寒くなくなったか?」

「……来る前にアイスを食べてたから、まだ寒い」

「何してんだよ」

 なんで雪降ってる中アイスを食べてるんですかね。

「テレビで、雪見ながらアイスを食べてるCMがあったから食べたくなった」

「それはこたつの中で食うもんだ」

 あの大福アイスだろそれ。

「こたつに入ったら、羽が焼き鳥になる」

「そ、そうか」

「こたつは、下半身だけ」

 別に下半身だけでも入れるならそこでアイス食べればいいんじゃ……。

「山の上で食べてたら寒くなったから佐倉の家に来た」

「山にいるんだったら家に帰った方が早かっただろ絶対」

 姫川の家は山の中なんだし。

「……迷惑だった?」

「いや、そういうことじゃないけど」

「じゃあ、いい」

 姫川がココアを飲み干した。

「佐倉、今日は予定あるの?」

「いや、ないよ」

「じゃあ今日はずっと家にいるの?」

「そうだな」

「うちもいていい?」

「ダメって言ったらどうする?」

「……居座る」

「ですよね。別に断る理由もないし、いいよ」

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