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第41話 集中できませんでした

「あそこが私たちの家だよ」

「おぉー……」

 空から見ると、家の大きさがよくわかる。

「でかいな」

「あはは……まああれだけ大きいとちょっと持て余しちゃうんだけどね」

「私たちって言ってたけど、ほかにも誰か住んでるのか?」

「一応私と姉さんとスサノオの家ってことになってるんだけど……スサノオは家にほとんど帰ってこないし、姉さんは下界で暮らしてるから、ほとんど私が一人で使ってるかな」

 あんな大きい家に一人とは、寂しくなりそうだ。

 ちなみにどの位でかいかというと、一軒家が4つか5つ収まりそうなでかさだ。

「ちなみにあっちに見えるちょっと小さい家が、私個人の家だよ」

「別荘か」

「別荘……なのかなあ?」

 ツクヨミは小さい家というが、それでも俺の家と同じくらいの大きさだ。

「ちなみに住所ってのは?」

「うちの住所は、『高天原本神座1丁目15番37号』だよ」

「本格的だ……」

 でも番地とか必要なのかってくらい周りに家がないけど。

 もしかして人間のを真似た結果だろうか。

 あの、外国人が日本の真似をしてちょっとおかしく伝わってるやつみたいな。

 でもこの住所に関しては別におかしくないか。

 詳しくないからわからないけど。

「家の案内は……また今度でいいか。多分スサノオと会うときはこの家だろうし」

「もう帰るのか?」

「そうだね、高天原は明るいけど、あっちは夜だもんね」

「そういえばなんで明るいんだ?もしかして高天原は夜がないのか?」

「実は、日本と高天原は朝と夜が反対なんだ。高天原では今が昼なんだよ」

「へえ……」

 つまり、普段ツクヨミは昼間に寝てると思ってたけど、実際は高天原で夜を過ごしていたということか。

「てことは、日本でも高天原でも夜を過ごしてるということか」

「そうだね。高天原が朝なら日本は夜だからね」

「昼に遊んだりとかは……」

「普段はしないかな。あ、でも幸くんが誘ってくれればいつでも行くよ!」

「お、おう……」

 俺が誘うんですか。

 さっきの様子だとツクヨミからも誘ってくれそうだけど。

「それに、温泉街に行くこともあるからね。高天原の温泉は年中無休だから!」

「へー……」

 ちょっと興味あるかも……。

「じゃあ、今日はいったん戻ろうね。家に送ったら私はそのまま仕事に行くね」

「分かった」

 女の子に家まで送ってもらうってのもアレだけど、この子は神さまだからね。


「じゃあ幸くん、またね!」

「おう、頑張ってな」

「うん」

 ツクヨミが飛び去って行く。

 にしてもすごい体験をした……。

 まさか別世界に行くとは……というか、別世界があったとは。

 次に行くときはもうちょっと探検してみたい。

 そうだそうだ、忘れないうちに家の住所を控えておこう。

 確か、『高天原本神座1丁目15番37号』だっけか。

 あれだけ家が少なくて15番地だとか37号だとか、なんかおかしいかもしれないけど。

「あら幸さん、お勉強ですか?」

「ノックしてきてから入ってきてくれる!?」

 いつの間にかウズメが部屋に入ってきていた。

 ウズメは俺が書いているものを興味深そうに見ている。

「あら、それは……」

「な、なんだ!?」

「知ってはいけないことを知りましたね……」

「えぇっ!?」

 突然声が暗くなったウズメに驚いてそっちを向くと、なぜかウズメが剣を握っていた。

「ちょっ、えっ!?」

 そういえばツクヨミも前剣を握っていたような気がする!

 前に見たアレとは剣のデザインが違うけど。

「幸さん、ごめんなさい」

「いやいやいやいや!!!ちょっと待って!?」

「どうしたのですか?」

「こっ!これはツクヨミが連れて行ってくれたんだ!」

「…………はい?」

「だからっ!ツクヨミが天界に連れて行ってくれたの!この住所もツクヨミが教えてくれたの!」

 そういうと、ウズメの動きが止まった。

 そしてしばらく考えたのち、ウズメが口を開く。

「…………すみません、詳しくお願いします」


「分かってくれた?」

「幸さん、すみません……」

「いやいいんだけどさ……お前攻撃手段ないんじゃなかったの?」

「人間相手でしたら……あれは最終手段ですが」

「めっちゃ怖かったんだけど」

 ウズメの声のトーンと振り上げていた剣のせいで、本気で死ぬかと思った。

 ツクヨミの時は本気じゃないなってのは分かってたんだけど。

「てっきり一人で行ってしまったのかと……」

「いや、人間だけで入ったら門番に止められるんだろ?」

「あら、そこまで知っているんですね?」

「ツクヨミにいろいろ教えてもらったからな」

「そうですねえ、どこまで聞きましたか?」


「なるほどなるほど、スサノオさんが幸さんに会いたがっているんですね」

「そうみたいなんだよ。んで、スサノオとはツクヨミたちの家で会うってことになったから案内してもらったんだ」

「幸さんが天界に忍び込んだわけではなくてよかったです」

「忍び込むかアホ」

「アホって言いましたね!?」

 そもそもあの神社にあんなのがあるの知らなかったし!

 壁に入れるなんて思わないじゃん!

「あと、天界に温泉街があるってのも聞いたよ」

「ああ、あそこですね。私もよく行きますよ!よかったら私と行きませんか?」

「えー」

 ウズメと温泉?

 うーん。

「混浴温泉もあるので一緒に入りましょう!」

 ……ほう。

「ほかの女神さまもいたり?」

「混浴ですからね。いろいろな方が入ってきますよ」

「……ほうほう」

「もちろん、エッチなのはだめですよ」

「へ、変なことなんて考えてないよ?」

「エッチな顔してます」

 くそう。

「ツクヨミも混浴に?」

「ツクヨミさんですか……見たことないですね」

「そ、そっか」

「あ……なるほどなるほど」

「な、なんだよ」

「いいえ?なんでもないですよー?」

「なんかむかつく!」

「もう夜も遅いですし、今日は寝ましょう。幸さん、おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」

 くそう、なんかバカにされた気分だ。


「ユキちゃん、起きてー」

 身体が揺れる。

「……おおう、多々良、おはよう」

「うんおはよう。早くおきがえしちゃってねー」

「ほいほい」

 すでに着替えが用意されている。

 あんたはかーちゃんか。

「ユキちゃん、今日にゃにか予定ある?」

「なんもないよ」

「そっかー」

「どうかしたか?」

「そろそろ期末テストだし、ちょっと勉強しよー」

「あー……」

 そういえばそんな時期だ。

 くそう、期末テストを越えないと多々良とのデートはできないか……。

 早く多々良と一緒に行きたいんだけどなあ……。

 と思っていたその時。

「ユキちゃんっ!!」

 多々良が大きな声を上げた。

「なんだ?」

「机の下に隠れて!早く!!」

 多々良の耳としっぽが立っている。

 緊急事態だ。

 椅子をどけて、机の下に潜り込む。

 すぐに多々良も入ってきた。

 多々良の身体が押し付けられる。

 こっちはパンツ一丁なんだが……まあ緊急事態だ、仕方ない。

 次の瞬間、ケータイからサイレンが鳴った。

 遅れて、外からもサイレンが聞こえる。

 そして、大きな揺れがやってきた。

「多々良、大丈夫か!?」

「にゃあぁ……」

 外の緊急地震速報が鳴るだけあって、地震はかなり大きい。

 どこかで7でも来たか……?

「だいぶ大きいね!?」

「大きいな!」

 机の上から筆箱が落ちてきた。

 部屋の被害はあまり大きくなさそうだが……。

 1分ほどすると、揺れは収まった。

 母さんたちは大丈夫だろうか。

「多々良、何ともないか?」

「にゃんともにゃいよ。ユキちゃんは?」

「ああ、恥ずかしかった以外は何にもないぞ」

「あー……早く着替えて」

「申し訳ない」

 とりあえず着替えてリビングへ向かう。

 途中、ウズメの部屋を確認するとウズメは寝ていた。

 よく寝ていられるなあいつ……。

「母さんおはよう」

「ああ幸、おはよう。今テレビつけるからちょっと待っててね」

 あまりでかい地震じゃないといいけど……。

『先ほど起きた地震の情報をお伝えします。震源地は埼玉県南部、最大震度は5強。地震の規模を表すマグニチュードは5.8です。震度5強を観測した地域は、川口市、蕨市、戸田市、朝霞市、志木市、和光市、さいたま市。震度5弱を観測した地域は……』

 震源地、ここだったのか。

 まあ震度5強なら大した被害も出てないだろうからいいけど……。

 にしても久々にデカい地震でちょっと驚いた。

 あんまり大きい地震だと予言されてる東海地方の地震かと思っちゃうからやめてほしい。

「あ、ユキちゃん、エリアメールが来てる」

「お、ほんとだ」

 びっくりしてケータイを見るのを忘れていた。

 このエリアメールを見るのも久しぶりだな。

『この地震による津波の心配はありません』

 まあこの県海ないからね。

 前に埼玉県沖とかいう変な気象警報出て話題になったことあったけど。

「にしてもびっくりしたねー。学校はどうにゃるんだろ?」

「もしかしたらメールくるかもしれないしちょっと待ってみるか」

「そうだね」

「多々良ちゃん、朝ご飯は食べた?」

「まだです!」

「じゃあうちで食べてって」

「はーい!」

 朝食の用意をしていると、ケータイが鳴った。

「……ん、メールだ」

「こっちにも来てるー」

 確認すると、休校のお知らせだった。

 おお、休校か!

 ……俺も多々良も制服だけど。

「お休みかー。ユキちゃん、どうする?」

「そうだなー、ちょっとくらい勉強するか?」

「そうだねー、やっとこうか。一回家に帰って用意してくるね」

「おう、じゃあ俺も着替えて待ってるわ」

 学生服から普段着に着替え、ちゃぶ台を用意する。

 もともと誰かと勉強とかする時に使うものだったけど……最近多々良以外は家に上げてないからな。

 ウズメを見られたくないし。

 んー勉強なあ、苦手だし数学でもやっておくかなあ。

「ユキちゃーん、持ってきたよー」

「おーし、じゃあやるか」

「やるー」

 多々良が勉強用具をちゃぶ台に置いたその時。

「うおっ!」

「ふにゃっ!?」

 地震だ。

 さっきほどは大きくないけど、それでもそれなりに大きい。

 余震ってやつか……。

 不意打ちだったから驚いた。

 これくらいの大きさなら緊急地震速報もならないし。

「う、うー」

 多々良が近寄ってきた。

 そのまま胡坐(あぐら)をかいている俺の股の間に座る。

 耳がぺたんとしているということは……怖かったのか。

「よーしよし、大丈夫だぞー」

 背中をさすり、多々良を落ち着かせる。

「多分、これで終わりじゃにゃいよね」

「なにが?」

「地震」

「あー……もしかしたらもっと大きいのが来るかもな」

「うーん、やだにゃあ」

「苦手なのか?」

「にゃーんか怖くてねー」

 多々良、地震苦手だったのか。

 初めて知ったぞ。

 6年前の地震は大きすぎて苦手とかそういう問題じゃなかったからな……。

「あんまり心配なら今日はうちで過ごすか?」

「地震にかこつけてたたらにエッチにゃことをするつもりだね」

「なんということを」

 俺の信頼度は限りなく低いらしい。

「まあ冗談だよ。もし夜まで地震が続いたらお願いね」

 よし、今日の地震は夜まで続いていいぞ。

 いやいや、よこしまな気持ちはないですよ?

「にゃんかユキちゃんが黒く見えるんだけど……」

 多々良のオーラセンサーからは逃げられなかったらしい。

 実際に手を出すつもりはないけどさ。

「じゃあ勉強しようか」

「そうだね。ユキちゃんありがとう」

「いやいやそれほどでも」

 

「……」

「……」

 お互い黙って勉強をする。

 解けない問題はパス、今度倉持に教えてもらおう。

 多々良の方を見ると、勉強をしているがなんとなくそわそわしているように見える。

 地震のことを気にしているんだろう。

 まあ余震って結構続くもんな。

「ん」

「にゃっ」

 そんなことを考えていたら小さめの地震が来た。

 このくらいならまったく気にしないんだけどなあ。

 多々良の耳としっぽは立ってるけど。

「ユキちゃん怖くにゃいの?」

「うーん、よほど大きい地震じゃなければあんまり」

「そっかぁ……」

「もっかい来るか?」

 試しに両手を広げてみる。

「そんにゃにたたらに触りたいの?」

「いや……」

 見透かされていた。

「まあいいや、ちょっと失礼するね」

 多々良がもう一度俺の膝の上に座る。

 今日は素直だな。

 よし、頭を撫でてやろう。

「もしさ……大きい地震がきて日本が真っ二つににゃっちゃったりしたら怖いね」

「怖いどころの話じゃないなそれ」

 どんな大きさの地震だ。

「あんまり揺れてると気持ち悪くにゃるし」

「車酔いみたいなもんか」

「そんにゃ感じ?」

 まあ分からなくもない。

 ずっと揺れてるような感じだよな。

「ん、そろそろいいよ。ありがとう」

「おう」

 多々良が立ち上がり、元居た場所に戻る。

 さて、勉強を続けようか。

「ユキちゃん、ここ分かる?」

「ん?あー、ちょっと待っててくれ」

 そういえば多々良に渡すのを忘れていた。

「このノートに書いてあるぞ」

「あ!いつもありがとうございます」

 多々良が発情期で休んでいる間の授業をまとめたノートだ。

 基本的に発情期が終わったら多々良に渡しに行っていたが……忘れていた。

「ユキちゃんちゃんとやれば勉強できるんじゃにゃいの?」

「ちゃんとやるような理由があればやるんだけどなあ……」

 多々良が発情したとか。

 それ以外だといまいちやる気が出ない。

 まあ倉持に教えてもらおう。

「でもいつもちゃんとやるのってたたらのためだよね……ありがとね」

「いやほら……授業が分からなくなると困るだろ?」

「普段の授業はあんまり分かってにゃいのにー?」

「い、いや……」

「んーふふふ」

 楽しそうに笑う多々良。

 なんだ、いろいろ集中できないじゃないか。

 多々良と顔を合わせないようにノートの方を見る。

 すると、急に視界が揺れた。

「うおおおっ」

「またー?」

 弱めの余震が続く。

 何回起きるんだこれ……。 

 まあ震源ここだっていうし……。

「多分何度も起こるんじゃないかな」

「やだやだー」

 多々良がちゃぶ台の下に隠れる。

 俺が足を動かしたら蹴っちゃうぞこれ。

「……くんくん」

「嗅がないでくれる?」

「ユキちゃんの足、くさくにゃいね」

「臭かったらどうしてたんだよ」

「知らにゃい」

 多々良がちゃぶ台の下から顔だけ出した。

「生首みたいだな」

「電気消したら完璧だね」

「外明るいけど」

「じゃあ夜だね」

「むしろ見えないだろ」

「つまんにゃいのー」

 体勢を整え、勉強に戻る。

 うん、数学はこんなもんでいいかな。

 じゃあ次は英語で。

「ユキちゃんはろー」

「うん?」

「はろー」

「は、ハロー」

「どぅーゆーらいくばなーなー?」

「イエス、アイライク」

「どぅーゆーらいくぽむぐらねいと?」

「ポム……なんだって?」

 いきなりよくわからないのぶっこんできやがった。

 それにしてもなんだこの中学生みたいな会話は。

「ざくろだよざくろー。英語でぽむぐらねいとっていうのー」

「分かるかっ!」

 そもそもザクロってそんなに食べなくない?

 意識しなくない?

「ダメだにゃーユキちゃんはー」

「多分今の分からなくても何一つダメなところないと思う」

「外国に行ったときに困るよー?」

「いいんだよ、外国行く予定ないもん」

「たたらといくー?」

「んー……」

 そんなに行きたいと思わないんだよなあ。

「でもどっか旅行行ってみたいよねー」

「そうだなあ……」

 多々良と旅行に行くならどこがいいだろう。

 やっぱり多々良なら食の旅行だろうか。

 それなら……やっぱりあれか、北海道とかかな?

 函館とかよさそうだ。


「幸、入るよー」

 母さんがいきなり入ってきた。

「どしたの」

「いやお昼ごはんよ。多々良ちゃんも食べな」

「ありがとうございまーす!」

 ラーメンを作ってくれていたようだ。

「そういえばウズメはどうした?」

「なんか、今日はアマテラスさんの家に行ってるってさ」

「へえ」

 まあうるさくなくてちょうどいいか。

 なんだかんだ、こうして多々良と過ごすのも久しぶりな気がするし。

「食べたら下に持ってきてね」

「へいへい」

「んじゃ、期末テストの勉強頑張りなー」

 母さんがテーブルの上にラーメンを置く。 

 俺用の青い箸と、多々良用の黄色い箸も用意してある。

 多々良はよくうちに来るし、なんならうちには花丸家全員分の箸があったりする。

 ちなみに多々良の家にも佐倉家全員分の箸がある。

「んじゃ、いただきます」

「いただきまーす」

 一口食べて気づく。

 これ多々良のために作ったな。

 煮干しラーメンだ。

「おいしい!」

 多々良がいい反応を見せる。

 俺も料理とかできたらこんな風に多々良を喜ばせることができるだろうか。

 うーん、でも料理はしたことないしなあ……。

 でも、いつかはちゃんとできるようになっておいた方がいいよな。

「ん、メールだ」

「あれ、こっちもだ」

 同時に鳴り出したケータイを見ると、学校からの連絡だった。

 えーと、今朝の地震で学校のトイレ設備及び貯水タンクが破損した影響で、学校に工事が入ります。

 その影響で、今日から3日間学校を休校……マジか!!

「休みだって!」

「休みかー……」

 多々良が微妙そうな顔をする。

「あれ、どうした?」

「いや、今休みににゃると冬休みが減っちゃうんじゃにゃい?」

「あ……」

 確かにそうかもしれない。

 しかも、最悪クリスマスも学校に登校しなきゃいけないなんて事態になりかねない。

 休校は嬉しいが、クリスマスに学校は全く嬉しくない。

「出かけるのって夜だよね?」

「そうだな」

「ん~、それにゃらまあいいか」

「でも、せっかく出かけるなら昼間から出かけたいよな~」

「まあ、それは学校側がどう出るかだね~」

 せっかくの多々良とのデートだ、長く楽しみたい。

 もっとも、変な邪魔が入らなければの話だけども……。

「ごちそーさま!」

「ごちそうさまっと」

 どんぶりを片付けようとすると、多々良がついてきた。

「部屋で待ってていいぞ」

「うん?歯磨きするんだよ~」

「あ、そういうことね」

 リビングに入ると、母さんがドラマを見ていた。

「あ、お皿は置いといていいからね。あとで洗っちゃうから」

「いいの?」

「いいのいいの。あんたたちは勉強してなさい」

「分かった、ありがとう」

 じゃあ俺も歯磨きするか。


「ねーユキちゃん」

「なんだ?」

 昼飯をいただいてから30分くらい。

 集中して勉強していたはずの多々良が話しかけてきた。

「ちょっとだけお昼寝しにゃい?たたら眠くにゃっちゃったよ」

「昼寝か……」

 普段昼寝はしないけど……まあ腹も膨れたし眠くなってくるころだよな。

 母さんには勉強してなと言われたけど、ちょっとくらいいいよね。

「じゃあ多々良の布団も用意するぞー」

「あ、いいよいいよ。ユキちゃんの上で寝るから」

「なんでやねん」

 軽いとはいえそれでも20㎏以上はある多々良。

 そんなものが乗っかってきたら寝れるはずない。

「じゃあ一緒のお布団で寝るー?」

「えっ」

 一緒の布団か。

 前にやったのは持久走の時だっけ。

 いや、昔から一緒に寝るなんてことはよくあったけども……。

「多々良はいいのか?」

「まー寝るくらいにゃらかまわにゃいよ」

「じゃ、じゃあ……」

 先に布団に入り、あとから多々良が入ってくる。

「えっへへ、近いね」

「ま、前もそうだっただろ」

「そうだっけ。あの時はすっごく眠かったから覚えてにゃいや」

「そっか」

「あったかいね~」

「そ、そうだな」

 緊張する。

 多々良は気にしてないのかもしれないけど……。

「じゃあユキちゃん、おやすみ~」

「お、おやすみ」

 こういう時の多々良は寝付くまでが非常に早い。

 多分すぐ寝てしまうだろう。

 俺は……寝れるかな。


「ユキちゃーん、続きするよー」

 体を揺らされる。

「ん……ん~……」

「ほーらー。えいっ!」

 布団をはがされる。

 しかし部屋の暖房のおかげで寒くない。

「せいやー」

 どすんっ。

「ぐおっふ!?」

 飛び起きると、多々良が俺の腹の上に乗っかっていた。

 多々良さん、それはきついっス。

「たたらたち結構寝ちゃったみたい。続きやらにゃいとね!」

「お、おう……」

 多々良が近くで寝ててドキドキするかと思ったけど、案外すぐ寝てしまったらしい。

 ドキドキするより落ち着いたのかもしれない。

「ぼーっとするな」

「にゃー!」

 パァン!!

「あああああああああああ!?」

 目の前で爆発音が響いた。

 一気に目が覚めた!

「なに今の」

「ふっふっふ……秘技、ねこだまし!……ねこだけに!」

「効果は抜群ですねえ……」

 まじでびっくりした。

 そりゃ相手もひるむわ。

「あれ、6時!?」

「そーそー、だいぶ寝ちゃったんだねえ」

 爆睡かよ。

 そして気になる点がもう一つ。

 ……いやまあいつも通りか。

「目障りならこれ動かしても大丈夫だからな」

「え、これ動くの?」

 部屋に大きな黒い球体が現れていた。

「浮いてるしな。押せば水平に移動してくれるぞ」

「そうにゃんだね」

 ツクヨミを部屋の隅っこに置き、勉強を再開する。

「多分今日の夕飯はうちで食っていくことになるんじゃないか?」

「じゃあごちそうににゃるー」

 多々良が夕飯をうちで食っていくのも久しぶりかな?

「……あ、ユキちゃん」

「ん?」

「あんまり大きくにゃいのがくるよ」

 多々良がそう言った次の瞬間、小さめの地震が来た。

「今後1週間はずっとこんな感じかもな」

「やーだにゃー」

「まあ、そのうち慣れるんじゃないの?」

「簡単に(にゃ)れたら苦労しにゃいよ」

 勉強を続けていると、黒い球体が開いた。

「ふぁぁ……あ、幸くんおはよう」

「おう、おはよう」

「あ、多々良ちゃんもおはよう」

「ツクヨミちゃんおはよー!」

「2人とも何してるの?」

「学校の勉強だよ!今度テストがあるから!」

「そうなんだ、じゃあ邪魔しちゃ悪いね」

「まあ好きにしてていいぞ」

「分かった、多々良ちゃんに借りた漫画読んでるね」

 ツクヨミが部屋の隅でアクアリオを読み始める。

 多々良はそっちが気になっているようだ。

「多々良さん?」

「にゃ、にゃんもにゃいよ」

「何も言ってないよ?」

「うぐ」

 多々良が微妙な顔をして教科書を見る。

「あ、そうだ幸くん」

「なんだ?」

「今日の夜、何か嫌な予感がするから気をつけておいて」

「嫌な予感?」

「うん、神さまの勘……かな?」

 ということはやっぱりまた地震が来るんだろうか。

「私、今日は早めに見守りに行くことにするよ」

「もう行くのか?」

「うーん……」

 ツクヨミがどうしようか考えようとしたその時。

 ぐぅ~……。

「……」

 ツクヨミの顔が赤くなる。

「そろそろ夕飯だし、うちで食べてから行きなよ」

「腹が減っては戦はできにゃいって言うしね!」

「お、お言葉に甘えることにします……」


(さかにゃ)ー!」

 夕飯を見て多々良のテンションが上がった。

 今晩はサバの竜田揚げみたいだ。

 母さん、多々良が来るときは張り切るなー。

「ツクヨミちゃんもいっぱい食べてね!」

「いただきます!」

 父さんはまだ帰ってきてないけど、ちょっと早めの夕食だ。

 多々良もツクヨミもニコニコしながら竜田揚げをほおばっている。

 というわけで俺も一口。

 ……うん、こりゃうまい。

 やっぱり母さんの料理はうまいなあ。

「おかわりもたくさんあるからね!」

 残ったらどんだけ多くてもきっと父さんが食べるだろう。

 あの人は相当食うからな。

「多々良ちゃん、今日は泊まっていくの?」

「あ、考え中!」

「いつでも泊っていっていいからね!」

「ありがとうございます!」

 俺も別にいつでも泊まりに来てくれてかまわないぞ。

 下心があるとか言われそうだけど。

「にゃんでユキちゃん黒くにゃってるの?」

「……なってないよ」

「あー、にゃんか変にゃこと考えてたでしょー」

「そ、そんなことないって」

「黒くなる?多々良ちゃん、どういうこと?」

 多々良の発言に興味を持ったらしいツクヨミが、箸を止めて話しかけた。

「生まれつきにゃんだけど、たたらは相手の人がいいことを考えているか悪いことを考えているかが分かっちゃうんだよね!」

「えっ……?多々良ちゃん本当に人間?」

「に、人間だよ!あ、いや、正確には亜人だけど……」

「そんな不思議な力があるんだね」

「うん!いいことを考えているか善人にゃら白いオーラ、悪いことを考えているか悪人にゃら黒いオーラが見えるんだ!」

「へえ……人間にもそんな力が……」

「たたらもにゃんでこんにゃことできるのかよく分からにゃいんだけどね」

 そのせいで俺が少しでもスケベなことを考えているとバレるんですよね。

 うん、健全な男子高校生からすれば迷惑な力だ。

 別にそれを悪いと責めるわけじゃないけど。

「もしかしたら生まれる前に何かしらの神さまが関与してるのかもしれないね」

「神さまそんなことするのか」

「たまにね。多々良ちゃんの目のことを考えて神さまが力を足してくれたのかも」

「それにゃら普通に見えるようにしてくれた方がありがたかったようにゃ……」

「私が言うのもなんだけど、神さまって結構勝手だから……」

「その言い方だとツクヨミはそういうことには干渉しないみたいだな?」

「まあ、産まれる前から個人には干渉しすぎないようにしてるんだ。……そのあとに仲良くなったなら、話は別……だけど」

 若干顔を赤くしてこちらを見るとツクヨ。

 おお……?

 その様子を見ていた多々良の表情が若干怪しかったが、どういうことだろう。

「そういえばツクヨミちゃん、今日はちょっと早めに出るって言ってにゃかった?」

「あっ……!そうだった、多々良ちゃんありがとう!ごちそうさまでした!」

 ツクヨミが急いで食器を片付ける。

「じゃあみなさんまた明日!お母さん夕飯おいしかったです!」

 ツクヨミがパタパタと外へ出ていく。

 だいぶ急いでたな……。

「ふう……ユキちゃんのおかーさんごちそうさま!」

「ごちそうさん」

「はいはいよく食べました。食器は全部洗っておくから、幸と多々良ちゃんはお勉強の続きしてていいよー」

 ……勉強ね。

「する?」

「あとちょっとしとくー」

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