第36話 話しました
「……で、なんで俺の部屋に?」
「たまには私と遊んでください」
ウズメが俺の隣に座る。
「気が向いたらと」
「たぶんいつまでも向かないと思います」
鋭いなコイツ。
「もう夜中だよ?」
「幸さん、さっきまで寝ていたんですよね?なら少しくらいいいじゃないですか」
無邪気に笑うウズメ。
まあ……いいか。
「遊ぶって何するんだよ?」
「お話に付き合ってください」
「お話ね、そういえば俺もウズメに聞きたいことがあったんだった」
「幸さんが私にですか!?答えられる範囲であれば答えますよ!」
突然テンションが上がるウズメ。
お、おう、そんなに質問されるのが嬉しいのか。
「ウズメってさ、男性嫌い?」
「……その質問の意図は何でしょう?」
一瞬、ウズメの表情が冷たくなった。
前にも見たことがある、ちょっと怖い表情だ。
「いやね、前に姫川―――俺の幼なじみを見ただろ?なんかその時ウズメの表情がやたら冷たい感じがして……あと、過去の話をアマテラスから聞きました」
「過去……どの話でしょうか?」
「まあ、ウズメに夫がいた、とかそういう話」
「夫……サルタヒコさんですね」
「そうそう、その話」
ウズメが若干遠い目になる。
「まあ、元気のいい人、でしたね……」
「そういう話も聞いてるからさ、もしかしたらウズメって実は男嫌いなんじゃないかなって」
「そうですね、好きというわけでもありませんが、嫌いでもありませんよ?」
「そうなの?」
てっきり嫌いだと思ってた。
「嫌いであれば今幸さんと一緒にいることもないでしょうし……私が嫌いなのは、頭の中がスケベ一色な人です」
「あー……」
そういうことね。
俺が以前あんな冷たい目を向けられたのはあれか。
浮気した上に姫川に手を出してると思われたからか。
別に誰とも付き合ってないから浮気も成立しないけど。
「特に私の周りにはそのように人が多かったので……サルタヒコさんもそうですし、特にオオクニヌシさんは……」
よく話題に出てくるなオオクニヌシ。
「やっぱりやばいやつなんだ?」
「一度私も迫られたことがあります。どこでも裸をさらすことができる女ならいいだろう、と……」
……それは脱ぐウズメが勘違いの原因なのではないでしょうか。
いやいや、でもそれで盛っちゃうオオクニヌシさんもダメですね。
「なので、私が男性嫌いということはありません。むしろ幸さんは好きな部類ですよ」
「へえ」
「あまりうれしそうではありませんね」
「別にウズメに好かれても……」
「ひどいですよー!」
抱きついてくるウズメ。
なんだろう、ウズメに抱きつかれてもなんとも思わないのが不思議だ。
姫川に抱きつかれでもしたらきっとドキドキするんだろうけど。
……そう考えると、多々良に抱きつかれるよりもドキドキするのかも。
「幸さん、最近学校はどうですか?」
「まあ、楽しいよ。前より少し気を遣うけど」
「それはこの前の綺月さんのことですか?」
「そう、あれから朝登校するときにうちに来るようになってさ」
「幸さんにその気がない、というのはつらいですね」
「ああ、それに多々良も知ってるから……」
「幸さんは多々良さんが好きですもんね」
「まあ……そういうことだよね」
ある意味、あの場に姫川がいるということは牽制にもなる。
多々良も若干気遣ってる気はするし、俺もその、多々良に言いづらいし。
「幸さんは綺月さんのことをどう思っているんですか?邪魔ですか?」
「いやいや、そんなこと思ってないよ。友達としては好きだし……」
「一緒にいるのは楽しいんですね?」
「そうなんだよな、付き合いも長いし……」
「ちなみに、一気にいろいろと吹っ切れる方法があります」
「はあ、なんでしょうね」
ウズメのことだからろくでもないことな気がする。
「それは……」
「お、おう」
「ツクヨミさんを選ぶことですね」
「つっ……」
ろくでもないことじゃなかったけど!
「な、なんでアマテラスもウズメもツクヨミを推すんだろうね?」
「お似合いだからですよ」
「そうかね?」
「ええ、幸さんといるときのツクヨミさんはとても楽しそうです」
「そ、そう?」
「ええ、実は、幸さんとツクヨミさんがいるときはなるべく邪魔をしないようにしています」
「なんだと……!?」
ウズメが気遣っているだと……!?
そ、そうだったのか。
でも確かに今までツクヨミと一緒にいる時ってウズメがいなかったような気がする。
そうか、そうだったのか……。
「幸さんと多々良さんの仲も応援していますが、幸さんとツクヨミさんの仲も応援しているんですよ」
「俺と、ツクヨミか」
「どうでしょうか、やはり立場の違いというものはあるかとは思いますが……」
俺と……ツクヨミか。
確かに一緒にいるのは楽しいけど……。
「どっちにしろ多分俺は多々良から目を離せないよ。今までもずっとそうしてきたんだ。」
「そうですね、大切な人ですもんね。」
「まあ、そうだな。」
「そこで恥ずかしがっちゃダメですよ。」
「う、うるせえ。」
「幸さん、かわいいですね!」
「や、やめろ!」
ウズメが俺をホールドして頭を撫でやがる。
そして顔にはウズメの巨乳が押し付けられている。
「んーーーっ!!」
「あら、すみません……ふふっ、幸さん顔が真っ赤ですよ?」
「女性の身体に慣れてないんだよ」
「そうですね、ツクヨミさんが隣にいるだけで幸さんの顔は赤くなりますもんね」
「バカにしやがって」
「いつも私がおバカにされているので仕返しです」
「くっ……」
こいつもなんだかんだ年上のお姉さんって感じがするよな。
なんというか、敵わない感じの。
「それにしても、私のことも女性扱いしてくれるんですね」
「あん?」
「普段はニート女神とか何とか……そもそも相手にされていないような感じがしていましたので」
「まあ相手にしてねえからな」
「ひどいですー!ならこれから毎日幸さんを誘惑すればいいんですね!」
「そしたら大声で助けを呼ぶぞ。きっとツクヨミが助けに来てくれる」
「ツクヨミさんは私のお友達ですから、きっと私の味方をしてくれるはずです!」
「さあどうだか」
もしウズメがその色香で俺を誘惑している最中にツクヨミが来たら、きっとツクヨミは俺に味方をしてくれるだろう。
俺はそう信じてる。
「そういえば今日はツクヨミが外に出ているけど大丈夫なのか?オオクニヌシの気配がなんたらって言ってたじゃんか」
「今日はアマテラスさんがツクヨミさんと一緒に外にいます。アマテラスさんなら大丈夫でしょう」
「ウズメも行ってやれば?」
「私はその……オオクニヌシさんに会っても対抗する手立てがないですから……」
さすが踊り専門の神。
「というか、アマテラスは攻撃なんかもできるのか」
「ええ、本気になれば日本を焼き払うことだって可能だと思いますよ」
「さすが太陽神……」
そんなことできるのかよ怖えな。
「さて、幸さんはそろそろ寝ますか?」
「まあ、明日も学校だしな」
「今日は特別に私が添い寝をしてあげましょう」
「いらんが」
「そんなこと言わずに」
「ゆっくり寝たいのだが」
「一緒に寝ましょう♪」
急に自分の意思に反して身体が動き始めた。
勝手に寝間着に着替え、ベッドに横になってしまう。
おのれ言霊め……。
「幸さん、お休みタイムですね!」
「無理矢理この態勢にされたんだが」
「そんなことはないですよー?」
そんなことあるんだが。
ウズメに添い寝されるんだったら多々良に添い寝されたい。
というかしたい。
「顔が近いですね」
「お前がこうしたんだが」
「ちゅーしましょうか」
「しない」
「冗談です」
男子高校生の心をもてあそぼうとしてやがる。
だが俺は大丈夫、こいつはウズメだ。
あのウズメだ。
「なぜだか今幸さんが失礼なことを考えているような気がします」
「そんなことはない」
「本当ですかー?」
本当だっつの。
「私の添い寝はいかがですか?」
「うん、そうね」
「反応が薄いですね……」
何も考えなければいいんだ、このまま寝よう。
「ウズメ」
「はい、なんでしょう」
「おやすみ」
「え?あ、はい、おやすみなさい」
「幸さん、幸さーん。学校の時間ですよー」
「ん……ウズメ、おはよう」
「おはようございます。着替えと朝ご飯の用意もできています」
「家政婦かな?」
「いえいえ、これもお役に立つためです」
めっちゃよく働いてるじゃん。
「今日も多々良さんは学校をお休みするそうです」
「いつの間に連絡したんだ」
「昨日多々良さんから電話が来た時に番号を控えておきました」
「気が利きますね……」
「そうでしょう?もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
「あーはいはいすごいねー。えらいねー。よーしよしよし」
「なんだかおバカにされている気がします!」
気がするじゃないよ、してるんだよ。
「あと今この佐倉家の上空を綺月さんが飛んでいます」
「いつも早めに来て待ってたのか……」
姫川を待たせるのも悪いし早めに用意しよう。
「じゃあ、行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、幸」
今日もウズメと母さんが見送ってくれる。
何だろう、ウズメがだんだん進化していっているような気がする。
一歩歩き出すと、しゅたっと音を立てて姫川が降りてきた。
「おはよう佐倉」
「おう、おはよう」
「いつもより出てくるのが早かった」
「まあね?別にうちの上を飛んで待ってなくてもいいんだぜ?大体7時40分くらいに家を出るから」
「7時40分、分かった」
「ずっと飛び回ってるのも疲れるだろ」
「羽を鍛えるのにいい」
「本当か?」
「……ちょっと疲れた」
「無理すんなって」
「佐倉、優しい」
「お、おう」
「好き」
「はいはい」
軽くあしらって学校へ向かう。
あんまり真に受けちゃダメだ。
「多々良は、今日も休み?」
「ああ、大体明日くらいまで休みだと思うぞ」
「いないとやっぱり寂しい」
「まあ、そうだな」
「走ろうか」
「何で!?」
急な姫川の提案が飛ぶ。
どの流れで走ることにつながるんだよ。
「羽を鍛えたから、今度は足を鍛える」
「疲れてんだろ、やめとけって。鳥人はもともと足が強くないんだから」
「継続して走るのは大変だけど、蹴りは強い」
「走るのが大変って今自分で言ったじゃんか」
蹴り強いのか。
まあ上空からドロップキックくらったらやばそうだけど。
「鳥の種類で……えっと、ヒクイドリだっけ?あれの蹴りはやばいらしいな」
「うちらじゃ到底かなわないレベルの蹴りを繰り出す。怪我は免れない」
「そんなに強いの……?」
「強い」
怪我するレベルの蹴りってどういうことだろう。
「あと、ヒクイドリは走るのも得意」
「そうなのか」
「だから、人間とヒクイドリの間に生まれる亜人はきっと強靭な足を持ってるはず」
「ほう」
「うちみたいなこんな細い足じゃなくてね」
姫川が足を前に伸ばす。
さすがに身長が184㎝あるだけあって足が長い。
スタイル良いですね。
「……今佐倉はうちの生足を見たいと思っている」
「思ってねえよ!?」
「今度デートしてくれたら見せてあげる」
「デートじゃなくてお出かけな」
「それなら見せてあげない」
そっぽを向く姫川。
振った以上、こっちもそういう誘いに乗ってはいけない。
毅然とした態度で、な。
「学校が見えてきた」
「だな」
「いつもより、かなり早い」
時計を確認すると、8時10分。
HRは8時40分からスタートなので、30分も早く来てしまった。
いつもは8時25分くらいに着くのだが。
「……多々良か」
いつも多々良のペースに合わせて歩いていたから遅くなってたんだな。
それが悪いというわけでないけど、こんなに違うのか。
「おっす佐々木、多々良は今日も休みみたいだ」
「おう、倉持も休みだぜ。ってかグループで言ってるからみんな分かってるだろ」
「だな」
一応俺らのライングループはあるから誰が休みとかは把握している。
まあほら、会話のタネ的な感じでさ。
「おはよう佐倉、今日も姫川と登校してきてたね」
「おはよう秋川。なんか最近朝うちに来るんだよ」
「いいじゃんか、姫川も楽しそうだしな」
「楽しそうか?」
「ああ、教室から見てても分かるぜ」
俺が登校してくるときにすでに教室にいるんだな、早いな。
あ、サッカー部の朝練があるのか。
「確かに楽しそうだよね、修学旅行の時も楽しそうだったし」
「そ、その話は今はいいだろ……」
「あの時、楽しかった」
「「「うおっ」」」
姫川がいた。
そうだね、HRまでまだ時間あるもんね。
でもびっくりしたよ。
「あの時は完全にカップルだったぞ、手つないでたし」
「うちと佐倉がカップル」
「それにしか見えなかったよね~」
「……佐倉、今度もっかいデートする?」
「……」
ずるいぞ姫川。
「お、どうした佐倉?行かないのか?」
「ほらほら、姫川のお誘いだぞ~」
「……ま、まあ出かけるくらいなら」
「言質取った」
……やられた。
「その時は事前に連絡する。なんか気分がいい」
そういって姫川が教室から出て行った。
「気分がいいってよ」
「デートだって、佐倉良かったねえ」
「……ん~」
こいつらには言ってないしな……。
「どうしたんだ、微妙な顔して」
「マルちゃんのこと大好きだからかな~?」
「普通に出かけるだけだろ」
「いいね~、姫川は佐倉のこと大好きだねー」
「だっ……」
「赤くなってるね~」
うん、姫川が俺のことを好きなのは知ってるんだよ。
告白までされたんだから。
でもこっちは断ってるんだよ……。
諦めないとか、振り向かせられるように頑張るとは言ってたけど、ほんとにグイグイ来るな……。
今日は多々良がいないからだろうか。
「さ、佐々木はどうなんだ?マネージャーちゃんとの進展はあったのか?」
「べっ、別に進展とかそういうのはねえよ……一緒に帰ってるくらいで」
「一緒に帰る率高いな!佐々木もワンチャンあるんじゃねえの!?」
「やめろって」
「彼女できたらちゃんと俺らに教えてくれよな!」
「俺にも教えてね~」
「教えなきゃいけねえの!?」
俺たち隠しごとはなしだよねっ☆
それあれだ、いつの間にか友情が崩壊するやつだ。
「でも彼女とかできちゃうと遊びづらくなるよね~」
「そ、そういう秋川はどうなんだよ。気になってる人いるんだろ?」
「あ、今度夕飯食べにいくよ」
「「夕飯!?」」
俺も佐々木も激しく食いつく。
お前大学生のお姉さんと夕飯って……。
下手したらワンチャンあるぞ?
「た、食べて何するんだよ」
「夕飯食べに行くだけだけど……え、佐倉も佐々木も何を期待してるの?」
「「え、いや……」」
うん……何も?
「あー、佐倉も佐々木もスケベなことを考えてるなー!」
「そ、そりゃ考えるだろ!大学生のお姉さんだぞ!」
「そうだぞ秋川!大学生のお姉さんだぞ!」
「2人とも大学生のお姉さんってエロいもんだと思ってるよね?」
思ってます。
そういうもんじゃないの?
「そういうもんだろ?」
ほら佐々木も同じことを考えてた。
「確かに5コ上だけどそんなんじゃないよ~?まあ俺たちよりは大人って感じするけどさ」
「酒!酒飲むのか?」
「その人は飲むんじゃない?俺はまだ20になってないから飲まないけど」
「もしかしたら酔っぱらったお姉さんに飲まされて……」
「エロ本の読みすぎだよ、佐倉」
「そんな読んでねえから!」
失礼な。
「佐倉ってどんなの読むんだ?」
「学校でその話やめない?」
「よし秋川、今日もあの会館に行くぞ。3人でエロ話だ」
「おっけー」
「佐倉も来るよな?」
「3人って言ったし最初から連れていくつもりなんだろ?」
「まあな?」
「姫川もついてくるんじゃないか?」
「いや、今日は姫川はなしだ。男だけだ」
「濃い話になりそうだなあ……」
まあ、僕たち健全な男子高校生なんでね。
たまにはそういう話し合いも悪くない。
「仕方ないな」
「そういう佐倉の顔が一番ウキウキしてるんだよな」
「してないから!」
ほんと失礼なヤツだな佐々木ィ!
「つか、佐々木今日部活は?」
「ねえから朝練してんだよ」
「あっても朝練してんだろ」
「確かにそうだな」
「今の流れ、コントみたいだね~」
今のは佐々木のせいだ、間違いなく。
「じゃあ今日は帰りのHRの後先に行かずに待っててくれよ」
「了解」
「おっけー」
というわけで放課後。
俺たちはまたあの会館に集まっていた。
小学生たちが使うかなとも思ってたけど、そういうことはないらしい。
また俺らのたまり場になるかもしれない。
「そんで、何の話をするんだよ」
「なあ佐倉、おっぱいは好きか?」
「大好きです」
何を当たり前のことを聞いているんだ。
「え、何お前らおっぱい好きじゃないの?」
「好きに決まってるだろ」
「まあね~」
よかった、好きじゃないとか言い出したらそれでもお前は男子高校生かと。
「で、佐倉はどのくらいの大きさがいいんだ?」
「大きさか……」
「やっぱり多々良くらいか?」
「そうだな……でもあんまり大きすぎないくらいがいいかな」
「多々良以上はあんまりって感じか?」
「そうかも」
確かに多々良も大きいが、あれは128㎝という身長に対して大きいのであって、世間的にいえば普通よりちょっと大きい程度だろう。
まあ、ツクヨミよりも大きいけど。
ただし、そのツクヨミも決して小さいというわけではない。
やっぱり多々良のおっぱいが大きいんだな。
「佐々木は?」
「俺はな、姫川とか……凜先輩とか……木晴先生くらいの……」
「へー、佐々木ってまな板が好きなんだね~!」
秋川が直球で言う。
確かにその人たち全員まな……鳥人ですね。
まあ鳥人はほとんど胸が成長しないからね。
佐々木そういうの好きだったんだ。
「あれ、でもサッカー部のマネージャーの子って」
「人間だよ」
人間も傾向的には胸が小さいほうの部類だ。
きっと佐々木の好みなんだろう。
「秋川はどうなんだよ」
「俺かー、俺は大きい方が好きかなー!」
「大体どのくらいだ?」
「うーん、クラスの子で言うと鉄橋さんくらいかな」
「だいぶデカいの好きだね!?」
鉄橋さんというと俺らのクラスの中では一番の巨乳の子だ。
前にクラス内で公言してたけど、バストは90㎝を超えてるとか。
ちなみに鉄橋さんはゴールデンレトリーバーと人間の間の子だ。
「じゃあその秋川の好きな大学生のお姉さんってのは?」
「羊人だよ」
羊の亜人か……。
「おっぱい大きいのか?」
「まあ結構。鉄橋さんよりも大きいんじゃないかなー」
「秋川、女の人を胸で選んでる?」
「そんなことないからね!あの人は優しくて面白いうえにおっぱいが大きいの!」
なるほど、おっぱいは二の次ってわけか。
「ちなみになんだが、その人が好きだとかそういうの関係なしに見た目だけで決めて、裸を見たいとか触ってみたい人っているか?」
何だその質問は。
「ちなみに佐倉は多々良以外でな」
「何でだよ!?」
「多々良以外にも見た目で好みな女の子くらいいるだろー?」
「ちなみに俺は凜先輩だ」
「学校のマドンナじゃんか」
望みが高いねえ。
「何言ってんだ佐倉、話すだけならタダだぜ?」
「そーそー、話すだけタダだよー」
「そういう秋川は誰なんだよ」
「俺かー……マルちゃんと姫川かなー」
「姫川!?」
「多々良!?」
俺も佐々木も反応する。
こいついつも一緒にいるくせにそういうこと考えてやがったのか!
……俺も人のことは言えないか。
「意外かな?普段仲が良いからこそ見てみたくならない?」
「女の裸とかは興味あるが……俺は多々良と姫川は……」
佐々木は同意しかねるらしい。
「佐倉は?」
「……」
「そういえば俺も佐倉も多々良と姫川の裸は見たことあるな」
「……小学2年の時だったっけか。4人で入ったな」
「そんなちびっこ時代の話じゃなくてさー」
今見れるかっての。
でも……多々良の裸は高校に入ってからでも何度か見てるな。
主に発情期に。
見慣れてるとは言わないけど……。
「そんで、佐倉は?」
「つ―――っ!!お、俺も凜先輩かな」
「今何か言いかけたぞ」
「ねー、学校の人かなー」
「ち、違うぞ!?俺も凜先輩かなーって思ってな!?」
「こいつがこんだけテンパってるってことは嘘だな」
「嘘だね」
こいつらは!!
……にしても、まさか真っ先に浮かぶとは。
俺も、相当……。
「ただいまー」
「幸さん、お帰りなさい」
割烹着を着たウズメが、キッチンから出てくる。
いつの間に用意したんだそんなもん。
「幸さん、早く部屋に戻ってあげてください」
「ん?」
「ツクヨミさんが待っていますよ」
「―――」
ツクヨミか、そうか。
「じゃ、じゃあ部屋にいるよ」
「はい、後でお呼びしますね」
階段を上がっていくと、自分の部屋から明かりが漏れているのが分かった。
「ただいま」
「あ、お帰り幸くん!」
俺の顔を見た瞬間、ツクヨミの顔がパッと明るくなった。
「お、遅かったね!」
「あ、ああ、友達と遊んでて……」
「そうだったんだー!」
何をしてたか、なんて言えない。
ただのエロ話だからな。
「幸くん、普段帰ってくるのが早いし、自分で友達少ないって言ってたからあんまり遊んでないのかなって思ってた」
「放課後遊ぶことが少ないだけ……多分。ほら、友達ってのは前に修学旅行で部屋で寝てた……」
「ああ、あの時の!あの、時……」
ツクヨミが顔を赤くする。
何事かと思ったけど、思い出した。
そういえばあの時ツクヨミにキスされたんだった。
やめろ思い出したら恥ずかしくなってきたじゃねえか。
「あ、あの、幸くん!」
「な、なんだ?」
「私ね、行きたいところがあるの!」
「行きたいところ?」
「これなんだけど!」
ツクヨミが何かのパンフレットを顔に押し付けてくる。
見えないっす。
「あ、ご、ゴメンね!私、これ行きたいの!」
やっと見えるようになったそのパンフレットは、人気の水族館だった。
なんでもイルカショーとプロジェクションマッピングを融合したイベントが人気だとか。
「いいじゃんか、綺麗だと思うよ」
「その、私……」
ツクヨミがもじもじする。
これに行くと仕事ができないとか、私は神さまだから、とか気にしてるのかな?
「ツクヨミ、顔が赤いぞ?体調悪い?」
「そ、そうじゃなくて!その……この水族館、ゆ、幸くんと行きたくて!」
ツクヨミがりんごみたいな顔で大きな声を上げる。
言ったことを理解するまで、数秒かかった。
「……えっ、俺?」
「だ、ダメかな……?」
パンフレットで口を隠し、上目遣いで言ってくるツクヨミ。
これが演技であれば、ツクヨミは相当な策士だ。
正直、破壊力が高すぎて断れない。
「お、俺でいいのか?」
「姉さんを誘ったら、仕事は任せて幸くんに連れてってもらえって……」
あの人か……。
「すごく綺麗だって言うから見てみたくて……い、一緒に行きませんかっ!!」
「い、いいよ、一緒に行こう」
「やった!日にち決めよう!」
笑顔になるツクヨミ。
なんか、ツクヨミの頼みって断れないんだよな……。
「今ね、ショーがすごいらしくて、それが12月の21日までなんだって!だからそれまでに行きたいんだ!幸くん、行ける日あるかな!?」
グイグイ来るツクヨミ。
11月ももうほぼ終わりに差し掛かっている。
となると……。
「近いところだと今週の土日は空いてるぞ」
「そうなんだ!日曜日だと幸くんが次の日学校なんだよね……じゃあ土曜日、いいかな!」
「分かった、じゃあ土曜日な」
「時間なんだけど、午後からでもいいかな?」
「分かった。うちから一緒に行くか?それともどっかの駅で待ち合わせする?」
「い、一緒に行きたいな」
そっぽを向きながら赤い顔で言うツクヨミ。
は、恥ずかしい……のかな?
「お、おう……じゃあ、一緒に行こうか。服はどうするんだ?」
ツクヨミの服は基本的に紫の着物に緑色の袴だ。
しかしその恰好で街を歩くときっと浮くだろう。
ウズメはいつの間にか洋服を着るようになっていたし、アマテラスはそもそも着物を着ているところすら見たことない。
地上で溶け込むには、ツクヨミも洋服を手に入れた方がいいのではないか。
「そ、それなら大丈夫!明日がんばって起きて、ウズメと一緒に買いに行くから!」
「ウズメ!?任せて大丈夫なのか!?」
「ほら、芸能の神だし、きっと衣装とかにも気を遣う……はず」
……まあ確かにウズメの洋服も、着物もヤツの見た目によく似合っている。
任せても大丈夫かもしれない。
『幸さん!ツクヨミさん!夕飯の時間ですよー!』
下からウズメの声が聞こえてくる。
「ツクヨミ、行こうか」
「うん!」