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第35話 休みました

「ん……俺いつの間に……」

 昨日、ツクヨミに耳のマッサージを受けてからの記憶がない。

 ということはマッサージを受けてそのまま寝てしまったということになる。

 ツクヨミ、すげえな……。

 さて、起きよう。

 今日だっていつも通り学校の時間だ。

 といっても、いつもより起きる時間は早いな。

「ん……あれ?」

 起きて手をついて気づいた。

 触った感触がベッドじゃない。

 あれこれやわらか―――

「……イィッ!?」

 一気に目が覚めた。

 となりでなぜかツクヨミが寝ていた。

 俺のベッドで。

 い、いや、何してるんですか。

 え、じゃあ俺昨日の夜ツクヨミと一緒に寝たの?

 お、覚えてないんだけど!

 てかやべえ、ツクヨミの胸を触ってしまった。

 本人は寝ているからバレていないけど、これはダメだろ。

 俺の墓場まで持って行くか……。

「あ、幸くん起きた?おはよう」

 何とタイミングの悪いことに、ツクヨミが起きてしまった。

「お、おはよう。なぜ俺のベッドで?」

「あ……幸くんをベッドで寝かせたらなんだか暖かそうだなあって……そしたら、ね」

「ねって……」

「め、迷惑だったかな?」

「あの、実は……」

 起きた際にツクヨミの胸を触ってしまったことを話す。

 すると、ツクヨミの顔がみるみる赤くなっていく。

「ゆ、幸くんっ」

「ほんとごめん!ツクヨミがいたって気づかなくて……」

「そ、その……私が勝手にここで寝ちゃったことが原因だし、触っちゃったことに関しては秘密にしておいて!」

「ひ、秘密……?」

「幸くんが私の胸を触ったことは、私と幸くんの秘密っ!」

 何そのやらしい秘密。

 え、ちょっとドキドキするんだけど……。

「む、胸を触るだなんて、恋人がすることなんだからっ」

「ご、ごめんなさい」

「本当に秘密だよ?姉さんにもね」

「は、はい」

 

 多々良に連絡をすると、今日は学校を休むと来た。

 やっぱり発情期だったのね。

 じゃあ今日は俺だけで登校か。

「そんじゃ、行ってきます」

「はーい行ってらっしゃい」

「幸さん、行ってらっしゃい」

「幸くん、行ってらっしゃい!」

 母さんとウズメとツクヨミが見送ってくれる。

 神さま2人が見送りとな、すげえ光景だ。

「……」

 右手には、まだツクヨミの胸の感触が残っている。

 ……やばい、勝手に思い出してしまう。

「どうしたの佐倉、そんな変な顔して」

「うおっ」

 上空から姫川が降りてきた。

 姫川が来るときっていつも高いところからジャンプしてるのかっていうくらいの勢いで降りてくるから驚くんだよな……。

「おはよう」

「おう、おはよう」

「それで、どうしたの?というか、多々良は?」

「ああ、発情期に入ったみたいでな」

「そっか。じゃあ今日は佐倉と2人で登校だ」

 姫川の声のトーンが上がる。

 2人で登校したかったのかな?

 ……したかったんだよな。

「多々良は大丈夫なの?」

「まあ大丈夫だろ、発情期は毎月のことだしな」

「そっか、じゃあ行こう」

 姫川が歩き出す。

「最近、学校に歩いていくことが多くなった」

「俺らと一緒に登校してるもんな」

「鳥人は他の人より足を使う機会が少ないから、足腰を鍛えるのはいいのかもしれない」

「それは走ったり登山したりするってことか?」

「……それは難しいかも」

 鳥人は足腰あまり強くないからな、仕方ないな。

「まあ、歩く程度でちょうどいいのかも。これからも一緒に登校してもいい?」

「断る理由がないだろ。姫川が来たいんならいつでも来ていいよ」

「よかった」

 表情は変わらないが、何となくうれしそうな姫川。

「で、なんでさっき顔が赤かったの?」

「い、いや、それは……」

 ツクヨミとのことは秘密だ。

 ツクヨミと約束したからな。

 さて、なんて言おう。

 正直右手にはまだツクヨミの……。

「あ、発情した多々良に誘われたってことね」

 困っていたところに、聞いてきた本人から助け舟が出された。

 ナイス姫川!

「そ、そういうこと」

「ふふ、多々良もいけない子だね」

「発情を理由に俺にキスしてきたやつがいたような気がするんだけど」

「じゃあ今ここでしてあげようか?」

「やめてください」

 姫川は積極的だなあ……。


「おう、佐倉おはよ」

「おはよー」

「おう、秋川、佐々木おはよう」

 教室に入ると、秋川が俺の席に座って佐々木と話していた。

「あれ、倉持いなくね?いつも俺らより先に来てるのに」

「それを言うならいつも佐倉と一緒にいる多々良がいねえぞ?」

 あ、確かにそうだな。

「多々良はまあ発情期だな、昨日の夜なってたわ」

「倉持も発情期に入ったから今日は休みだ」

 あらあら、猫人組は発情期でお休みですか。

「俺もそろそろしたら来そうだし休むと思うわ」

「おう、了解」

「俺はあと半月くらいかなー」

「そっかそっか」

 人間には発情期がないから若干分からない。

 昨日多々良に触りたいってなったあの感じがずっと続く感じなのかな?

 聞いてみるか。

「発情期に入るとどんな感じになるんだ?」

「おいおい、ここでそんなことを言わせる気かい?」

「やっぱり佐倉は頭が変態だね」

「なんだとこの野郎」

 聞いちゃダメな感じなやつか。

「まあそれに関しては今日の放課後にでも教えてやるからよ、3人でどっか行こうぜ」

「いいねー!」

「お、おう、分かった」

 今までそんなに気にしてなかったけど、やっぱり亜人は周りに多いわけだし、発情期への理解って大切だよな。

「さてさて、変態佐倉くんは何を知りたいんだい?」

「結局今聞くのかよ」

「答えるとは言ってないだろ」

「どういうことですかね……」

「適当に言ってるだけだよ」

「何このなんも実のない会話」

「さあね」

 こいつただ俺を変態扱いしたいだけだろ。

「はーい、みなさんおはようございますー。あら、今日はお休みの方が多いですねー?」

 木晴(こはる)先生が教室に入ってきた。

 先生の言葉で気づいたが、確かに今日は休みが多い。

 現時点で6人休んでいる。

 これがもし全員インフルエンザなら学級閉鎖の危機だ。

 でも知ってる。

 これきっと全員発情期なんだろうな。

 亜人ってのは大変ですね。

「男の発情期とか怖えな。ただムラムラしてる男なだけじゃんか」

「身もふたもない言い方をするとそうなるな。人間にはないんだろ?」

「ないな。その代わり人間の女性にはめんどくさいこともあるけどな」

「そしたら人間の男だけずるいな」

「ずるいって言われてもな」

「佐倉くーん、佐々木くーん、今HR中なんですがー」

「ハイスミマセン!」

 木晴先生は基本的に笑顔なんだけどなんか怖いなー。


「なんかあれだな、多々良と倉持がいないと静かだな」

「確かにねー、俺らが騒ぐこともあまりないし」

「まああいつらがうるせえってわけでもないんだけどな」

 いつものメンバーのうちの2人が欠けるとやっぱり静かな感じだ。

「……そんなあなたたちの心の隙間をお埋めします」

 いつの間に入ってきたのか、姫川がいきなり現れた。

「あなたクラス違いますよね」

「うちも幼なじみ」

 なんか変なかっこいいポーズを取っている。

 でもあんまり羽を広げると邪魔よ。

「といってもね、多分姫川が来ても静かなのは変わらないと思うぞ」

「……じゃあうちが多々良の真似をすると」

「たぶん求められてないと思うぞ」

「そうだな、どっちかっつーとそんな姫川見たくねえ」

「キャラ崩壊ってやつだねえ」

「そんな、うちの存在意義」

「いやいや、いても意味がないとは言ってねえよ」

 いなければ物足りなく感じる場面もあるし。

「じゃあ今日はキャラ崩壊の日で」

「え、マジか」

「私は姫川綺月、花の女子高生」

 テンションを上げようとしているのか分からないが、結局声のトーンは変わらない。

「花感ないな」

 佐々木が鋭いツッコミを入れる。

「……ピッチピチの17歳」

「声にピチピチ感がないよ」

 秋川もツッコミを入れる。

「く、クラスのマドンナ」

 佐々木も秋川も姫川もこっちを見てくる。

 最後は俺にツッコめってか。

「最近やっとクラスに馴染めたのにマドンナも何もあるか」

「……うんまあ事実。クラスの人たちとちゃんと話せるようになったよ」

 もうキャラ崩壊も何もしてないですね。

「それってあれだよね、修学旅行の時に同じ班になった子たちだよね?」

「そうそう、今日もお昼一緒に食べるんだ」

「よかったねー!俺姫川がクラスの人たちと仲良くなれるか心配だったんだよー!」

 秋川が素直に喜ぶ。

「まあその、うちが勘違いしてたのが原因だから……」

「でもよかったじゃんか。クラスに馴染めるようになって」

「うん、でもあれだ」

「うん?」

「うちにとっての一番は多々良と佐倉達だから」

「うおお、直球だな」

 いきなりそんなことを言うもんでびっくりした。

 ほら、佐々木も秋川も驚いてるじゃんか。

「自分の思いを素直に伝えられるってのはいいと思うぞ」

「彼氏がこんなこと言われたらかわいいって言って抱きしめちゃうかもねー」

「……思ったよりもいい反応で驚いた」


「姫川、だいぶ変わったよな」

「ああ、前までとは大違いだ」

「俺はああいう姫川もいいと思うよー!あれならいつか彼氏もできそう」

「姫川に彼氏か……佐倉、どう思う?」

「あんまり想像できないな」

 俺の言葉に同意したのか、佐々木が頷きながら考えている。

「秋川はどうだ?」

「んー……佐倉以外の男の隣で笑う姫川は想像しにくいなー」

「なんで俺の話が出てくるんだよ。俺以外でも笑うだろ」

 ちょっと焦ったじゃねえか。

「でも佐倉の隣にいるときが一番笑ってない?」

「確かに、俺や秋川と一緒にいてもそんなに笑う感じしないもんな」

「いや、俺と一緒にいてもほとんど笑わないだろ」

 姫川の笑顔は激レアだからな。

「とはいっても、姫川はやっぱり佐倉のことが好きなんじゃないのー?」

「俺もそんな気がするけどな。佐倉、やるじゃんか」

「何がやるんだよ」

 姫川に告白されたことは内緒にしている。

 まあこいつらの言う通り、姫川が好いている人物は俺……だけど。

「もし姫川に彼氏ができたらみんなで祝福してやらないとな」

「でもあれだね、俺らと遊ぶことが減ると考えるとなんか寂しいねー」

「お、なんだなんだ?秋川は姫川のことが好きだったのかー!?」

「ちょ、やめてよ佐々木。いつも遊んでた子が急にいなくなったらそりゃ寂しいだろー!?」

 ……確かに寂しいかもしれない。

 付き合うことはできないって言ったのに誰かほかの人と付き合うことになったらそれはそれで寂しいとか、俺も考えることがゲスいな。

 どんなわがままだっつーの。


「お、あったあった、懐かしいなあここ」

 放課後、発情期のことを教わりに佐々木について行った。

 まあ人のいるところでは話しにくいことだし、どこで話すのかとは思っていたんだけど……。

「ずいぶんと懐かしいところだな」

「残ってるみたいでよかったじゃんか。またここをたまり場にでもしようぜ」

「へー、こんなところあったんだ~」

 秋川が物珍しそうにきょろきょろしている。

 俺たちがやってきたのは、山の中にある古びた会館だ。

 中学校の裏の山に大きな寺があって、その近くに誰も使っていないものがあるのだ。

「少しほこりくせーな。一応今度掃除でもするか?」

「まあ、もしかしたら俺ら以外に今後使う子たちがいるかもしれないからな、取り壊されるまでは未来の子たちのために掃除でもするか」

「なんか佐倉が急にいいこと言いだしたぞ」

「佐倉、面白いね~」

「うっせうっせ、今度多々良と姫川も連れて掃除しようぜ」

 小学生の頃は、よく俺と多々良と佐々木と姫川で集まってたもんだ。

 あの時は姫川とは距離感があったような気がしたけど。

 こういう場所はまたいつか子どもたちの秘密基地になるんだから、俺らが環境を整えてやるのも悪くない。

 多々良はまあ……見てるだけになるかもな。

「呼んだ?」

「「「ふぁっ!?」」」

 急に女の声がして、俺たちは飛び上がった。

 声がした方を見ると、入り口に姫川が立っていた。

「よ、よう姫川。なんでここに?」

「みんながうちを置いて帰ろうとするから空から尾行してた」

「それはすまんかったな、だがこっからは男の時間だぜ?」

「エロ本でも見るの?」

「ケロッとした顔でエロ本とか言い出すもんなあこいつは……」

 佐々木があきれ顔になる。

 姫川はそういう話にむしろ乗っかってくるタイプだからな。

「なんか佐倉が亜人の発情期について教えてくれってさ~」

「そうなんだ?」

「ああ、まあ、俺は人間だからそこら辺についてはよく分からなくてな」

「……そういうことなら、別に男の時間じゃなくてもいい。うちにだって教えられることはある」

 そういって、姫川が俺たちの座っているところに一緒に座った。

 ……あぐらをかいて。

「俺らは気にしねえけどさ、男の前であぐらはやめておいた方がいいと思うぞ……」

 またもやあきれ顔になる佐々木。

 それに対して姫川はきょとんとした顔になった。

「タイツ履いてるし、スカートの中は見えないようになってるよ」

「パンツは見えてねえけどスカートの中は見えてんだろうよ……」

「うちはあまり気にしないかな。スカート穿いててタイツを履かないってことはないし」

 なんというかね、別にパンツが見えてなくてもそこが見えるってだけで男子は目が行ってしまうと思うんですよね。

「まあまあ、俺らの前ではいいけど、他の男の前ではしない方がいいと思うよ~?」

 秋川は特に気にしていないらしい。

「佐倉、どう思う?」

 なんで俺に聞いてくるかな。

「まあ、秋川に同意で」

「そっか」

 そういって、あぐらのまま片膝を立てる姫川。

 おい……。

「この態勢が一番楽」

「襲われても文句言えんぞ……」

「え、うち、男3人に?」

「やらんわ」

 やめろ、ちょっと想像しちまっただろ。

「あ、いつも通り佐倉がスケベな顔してる~」

「うっせ」

「まあ姫川はこんな感じだしいいか。本題に入ろうぜ」


「そんで、発情期について何が知りたいんだ?」

「まず、なったらどうなるんだ?」

「まあ多々良のことも見てると思うし知ってるとは思うが、基本的にムラムラした状態が続くんだ」

「大体3日ぐらい?」

「んー、そんなもんかな?」

 3日間ムラムラが続くとかきついな。

「佐々木とか秋川はどう対処してるんだ?」

「それを聞いちゃうのか?」

「えっ?」

「まあ、対処は人それぞれだよね~。俺は身体動かしたりしてるかな」

 運動も効果があるのか。

 そして全員の視線が姫川へと向く。

「……うちは基本的に発情がおさまるまで1日しかかからないから、部屋を暗くして休んでる」

「そうなのか」

「それでもおさまらない時は、夜に誰かの家に行く」

「「……あー」」

 佐々木と秋川が反応した。

 そういえば俺の家に来たこともあったな。

 ……キスされたんだっけか。

「鳥人は他の亜人と違ってそこまで発情が強くないから、襲うとかそういうのじゃなくて異性と話してるだけでもいいみたい」

「だからいきなり俺の家に来たことがあったのか」

「佐々木の家にも行ったことあったんだ?俺の家に来たこともあったよね~」

「佐倉の家に行ったこともあったね」

「そ、そうだな」

「あれ、なんで佐倉赤くなってんの~?」

「い、いや、なんでもないって」

「ほんとに~?」

 姫川もニヤニヤしながらこっちを見ている。

 おのれ表情まで変えやがって。

「あと、発情期の女性からは男性を発情させるフェロモンが出る。だから、発情期の女性と一緒にいると男性は発情するから気を付けて」

「あー……」

 思い当たることがありすぎる。

 というか昨日ありましたね。

 まあその話はツクヨミから聞いたことあるけど。

「まああとは食欲がなくなるとか、落ち着かなくなるとかだな。多々良もそんな感じじゃないのか?」

「どうだったかな……」

 まあ落ち着かなくなるのは分かるけど、食欲は分からんな。

 というか多々良はぐでっとしてる印象だな。

「あと誰かが近くにいるとすり寄りたくなるな~」

「そういえばすり寄ってくるわ」

「おー、俺らの知らねえ多々良だな」

「まあでも発情期の亜人って大体同じ感じじゃなーい?」

「うちはそんなでもないけど」

 さっきの話から考えると、鳥人は発情の度合いがそこまで強くないということだろう。

「じゃあ佐々木も秋川も女の子がいたらすり寄りたくなる感じなのか?」

「いや、俺は何というか襲い掛かりたくなるから女の子には会わないようにしてる」

「この前街行く女の子には襲い掛からねえよみたいなこと言ってなかった?」

「そりゃおめー、街行く女の子には襲い掛からねえよ?でも俺の部屋にいたらやばいじゃん?」

「じゃあこの前うちと一緒に歩いてた時は?」

「……うん」

 おい佐々木。

「いやまあ、俺の部屋には来ないでくれよ?」

「そう」

「さすが狼~!」

「ああ、発情期の狼は怖いぜえ?」

 リアル狼が送り狼と混ざってやがる。

「まあ、佐倉も発情期の多々良に当てられて狼にならないようにね」

「お、おうもちろんだぜ」

「うちならいつでもいいから」

「何言ってんだアンタ!?」

「姫川、その発言はあぶねえぞ……?」

「やっぱり男3人に……」

「やらねっつの」

「あ、佐倉がまた赤くなってる~」


「ただいま~」

「幸さん、お帰りなさい」

「おう」

 ウズメが出迎えてくれた。

 うん、やっぱりこんな感じに普通に出迎えてくれるならいいんだけどなあ。

「幸さん、先ほど多々良さんから電話がありましたよ」

「え、電話の方?ケータイじゃなくて?」

「そうですね、私が電話に出たら驚かれていましたよ」

 寝ぼけてんのかあいつは。

「幸さんに伝言があると言っていましたよ」

「ああ、どうせいつものことだから大丈夫」

「では今から多々良さんのところへ行くのですか?」

「そうだな、ちょっと行ってくるわ」

「では荷物を幸さんの部屋に置いておきますね」

 ……なんか今日のウズメはやけに気が利くな?

 ウズメがいつもこの感じならすげえいいんだけど。

「んじゃちょっと行ってくるわ」

「はい。たまには私と遊んでくれてもいいんですよ?」

「ウズメと遊ぶって何するんだよ」

「私は幸さんとお話ししているだけで楽しいです」

「んじゃ、気が向いたらな」

 家を出てすぐ隣の家へ行く。

 インターホンを押すと、多々良の母さんが出てきた。

「あら幸くんいらっしゃい。多々良に呼ばれたのかにゃ?」

「あ、はい、そうっすね」

「発情期ににゃるとあの子も寂しがり屋ににゃるからねえ……」

 秋川もすり寄りたくなるとか言ってたもんな。

 寂しがり屋ってのは人肌恋しくなるってことか。

「手出すのはダメだからね?」

「だ、大丈夫です」

 家に上がり、多々良の部屋へ向かう。

「多々良ー、来たぞー?」

『あ、ユキちゃん!待ってたよ~!入って入って!』

 多々良の部屋の扉を開ける。

 そして目に飛び込んできたのは……。

「いらっしゃい!」

「おう……服着ろ!!」

 半裸の多々良だった。

 背中を向けていたことが救いだったかもしれない。

 あとまだフェロモンに当てられていないこと。

「あついんだもん」

「服着なきゃ俺は帰る」

「やだー」

 しぶしぶ多々良が動く。

 下着をつけて、薄い服を一枚着ようとする。

 ……が。

「どうした?」

「ファスニャーが……上がらにゃい」

「ええ?」

「ゆ、ユキちゃん、手伝って……」

 多々良ってそんなに身体硬かったっけ。

 とりあえず言われた通りファスナーを上げようとする……が。

「確かに上がらない」

「う、うう~、きつい」

 ……そういうことか。

「あの、多々良さん?」

「にゃに?」

「たぶんこの服もう着れないと思うよ」

「え……」

 この服は多々良が発情期になるたびに着る服だ。

 それなりに薄いしほぼノースリーブみたいなもんなんだが……。

「えっと……にゃんで?」

「ファスナーが上がらない時点でなんとなく察してくれない?」

 俺からありのまま伝えてあげてもいいんだけどさ。

 まあ理由は多々良のおっぱいが成長したからだ。

「じゃあたたらはにゃんの服を着ればいいのさ……」

「服ならいっぱいあるだろ」

「あついんだってー……」

 そんなに体温が上がるもんなのか?

「ユキちゃ~ん……」

 あついって言ってるのにくっついてきた!

 俺の足に多々良のおっぱいが押し付けられる。

 こいついつも恥ずかしがるくせにこういう時は全く気にしない。

 それが発情期ってもんか。

「あついんじゃないのか?」

「あつくてもいいの~」

 そのまま押し倒され、胸に頬ずりをしてくる多々良。

 くそっ、発情期ってのは凶悪だぜ……!

 というかさっき姫川にも聞いたし自制はしてるつもりなんだが……。

「……ユキちゃん?」

「なんだい?」

「えへへ~、顔赤いよ~」

「くうっ……!」

 多々良にこうもくっつかれると、また触りたくなってくる。

 ……頭なでるくらいならいいかな。

「んっ……ユキちゃん、にゃんか優しいねえ」

「……」

 た、多々良に触ってるぞ……。

 その事実が、俺を興奮させる。

 もしかして、触れちゃいけなかったんだろうか。

「ごめん多々良、ちょっと水飲んで来るわ」

「えー……早く戻ってきてね?」

「お、おう」

 多々良の部屋を出て、キッチンに向かう。

 ちょうど、多々良の母さんが夕飯の準備をしているところだった。

「あら幸くん、顔が赤いよ?」

「まあ、ちょっと……」

「発情期の(おんにゃ)の子を相手にしてるんだから仕方にゃいよね、冷蔵庫にサイダーあるから飲んでいいよ」

「ありがとうございます」

「もし危なかったら、帰っちゃってもいいからね」

「まだ大丈夫です」

「そう、多々良も喜ぶね」

 もらったサイダーをぐっとあおり……

「げっほげっほ!!があぁぁぁぁ!!」

「幸くん!?にゃんでサイダー一気に飲んでるの!?」


「戻ったぞー」

「おかえりー」

 床に身体を付けたままずりずりと這い寄ってくる多々良。

 掃除機かお前は。

「汚れるぞ」

「体操着なんて汚れるもんでしょー……」

「そういうのは砂埃(すなぼこり)か汗で汚れるもんだ」

 多々良の身体を起こし、動きを止める。

「あー……にゃんかこのままユキちゃんにぎゅっとされていたい気分……」

「彼氏か俺は」

 (ほだ)されないようになるべく毅然とした態度で接する。

 これが一番いいのかもしれない。

「彼氏じゃにゃいけどぉ~……」

 やっぱ発情期ってのは強烈なんだな。

 倉持はどうしてるんだろう?

「にゃ……眠くにゃってきた」

「いきなりかよ。じゃあ俺帰るか?」

「……ユキちゃんと一緒に寝たい」

 なんというか、それはまずいのでは。

 一緒に寝るということは……そうね。

「それはできん」

「にゃんでよ~……」

「俺もいろいろ我慢してるの。寝るまでは一緒にいてやるからそれで勘弁してくれ」

「……寝るまでは一緒にいてよー?」

「それは約束するから」

 眠いというのなら多々良が喜ぶことをしてやろう。

「横になってて」

「にゃにするのー?」

「気持ちいいこと」

「……にゃ」

 多々良の腰に手を添える。

「ゆ、ユキちゃん?」

 多々良の目が、期待の色に変わる。

「やるぞー」

「えっ、えっ、ユキちゃん?」

 腰より少し下―――尻までいかないあたり、しっぽの付け根の部分。

 そこを優しくとんとん、と叩く。

「にゃっ……あっ、ふぁぁ……」

 声がやたらエロいけど、ここは我慢。

 別にこれはエロいことをしているわけじゃない。

 猫人的にはここに刺激を加えられるのは気持ちがいいらしい。

 決して性的なものじゃなく。

「どうだ?」

「うん……うん、気持ちいいよ、んっ」

「……」

 頭を振りながら多々良の腰を刺激する。

 よし、このまま俺がおかしくなる前に寝ちゃってくれ。

「ん~~~……ふわぁぁ……」

「寝れそうか?」

「うん……んぅ」

 なんか……喉渇くな。

 あとでサイダー買って帰ろう。

「ん……すぅ……」

 寝たかな?

 まあすぐやめると起きちゃうかもしれないし、もうちょっとだけ。

 うん、声はエロいけどこれは効果的だな。

 決していやらしいことじゃないのでね。

 ……しっぽが立ってるってことはまだ寝てないな。

 にしてもなんだ、寝そうな多々良を見てると、こう……。

「……はっ」

 やべ、寝てしまった。

 辺りはすでに真っ暗になっている。

 ケータイを確認すると、時刻は11時半。

 そっと出て行かなきゃ。

「……ぐっ」

 部屋が暗くてよく分からなかったが、これは多々良にしがみつかれている。

 しかも二の腕に押し付けられている感触からして、これはアレだ。

 もう何も考えまい。

「じゃ、じゃあな、多々良」

 小声で挨拶をして部屋から出て行く。

 下の階へ向かうと、リビングに明かりがついていた。

 この時間ってことは、多々良の父さんかな?

 しばらく会ってないな。

「……幸くん?」

 多々良の母さんだった。

「……はい」

「ずいぶん遅かったじゃにゃい、にゃにかあった?」

「いや、どちらかというと何もなくて……」

「そう、ほっぺのとこ、しわににゃってるよ。もう遅いんだから早く帰りにゃさい」

「はい、お邪魔しました」

「多々良のこと、ありがとね」

 寝てたことがばれていました。

「幸さんお帰りなさい、遅かったですね?」

 家に帰ると、ウズメが出迎えてくれた。

「ああ、多々良の部屋で寝ちまってな」

「そうだったのですか、お父様とお母様はすでにお休みになられていますので、お静かにお願いします」

「おう」

 やっぱウズメは普通にしてくれればそれで問題ないと思うな。

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