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第34話 入りました

 というわけで。

「じゃあ入るかー!」

 佐々木が意気揚々に店に入っていく。

「僕はあまり(にゃが)く入れにゃいぞ」

「俺と一緒に早めに上がろうねー」

 倉持が渋々、秋川はニコニコしながら店に入る。

「佐倉、うちが背中流してあげようか?」

「男湯に入ってこれねえだろ」

「別に今日とは言ってない」

「……遠慮しておきます」

「そう」

「あ、綺月(きづき)待ってー」

 多々良が姫川を追いかけながら店に入っていく。

「まさか今日言って今日来るとはな……」

 俺たちは銭湯にやってきました。

 昼に誘った結果、寒くなってきたから行きたい、そして俺が汗臭いという話になり、なんとその日のうちに行くことになった。

「佐倉?早く来いよー!」

「おう、今行く」

 まあ寒いことは確かなので、早く風呂に入りたい。

「みんなと風呂に入るのは久しぶりな気がしないな」

「そりゃ佐々木、この前僕たちは温泉に入ったじゃにゃいか」

「そういえばそうだったな!」

「じゃあまたあとでねー!」

「おう、またあとで」

 多々良や姫川と別れ、男湯に入っていく。

「佐倉、でかくなった?」

「知らんわ」

 男同士で銭湯とか行くと絶対その話始まるよな。

「そういえば秋川は明らかに大きくなったよな?」

「え、そう?どうかなー」

 ……まあ確かに、秋川は大きい。

 身長もね。

「倉持、タオル巻いちゃダメだろ」

「そうは言ってもにゃ……」

 身長的にもあれも自信がない倉持。

 大丈夫、いろんな人がいるから。

 亜人なんて体格はほんとそれぞれだから。

「ほら、風呂にタオル巻いてる人はいないぞ。修学旅行の時も巻いてなかったじゃんか」

「ま、まあにゃ……」

 しぶしぶタオルを外した倉持と一緒に、みんなで風呂場に入っていく。

「やっぱここでかいなー!」

「身体流そーっ」

 まず体を洗いに行く。

 体を清めないとね。

「秋川、身体洗ってやろうか?」

「えー、女の子なら嬉しいけどなあ」

 秋川の髪の毛、やわらかいから触りたかったんだよなあ。

 秋川の濡れた髪の毛のやわらかさはマジだ。

「ちなみにあれか、好きな女の人とは風呂に入ったりしたのか?」

「いやいや、まだ付き合ってもいないって」

「まだってことはアタックするつもりかー!?」

 触りたかったので秋川の髪の毛を洗ってやる。

「佐倉、ホモに見えにゃいこともにゃいぞ」

 うるさい。

「じゃあ俺は倉持の頭でも洗ってやるか」

「にゃんでこうにゃるんだ……?」

 男同士で髪を洗うこの状況。

 まあいいか。

「よし、身体は自分で洗ってくれよな」

「背中を流そうとしたらさすがに拒否るよ」

 今度は秋川が俺の髪を洗い始めた。

「佐々木、もうちょっと頭を下げてくれにゃいか」

「このくらいか?」

「……アレ別に頭下げなくてもよくね?」

「いやいや、佐々木が頭下げなきゃ倉持のアレ当たるよ」

「……ああそっか」

 身体を流し、風呂に浸かる。

「倉持ー?」

「あ、熱くにゃいよにゃ?」

 しっぽの先で湯にをつつく倉持。

「全然大丈夫だってー」

「秋川、お前はやばくなる前に上がっとけよ」

「大丈夫~、倉持と一緒に上がれば問題ないからー」

 秋川がフニャフニャな笑顔で肩まで風呂に浸かる。

「あー、寒いところからの風呂はいいな~」

 佐々木も肩まで風呂に浸かる。

 あー、気持ちいい。

「やっぱ風呂はいいよなあ」

「だなあ」

「ここの銭湯面白いよな」

「確かになー」

 でかいジェットバス、そしてお湯が上に上がっていくように見える打たせ湯。

 ちなみに結構威力が高いので肩に効く……ような気がする。

「ジェットバスいいよねえ~~~~」

 秋川がすでにあごの方まで浸かり、ジェットバスに揺られている。

 倉持は身長が低いので、ちょっと床が高いところに入っている。

「倉持ー?」

「ん……大丈夫だぞー」

 倉持が赤い顔で湯船に浸かっている。

「のぼせないうちに上がっとけよー」

「最近は少し長めに入るようにしてる……まあ、あんまり長くにゃいけど」

「秋川が大変なことにならないうちに頼むぜ」

「僕は秋川の世話役じゃにゃいぞ……秋川ー?」

「まだ大丈夫だよー」

 のぼせてはいなさそうだし、まだ平気そうだ。

「俺ちょっと肩でも打たれてくるわ」

「おう、行ってらー……んじゃ俺は倉持と秋川を見てようかね」

 こいつらは簡単にのぼせるからな。

「しっぽ掴んでいい?」

「やめろ」

「耳に水入れようか?」

「ほんとにやめろ」

「じゃあ秋川、髪の毛結んでいい?」

「え、さすがにそれはめんどくさいなー」

「にしても本当にやわらかいよなぁ~~~」

「ボルゾイの毛はいいぞ~~~……」

 俺はそこまで髪の毛がやわらかくないからなあ。

「佐倉、髪の毛伸ばすの?」

「ん……あ~、そういや長くなってきたな……」

「先生に怒られちゃうぞー?」

「たまには短くするか……?」

「そういえば短髪の佐倉は見たことにゃいにゃ」

「短いと高確率で寝癖がすごくなるからな」

 俺は基本的に横向いて寝ちゃうからな。

 ひどい時は寝ぐせがネコミミみたいになるんだよ。

「短くはないけど先生たちには怒られないくらいの長さを維持してるよね」

「まあ、佐倉には似合う長さだと思うけどにゃ」

「そういってもらえると嬉しいぜ」

「倉持、あんまり褒めると佐倉が調子に乗っちゃうからダメだよ」

「乗らねえよ」

 俺はそんなナルシストとかそういうのじゃないんだ。

「僕たちはそろそろ上がろうかにゃ」

「そうだねー……俺もそろそろ……」

 秋川の顔がだいぶ赤くなっている。

 確かにそろそろ上がった方がいいかもな。

「じゃあ、僕たちはにゃんか飲みにゃがら待ってるぞー」

「おーう」

 ふらつく秋川を倉持が支えながら出て行く。

 秋川、ちょっと長めだったかな……?

「お、倉持と秋川は上がったのか」

「上がったな」

「よし、じゃあやるか」

「ああ、いいぜ」

 佐々木が打たせ湯から戻ってきた。

「勝負だ佐倉」

 佐々木と一緒にサウナに入る。

 ここに来ると毎回やること。

 それは佐々木とのサウナ耐久勝負だ。

「今日は負けないぞ」

 毎回どっこいどっこいだけど、まあ倒れない程度に負けないぞ。

 いや、倒れない程度なら多分勝てないかな。

「同じようなことしてるような人たちがいっぱいいるぜ」

 周りを見ると、確かにそうだ。

「今回はアンタには負けんぞ!」

「ワシだって負けんぞぉ!?」

 おじいさんペアが我慢勝負をしている。

 死なない程度に頑張ってください。

「なんかここはミストサウナってところがおしゃれだよな」

「普通のサウナよりもいろいろよさそうな感じがするな」

 発汗作用とか考えると普通のサウナとミストサウナでどっちがいいのかは知らないけど。

「ん~、あっち……」

 結構汗が出てきた。

「なんだ佐倉?もうギブアップか?」

「そんなわけねーだろ。まだまだこれからだぜ」

 さて、どんくらい我慢できるかな?

 大丈夫、風呂入る前にちゃんと水分補給もしてきたぜ。

「おい佐倉?体がテカテカしてるぜ?」

「ミストのせいだよ。そういう佐々木も汗でヌルヌルしてんじゃねえの?」

「何言ってんだ、俺もミストだっつの」

 汗がどんどん流れていく。

 さて、こっからだぞ。

 あのおじいちゃんたちは黙って熱を耐えている。

 し、死なないでくださいね?


 ……どのくらい経っただろうか。

 んー、まだ10分くらいかな?

 ここからが我慢のしどころだけど……。

「ん、すまん佐倉、俺の負けだ」

 佐々木がいきなり負け宣言をしてきた。

「あれ、どした?」

「いや、よく考えたら俺学校終わったあたりから何も飲んでなくてな」

「あ、そりゃあぶねえな」

「おう、というわけでまた今度だな」

「次も負けねえよ?」

「言ってろ」

 

 Side 多々良

「ん~~~…………」

 やっぱりお風呂ってそんなに……。

 で、でも女の子だし……。

 身体はキレイにしないと……だよね。

 やっぱり綺月はスタイルいいなあ。

 多々良ももうちょっと身長がほしいなあ。

 ユキちゃんと40㎝以上も違うからなあ。

 ……ていうか、綺月はユキちゃんに告白したんだよね。

 告白かあ……。

「多々良が肩までお風呂に浸かってるの、珍しいね」

「ま、まあね」

「何か言われたの?」

「まあほら……たたら普段お風呂短いからさ」

「汚いって言われた?」

「そんにゃストレートに言われてにゃいよ!!」

「それっぽいこと言われたんだ」

 言われたっていうよりちょっと自分で気にしちゃったっていうか……。

 さすがにユキちゃんに汚いとかは思われたくないし……。

「ふふ、多々良がすっぽり入る」

 綺月に身体を預けると、綺月にすっぽり収まってしまった。

 さすが綺月、これは落ち着くね。

「……えい」

「にゃああ!?」

 いきなり綺月におっぱいを揉まれた。

「にゃ、にゃにするの!?」

「やっぱり多々良は大きい。うらやましい」

「だ、だからって急に!」

「……許可取ればいいの?」

「い、いや……」

 びっくりしちゃうよね。

「ねえ多々良」

「ど、どうしたの?」

「……うち、佐倉に告白したよ」

「…………うん、知ってるよ」

 知ってるけど、急にその話になるとは……それこそ、びっくりしちゃうよ。

「綺月、ユキちゃんのこと好きだったんだ?」

「……いつの間にか、ね。一緒にいたいって思うようになったから告白した」

「そうにゃんだ」

「うん、思った次の日に」

「相変わらず行動が早いね……」

 綺月は思い立ったら割とすぐに行動するタイプだ。

「うちは鳥だからね。やるかどうか悩んでいたら、すぐに忘れちゃう」

「綺月、そこまで頭悪くにゃいでしょ」

「ううん、悪いよ。直球でしかものを言えないし、行動も一直線だし、あきらめも悪い」

「……うん?」

「うち、佐倉には振られちゃったけど、まだあきらめてない」

「……そっか」

 まあ確かに綺月の言葉はだいぶ直球なところがあるけども。

 あきらめてないってことは、綺月からのメールでもうわかっている。

 綺月、あきらめられないくらいにユキちゃんのことが好きなんだね。

「でも、佐倉はずっと好きな人がいるみたい」

「そ、そうにゃの?」

 ユキちゃん、好きな人やっぱりいるんだ。

「ふふふ……」

「え、(にゃに)その反応」

「……なんでもない。ともかく、佐倉に好きな人がいても、うちはうちでアタックして佐倉を振り向かせたい。だからうち、あきらめないよ」

「う、うん、応援してる」

「多々良も、もたもたしてると佐倉を取られちゃうかもよ?」

「べ、別にユキちゃんはたたらの彼氏とかそーゆーのじゃにゃいし……」

「そっか」

「そ、そうだよ」

「じゃあうちはそんなかわいい多々良の胸を堪能する」

「にゃんでそうにゃるのー!?」


 Side 幸

「お、佐倉と佐々木が出てきた」

「今回は早かったんだにゃ」

 風呂場の外で、秋川と倉持が待っていた。

「おう、佐々木が早いうちにギブアップしてな」

「俺が弱かったみたいに言うなよ。次は負けねーし」

「早く水飲んどけよ」

「そうだな」

 佐々木が自販機に向かう。

「佐倉も水飲んどいたほうがいいぞ?

「バッグの中に入ってる」

 バッグからペットボトルを取り出し、水を飲む。

 あー、風呂上がりの一杯は最高だね!

 いつかはこれを酒でやるようになるんだろうか。

 どうだろう、俺飲めなさそう。

「多々良と姫川は?」

「まだ出てきてないかな」

「……え、多々良が?」

「あー……確かに遅いね」

 いつもは秋川や倉持とほぼ同じ時間に出てくるのに。

 のぼせたりしてないかな。

「佐倉」

 そんなことを思っていたら、姫川が出てきた。

 ……多々良を抱えて。

 ですよねー。

 ここの銭湯は食事処も休憩所もあるので、多々良を休憩所に運ぶ。

「多々良ー、大丈夫かー?」

「……」

 しっぽがぴゅんと動いた。

 返事するのはめんどくさいらしい。

「なんでこんなに長く入ってたんだ?」

「……」

 多々良が何も言わないかわりに、隣にいた姫川が口を開いた。

「多々良が、佐倉にき―――」

「違うから!!綺月がたたらでずっと遊んでただけだから!!」

 姫川が何かを言おうとした瞬間に、多々良がすごい勢いで起き上がった。

 そのままふらついて、畳の上に倒れる。

「あんまり急に動くなって」

「だって……」

「姫川、多々良で遊んでたの?」

「……多々良の胸揉んでた」

「何してんの!?」

 姫川の衝撃的な言葉に、俺含め全員が反応した。

「どうだった?」

「そこ聞くのかよ秋川」

「大きなマシュマロのような」

「言うのかよ姫川」

 マシュマロか……ふむ。

「おい、佐倉がスケベな顔してるぞ」

「やめろよ佐々木」

 だが、遠くにもっと真っ赤な顔をしているやつがいた。

「倉持みたいなやつのことをむっつりスケベというんだな」

「にゃんてことを言うんだ佐倉!」

 多分本当のことだと思うけど。

「綺月……恥ずかしいからやめてよ」

「姫川いないぞ」

「……このフリーダムめ」

 多々良がぼーっとした顔で言った。

 姫川は何をしているのかというと、アイスを買っていた。

 3つも。

「それ全部自分で食うんだよな?」

「当たり前」

「ほんと好きだなアイス……」

 確か持久走大会の時も大量に食ってなかったか。

「いつもだよ」

「いつもなの!?」

 毎日アイスを3つ以上食っていると……?

 これは糖尿病が心配ですね。

「僕も何か食べようかにゃ」

「んじゃ俺もー」

 倉持と秋川が食べ物を買いに行く。

「佐々木は何か食べんのか?」

「ん?」

 すでに佐々木はジャーキーを食っている途中だった。

「いつの間に買ったんですかね……」

「美味いぞ」

「いや、俺はいいや」

 とりあえず多々良を冷ましてやろう。

「多々良、水飲めるか?」

「ん……ちょーだい」

 横になっている多々良を起こし、水を飲ませてやる。

「……ぷはっ、ん、ユキちゃん、ありがとう」

「まだいるか?」

「んー、いいや」

 多々良をもう一度寝かせる。

「佐倉、それさっき飲んでたやつだよな?」

「……あ」

 佐々木に言われて気づく。

 さっき俺が飲んでたやつを思いっきり飲ませてしまいましたね。

「ま、まあ多々良がきつそうだし仕方ない」

「行動に迷いがなかったね、佐倉かっこいいじゃん」

「お、おう」

 姫川に褒められた……。

「夕飯の後に食べるにはちょっときつい量ものもしかなかったにゃ」

「倉持にはきついかもね~」

 倉持と秋川は結局何も食べなかったようだ。

「もうちょっと休んだら帰るか?」

「多々良次第だな」

「みんにゃ……ごめん」

「うちもずっと多々良で遊んでたからね、ごめんね」

 ……姫川がそれを言うと色々気にしちゃうな。

 姫川が多々良のを……ね。

 うん……うん。

「佐倉はスケベ」

 姫川が俺の顔を見て言った。

「ちょっと待ってくれ」

「大丈夫だ姫川、佐倉がスケベなのは周知の事実だからな」

「たたらも知ってるよ」

 や、やめてくれよ。

 仕方ないだろう、男子高校生なんだぞ?

「まあ、結構遅いしそろそろ帰るか?多々良なら佐倉が負ぶればいいわけだし」

「そうだにゃ、花丸(はにゃまる)さんのことは頼んだぞ、佐倉」

「別に多々良が死ぬわけじゃないからな?」

「じゃあまた来るかねー」

「うちも、また来たい」

「んじゃ次もみんなで来ようぜ!」

 多々良はいつも通り俺が面倒を見るということで、今日はお開きになった。

「また明日なー」

「じゃあーねー」

「そろそろ眠くにゃってきたにゃ……」

「またね」

「おう、また明日な」

 多々良を負ぶって帰る。

「ユキちゃんご……ありがとう」

「気にすんな」

 多分今ごめんって言おうとしただろう。

 俺は優しいからね、気にしませんよ。

「で、さっき姫川が言おうとしたことを隠そうとしてたよね?」

「……にゃ、にゃんでもにゃいよ?」

 明らかに動揺する多々良。

 隠したいことなんだろうか?

「もし問題ないなら教えてくれよ」

「……ま、まあいいけどさ」

「お、いいのか」

「にゃにそれ、聞きたいのか聞きたくにゃいのか分からにゃいよ」

「すまんすまん、聞くよ」

「そのさ、ユキちゃんに……」

 そのまま口ごもる多々良。

「どうした?」

「いや、その……」

「……どした?」

「あー!!言うよ!言う!ユキちゃんがたたらのお風呂が短いの気にしてたからユキちゃんに(きたにゃ)いとか思われたくにゃかったの!」

「……お、おう」

「にゃんにゃのさその反応!」

「じゃ、じゃあ今回多々良がのぼせたのは俺のせい、か……?」

「そ、そういうことじゃにゃいけど……!」

 そ、そうか、俺のことを気にしてか……。

「ごめんな?」

「いいの、多々良が自分で気ににゃったことだから……」

 お、俺のこと気にしてか……。

「ま、まあ多々良のことは汚いなんて思ってないからな、安心してくれよ」

「……うん」

「もう大丈夫なのか?」

「さっきよりはだいぶ楽ににゃったよ。ありがとね」

「おう、このまま部屋まで送ってやるぜ」

「やだ狼」

「俺のことそんな風に思ってるの!?」

 だいぶ心外なんだけども?!

「冗談だよ。優秀なお馬さんに送ってもらうね」

「馬扱いでしたか……」

 多々良を負ぶったまま家へ向かっていく。

「……ん、冷えてきたね」

「さすがにもうそろそろ冬だからなあ」

「じゃあお馬さん、早くー」

「はいはい、仰せのままに」

 少しだけペースアップ。

 しばらくして、多々良の家が見えてきた。

「もうすぐ着くぞ」

「うん」

 インターホンを押し、多々良の部屋まで行く。

「ほれ、部屋まで来たぞ」

「ありがとう!やっぱりユキちゃんは頼りににゃるね!」

「おう、そういってもらえると俺も嬉しいよ。じゃあ俺は帰るからな」

「え、帰るの?」

「え?」

「まあまあ、せっかく来たんだしもうちょっと一緒にいてよ」


 一緒にいてよ?

 それは何ですか……なんか、いいじゃないですか。

「な、何をすればいいんですかね?」

「にゃんで敬語……まあほら、一緒にいてって言ったんだから一緒にいてよ」

「い、一緒にいればいいんですかね?」

「うん、近くにいて~」

 近くに……近くにか。

「じゃあ……」

 多々良の隣に腰かける。

「ん~……」

 多々良がこちらに頭を預けてきた。

「ど、どした?」

「……こうしたいだけ」

 ど、どうしたんだ多々良!?

 これはデレ期突入か!?

「もしかしてあれか?発情期か?」

「いや、まだかにゃ。まあいいからさ、今は何も言わずに近くにいてよ」

 これはどう取ればいいんだ。

 まあ、多々良がそういうならいいか。


 何も話さずにこうしてからどのくらい時間が経っただろう。

「……にゃ」

 多々良が寝てしまった。

 え、どうすんのこれ、まだ続行? 

 いやダメというわけではないけども。

 布団に入っていたんなら寝るところなんだけどな。

 普通に床の上だからこのまま寝たら絶対に痛い。

 明日身体がバッキバキになるやつだ。

 まあ、もし多々良がずっとこのまま寝てたらバッキバキになるんだろうけど。

「寝られるのは困っちゃうぞー……?」

「ん……じゃあ、おふとんで……」

 多々良の布団は猫人用の丸っこいベッドみたいなやつだ。

 多々良が動く様子はない。

 ……運べということですね。

「今日は多々良が寝付いたら帰るぞー?」

「うん、分かった」

「というか、今日はどうしちゃったんだよ?」

「……ほんと、どうしちゃったんだろね」

 自分でも分からないということですね。

「よく分からにゃいけど……にゃーんか寂しくてね」

「寂しい?」

「うん……」

 ここはあれだろうか、今夜は俺が一晩中一緒にいてやるぜ的なことを言った方がいいのか。

「わがままに付き合ってもらっちゃってごめんね?」

「い、いや、俺は全然かまわないんだけどね?」

「じゃあ、もうちょっとだけ」

「お、おう……」

 明りを消した部屋の中、布団で横になる多々良を見守る。

 すると、多々良が腕を絡めてきた。

「……んぅ」

 寝ぼけているんだろうか。

「……にゃ」

 頭を撫でてみても、あまり反応がない。

 しかし腕は話してくれない。

 な、なんだ、なんか喉が渇いてきた。

 なんか、多々良が非常にエロく見える。

 しかもさっきから当たってるんですよ。

 ど、どうしよう、なんかいけない気分になってくる。

 もっと多々良に触りたいような……。

 ……いや、ちょっと待った。

 なんかこの感覚には覚えがあるぞ。

『発情期の亜人からは接触した人を興奮させるフェロモンが出てるからね……』

 いつだか、ツクヨミが言っていたことを思い出す。

 はっきり言って今俺は興奮している。

 多々良に触れたい。

 ただ、今までの経験から考えるとこれは多々良の発情期だ。

 多々良はまだって言ってたけど、これは確信的だ。

 そもそも今日の多々良はちょっと様子がおかしかったもんな。

 それなら俺がすることはただ一つ。

 ……俺の頭がおかしくなる前にお(いとま)しよう。

 すまん、多々良。


「ただいまー……」

「あ、幸くんお帰り」

 自分の部屋に戻ってくると、ツクヨミがいた。

「今日は外に出なくてもいいのか?」

「まあ、ね……」

「なんかあったのか?」

「ちょっとね、今は姉さんが外に出てるんだ」

「へえ、アマテラスがか?」

「うん、なんかオオクニヌシの気配が何とかって……」

 オオクニヌシ……ああ、あいつか。

 でも正直今ツクヨミがこの部屋にいるのもまずい。

 俺ね、今ちょっとあれなんだ。

 ……そうだ、ツクヨミに何とかしてもらおう。

「ツクヨミ、頼みたいことがあるんだけど」

「何かな?私にできることがあれば何でも言って!」

「あの、俺さっきまで発情期の多々良をね、相手にしてたんだよ」

「そうだったんだね……あ、そういうことね」

 俺の言ったことを汲んでくれたのか、ツクヨミが近づいてきた。

「じゃあ幸くん、そのベッドに横になってね」

「お願いします……」

 ベッドに横になると、目の上にツクヨミの手が置かれる。

 やっぱりツクヨミの手は温かい。

 というか、だんだんツクヨミに触れられているという現実に興奮してきた。

「はい、じゃあおーきく息吸ってね」

 辺りにいい香りがする。

 この前と同じ、落ち着く香りだ。

「はい、じゃあゆっくり息を吐いてね」

「ふー…………」

「うん、ちょっと落ち着いてきたね」

「ありがとう、助かったよ」

「えへへ、こんなのでよければいつでもしてあげるよ」

 嬉しそうに笑うツクヨミがかわいい。

「今日はこの後どうするんだ?」

「うーん、やることないし……幸くんのお部屋にいさせてもらおうかな」

「俺、夜は普通に寝るからね?」

「私が見守っててあげる」

 寝れるかな……。

「幸くん、今眠れるかどうか心配してるでしょ?」

「エスパーかよ」

「私だって神さまだからね」

 神すげえ……。

「じゃあ、そんな今夜眠れるかどうか心配な幸くんに私がいいことしてあげる」

「い、いいこと……!?」

 女の子にいいことと言われ、よからぬ妄想が脳内に浮かぶ。

「い、いいこととは言っても、今幸くんが考えてるような……え、えっちなことじゃないからね!」

「すみません」

 すでに考えていることを読まれておりました。

「で、何をするんだ?」

「まずは……私の膝に頭を乗せてね」

「はい?」

 それっていわゆる膝枕ってやつじゃ……。

「乗せてね♪」

 突如、自分の意識とは裏腹に体が動き出した。

 そのまま、ツクヨミの太ももに吸い込まれる。

 こいつも言霊使いか……。

「はい、幸くんいらっしゃーい」

「匂いを嗅いでも?」

「そ、それは恥ずかしいかな!」

「冗談だよ」

「も、もう……ひ、膝枕してるだけでも恥ずかしいのに」

「なんだって?」

「なっ、なんでもないよ!」

 ツクヨミの声が小さすぎて聞こえなかった。

 ちゃんと言ってくれないと伝わりませんよ。

 内容全く聞こえなかったけど。

「じゃあ、やるね」

「……俺、今から何されるか全く聞いてないんだけど」

「あ、ごめんね!今からするのはね、幸くんのお耳のマッサージだよ」

 耳のマッサージ。

 耳かきとかそういうのじゃないんだな。

「耳を揉んだり引っ張ったりするとね、いいマッサージ効果があるんだ。だから今からそれを幸くんにするの」

「おう、分かった」

「じゃあ、失礼します……」

 おずおずと、ツクヨミが俺の耳に触れる。

 ツクヨミの手は、さっきと同様に温かかった。

「まずは、耳全体を優しく揉んで……」

 ツクヨミの親指と人差し指が、俺の耳を揉む。

「痛くないかな?」

「全然、むしろ気持ちいいよ」

「えへへ、よかった」

 今度は耳を指で挟まれた。

 そしてそのまま、上下にさすっていく。

「次はこうやって、耳をいろんな方向に……びよーんって」

 指でつままれた耳が、いろいろな方向へ引っ張られる。

 痛くはないが……遊んでます?

「じゃあ、ここからちゃんとしたマッサージね」

「今までのはちゃんとしてなかったのかよ」

「ううん、今までのもちゃんとしたマッサージだよ」

 そういってツクヨミがつかんできたのは、耳たぶの部分。

「学校や家で勉強してくると、目が疲れてくるよね。ここのマッサージは、目の疲れにいいって言われてるんだ」

 耳たぶをマッサージすると目に効くっていうのはよく分からないけど、そういうもんなのか。

 ツクヨミの手つきはいたって優しく、それでいて気持ちいい。

 これは落ち着くな。

「次は、心を落ち着けるって言われてる場所……みんなは総称して耳っていうけど、ここは三角窩(さんかくか)っていうところなんだ」

「へー……」

 たまにそこら辺までピアスを開けている人を見る。

 アレ、すごく痛いって聞くけど……。

「だから、ここをいっぱい揉んで幸くんのことを落ち着かせてあげる……えっちなことを考えないようにね」

「か、考えてないですよ」

「ほんとかなあ」

 ツクヨミが(うたぐ)ってかかる。

 そして、その三角窩という部分を執拗に揉まれる。

 そんなに信用なりませんかね。

「はい、終わりね」

「ありがとう」

 なんだか耳がすっきりした気がする。

 耳かきをしたわけでもないのに、これはすごいや。

「じゃあ幸くん、反対向いてね?」

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