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第32話 バレました

「……何も言わずに買ってしまった」

 多々良と姫川が一緒に写っている写真。

 大丈夫かな、俺変態みたいじゃないかな。

 コンコン。

 扉……じゃなくて窓が叩かれた。

 外から?

 もう夜だしカーテンは閉めてるけど……ツクヨミが忘れ物か何かしたのかな?

 コンコン。

「はいはーい?」

 カーテンを開けるとそこにいたのは。

「遊びに来た」

 姫川だった。

「上がっていい?」

「ここまで来て追い返すのもひどいだろ。いいけど次からは連絡してくれよ?」

「……分かった」

 ウズメがこの部屋に来ませんように……。

「飲み物用意するからちょっと待っててくれよ」

「お構いなく。持ってきてる」

「用意良いな……」

 というか何しに来たんだ。

「……佐倉、この写真」

 姫川がテーブルの上に置いてある写真を覗き込む。

 それは、俺がこっそり買った多々良と姫川の写真だった。

「あっ……!それは」

「……佐倉、いくらなんでも夜にこの写真を一人で見てるっていうのは」

「……」

「まあ佐倉も男だし」

「盛大に勘違いしてるよな!?」

 やっぱり姫川はそういう系の話が好きなのか!?

「違うの?」

「違うわ……普通に、そこに写ってる姫川と多々良がかわいかったから買ったんだよ」

「あまりうれしくない」

 そういえば姫川はかわいいとか言われるの苦手なんだっけ。

「うちも同じ写真買った。あと、これも」

 そういって姫川が見せてきたのは、俺と姫川が写っている軍艦島での写真だった。

「俺もその写真買ったよ」

「デートの思い出。写真を見て気づいたけど、私が笑ってる写真は珍しい」

「自分で言うのかそれ」

「自分でも分かってる、あまり笑わない」

 そういって真顔を継続する姫川。

「じゃあ笑えばいいじゃんか」

「笑う表情ならいくらでも作れる。でもそうじゃなくて、こう……自然と笑う、とかそういうの、苦手」

「まあ昔から見てりゃそれは分かるんだけどな」

「だから、佐倉に協力してほしい」

「俺が?」

 何を協力するってんだ。

「佐倉はとある行動をとることで多々良が自然と笑うのを見たことがある」

「お、おう」

 そんなことあったっけか。 

 というか多々良って大体笑ってるような気がするんだ。

「だから、うちにもそれをやってほしい」

「具体的には」

「うちの頭を撫でてみて」

「はー……?」

 頭を撫でる。

 そんなの多々良以外にやったことはない。

 というか、なんだ。

 姫川相手でも恥ずかしいな。

 てか頭を撫でて多々良笑ってたっけ。

「前に多々良に聞いたことがある。多々良は『ユキちゃんに頭をにゃでられるとにゃんだかふわふわするんだ~』って言ってた」

「すっげえびっくりしたんだけど声真似上手だな」

「これでも鳥だから」

「インコとかなら分かるんだけど鷲の声真似は知らないな……」

「うちはそのふわふわってのを知りたい。佐倉にされるとそれを感じるのか、それともほかでもいいのか」

「ほか?」

「とりあえず、佐倉と佐々木と倉持と秋川にしてもらう予定」

「なんかアレだな、ワルい女って感じがするな」

 あの、男を手玉にとる的な。

 姫川にそんなことできると思えないけど。

「頭を撫でてもらうくらい問題ない。さあ」

 姫川が俺の目の前にぺたんと座り、頭を下げる。

 や、やるしかないのか。

「え、えっと、やるぞ」

「やりたければそのままもっと先にいってもいいよ」

「しません」

 ……きっと姫川は興味があるんだろう。

 そりゃ俺だってある。

 女の子だって性欲がないわけじゃないんだ。

 発情期とかすごいし。

「はやく」

「あ、す、すまん」

「んっ」

 ぽん、と姫川の頭に手を乗せる。

 姫川は声を上げたがそんな色っぽいものではなく、ただの反応といった感じだ。

「ど、どうだ?」

「続けて。撫でて」

 姫川に言われた通り、頭を撫でる。

「んっ、んん」

 髪の毛、案外やわらかいんだな。

 空を飛んで風を受けても姫川の髪って崩れてるイメージとかなかったから、ちょっと硬いのかなとか思ってた。

 真っ白な頭を撫でると、姫川の様子に変化が起こった。

「んふっ、ん、んん……」

 いつもより少しだけ声が嬉しそうな姫川。

 そして、どんどん近づいてくる頭。

「んふぅ~……」

 姫川が俺に身体を預け、胸に頭をこすりつけ始めた。

 何このマズい状況。

 姫川微妙に笑ってるし!

 ……なんかこの前見た夢を思い出すなあ。

 あの夢、もしあのまま俺が起きなかったら……。

「……んっ、佐倉?」

「えっ」

 自然と、姫川のことを抱き寄せていた。

「あっ……!す、すまん、これは!」

「……そ、そういうのはベッドで」

「違うっつってんだろ!!」

 気が動転し、右手で姫川の頭を撫で、左手で姫川の身体を抱きながら抗議する俺。

 冷静にならなかったのがいけなかった。

「幸さん?夜中に騒いでは……あら?」

 ノックもなしに、ウズメが部屋に入ってきた。

「これは……どういう状況ですか?」

「あ、あのっ、これは……」

「佐倉、この人は?」

「そ、それはだな……」

 そして大概にして悪いことってのは連続で起こるもんだ。

「忘れ物しちゃった……幸くん、入る―――え?」

 ツクヨミが窓から俺の部屋に入ってきた。

「……あ、この前の子」

「ゆ、幸くん?その子は……?」

 どうしよう、最悪の状況だ。

「幸くん……みんなに黙ってたんだね……」

 ツクヨミが早くも泣きそうな顔になる。

「幸さん、これは世間一般で言う浮気というものでよろしいですか?」

 ウズメが今まで見たこともないような冷たい目になる。

 アマテラスから今までの話を聞いたけど、こいつもしかして男が嫌いなんじゃないだろうか。

「佐倉?この人たちは?」

 姫川が顔を上げ、至近距離で聞いてくる。

 それこそ、少し顔を突き出せばお互いの唇が尽きそうなくらいの距離で。

 ―――うわ、こうして近くで見ると姫川も綺麗な顔してんな。

 ってそうじゃなくて!

 こういう時俺が取らなければいけない手段は……。

「……おやすみなさい」

 袋叩きにあった。


「幸さん、説明していただけますか」

 ウズメの表情が元に戻った。

 俺が布団にもぐって袋叩きにされてる間に、姫川はウズメとツクヨミに挨拶を済ませていたらしい。

 それぞれの名前を聞いて、姫川には何かピンと来たようだ。

 さすが現役隠れ厨二病。

 ちなみに姫川のノリの良さの例に漏れず、袋叩きにはしっかりと参加していました。

 たぶん途中で飛んできたかかと落としは姫川の攻撃だろう。

「さっきあいさつされたと思うけど、こいつは姫川綺月(きづき)。俺の幼なじみだ」

「あら、そこまでは聞いていませんでした。多々良さんの他にも幼なじみがいたのですね」

「うちは笑うのが苦手で……佐倉に手伝ってほしかった」

「その結果、姫川の頭を撫でることになったんだ」

「意味が分からないよ幸くん」

 ごめん、俺も分からないんだ。

「綺月さん、でよろしいですね?なぜ幸さんに頭を?」

「多々良……幼なじみが佐倉に頭を撫でられてて、その時に笑ってたから。うちも同じことをしてもらえば笑えるかなって」

「なるほど……」

 なんでそれで理解するんだよ。

 改めて考えてみるとやっぱりなんかおかしいだろ。

「でも幸くん、さっきこの子を抱きしめてたよね?」

「あー……えっと、それは……」

 ツクヨミと姫川にじっと見つめられる。

「うちも気になってた」

「う……」

 さすがに言いづらい……。

 なんかだんだんエロい気持ちになっていたなんて口が裂けても言えない。

「こ、こうした方が雰囲気出るかなって思ってな」

「幸さん、嘘はいけませんよ?」

 なんでこういう時に鋭いんだよウズメはっ!

「すまん姫川、少し気持ちが昂ってしまったんだ。申し訳ない」

「そう……うちのことをそういう目で見てたと?」

「ぐ……」

 返す言葉がない。

 なんもかんもあんな夢を見た自分が悪い。

「まあいいよ、うちは気にしてない。その、悪くなかった」

「お、おう……」

「ツクヨミさん、どう思います?」

「多々良ちゃんとは違う意味で仲の良さを感じるよね……」

「うちらは別に付き合ってるとかそういうのじゃない。ただ、うちは自分の感情に疎い部分があって……それで、佐倉に手伝ってもらってるだけ。だから、佐倉は悪くない」

「そんな……」

「そうですか、分かりました」

「あなたがそういうならきっとそうなんだよね!」

 案外理解の早いウズメとツクヨミ。

 助かったんだろうか。

「……というわけで、佐倉」

「はい」

「この人たちのこと、説明してほしい」

「はい」


「……信じがたい話だけど」

「普通の人はそう感じるはずだよ」

 姫川がウズメとツクヨミをじっと見つめる。

 目の前にいる人たちが、人間とは違う神だというのだ。

 普通の人間ではまず信用できないだろう。

「うちはこの前、こっちの人が空を飛んでるのを見た。さっきも窓から入ってきたし、空を飛べるんだよね?」

「あ、うん、私は……こんな風に」

 ツクヨミがその場でふわっと宙に浮かび上がった。

 本当に、おかしな光景だ。

「私は夜の世界を統べる女神のツクヨミ。今はウズメがお世話になってるこの家で一緒にお世話になってるんだ」

「家はないの?」

「あるよ。この世界じゃない、違うところに。でも、ここにいるのが楽しくて」

「へえ」

 姫川がツクヨミの銀髪を見つめる。

「ツクヨミ……さんの髪、綺麗だね」

「ありがとう。綺月ちゃん?の白い髪も素敵だと思うよ」

「……そう」

 会話が途切れ、どうしていいのか分からないのか、ツクヨミがこちらを向いた。

 姫川との会話が途切れるなんてよくあることだから気にしなくていいよ。

 ……いや初対面でそれは無理か。

「私は芸能の女神、アメノウズメです。以前道で困っていたところを幸さんに助けられ、今は恩返しのためにこの家にお世話になっています。よろしくお願いしますね」

「まあ実際ニート女神なんだけどな?」

「幸さん!!」

「……恩返しするのに家にお世話になってるの?」

「……うっ」

「お、いいぞ姫川言ってやれ」

「その、いつかちゃんとしたお礼ができるようにですね……」

「……へえ」

「た、多々良さんとは性格がだいぶ違う方なのですね」

「これが通常運転だから気にしなくていいぞ」

 ウズメもツクヨミも、姫川の性格にだいぶ難儀しているみたいだ。

 まあ初対面ならこんなに扱いづらい子もいないだろう。

「……大きいですね」

 姫川がウズメの胸を見て言う。

 ツクヨミは髪なのにウズメはそこなのか。

「これは私にとって大切な商売道具のようなものです。綺月さんは鳥人ですから気になさらない方がいいと思いますよ。そういうのが好きな男性もいますから」

「佐倉は?」

「俺に聞くな」

 これで紹介も終わった。

 ついに多々良以外にこの神の存在がばれてしまったか……。

「綺月さん、これからよろしくお願いしますね」

「はい」

「綺月ちゃん、私もよろしくね?」

「うん」


「神さまって実在したんだね」

「俺も最初は全く信じてなかったんだけどな……」

 ウズメとツクヨミがいなくなった後、姫川がぼそっと呟いた。

「そういえば、佐倉に聞きたいことがあった」

「おう、なんだ?」

「うち、かわいいの?」

「……おう?」

 面白い質問だな。

 たぶん自分で言う人ほとんどいないと思う。

「さっきも佐倉に言われたし……多々良にも、あとは秋川とかにもよく言われる。うちにはそういうの似合ってないって思ってたんだけど……」

 本人はかわいいと言われてもうれしがることはないが、十分かわいい部類に入ると思う。

 確かに白くて短い髪や鷲特有の鋭い目などの要素があって、どちらかというとクール系にも属する気はする。

 ただかわいいというのは見た目だけではないのだ。

「……かわいいっていうのは、うちみたいなのじゃなくてあの先輩みたいな人のことを言うんじゃないかって思う」

 あの先輩、っていうのはきっと凜先輩のことだろう。

 確かにあの人は見た目がチートレベルだからな……。

「俺、なんて言っていいのかよく分からないんだけどさ……姫川はかわいいと思うよ。見た目だけじゃなくてさ、内面的な部分でも」

「内面で言ったら多々良に軍配が上がるような」

 確かにそうかもしれないけども!

「比べなくていいじゃん。確かにかわいいの部類が違うかもしれないけどさ、かわいいならそれでいいだろ?」

「うーん……」

 やっぱり姫川にはよく分からないみたいだ。

「うちのことはよく分からないけど、佐倉がうちのことかわいいって思ってくれてることは分かった」

「お、おう」

 なんだかそう言われると恥ずかしいな……。

「あと、うちのお願いにも付き合ってくれてありがとう。抱き寄せてもらった時、なんだかふわふわしたよ」

 やばいそういうこと言われるとマジ恥ずかしい!!

「今度、何かあったらお礼する」

「い、いいよ」

 お礼……。

 いつだったか、姫川にお礼と称してキスされたことを思い出す。

 自然と、姫川の唇に目が行ってしまう。

「佐倉……?またしてほしいの?」

 姫川も自覚があるようだ。

「い、いやっ!そういうことではなく!」

「……そっか、分かった。今日はありがとう。じゃあ、また」

「おう……またな」

 姫川が窓から飛び去っていく。 

 なんか、緊張したな。

 というか最近姫川とふたりきりだとなんか緊張するんだよな……。


「幸さんは女の子に好かれますね」

「いきなり入ってくんなびっくりするから」

 ウズメが部屋のドアを開けて入ってきた。

「綺月さん、かわいらしい方ですね」

「まあ、そうだな」

「多々良さんの他に幼なじみがいるのは知りませんでした」

「あいつの家は近くないんだよ。山の上にあるからな」

「山の上、ですか」

「別に高い山でもないんだけどな。両親も鳥人だから、ちょっと高いところにあるんだ」

「そうなんですね」

 山登りというわけではないが、アイツの家に行くのは割と一苦労なのだ。

 上がったことはないけど。

「綺月さん、幸さんととても仲が良いのですね」

「まあ、幼なじみだしな」

「そういうわけではなく……そうですね、人としての相性がとてもいいと言いますか……」

 人としての相性……。

「多々良よりもか?」

「どうでしょうか……幸さんと多々良さんは相性という感じでは……」

「どういうことなんだ」

 長年お隣さん同士でずっと一緒にいるからか。

「ただ言えることがあります」

「なんだ?」

「幸さんがこの先、多々良さんを選んでも、綺月さんを選んでも、幸さんは幸せになれると思いますよ」

「い、いきなりそんなこと言われても」

「人間の寿命はとても短いですから。大切なことはできるうちに決めておかないといけません」

 ……いきなり神さまらしくなったな。

「ただ、これは幸さんに限った話です。選ばれなかった方は、どうか分かりませんけどね」

「そ、そもそも姫川が俺のこと好きとは……」

「好きではない男の人に頭を撫でさせることはしないと思いますが……」

「姫川は俺の仲間の男でも試してみるって言ってたぞ」

「きっと彼女にとって、全員大切なお友達なのでしょうね」

 それは確かに姫川が言ってたような気がする。

 じゃあ姫川は俺ら全員が好きっていうことか?

 そうだとしても、それはきっと恋愛的な意味ではないだろう。

 姫川が知りたがっていたのは、恋愛方面の好きだ。

「ちなみに幸さん、ツクヨミさんはいかがですか?」

「いかがってなんだよ」

「幸さんはツクヨミさんととても仲が良いですからね。ひょっとしたらまさかがあるかも?と思っただけです」

「アマテラスにもOKはもらってるんだけど、俺にそのつもりはないからな」

「あら、アマテラスさんにも許可はもらってるんですね。幸さん、選びたい放題ですね」

「そういう言い方はやめてくれ」

「私、幸さんとツクヨミさんの子ども、見てみたいです」

「やめろォ!」

 そもそも俺とツクヨミでは生きる時間が全く違う。

 確かに魅力的な女の子ではあるけど……。

「幸さん、女の子を選ぶという言い方は良くないかもしれませんが……せっかくの一度しかない人生ですし、最良の選択をできるように祈っておきますね」

「お……おう」


「とは言ってもなあ……」

 最良の選択ってのがどういうものかは知らない。

 何が一番いいかなんて、やってみないと分からないし。

 それならいっそ、全員を選ぶっていうのもアリだ。

 ……いや、刺されるな。

 ウズメの口ぶりからすると、もしかしたら俺の未来が見えているのかもしれない。

 そのうえで幸せになれるって言ってるのなら、きっと俺は幸せになれるんだろう。

 ただそれは、俺に限った話……。

 きっと多々良と一緒にいても、姫川と一緒にいても、どちらも楽しいだろう。

 でも、選ばれなかった方は?

 俺に限った話ということはだ。

 つまり……。

「だぁ~!!今考えるのはやめておこう……」

 まだ高校2年生だ。

 きっとまだ時間はあるはずだ。

 焦らなくても、いいだろう。


「ユキちゃ~ん?おーきーてー!」

 顔をはたかれる。

 やわらかい毛の感触だ。

「ん?ああ、おはよう……」

 多々良が、俺に馬乗りになっていた。

「準備しにゃいと学校遅れちゃうかもよ~?」

 そう言われて時計を見る。

「普通に飯食って準備すれば間に合うじゃんか」

「じゃあほら、準備準備~」

「ずっとそこにいられると俺動けないぞ」

「あ、そっか」

 多々良が俺の上から降りる。

 まったく、馬乗りはいけませんよ。

 主に俺が。

 ダメですよ、高校生なんだから。

「あれ、昨日綺月が来たの?」

「なんで?」

「羽が落ちてるよ。これ、綺月のだよね」

 多々良の言う通り、確かに姫川の羽が落ちていた。

 気づかなかった……ちゃんと掃除すればよかった。

「まあ、昨日の夜来たな。いきなり入ってきて自分のことをかわいいかだけ聞いて帰ったけど」

 まさか頭を撫でた上に抱きしめたなんて言えない。

「にゃにそれ、にゃんか綺月らしいね」

「あとウズメとツクヨミの存在がばれた」

「別に隠さにゃくてもいいじゃん」

 神の存在を気にしてるのって俺だけなのか……?


「行ってきます」

「よっしゃいこー!」

 多々良と一緒に家を出る。

 すると、家の前に大きな人が立っていた。

 男子の制服を着ている、白くて短い髪の……。

「あれ、綺月?おはよう」

「ん、多々良、佐倉、おはよう」

 姫川だった。

「おはよう。なんで男子の制服?」

「よく考えたらこっちでもいいじゃんって」

「何を考えたんだろう……」

 学校の制服は、どちらの性別がどちらの制服を着てもいいようになっている。

 さすがに男子がスカートをはくのはいないが、女子が男子用の制服を着ているところは少なからず見かける。

 鳥人は確かに男子用の制服を着ている女子の割合が高めだ。

「他の鳥人を見てて思った。男子用の制服ならスカートの中が見えることもないし」

「対策のためのスパッツやタイツなんじゃないのか……?」

「たまには全く気にせず飛べるのもいいかなと思って」

「そうにゃんだ!男子用の制服も似合ってるね!」

「そ、そう?ありがとう」

 見ようによってはこちらの方が似合っているという人もいそうだ。

 女子からカッコいいとか言われるかもしれない。

 姫川は男装するとそこら辺の男子よりかっこいいからなあ……。

「というわけで行こう」

「何気に朝に俺の家まで来たのって初めてだな」

「……確かに。佐倉と多々良はいつも一緒に登校してるんだよね」

「そうだよ!」

「そっか、あむ」

 そういって、何かを食べる姫川。

「今何食ったんだ?」

「新発売のクランベリーのアイス。おいしい」

「学校行く前から何食ってんだ……」

「食べたいの?」

「いやそういうわけじゃなく……」

 アイスの乗ったスプーンがこちらに向けられた。

「え?」

「ちょっとあげる。おいしい」

「え、あー……」

 姫川は何も気にしていないんだろうか。

 そのスプーンは今まで姫川が口に運んでいたものだ。

 つまり……そういうことだ。 

 それに、ここは外。

 ナチュラルにあーんされそうだが、ここは外だ。

「溶ける」

 とか考えていたら、口にスプーンが突っ込まれた。

「おいしい?」

「さ、酸味がちょうどいいと思うぞ……」

 いや、実際味はあんまり分からなかった。

 少しはそういうの気にしてくれないか……。

「多々良にもあげる」

「ありがとー!」

 女の子同士ならいいんだよ。

 むしろね、姫川が多々良にあーんとか、なんかいいものがあるね。

 ってそうじゃない。

 朝から刺激が強いな……。


「すごーい!!」

 多々良の声がだいぶ上から聞こえてくる。

「大丈夫かー?」

「すごいよー!!」

 多々良は今、姫川の背中に乗って飛んでいる。

 すごいのは姫川だ。

 小さいとはいえ24㎏ある多々良を背中に乗せているのに何食わぬ顔をして飛んでいる。

 俺だってさすがに多々良を負ぶって走ったら疲れるぞ……?

 俺も飛んでみたいなあ……。

「ゆっくり飛んでると疲れるかも。多々良、もっとスピード出す?」

「うーん、それだとユキちゃんのことを置いていくことににゃっちゃうからにゃあ……綺月、また今度お願いしてもいいかにゃ?」

「うん、じゃあ今度休日にでも多々良を空高くへ連れてってあげるよ」

「にゃんかそのセリフ二次元臭いね~」

「参考にした」

 何の会話をしたのかは分からないが、姫川と多々良が降りてきた。

「じゃあ学校に行こう」

「もう終わりなのか?」

「多々良の気遣いだよ」

「……うん?」

 姫川の言っていることがよく分からない。

「多々良、どういうことだ?」

「別ににゃんでもにゃいよ?ほら、ユキちゃんはたたらが近くにいにゃいとダメだからさー」

「お、おう?」

 どういう意味か分からないけど、まあいいや。

「佐倉、いつもそうやって登校してるの?」

「うん?」

「いや、手をつないで……」

「あ、ああ……手をつないでないと危ない時とかあるからな」

「えへへ、いつもありがとうね!」

 多々良が俺に笑いかけてくれる。

 かわいいな……。

「じゃあ、うちも」

 そういって、姫川が手を握る。

 ……俺の空いている方の手に。

「……なんで俺?」

「佐倉、そのうち刺されるかもね」

「怖いこと言わないでね!?」

「……冗談」

 というかこの状況はだいぶ恥ずかしいな。

 両手に花ってやつなんだが……。

 でも登校中だからなあ……。

「なんか、ずるい」

 姫川が俺の耳元で小声でささやいてくる。

「な、何がだ?」

「……いや、なんでもない」

「ユキちゃん、にゃに(はにゃ)してるのー?」

「い、いや、何でもないぞ」

「んー?」


「おはよう佐倉」

 登校してきた佐々木が、俺の後ろに座った。

「おはよう佐々木」

「なあ、姫川はいったい何がしたいんだ?」

「ん?」

「いや、昨日の夜急に押しかけてきて……頭を撫でろとか言われたんだが」

 あの後佐々木の家に行ったのか……。

「全員に聞いてみてるとか言ってたから多分俺だけじゃなくて秋川とか倉持にも同じことしてるんだろうけどよ、さすがに驚いたぜ……」

「どうだった?」

「あいつ、意外と髪の毛やわらかいんだな」

「あ、俺もそれ思った」

 まさか一緒の感想だとは。

「ああして見るとかわいくも見えるような気はするが……姫川だからなあ」

「それ、姫川が聞いたら傷つくぞ?それともあれか、佐々木は彼女いるからか」

「だから彼女じゃねえっての!それに、昨日ああいうことしたと思ったら今朝佐倉と手をつないでたしな」

「……見てたのか」

「そりゃな。リア充ここに極まれりって感じだったな」

 そんなつもりはなかったんだけどな……。

「大丈夫か?また多々良が不機嫌になったりしてないか?」

「それはないけど……さすがに緊張するから今日みたいなことはもう勘弁だな」

「ハッ、贅沢なことを」

「いやそうなんだけども……」

 結局、あれをやって何か得られたものはあったんだろうか。

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