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第31話 見られました

「行ってきます」

「行ってらっしゃーい」

「お勉強頑張ってくださーい!」

 ウズメの余計な一言を受けて、学校へ向かう。

「あら幸ちゃん、おはよう!」

 あら近所のおばさん。

「おはようございます」

「朝から幸ちゃんの顔を見れたから、今日はきっといい日ね!」

 そういってでかい袋をごみ捨て場に全力投球するおばさん。

 その日一日の運勢が俺に左右されては困る。

 俺にそんな特殊能力はきっとない。

「学校頑張ってね!」

「はい」

 おばさんが家の方へ向かっていく。

 全力投球してたけど、袋が破けてごみばら撒いたりとかしないのかな。

 ……あれ、破れないように袋が二重になってんじゃん。

 投げるためにか。

 さて、きっと家で待機している多々良を迎えに行きますか。

 ぴんぽーん。

『ちょっと待っててねー!』

 インターホンから、元気な声が聞こえてきた。

 もはやだれかを確認することもしない多々良。

 これでハイエースおじさんみたいな人だったらどうするんだっての。

 まあでも多々良の家は扉→庭→門だからね、変な人がいれば別に家の中に戻ればいいだけだもんね。

「ユキちゃんおはよー!」

 多々良が右手をブンブン振りながら近づいてくる。

 いつもの日差しよけのフードと、日傘を右手に持って。

「最近だいぶ寒くにゃってきたけど、日差しはまだまぶしいねー」

「むしろ冬は日の位置が高くないから多々良の()的にはよくないんじゃないか?」

「うーん、でも(にゃつ)はちょーまぶしいからにゃー」

 結局一年中、太陽は多々良の目には優しくないんだな。

「ほれ」

「ありがとー。ユキちゃんと手をつにゃぐのもすっかり(にゃ)れちゃったねえ」

「それは、あれだ。手をつないでないと多々良はふらふらするからな。歩くのもゆっくりになっちゃうしな」

「えへへ、ありがとー」

 笑顔でお礼を言ってくる多々良にそっぽを向いてしまう。

 今までならごめんねとか言っていた多々良だったが、最近言わなくなった気がする。

 そしてそれと引き換えに、こんな破壊力の高いお礼が飛んでくるようになった。

 ありがとうと言われるのは嬉しいけど、これはなんというか……恥ずかしいな。

「そういえばさ、昨日新しい神がうちに来たんだよ」

「へー!ウズメさんのお友達?」

「そうそう、アマテラスっていうんだけどな」

「えっ!アマテラスっていったら最高神じゃん!ユキちゃんすごいね!!」

 多々良が目を輝かせる。

 すごい……かもしれないんだけどな。

「それがさ……どんな人かって思ってたら、俺前に会ったことのある人だったんだよ」

「えっ!そうにゃの!?」

「ああ……多々良、前に俺が膝から血を流して帰ってきたの、覚えてるか?」

「うん!あの時たたらが傷の消毒をしてあげたんだもんね!」

「ああ、そん時はありがと。そんで、膝を切った理由が車に引かれそうだった人を助けたっていうのだったんだけど……びっくりすることに、その時助けたのがアマテラスだったみたいなんだ」

「へー!じゃあユキちゃんは神さまを助けたんだね!すごいね!やるじゃん!」

 多々良がしっぽで俺の尻をぺちぺちしてくる。

「普通に見たことのある顔だったからさ、すげえびっくりしたよ」

「神さまを助けたってにゃると、にゃんかいいことがありそうだね!」

「ああ、まあお礼にっつってこんなお守りをもらったんだよ」

 カバンの中から、アマテラスにもらったお守りを出す。

「ギニャー!」

 それを見た瞬間、多々良が悲鳴を上げた。

「どうした!?」

「ユキちゃんそれ本当にお守り!?まぶしくて目が灼ける!!」

 多々良が右手で目を隠す。

 まぶしいって……?

「にゃんか、はじめてウズメさんを見た時の気分だよ!!」

「そういうことなの……?」

 つまりこのお守りから良いオーラが出ているということ……?

「カバンにしまったけど、これで大丈夫か?」

「あ……うん、もうまぶしくにゃいよ。ああー、びっくりした……」

「びっくりしたのはこっちなんだが……」

「うぅ……ちょっと視界が……ユキちゃん、ちゃんと手握っててね?」

「お、おう、しっかりつかんでる」

 そんなにまぶしかったのか。

 じゃあ暗いところにおいておけば周りが見えるようになるんじゃないかな。

「おーっす!相変わらず手をつないで登校とは仲が良いですなあ!」

 ケツを叩かれた。

「佐々木おはよう。茶化さないでくれ?」

「おーっす佐々木っち!ユキちゃん優しいんだよ!」

「頼ってくれれば俺でもいいからな!」

 佐々木が親指を自分の方向に向ける。

 あんまりいい気分はしないけど、佐々木と多々良が出かけるようなことがあれば任せるしかないからな。

 多々良が転んだりするといけないし。

「そういえば聞いてくれよ!昨日の夜すっげーかわいい女の子を見たんだよ!」

「かわいい女の子?」

「えっ、たたらとどっちがかわいい?」

「その子だわー」

 佐々木が即答する。

「がーん!!」

「ハッハッハ、冗談、多々良もかわいいぞ~」

「ユキちゃん、褒められた!」

「おう、多々良はかわいいぞ~」

「ユキちゃんまで……も~!にゃんだか照れちゃうにゃー!」

「そんで、茶番はいいとしてそんなかわいい子だったのか?」

「茶番……」

 多々良は茶番のつもりはなかったらしい。

「そう!実はこの修学旅行後の休み中に発情期が来ちまったんだけどよ……昨日の夜頭冷やそうと思って外に出たんだよ」

「発情期なら外に出るなよ」

「いやいや、俺はそんな街行く女の子に襲い掛かるような理性のない男じゃないからな!」

 どうなるか分からないから外に出るなって話なんだが……。

「それでなんだか視線を感じるなーって思ってたら、物陰から俺のことを見つめるめっちゃかわいい子がいたんだよ!」

「物陰って……それやばいんじゃ?」

「いや、移動しても俺についてくるだけで何もなかったよ。途中で姫川に会ってさ、しばらく一緒に散歩してたんだけど、姫川と別れた後にはもういなかったんだ」

 発情期で普通に女の子と散歩しただと……。

 佐々木は本当に鋼の理性の持ち主なのかもしれない。

「どんな子だったんだ?」

「うーん、身長は俺より小さくて……150㎝くらいか?着物を着てる、多分人間だった」

 小さいな。

 そんな女の子が夜に外を歩いてていいのか?

 さすがに危ないんじゃ……。

「ゆーれいだったんじゃ?」

「何言ってんだ多々良、俺は幽霊とか信じてないぞ?」

「そうにゃんだ」

「そんで、暗くてもはっきり分かるくらいの綺麗な銀髪だったんだ。肩につくかつかないかくらいの、短い感じのな」

 ……あれ?

 なんか特徴に聞き覚えがあるような。

「それ、昨日の夜うちも見た」

 突然上から声が聞こえてきた。

 羽をはばたかせて、姫川が近くに降りてきた。

「おはよう姫川」

「おはよう。佐々木もその子を見たんだ?」

「ああ。というか、その子はずっと俺の後をついてきたんだぜ?」

「いや……うちはその子を追いかけてたら佐々木に会ったんだよね」

「ん、どういうことだ?」

 佐々木が首をかしげる。

 夜でも基本的に空を飛んでいる姫川が女の子を追いかけていた……?

 ということはその女の子は鳥人か?

 いや、でも佐々木が人間って言ってたしな……。

「昨日の夜、外を飛んでいたらへんなものが見えて、なんだろうと思ったら羽もないのに人間が空を飛んでたんだよね。ゆっくり追いかけてたらその子が地上に降りて行ったからうちも降りたんだ。そしたら佐々木がいてさ」

「へえ、そうだったのか」

 ……あ、その子人間じゃないわ。

 身長が150㎝くらいの銀髪のかわいい子で、夜に羽もないのに空を飛んでいた不思議な人間。

 当てはまるのはツクヨミくらいしかいない。

 きっと昨日の夜に発情期の亜人を見つけたから監視していたんだろう。

 途中でいなくなったのは出会った姫川に手を出さないと分かったから、とかだろう。

 てかツクヨミ、監視するために尾行してるのかよ。

 人間には見えないようにするとか何とかないのか……。

「てか、本当に鳥人じゃないのか?姫川が見落としてたとかさ」

「うちの視力を見くびってはいけない」

「あー……はい」

 そういえば鳥人ってめちゃくちゃ目がいいんだよな……。

「……ねえ」

 多々良が俺の袖をくいっと引っ張る。

 どうやら多々良も気づいているようだ。

「あの子、顔がかわいかった」

「な!すげえ美少女だったよな!」

 確かにツクヨミはすげえ美少女だ。

 道行く人が誰でも一度は振り返ってしまいそうなほどの美貌。

 それが夜についてきていたら、ちょっとドキドキしてしまうだろう。

「また見かけないかな。次会ったら声でもかけてみたいぜ」

「佐々木、気になってる人がいるんじゃなかったの?」

「えっ、な、何の話だよ」

 姫川の言葉に、佐々木が動揺する。

 好きな人の話は修学旅行の時にした。

 しかし、あの時は男だけで話していた。

 姫川は知らないはずだが……。

「買い物に行くときとか、部活帰りの佐々木を見ることが多いんだけど……最近、女の子と帰っていることが多いよね」

「……お、おう、そうだな」

「ささきっちそうにゃの!?」

「おう、ま、まあな。まあ、今はいいだろ」

 そういうと、佐々木がダッシュで逃げた。

 あいつ本当に自分の話になると逃げるな!?

「あの子、すごく綺麗な銀髪だった。うらやましい」

 姫川の髪は鷲由来の真っ白な髪だ。

 白も白で綺麗だとは思うんだけど、あのツクヨミの銀細工のような銀髪にはかなわないよな……。

「そんにゃこと言ったらたたらにゃんて灰色じゃにゃい。たたらにはよく分からにゃいけど」

「人それぞれだし、いいんじゃないか?」

 多々良の髪の毛はシャルトリュー由来の灰色だ。

 柔らかいし俺は嫌いじゃないんだけどな。

「髪の毛に関しては本当にいろんな色があるよな。それぞれの個性みたいなもんだろ」

「あ、あそこにすごく目を引く色の人が」

 姫川が向いた方向に、凜先輩がいた。

 確かに目を引く色だ。

 凜先輩はケツァール由来のエメラルドのような透き通った緑色の髪だ。

 鮮やかな色してるなー……。

「おっ!佐倉くーん!おっはよう!」

 気づいた上に近づいてきた!

「お……おはようございます」

「もう、硬いなあ。ほらほらリラックス!」

 凜先輩に背中を羽で叩かれる。

「おはようございます!」

「多々良ちゃんおはよう!」

 多々良と凜先輩がタッチする。

 いつの間にそんなに仲良くなったの。

 そういえば前に連絡先を交換してたな……。

「そういえば2年生は修学旅行から帰ってきたばっかりだよね!修学旅行はどうだった?」

「楽しかったですよ」

「どんなところに民泊行ったの?」

「漁師の家に泊まってお手伝いをしてきました」

「そうなんだ!多々良ちゃんは?」

「農園で果物いっぱい食べてきました!マスカットおいしかったです!」

「いいなぁ~!私マスカット大好きなんだよねー!」

 凜先輩が頬をおさえる。

「佐倉、あんまりゆっくり行くと遅刻するよ……?」

「あ、すまんすまん、そろそろ行かないとだよな」

 姫川が腕時計を見せてくる。

 確かにこれ以上ゆっくりしてると遅刻確定だ。

「佐倉くんのお友達かな?それとも……彼女?」

「違います。佐倉の幼なじみの姫川綺月(きづき)です」

「綺月ちゃんかー!幼なじみなんだね!よろしくね!」

「はい」

 さすがに学年が違うので凜先輩とは別れ、教室に向かう。

「姫川、やたら反応が薄かったな」

「ああいう元気で誰とでも仲良くなれる感じの人苦手だから……」

「まああまり話すほうじゃないもんな」

「考えながら話すの得意じゃないんだよ」

 そういって自分の教室へ入っていく姫川。

「ねえ、ユキちゃん」

「なんだ?」

「……たたらとツクヨミさん、どっちがかわいい?」

「まだ気にしてたのかよ」

 教えてよ、と言わんばかりに多々良が詰め寄ってくる。

「……ふっ」

 多々良の頭に手をポンと置き、教室へ入る。

「にゃー!!ユキちゃんいじわるー!!」

 ……反則かよ。

「おはよう佐倉、修学旅行ぶり」

「それ3日ぶりっていうんだよ」

 秋川がわけが分からないような分かるようなことを言っているので華麗にいなす。

「おはよう佐倉、土日はゆっくり休めたか?」

「先生か」

 なんか高校生らしからぬことを言っている倉持に適当にツッコむ。

「よう佐々木、さっきは逃げやがったな」

「さて、何のことかな」

 しらばっくれてやがるので佐々木は放っておくことにする。

 ……そしたらもう俺が相手する人いなくなるじゃん。

 多々良ももう席ついちゃったし。

「佐々木ってああいう話苦手なのか?」

「正式に彼女ができりゃ自慢話でもしてやるんだけどな」

「彼女できない内は恥ずかしいのか、佐々木も案外乙女だな」

「なんだとコラ」

 にしても多々良とツクヨミかあ……。

 女の子を比べるっていうのはあまりしたくないけど、もし髪の毛だけを見るのならツクヨミの銀髪が目を引くよな……。

 ただ目の色で言うのであれば人間と同じく黒目のツクヨミより、金色の目をしている多々良の方が……。

 なんか俺の着眼点がおかしいような。

 いやいや、顔とかで比べられないならこういうところになるよな……なるよね?

 ただこれだけは言える。

 多々良もツクヨミも、間違いなくかわいい。


「みなさんおはようございますー」

 木晴(こはる)先生の登場で朝のHRが始まる。

「連絡ですー。明日から3日間ほどですが、先生は学校をお休みしますー」

 3日間ほど、となると発情期か。

 人間である俺にはよく分からないことだけど、兆候があるらしい。

 例えば多々良は下腹部のあたりがムズムズするらしい。

 先生もそんな感じだろうか。

「なので私が見ていない間はみなさんに任せますー。みなさんは高校生ですから、問題ありませんねー?」

 静まり返る教室。

「ねー?」

 木晴先生の声がちょっと大きくなった。

 ここまではネタだ。

「さて、修学旅行も終わりましたので、みなさんには私の現代文の時間やLHRなどの時間を使って新聞を作っていただきますー」

 出たよ、感想を込めた新聞。

 あれめんどくさいんだよな……。

「それと、修学旅行で撮影した写真をアルバムに載せて後日配布しますー。それと、写真一枚ずつの販売も始まっているので気になる方は見に行ってみてくださいねー」

 ああそっか、バラで写真が売られるんだよな。

 ……多々良の写真でもこっそり買っておこう。

「多々良の写真買うつもりだろ」

「……そ、そんなんじゃねえよ」

 今思ってたことを言ってきやがって。

 そんなんじゃなくないよ。

「倉持も買うんじゃねえの?」

「し、知らんし」

 あと売られている写真の中には俺らが写っているのもあるだろうし、それも買っておこう。

 なんたって修学旅行の思い出だからな。

 軍艦島の写真もあるかな?


「よぉーしユキちゃん!写真見に行こ!」

 多々良のしっぽがピンと立っている。

「おう、俺も見に行きたい」

 教室から出て、写真売り場へ行く。

 壁一面に写真が貼られていた。

「すっごくいっぱいあるね!たたらの写真あるかなー?」

「上の方探してみるわ」

 俺も欲しいし。

「ありがとう!あったら教えてね!」

 純粋な多々良の視線がキツイ。

「にしても、今回はユキちゃんとか佐々木っちとかと一緒に写ってる写真はにゃいんだよねー……」

 佐々木と多々良が一緒に写ってる写真か……それはそれでやだな。

 ……俺の心狭いな。

「でも班で写ってる写真はあるからそれを買おうっと」

「俺も多分あるのは佐々木たちと一緒に写っている写真だろうな」

 さて俺らの写真は……。

「あ、これ多々良の写真だろ?」

「……ん~?」

 写真があるのはかなり上の方。

 多々良の身長的に見ることは難しい。

「見えにゃいにゃー……」

「え、ええと……」

 この状態で多々良に写真を見せる方法。

 ……やるしかないか?

「……ユキちゃん?」

「他の人もいるんだけど」

「仕方にゃいじゃん。ほら、あそこの猫人の子もやってるからさー」

 隣を見ると、他クラスの猫人の子が俺の考えてることをやっていた。

「やるしかない?」

「見せてよー」

「……仕方ないなー」

「変にゃとこ触らにゃいでね?」

 ……ええと、どうやって抱えよう。

 脇を抱えたらどうなる?

 多分小指側の手に多々良の横乳が当たる。

 俺的には嬉しいけど、多々良に変なところに触るなと言われている以上それはできない。

 というかきっとそんなところ持ったら下心がばれる。

 だったら両手を組んであばらから下をホールドするしかない。

「やるぞ?」

「頼むね」

 多々良を持ち上げる。

 多々良の方から尻までが俺の上半身に密着している。

 ……これはこれで緊張するな。

「どうだ、見えるか?」

「あ!これだね!66番!」

 ちゃんと見えたらしい。

「ありがとねユキちゃん!おかげで助かったよ!」

 多々良の笑顔がまぶしい。

 こっちはちょっと悶々してたんだけどね。

 さて、俺の写真は……。

 ……お?

 写真があったのは、また上の方。

 多々良が見えない位置に、俺の写真があった。

 軍艦島での写真だ。

 ちょうど姫川と話しているところを撮られたらしい。

 あの時は姫川がデートと称して俺と出かけていたから、手をつないでいる。

 まるでカップルのようだ。

「ユキちゃん、にゃんかいい写真あったのー?」

「え、ああ、いや、何でもないよ」

「そっかー」

 ……この写真が上の方にあってよかった。

 多々良には見られたくない。

 俺と姫川が付き合っているとか、そんな風な勘違いはされたくないし。

「あっ、ユキちゃん、その写真にたたら写ってにゃい?」

「どれだ?」

「それそれ!」

 多々良が指差した方向に、確かに多々良が写っている写真があった。

「あれ、姫川もいるじゃん」

「そうそう!ホテルで綺月と一緒にいるときに撮ってもらったのー!」

「なんというか、姫川は相変わらずの無表情だな……」

 真顔で写真に写る姫川は、なんだかシュールだ。

「そういえば俺も釣りから帰ってきた時に写真撮られたな」

「どっかにあるんじゃにゃい?探そーよ!」

「じゃあ下の方を探してくれ」

「おっけー!」

 多々良と一緒に写真を探す。

 こういうのって、見つけようと思うと見つけるのが難しいんだよな。

「みんにゃで写ってる写真?」

「そう、俺らがそれぞれ釣った魚を持ってる写真」

 秋川が釣った戻りガツオがいい目印にはなってると思うんだけど。

「たたらも釣りしたかったにゃー」

「多々良の力じゃ逆に持ってかれると思うぞ」

「たしかにー」

 もしカツオなんてかかったら多々良は一瞬で海にピューンだ。

「あ、これ?」

 一番下の段に写真があった。

 これは見つけるのキツイよ。

「それだ!でかした多々良!」

「えへへー」

 みんながそれぞれ釣った魚を持ってアピールしている。

 ……やっぱり秋川の釣ったカツオの大きさがおかしい。

「アッキーすごいね……」

「あいつ俺らを驚かすつもりでいつの間にか釣ってたんだよ」

 確か気づいたのは港に戻ってからだ。

(さかにゃ)見てたらにゃんかお(にゃか)空いてきた……」

「あの時の魚は美味かったぞー」

「そ、そういうこといわにゃいでよ!」

「ハッハッハ」

 でも多々良の農園も結構うらやましい。

 マスカット食べたかった。

「おっ、佐倉とマルちゃんも写真探しに来たんだ?」

 秋川も写真を探しに来たらしい。

「アッキー!あんにゃおっきい魚を釣るにゃんてすごいねー!」

「だろー?結構頑張ったんだよー」

「たたらも魚食べたかったにゃー……」

「釣りたての新鮮な魚は身が締まってて美味しかったよー」

「さっきのユキちゃん以上にいじわるな返答だ!!」

 食レポか何かかよ。

「で、なんかいい写真はあった?」

「これー!」

「おお、そういえばこんな写真撮ったっけ。佐倉のフグがなんか面白いやつねー」

「面白いってなんだ面白いって」

「あとは……お」

 立ち上がったところで、俺と姫川が写っている写真に気付いたらしい。

「フフフ」

「なんだよ」

「マルちゃんに見られなくてよかったね?」

「うっせ」

「俺と佐々木のケータイの中にはあれみたいな写真がいっぱいあるよ?」

「そういうのいいから」

「あ、俺が女の子と一緒に写ってる写真はっけーん」

 俺が姫川と一緒に写っている写真の隣に、秋川が姫川の班の女の子と一緒に写っている写真があった。

「アッキーが(おんにゃ)の子ー?珍しいねー!」

「いやいやマルちゃん、俺はかわいい女の子だったらいつでも大歓迎だよ?」

「アッキーが女の子と一緒にいるイメージってあんまりにゃいんだけど……」

「あれっ!?」

 確かに秋川が女の子と……姫川くらいじゃないか?

 あとは修学旅行の時に聞いた秋川が気になっている人くらい……いやその人見たことないし。

「ちなみに俺の言うかわいい女の子の中に、マルちゃんも入ってるよ~?」

「もー、アッキーったら照れちゃうにゃー!」

 多々良が頬を両手で押さえる。

「んじゃよさそうなのあったし、俺は戻るね~」

「ばいばーい!」

 秋川が教室に戻る。

 俺らも早めに選ばないと。

「……にゃんか、今日はやたらとほめられるね?」

「みんなそういう気分なんじゃねえの」

「かわいいって言われると悪い気はしにゃいよね」

「そうだな」

 俺もかっこいいって言われて悪い気はしないからな。

「なあ多々良、さっきから気になってたんだが」

「ん、にゃーに?」

「……Yシャツの襟から、ブラジャーの肩紐が見えてるぞ」

 多々良の耳に顔を近づけて、小声で言ってやった。

「……にゃっ!?」

 多々良の耳としっぽと毛が逆立った。

「は、早めに言ってよ!」

「いや、指摘しようかどうか迷ったんだよ。そこばっか見てるのか変態とか思われるのも嫌だし」

「そんにゃこと気にしにゃいから!次から早めに言ってくれていいからね!」

 多々良が女子トイレへ駆け込んでいく。

 ……なんだ、言ってよかったのか。

 でもああいう指摘ってきっと人を選ぶよな……。

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