第30話 探されました
「だーっ、またユキちゃんに負けた……」
「はっはっは、俺に勝とうなんざ10年早いなー!」
「じゃあ10年経てばユキちゃんもだいぶ衰えてるってことだね!」
「おいちょっと待て衰えるってなんだ」
「……そうだにゃー、髪の生え際とか?」
「おいやめてくれ、リアルっぽいだろ」
「現時点でも意外と怪しかったり……?」
「え、マジ!?俺ハゲたくないんだけど!?」
「にゃっはは!冗談だよー!」
さすがに冗談としては心臓に悪いんですが……。
と、多々良が急に立ち上がって近づいてきた。
「な、なんだ」
返事はせずに、俺の前髪をかき上げる。
そして、俺のデコを見た多々良が可哀想なものを見るような目で一言。
「あっ……」
「おいやめろ」
「ユキちゃん……ハゲるのは、悪いことじゃないからね……?」
「いやだあああああああああああ!!!」
「冗談だよ」
「てんめこのやろおおおおおおおおおお!!」
「んにゃー!」
多々良が目の前から逃げる。
残念ながら俺は逃げる多々良を捕まえることはできないのであきらめて座る。
人間と猫では身体能力が違うので、逃げる多々良に追いつくことは不可能なのだ。
まあ、多々良は目が悪いから普段本気では逃げないけど。
にしても生え際かぁ……ハゲるのかなあ。
……やだなぁ。
「あ、あの、ユキちゃんもしかして気にしてる?」
逃げた多々良が自分から近付いてきた。
態勢を低くして、四足歩行で俺のことを覗き込んでくる。
傷つけてしまった、とか気にしてるのかもしれない。
……そんなら悲しむフリでもしてやろう。
「マジかあ……ハゲかぁ……」
がっくりとうなだれる、演技。
「ゆ、ユキちゃん!?冗談だからね!?気にしにゃくていいんだよ!?」
「はぁ~~~~~~……」
「ユ~キ~ちゃ~ん、ゴメンって!ちょっとふざけてみただけにゃんだって~!」
多々良が背中に乗ってくる。
……うん、おっぱいが背中に当たったのでよしとしよう。
「まあ冗談だけどね」
「仕返しかっ!!」
多々良にしっぽで叩かれる。
しっぽでの攻撃は手加減の証だから、別に怒っているわけじゃない。
ちょっとしたツッコミみたいなものだ。
「てかユキちゃん、にゃにかいやらしいことを考えてるでしょ」
「考えてないよ?」
「じゃあにゃんで黒く見えるのかにゃ~」
まったく、人のオーラを見るのも勘弁してもらいたいぜ。
「だって仕方ないじゃん。多々良が寄りかかってくると背中に当たるんだよ?」
「そ、そこからやらしいことを考えることに発展させにゃいでよ!」
「仕方がないじゃない、だって男子高校生だもの」
「男子高校生を理由に正当化したね!?」
男子高校生だもの。
「もー、ユキちゃんはほんとにエッチだよね」
「俺だって男だぞ?女の子の身体には興味津々なんだ」
「はいはい彼女作りましょうねー」
できないから困ってるんだが。
主に目の前の女の子のせいで。
でも身体に触るくらいなら……ツクヨミなら……。
っていかんいかん、ツクヨミはそういう目で見るような子じゃないんだ。
そう、あれは……いるだけで癒されるから、そういうのを求める対象じゃない。
「というかユキちゃんは基本的に女の子苦手だから、そういう時ににゃっても緊張して触れにゃさそうだよね」
「なんだとう!」
ありそうで困る。
多々良と姫川に関しては抵抗ないけど、それ以外となるとな……。
ウズメ?そもそも女として見てるかどうかすら怪しい。
「まあいいや。さてユキちゃん、続きやろうよ続き」
「お、また俺に負けるつもりか?」
「次は勝つもん!」
多々良が対抗心満々で言ってくる。
かわいい。
仕方ないな、そこまで言うなら相手してやらないとな。
「じゃあな多々良、また来るよ」
「次来るときには負けにゃいからにゃー!」
「ただいまー」
「あ、幸さんお帰りなさい!上でアマテラスさんが待っていますよ!」
帰ってきたらすでにウズメたちも帰ってきていた。
「幸お帰りー。あんたまた神さま連れ込んじゃってー」
「俺じゃねえから!」
母さんの口ぶりから、おそらくもう紹介は終わっているんだろう。
あと台所から何か音がするからもう夕飯を作っているんだろう。
「俺の部屋って何してるんだよ」
「む、帰ってきたか」
部屋に入ると、ウズメの言う通りアマテラスが待っていた。
俺のベッドで寝転がりながら。
「そこは俺の場所だ」
「ふん、ツクヨミはよくて私はダメということか」
「それ、は……だなっ」
「安心しろ、ツクヨミが勝手に寝ていたのだろう?知っている」
知ってるなら言わないでくれよ。
「そんで、何かあるのか?」
「まったく、なぜ外に出かけたんだ」
「え、外?」
アマテラスが急に怒ったような目でこちらを見始めた。
「ツクヨミを頼むと言っただろう。ちゃんと私の言うことは守ってくれ」
「えー……」
つまり俺がツクヨミの近くにいてあげなかったから怒っているということでよろしい?
だってあれあのまま天界にいたら俺絶対やばかったじゃん。
「仕方ないだろ。人間は天界には行けないみたいだし」
「それならこの部屋でツクヨミを寝かせればいいだろう。寝ている間は無防備なのだから、しっかりと守ってやってくれ」
いやあの球体が守ってくれるだろう。
なんたって反撃機能がついてるんだからな。
というか……。
「もしかしてツクヨミのこと大好き?」
「妹を嫌いな姉がいるはずないだろう」
そういう感じの人でしたか。
「ちなみに人間が天界に行けないわけではない。幸がゲートを通らなかったからだ」
「え?俺あの黒いゲートを通ったぞ?」
「アレは私が作ったツクヨミ専用の特別製ゲートだ。しっかりとしたゲートを通れば人間が天界へ行っても何も起こらない」
そうだったのかよ。
じゃあツクヨミの持っているゲートでは移動するなってことか。
でもそのしっかりとしたゲートの所在地が分からないから行けないね。
「まったく、今から幸にはちょっとした辱めを受けてもらおう」
「え、ちょっと何を―――」
続きが言えなかった。
口が急に開かなくなったのだ。
口だけじゃない、手も足も動かず、アマテラスを目で追うことしかできない。
「ん、むーっ!!」
「そこでそうやって見ているといい。今から幸の部屋にあるエロ本をすべて見つけてやろう」
「んっ!?んーーーー!!」
なんてことしやがる!
そ、それは男の子の秘密ってやつで詮索するもんじゃないだろ!!
ちょ、やめ、やめてください!
「ちょっとした辱めといっただろう?別に見つけるだけで何をするわけでもないさ」
なんというかこの神にそういうのを知られるのはまずいと思う。
例えばエロ本のことをダシに脅される……なんてこともあるかもしれない。
「さて……どこにあるだろうか。そうだな、では幸の思考を読み取るとしよう」
アマテラスが近づいてきて、俺の額に人差し指が当たる。
思考を読む!?冗談じゃない!
な、何も考えないようにするんだ!
無だ!無の境地に……!
無……無……。
無―――
「ほう、クローゼットの中にしまってある小学校時代のランドセルの中か」
「んーーーーーーーーーーーーーっ!?」
なんでわかるんだよ!?
「……さすがにクローゼットの中はプライベートの空間だな」
俺から離れてクローゼットを開けようとしたところで思いとどまるアマテラス。
そうだ、そのまま詮索中止にしてくれ。
「では幸の思考から直接エロ本の題名を読み上げてやろう」
最悪じゃねえか!!!
「さあ、私に秘密の本の内容を教えるんだ」
教えたくねえよ!!
「男の聖なる教科書だろう?幸はどんなものを見ているんだ?」
コイツ絶対楽しんでるだろ!!
しまってあるだけで最近読んでねえよ!!
「―――ほう、『超特盛猫人特集!淫らに乱れる激アツ写真集!』か」
死んだ、俺死んだ。
てか俺の持ってるのってそんなやつだったっけ。
本当に最近見てないから忘れてた。
このタイトルはいかんだろ……。
てか猫人特集って……。
と、さっきまで動かなかった口や手足の感覚が戻ってきた。
「楽しかったか?」
「楽しくねえよ!?」
「そうか、私は楽しかったぞ」
「ドSか!!」
「まあ安心していい。今回これを知ったからと言って特に何をするとかはないからな」
信じられないんだけど。
「その目、信じていないな?何もしないよ」
信じられないだろ……あのエロ本、多々良とかに知られたらそれこそ一巻の終わりだ。
「……ほう、幸には女の幼なじみがいるのか。確かにそれは知られるわけにはいかないな」
「いい加減思考を読むのはやめてくれ」
「おっと、すまない。大丈夫、その子にだって教えはしないさ。私が楽しむだけだからな」
太陽神の女神さまは性格が悪うござんした。
本当に言わないよな……?
「さて、遊びも済んだところで、幸には聞きたいことがある」
「遊びのつもりはなかったんだけどな。で、なんだよ」
アマテラスが俺の隣に座り、まっすぐにこちらを見てくる。
「願いを聞いた時、君が言おうとしてやめたことを教えてもらおうか」
「……っ」
あの時言いかけてやめたこと。
多々良の、目のことか。
「……なんでそれを知りたいんだ?」
「いやなに、悩んでいるようであったからな。話くらいは聞くが」
言ってもいいことなんだろうか。
「そうか、幸にとってそれほどまでに悩ましいことなんだな」
「悩ましいというか……俺が話しても、勝手なことはするなよ」
「ふむ……?まあ、約束しよう」
守ってくれるかどうかは不明だが、まあたぶん大丈夫……だよな?
「実はな、さっきはアマテラスが言った幼なじみのことなんだ」
「ほう、先ほど幸の記憶から見えたものは鳥人だったが」
「ああそっち?」
アマテラスが見たものは多々良だと思い込んでいた。
姫川の方だったか。
「この家の隣に住んでる猫人の幼なじみがいるんだよ」
「ほう、幸は女たらしということか」
「止めていい?」
「む、なんだ、まじめな話か」
調子狂うなー。
本気なのかふざけているのかが全く分からない。
ウズメとは違ったタイプの厄介さだ。
「その子、左目が見えないんだよ。それに見えている方の右目も全色盲っていって、色の識別ができない。いつも、あいつは立体感のない白黒の世界を見ているんだよ」
「なるほど」
「それで、誰かにつかまってないと危ない時があったり、夜はそもそも周りが見えなかったり……とにかく不便なんだ。それで、俺なんかじゃ何もできないのは知ってるけど、何とかしてあげたくて……」
「続けていいぞ」
「それで、アマテラスは病気でも何でも治せるって言って……でも勝手に俺がそんなこと望んじゃっていいのかって思って……それに、あいつは普段自分の目を苦とは思ってないんだよ。それで余計に……でも、たまにみんなとは違うってところを寂しそうにしている時もあって」
「……そうか、話してくれてありがとう。そんな感情的になって、辛かったか?」
「……そりゃ、せっかく治せる手段があるのにさ」
「確かに勝手に幸が決めてしまうのはよくないのかもしれないな。もしその子本人が望むのなら……私が力を貸してやろう」
そういってニヤリと笑うアマテラス。
「……いいのかよ、神さまがそんな勝手に干渉して」
「ふん、神がこの世界で何をしようと神の勝手だ。もっとも、人を殺すなどといった行為は許されないがな」
「自由な神さまだな」
「なに、人を助けるなんてのは大概気に入ったか気まぐれくらいのものだよ」
「神に気に入られるとか、ずいぶんと幸福な人間だな」
「まあ、助けるとは言っても基本的に人を甦らせることは許されない。私の力をもってすれば、蘇生など容易いがな」
蘇生が容易いってやべえな……。
ウズメの力とは比べ物にならないな。
「それに、私は長い間この世界と干渉しているからな」
「そうなのか」
「ああ、立場を隠して人間として何回か生活していたこともある」
「というと……?」
「子どもがいた時もあったな。子育て経験ありだ」
「嘘だろ……?」
神さまが子育て経験あり?
「子どもっていうのは……人間と?」
「もちろんだ、私も人間と共に生活してみようと思ってな。まあ、私と過ごした人間は全てとうに死んでしまったがな」
人間との生活か……。
「ちなみに子どもってのは……」
「ん?人間と同じ方法で作るが?」
……ということは。
「なんだ?私の裸身を想像しているのか?」
「あっ、いや、そういうわけではなく」
「ふむ、やはり幸は男の子だな」
「いや……」
「女神はな、純粋な人間とならその身に子どもを宿すことができるんだ」
……えっ。
純粋な人間?
「男神なら、人間の女性にいくらでも自分の種を植え付けることができるがな」
「お、おう……」
男神はやりたい放題なんだな。
「てか、純粋な人間って」
「ああ、幸とツクヨミなら子どもを作ることができるぞ?」
「―――ッ!!」
ツクヨミを出すのはやめろォ!
「あんなに可愛いツクヨミと顔はいい幸だからな。それは可愛い子になるんじゃないか?」
「お、俺とツクヨミはそんな関係じゃねえから!」
「ふん、そうか。まあ、私は相手が幸というのはどうかなと思うが、ツクヨミが幸せならOKだからな」
「さっきからなんでちょいちょい俺のことディスってるの?」
「面白いからに決まっているだろう?」
「……」
面白いんすか……。
「まあ、どうするかは君次第だな。悲しませることだけはするなよ?」
「それは……しねえよ」
神と人間って子ども作れるんだ。
まさかそんなことはできないだろうと思ってたけど……。
だって神さまですよ?
それこそ神話に出てくるし、この世界を作り出した張本人たちなわけですよ。
その方と子どもって……。
「何なら私と練習でもするか?これでも慣れているぞ」
「からかうのはやめてくれ」
何回か、というのはそれこそ何度か時代に生きた男たちと生活を営んできたということなのだろう。
突然言われても実感なんて湧かないが。
「まあこの世界にいる神の中には人間や亜人の女性と関係を持つことを最上の快楽としている神もいるしな」
「何そのろくでもない神さま!」
「名をオオクニヌシと言ってな、私とツクヨミの弟であるスサノオの息子だ。まあ確かに幸の言う通り、性に奔放でろくでもないやつだ。でもまあ……この世界で人間や亜人と関係を持ったことのない神の方が珍しいがな。もう数えきれぬほど生きているからな」
「そ、そうなのか」
「安心しろ、以前から恥ずかしがり屋だったツクヨミは人間と関係を結んだことはないぞ」
「聞いてねえよ」
少し安心した自分がいるのが腹立たしい。
いやほら、仲良かった女友達に彼氏がいると知って微妙になる気持ちみたいなもんだよ、きっと。
そんな気分になったことないけど。
てかそんな女友達いないけど。
「まあツクヨミは幸のことをだいぶ気に入ってるみたいだし、私は別に幸とツクヨミが関係を持つのは反対しないぞ」
「思春期の男に向かってなんてこと言うんだ」
「想像してしまったか」
「みなまで言うな」
ツクヨミのことはそういう目では見ないようにしようと思っていたのに。
……まあ男子高校生としては健全なんでしょうか。
「あれ、そういえばウズメはどうなんだ?あいつ確か最初に会った時に処女ですみたいなこと言ってたけど……」
「ああ、アメノウズメか、確かに処女だな。しかし夫はいたな」
「夫!?」
あれに夫!?
ウズメだよ!?
あのウズメだよ!?
「まあ私が無理やり結ばせたのだ。アメノウズメ自体はヤツのことを好いているわけではなかったみたいだがな」
「何でそんなことをしたんだよ」
「ヤツがアメノウズメにだいぶご執心だったからな。いずれ死ぬのは分かっていたから、ヤツが生きている間はヤツに仕えてやれと言ったのさ」
「へえ……」
複雑な事情があった、ということでいいのかな?
「ヤツとの出会いを聞かせてやろうか?きっとアメノウズメは話したがらないだろうからな」
「そうなのか、じゃあ聞いてみようかな」
「昔……まあ、教科書にも載らないような時代だ。高天原に大男がやってきた」
「へえ、大男か」
「何を理由に来たのかは知らないが、ヤツは高天原と現世をつなぐ門に居座った。しかも話しかけても何も応じずずっと門を行く神を見ているだけだったという。私は気味が悪かったのでアメノウズメに口を開かせてやれというお願いをしたんだ」
「気味が悪かったから自分では行きたくなかったということか」
「うるさい。それで、ヤツ―――サルタヒコに会いに行くアメノウズメを八咫鏡を通じて見ていたんだが……アメノウズメはサルタヒコに話しかけ、相手が口を開かないと分かると突然服を脱ぎ始めたんだ」
「また服を脱いだのかよ!!」
アマテラスを岩戸から出すときと言いあいつはなんで脱ぐんだよ!
「アメノウズメのまさかの行動に驚いたサルタヒコは降参―――もといアメノウズメの豊満なボディに一目ぼれをして帰っていった」
ウズメに一目ぼれ……?
「それからというもの、サルタヒコは毎日アメノウズメに会いに来ては彼女に求婚を申し込んだ」
うわぁ、単純なやつ。
「アメノウズメは口を開かせるために取った行動であってサルタヒコのことは何とも思っていなかったのだがな……次第にサルタヒコはまた門に居座り始めた」
迷惑だなサルタヒコ!
「他の神もサルタヒコのことを気味悪がったので、仕方なくアメノウズメにヤツと一緒にいてやってくれと頼み込んだのだ」
「それ押し付けって」
「うるさい。一緒にいるだけということを約束してアメノウズメとサルタヒコは結婚をしたのだが……結婚してからというもの、サルタヒコはアメノウズメに強引に行為を迫るようになった」
「最低だなそいつ!?」
「もちろんアメノウズメにその気はなくてな。見かねた私がヤツをどこかへ飛ばしてしまったのだ」
「どこかへ、ってのは?」
「さあ、この広い宇宙のどこかだな」
……この人怖え。
「ちなみに、サルタヒコはこちらの世界で有名な天狗だ。ヤツが天狗の祖というわけだ」
「天狗の祖を殺したの!?」
「殺してはいない。その後しばらくこの世界には天狗がいたから、きっとヤツがどこかで子孫を作ったのだろう」
「まず天狗って実在してたんだ……」
そこに驚きだ。
想像上の生き物だと思ってた。
「とまあそんなわけで、アメノウズメの元夫の話だ。ろくでもないやつだっただろう?」
「ろくでもないというか……欲求に忠実というか……」
「アメノウズメは男が嫌いというわけではないのだがな、性欲の強い男はあまり好まないかもしれないな」
……俺そういえばウズメにおっぱいだのなんだの言ったような気がする。
でもたしかあの時はウズメがおっぱいの重要性を説明してくれたこともあったし……あれはあれで平気ってことなのか……?
「もし襲い掛かりでもしたら消されるかもしれないな」
「ウズメにそんな力があるの?」
「簡単だ、人間に向かって自殺をしろとでも言葉をかければいいのだからな」
「言霊か……」
やっぱり神さまってのは厄介なもんを持ってるな。
「ろくでもないといえば、先ほど幸がオオクニヌシのことをろくでもないと言ったな」
「そうだね」
そんなふしだらな神さま嫌です。
性病かかれ。
「ヤツには気を付けた方がいい」
「なんで?男は殺すとか?」
「先ほど幸の頭の中から見させてもらったが……記憶の中に、オオクニヌシの好みのタイプがいた」
「ほう、好み?」
「ああ、灰色の髪を持つ左目を前髪で隠した猫人の少女と、美しい緑の髪と翼をもつ鳥人の少女だ」
……えっと、多々良と凜先輩かな。
「ちなみに幸の幼なじみは猫人の少女か?」
「あ、そうそう」
「オオクニヌシは、こういう身長が低かったり顔立ちが幼かったり、すさまじい美貌を持っている女性が好みだ」
「ロリコン!?」
多々良がロリに入るのかは分からないけど。
「しかもヤツは悪趣味でな……彼氏がいる女を寝取るのが好きなんだ」
「最悪だな!?」
「ああ、それに彼氏を拘束しその目の前で言霊で操った彼女と……なんてことに最高の悦びを感じるらしい」
つまりだ。
例えば……付き合ってなかったとしても、俺と多々良が出かけるとする。
そして目の前にオオクニヌシがあらわれた!
俺は拘束されて、オオクニヌシと多々良との……。
「そいつ野放しにしておかない方がいいんじゃ」
「……残念ながらヤツは私の前に現れることはないんだ」
「なんで?」
「以前、ヤツが私のツクヨミに手を出そうとしたことがあってな。ツクヨミは恐怖で泣いてしまったために私が制裁を加えてやったのだ。以降、ツクヨミに手を出すことはしなくなったのだが私の前には姿を現さなくなってな……あの時殺しておけばよかった」
ワオ物騒。
「じゃあ例えば俺と多々良が出かけてる時にオオクニヌシに出くわしたらどうすればいいんだよ」
「ほう、幼なじみは多々良というのか。まあきっと幸の幼なじみに手を出そうとして来るだろうな」
「俺に対抗するすべはないの?」
「残念ながら幸にはないな。だが止める方法はある」
「というと?」
「私が渡したお守りがあっただろう、あれに念じてくれ。即座に駆けつけて私はオオクニヌシを殺す」
アマテラスさん怖いっす。
「正直な話な、ツクヨミは夜になると外で自らの使命を果たしているだろう?だがもしその時にヤツに出くわしたら……ツクヨミには抵抗できないのだ。いつ現れるかも分からないから、本当は外に出てほしくないんだがな……」
アマテラスの気持ちはよく分かる。
俺もさすがにツクヨミにひどいことをするやつは許せないからな……。
それが多々良ならもっと許せない。
「もしいたらすぐに呼んでくれ」
「分かった」
俺とアマテラスで固く握手をする。
その時、黒い球体が開いて中からツクヨミが出てきた。
「よく寝た……あれ?幸くんと姉さん、そんな真剣な顔して手をつないじゃって、どうしたの?」
「いや、なんでもないんだ。ろくでもないやつには気をつけろと、幸に教えていただけだ」
「うん?」
何のことか分からないといった感じで、ツクヨミが首を傾げた。
こんなかわいい子に手をかけようとするなんて……オオクニヌシ、死すべし。
「これは……アメノウズメが作ったのか?」
「はい!アマテラスさん、いかがですか?」
「いや、正直驚いた。まさか本当に料理が作れるようになっていたとは……」
「ふふん、どうやら私、才能があったみたいです!」
才能ねえ……。
「あむっ……うん!今日も美味しい!」
ウズメと母さんが作った夕飯をニコニコしながら食べるツクヨミ。
「「……」」
父さんと母さんは今日紹介したアマテラスを見つめている。
我が家の食事風景は確実に何かがおかしくなっていた。
一見6人で食事をしている風景。
見た目はみんな人間だ。
そうだな、俺からすれば父、母、姉、姉、俺、妹、みたいな。
アマテラスとウズメならどちらかというとウズメの方がお姉さんっぽく見える。
しかしこの6人中、なんと3人が神さまであるというのが事実だ。
さっきの家族風にいくと姉と姉と妹が。
「うちにもう一人神さまが……」
「そんなにかしこまらなくてもいいぞ、幸の父上よ」
「は、はひぃっ!」
「……無理そうだな」
「ウズメさんのお友だち……なの?」
「いかにも」
「さっきウズメさんから紹介されたけど……あのアマテラスさんなの?」
「どのアマテラスさんかは知らないが……おそらくそのアマテラスさんで間違いないはずだ」
本当にそのアマテラスさんで合ってるの?
「うちにはいつでも来てくれて構いませんので!」
また父さんの言葉がかしこまったものになる。
「ほう、それはありがたい。ではこの家に何かあっても困らないように日輪の加護を施しておくとしよう」
アマテラスが何を言っているかはよく分からないが、何かいいことがあるらしい。
「そういえば、さっき姉さんと何を話してたの?」
アマテラスが家に帰った後、俺の部屋で外に出る準備をするツクヨミが聞いてきた。
「何でもないぞ?」
「教えてくれないの?」
「うーん……」
「教えて♪」
「はい!アマテラスとオオクニヌシには気をつけろという話をしていました!」
思ってもいないけど正しいことが口から!!
ええい、こいつも言霊か!
「オオクニヌシかぁ……ああ、確かに……そうだね」
名前を聞いたツクヨミが嫌そうな顔をした。
襲われかけた相手だ、無理もない。
「あとツクヨミはかわいいという話もしていました!」
「へっ!?」
何言ってんだ俺!!
まったく厄介だな言霊ってのはよ!!
「わ、私の話してたの!?」
「え、あ、まあ……そうだな、ツクヨミとか……あと多々良とか」
「か、かわいいって……わ、わぁ、なんか恥ずかしいな」
顔を赤らめてもじもじするツクヨミ。
なんというか、ツクヨミは行動が可愛いな。
「じゃ、じゃあ私行くね!また明日来るからね!」
「おう、いいよ」
「それじゃあね!」
「またな」
ツクヨミが窓から飛び去っていく。
照れ屋なのは変わらないなあ。