第29話 訪ねてきました
「肥前への旅行ではそのようなことがあったのですね」
「長崎な」
「いいなあ、私もお魚食べたいかも……」
ウズメとツクヨミが興味津々で修学旅行の話を聞いてくる。
「魚を食べに行きたいならいいところがあるぞ」
「そうなの?」
「ああ、前に多々良といったところなんだけど、築地ってとことがあってな。新鮮な魚がいっぱい売ってるんだ」
「へー!行ってみたい!」
「なら……」
誘いかけたところで止まる。
ツクヨミと築地に行ってしまってもいいんだろうか。
築地には、次も多々良と一緒に行くことになっている。
もともと、多々良との築地デートを俺も楽しみにしているんだ。
俺とツクヨミが築地に行ったと知ったら、多々良はどういう反応をするだろうか。
築地には、多々良以外と行っちゃいけないんじゃないか……?
「幸くん?難しい顔をして、どうしたの?」
「え、ああいや、なんでもない」
「それならいいんだけど……私も美味しい魚、食べたいなあ」
「じゃあ次に築地に行くときに魚を買ってきてやるから、その時一緒に食おうか」
「いいの?食べる!」
「ツクヨミさん、新鮮なお魚はとても美味しいですよ。私もこれからが楽しみです!」
「ウズメは次から食う時は金払ってもらうけどな」
「なんでですか!!!」
次から金取るって言ったじゃーん。
ツクヨミは……なんだか金取る気も起きない。
扱いの差が出てしまっている。
「ちなみに、ツクヨミは金とか持ってるのか?」
「あ、うん、いつも夜を守る代わりにアマテラス姉さんからいくらかこの世界で使えるお金をもらってるんだ。使ったことはないんだけどね」
何だろう、急にツクヨミの使命の仕事感が増した。
まさかの賃金付きだったとは。
「私もお金が欲しいですね……」
「早くバイトでもしたらどうだ?」
「バイトですか……この家の居心地が良くてですね」
「だからニートって言われるんだよこのニート女神」
「ニートって言いましたね!?またおバカにされました!それにいつもそんなことをいうのは幸さんだけですよ!」
「そうだったっけ?」
多分こんなにウズメのことをバカにしてるのって俺だけだと思う。
「あ、そうだ!今少し話に出たことですし、せっかくなのでアマテラスさんをお呼びしますか?」
「えっ、神増えるの?」
「大丈夫です、アマテラスさんは私のように家に居ついたりはしませんから!」
「居ついてるっていう自覚はあるのな……ツクヨミみたいないい子は歓迎だけど、ウズメみたいなのはもう勘弁だぞ?」
「私を悪い子扱いしないでください!」
「い、いい子……え、えへへ」
恥ずかしそうに笑うツクヨミが可愛い。
破壊力が高いとはきっとこのことを言うんだろう。
「それに、アマテラスさんも悪い人ではないですよ!」
「あ、アマテラス姉さんはいい人だから!」
「ツクヨミがそういうなら……」
「幸さんは本当にツクヨミさんのことが大好きですね!?」
「す、好き!?」
俺が反応する前にツクヨミが反応した。
何で顔を赤らめているんですか。
「ゆ、幸くん、それ本当……?」
「お、おう……ツクヨミのことはそうだな、好きだぞ?」
「愛の告白ですね!」
「そういうことじゃねえよ!ツクヨミはいい友達だってことだよ!」
「す、好き……幸くんが私のこと……うぅ~~~っ!」
もじもじするな、言った後で恥ずかしくなるから。
「さて、幸さんの許可ももらえましたし、アマテラスさんをお呼びしましょう」
「呼んで大丈夫なのかよ?」
「今はアマテラスさんもお暇な時期でしょうし、きっと大丈夫ですよ」
お暇な時期って何だよ。
「少し着替えてきますね」
ウズメが自分の部屋に戻る。
ウズメは普段、ツクヨミのように着物を着ているわけではない。
もしかしたらそういう力を使う時は正装じゃないといけないのかもしれない。
にしてもよく考えると普通の洋服を着た女神って何かおかしいよな……。
「よーし、やりますよー!」
部屋に戻ってきたウズメの服装は、俺たちと出会った時と同じ着物を着ている。
「あ、ウズメの舞が見れるんだね!」
ツクヨミが俺の隣に座った。
「そんなにすごいもんなのか?」
「うん、前にアマテラス姉さんが天の岩戸に引きこもっちゃったときに、ウズメが踊ったおかげで出てきてくれたからね!」
「それは前に聞いたな。でもウズメがすごいってあんまり思えないんだよな……」
「それに関しては私も同感だけど……」
「聞こえていますからね!?」
ウズメが両手を上げて怒る。
そういうとこだよ、すごそうに見えないの。
「まあいいでしょう。それでは……」
以前、ツクヨミを呼び出した時と同じく、どこからか雅楽のような音楽が聞こえてくる。
そして、自然と辺りが暗くなり、ウズメにスポットライトが当たっているような錯覚に陥ってしまう。
ウズメの舞の、この世のものとは思えない美しさにまた、呼吸をするのを忘れてしまいそうになる。
「すごいね……」
ツクヨミが、俺の服の袖をちょっとだけつかんでそう言ってくる。
「ああ……すげえな」
「……我が呼びに応え、最高神、太陽の女神アマテラスよ、その姿を現し給え」
ウズメが小さな声を出す。
あ、そうだ、目をつむらないと。
俺が目をつむった直後、すさまじい光が発生する。
「さあ……アマテラスさん、来ちゃってください!」
さっきまでの神聖さはどこへ行ったんだよ。
「さあ、光がおさまりますよー!」
だんだん光がおさまっていくのが分かる。
「……あれー!?」
ウズメが変な声を上げた。
「……なんだ?」
目を開けてみると、そこにアマテラスの姿はなかった。
「失敗してんじゃねえか!」
「あ、あれえ!?アマテラスさんに拒否されちゃいました?」
いや疑問形で俺に聞かれても分からねえ。
「おかしいですね……私の力が失敗するなんて」
不服そうな顔をするウズメ。
ぴんぽーん。
インターホンが鳴った。
誰だろう。
「ちょっと出てくるわ」
「あ、はい」
多々良かな。
それとも姫川だろうか。
いや、佐々木たちという可能性もあり得る。
うーん、でもあいつらなら事前に連絡してくるか?
「はーい?」
扉を開けると、そこにいたのはめちゃめちゃ美人の女性だった。
黒紅色の髪の毛を、ツインテールの位置で左右に一つずつ輪っかにしている。
赤い服とジーパンという格好だが、その服ではもったいないほどの美人。
ちなみに胸はない。
「……おや」
女性の眉がピクリと動いた。
……あれ?俺この人見覚えあるぞ?
「いつか、車に引かれそうになった私を助けるという名目で胸を触った人だな」
「思い出した!」
この人の言う通り……って違う!
「そういう名目じゃないからね!?助けようとしたら偶然!」
「む、そうだったか」
「というか久しぶりですね……今日まで車に轢かれてませんよね?」
「轢かれていたらこのようなところには来ないと思うが」
「確かにそうだな……えっと、どういった要件で?」
今のところ、この人がなぜここに来たのか理由が分からない。
もしかしてあの時のお礼?
「呼ばれた」
「はい?」
「ここにアメノウズメがいるだろう。呼ばれたんだよ」
「……え?」
「君は日本人だよな?」
アメノウズメ?今そう言った?
え?ということは……。
「あーーーーーーーっ!?」
「急に大声を出されたら驚くだろう」
「あんたがアマテラスか!?」
「む、私のことを知っているんだな」
「その発言で分かったわ!」
何でウズメの力に応じなかったのかが分かった。
近くにいたからだ。
つまり、この女神は普段からこの世界を歩いているというわけで……。
インターホン鳴らして訪ねてくる女神なんて初めて聞いたよ!!
「あら、アマテラスさん!お久しぶりですね!」
「ああ、久しいなアメノウズメ」
「ウズメと呼んでくれていいんですよ?」
「まあ呼び方などは些末なことだ」
「もー」
「さて、アメノウズメにここへ呼ばれたが、上がってもいいのか?」
「え、あ、ああ、どうぞ」
「邪魔をする」
アマテラスが靴を脱いでうちに上がる。
スニーカー……。
「なんだ、私の靴に何かついているか?」
「いや、そういうことではなく」
「まさか、靴に興奮する特殊な人間か」
「ちげえよ!?」
大いに勘違いされている!
まあ前も思いっきり胸触ったし……変態と思われていても仕方ないか。
「今は母さんも父さんも家にいないからな……後で紹介するか」
「ではまず幸さんの部屋に行きましょう」
「え、俺の部屋なの?」
「別に私はどこでもいいぞ」
ツクヨミもいることだし、とりあえず俺の部屋に案内した。
「アマテラス姉さん!」
俺のベッドに座っていたツクヨミが、アマテラスの姿を目にした瞬間立ち上がった。
「ツクヨミか、あまり男の寝床に入るものではないぞ」
「あんた俺のこと疑ってるだろ!?」
「……無理もないと思うのだが」
「ごめんね!」
やっぱり変態だと思われてた!
「幸さん、初対面とは思えないほど話せていますね」
「……話せているのはそうだけど、俺とアマテラスは初対面じゃないんだ」
「え、そうなのですか!?」
ウズメが大げさに驚く。
「ああ、以前道端で八咫鏡を落としてしまってな。拾ったのはよかったのだがその場で車に轢かれそうになったのだ。その時に助けてくれたのが彼だ」
「そういえば以前人助けをしたと言っていましたね……なんと、人助けと思っていたものが神助けだったとは」
「俺も驚いてるよ」
まさか助けたのが人間じゃないとはね。
「私を助けてくれた者に再び会えたのだ、せっかくなら何か礼をしよう」
「え、別にいいよ」
「ふん、私が礼をすると言っているんだ。それに、私の力を示すいい機会だ」
アマテラスがジーパンのポケットから何かを取り出す。
「あ、それ……」
「君は分かっているようだな。これは八咫鏡だ」
「大事なものならポケットにしまっておくなよ……」
「なに、八咫鏡はこんなところに入れたくらいで傷つきはしないよ。さて、君は何を望む?」
「望みかあ……」
ぱっと言われても思い浮かばない。
んー……。
「別に何でもいいぞ?何でもだ」
何でも……。
「その何でもってのは、病気を治してくれとかでもいいのか?」
「問題ない。私は何でもと言っているからな」
……それなら。
「……っ」
口に出しかけたところで、止まる。
俺が、勝手にこんなことをしてもいいんだろうか。
病気は別に、俺のことではない。
多々良の、目のことだ。
今朝、多々良にふざけて襲い掛かったときに見た左目。
左目が見えず、右目も色覚異常で色の識別がほとんどできない。
いつも見えているのは、白黒の世界。
きっと不便に感じているはずだ。
でも、それを俺の勝手な願いで治してしまってもいいんだろうか?
……やるべきじゃない。
「ごめん、なんでもない」
「なんだ?何か望みがあったんじゃないのか?」
「……忘れてくれ」
「幸さん、もしかしてたた……」
「黙っててくれ」
ごめん、ウズメ。
「顔色が悪いぞ、大丈夫か?」
「いや、大丈夫。ほんとに何でもないんだ」
「そうか、君は無欲だな。では私からこれをやろう」
そういって、アマテラスは部屋のカーテンを開け、八咫鏡を太陽にかざした。
すると、八咫鏡が光り輝き、中から何かが出てきた。
「さあ、受け取ってくれ」
「これは……?」
アマテラスが渡してきたものは、銀色のお守りのようなもの。
アマテラスは、お守り袋を開き中身を取り出した。
「中には私の力を込めた宝玉が入っている。持っているといいことがあるぞ」
にやりと笑うアマテラス。
ビー玉に似ているが、玉の中で炎が揺らめいている。
どうなってるんだろう。
「アマテラスさん、それって渡しちゃってもいいものなんですか……?」
「なに、この宝玉が力を発揮する時は私が彼にお礼をする時だ」
お礼?
どういうことだろう。
「まあそれは肌身離さず持っているといい。喜べ、お守り袋は君の好きなツクヨミの色だ」
「すっ!?」
「……違うか、君のことが好きな、だったな」
「姉さん!?」
ツクヨミの顔が真っ赤に染まる。
「ゆ、ゆゆ、幸くん!?ち、違う、から……ね」
だんだん声が小さくなっていくツクヨミ。
「だ、大丈夫だ」
「ツクヨミが最近仲良くなった男についてよく話してくれるんだ。まあ、それが君だったとは思ってもいなかったがね」
「ね、姉さん!言わなくていいよっ!」
と、とりあえず、このお守りはもらっておこう。
何かいいことがあったら、その時は改めてお礼を言えばいいか。
「あ、肌身離さずという意味ではその玉を飲み込んでもいいぞ」
「飲まねえよ!?」
「そうか」
さすがにビー玉みたいなのを飲み込む気にはなれねえな……。
「さて、アメノウズメに呼ばれたのはいいがこれから何をしようか……」
「あら、今日はお仕事はないのですか?」
「まあ、最近はヒマなんだ。きっともう少ししたら忙しくなるがな」
「え、仕事してんの?」
「旅行系の会社で旅行の企画業務をしている。まあ、身分は隠しているが」
普通に仕事してる人いたー!
あんた神さまだろ。
「ちなみに一人暮らしをしているぞ。仕事は今年度でやめることになっているがな」
「姉さん、仕事辞めちゃうの?」
「ああ、もう十分貯蓄はあるからな」
神さまが一人暮らし……?
なんかウズメよりも神さまっぽくないな……。
「君はさっきから不思議な顔をしているな。そんなに私が変か?」
「いや、神さまらしくないなー、と」
「何を言っている、下界で生活をして人間や亜人たちを毎日見守っているんだ。これほど神らしい神もいないだろう?」
「そう言われれば……」
「まあ人間と同じように生活していると言われれば人間は変だと感じるのも無理ないか」
だって神さまって神話とかそういう、想像上のものだと思ってたのに。
本物の神さまは今目の前でこうして話してるんだもんなあ……。
アマテラスとウズメに至っては洋服着てるし。
ほんと、現実って何が起こるか分からねえなあ……。
「アマテラスさん、今晩はここでお夕飯を食べていかれてはいかがですか?」
「えっ」
「ここでか?」
「はい、幸さんのお母さまと私が料理いたしますので!」
「ほう、アメノウズメの手料理か。天界では私が作るのだがな」
「さすがにアマテラスさんにはかなわないかもしれませんが……」
そういえば前にアマテラスは家庭的みたいなことをウズメが言ってたような気がする。
見た目的にはむしろ家事苦手に見えるんだけど……。
「ここで食べても大丈夫なのか?」
「まあ親がオーケーしてくれれば……」
「幸くんのお父さんとお母さんならきっと大丈夫だね!」
「そうなんだよな……」
「なぜ残念そうにしているんだ?」
「いや……」
あの親ならきっとアマテラスですと言った瞬間にどうぞわが家へってなるんだろう。
また夕飯の人数が増えるのか。
「そうだ、君、しばらくアメノウズメを借りるぞ」
「え?」
「まあ久しぶりに会ったからな、話したいこともあるんだ。まあこんなんだが、私の数少ない友人でもあるのでな」
「こんなんってどういうことですかー」
「それはそのままの意味だ。急ですまないがしばらく出かけてくるよ。ツクヨミのことはしばらく頼む」
「えっ」
「ちなみに、手を出したらそのお守りは没収だ」
そういって、部屋から出ていくアマテラス。
と、連れてかれるウズメ。
……え、本当にツクヨミと帰ってくるまで二人きりなの?
「……あっ」
ツクヨミと目が合った瞬間、さっとそらされた。
ま、まじか。
「……ああそうだ」
「うわっ」
アマテラスが戻ってきて、顔だけ部屋に覗かせる。
「君、では呼びづらいな。名前は?」
「さっきからウズメやらツクヨミが俺の名前を呼んでたろ。佐倉幸だよ」
「じゃあ幸と呼ぼう」
「わざとだな!?」
「冗談だ。幸だな、では幸と呼ぶことにするよ。ではまたな、幸。夕飯の時間には帰ってくる」
そういって家から出ていくアマテラス。
なんなんだあの人は……。
「……」
ツクヨミがこちらを見ている。
やべえ、誰かが帰ってくるまでこの部屋でツクヨミを一緒にいろってことだよな。
ツクヨミと一緒にいるとなんかドキドキするんだよな……。
「ゆ、幸くん!」
「な、なんでしょう!?」
「きょ、今日の私、珍しくないかな!?」
「……な、何が?」
「う、うぅ……」
ツクヨミの頭がかくっと下がった。
やばい、俺まずったかも。
「幸くん、外を見てほしいな」
「外……?」
特に変化はない。
休日の午後ということもあり、子どもが遊んでいる。
車道まで行っちゃだめだぞー。
「特に……」
「ばかー!」
「なんで!?」
「午後だよ!まだ昼の2時!」
「昼の……あ!そういえばこの時間にツクヨミが起きてるのって珍しいな!」
そういうことだったのか!
なるほど幸くん理解しました!
「幸くんの話を聞きたくて起きてたんだけど……寝るね」
「寝ちゃうのか」
「え……?幸くん、私と何かして遊びたいの?」
ツクヨミと……遊ぶ?
それっていわゆるデート的な?
そして最後には……ってバカ。
俺は何を考えているんだ。
「い、いや!ツクヨミももう眠いんだろ?夜の仕事もあるんだし、寝た方がいいんじゃないか?」
「うん、そうさせてもらうね。……ここで寝てもいいかな?」
「それはこの部屋でって意味か?」
「え……あ、う、うん」
なんか別の意図があったように感じるのは気のせいだろうか。
「じゃあここに失礼して……」
そういった直後、どこからともなく黒い球体が現れた。
「あ、そうだ。幸くん、この中に入ってみない?」
「え……」
つ、ツクヨミの部屋に?
「い、いいのか?」
「う、うん、大丈夫、私の部屋ってだけだから……」
正直その中は気になっていた。
球体の中でどうやって寝ているのか。
「てか、俺も入って大丈夫なのか?」
「あ、大丈夫だよ。見かけほど狭くないからね!」
ツクヨミに誘われるままに、中に入る。
「え、和室……?」
「えへへ……いらっしゃい」
「あ、お邪魔します」
ずいぶん明るい部屋だけど、なんだここ。
家……なのか?
「これ、あの球体の中なんだよな?」
「あ、えっと……あれ自体が部屋ってわけじゃなくて、あの球を介してこの部屋につながってるというか……」
「つながってる……?え、ってことはここって」
「そうだよ……幸くん、ようこそ天界へ」
て、天界……!?
え、どうしよう、思いっきり家なんだけど。
障子で仕切られている和室。
窓は高い位置にあるため、外の景色を確認することができない。
「前に聞いた話だと、天界へ行くためには特定の場所にあるゲートってのを通らないといけないって聞いたんだけど……」
「これは姉さんにもらった簡易ゲートで……私以外の神は通れないようになってるんだ」
「え、なんで俺は通れたの?」
「もしかしたらさっき姉さんにもらったアレのおかげかも……って、あ、あれ?」
ツクヨミが俺の姿を見て驚く。
「どうした……おぉ!?」
なんと俺の身体が透けていた。
「これまずいんじゃ!?」
「そっか、やっぱり人間は天界に呼べないんだ……ごめんね幸くん、また私が起きたらお話ししようね!」
そういって、俺は天界から追い出された。
というか、自分から出た。
「まだ身体が透けてるんだけど……」
ここ現実だよね?
俺の部屋だもんね?
さて、ツクヨミのことを頼むとは言われたものの、ツクヨミが寝てしまったのでぼっちになってしまった。
母さんも父さんもまだ帰ってきてないし、どうしたもんか。
……あ、そうだ、多々良に漫画を借りたんだった。
読むか。
「多々良ー」
「あ、ゆ、ユキちゃん、いらっしゃい」
「漫画返しに来たぞ」
「も、もう読み終わったんだね、早いね」
「ああ、面白くてな」
漫画を読み終えたので多々良の部屋に来た。
いつでも貸し借りができるのは家が隣っていうのの良いところだよな。
「ユキちゃんはにゃにが面白かった?」
「俺はこの『Revive.ZERO』かな。現代知識があんな風に戦争に使えるなんて、面白いな」
「でしょ!それに、主人公がすっごく頭がいいんだよね!」
「確かに……かなり頭がキレるよな」
「もういっこのほうはどうだった?」
「うーん、俺はあんまりかな。こっちの方が好きだ」
「そっか……じゃあまた『Revive.ZERO』の新刊が出たら貸すね!」
「ありがとな!」
……と。
そこまで話し終わったところで、会話が途切れた。
なぜか、俺の中で早く次の話題を、と焦ってる自分がいる。
多々良も多々良で、少し顔を赤くしてチラチラとこちらを見ている。
多々良相手に、こんな気まずい沈黙は初めてだ。
な、なんでだこれ。
「た、多々良?」
「にゃっ!?ゆ、ユキちゃん、にゃに!?」
明らかに動揺している。
……というか、警戒されてる?
俺、多々良に何か……あ。
したじゃん。
今朝したじゃん。
多々良のことを本気で照れさせてやろうという名目で押し倒してお腹触ったじゃん、服の上からだったけど。
よくよく考えてみると、あれって半分襲い掛かったようなもんだよな。
俺ってば何してんの。
これ絶対こじれる前に謝っておいた方がいいよな……。
今朝やらかしたばかりだし……今謝ればまだ大丈夫……な、はず。
「た、多々良!」
「わ、わぁぁぁ!?」
多々良に詰め寄る。
しまった!
「にゃ、にゃに!?びっくりした!」
「ご、ごめん……じゃなくて!朝!朝の事!」
「あ、あさ……?」
多々良のしっぽがピンと立つ。
そして、顔が赤くなった。
「ごめん!俺調子に乗ってあんなことしちまって……は、恥ずかしい思いをさせて、本当にごめん!」
勢い良く頭を下げた。
「……ゆ、ユキちゃんに身体触られた」
「本当にごめん」
「左目も見られたし……ユキちゃんの顔が本気だった」
「返す言葉もございません」
「でも……最初にユキちゃんを焚きつけたのはたたらだし、たたらも……ゴメン」
「そ、そんな多々良が謝る事じゃ」
近くにあったぬいぐるみで顔を隠す多々良。
手の甲が赤くなっている。
「さっきのね、その……すっごく恥ずかしかった。でも、ユキちゃんにゃんだか優しくて……」
「や、優しい?」
「押し倒されちゃったけど……それに、あの時だって触ったのはお腹だったし……」
一応気遣った……だけ。
ただあの雰囲気は少し危なかった。
「まあにゃんというか……うぅ~、この話おしまいっ!今回のことは……お、お互いゴメンってことで!ユキちゃん、分かった!?」
「お、おう」
「じゃあその……今から、ゲームしよ?対戦で」
「負けないぞ」
「今日こそユキちゃんに勝つんだから!」
Side アマテラス
「お待たせいたしました、チョコレートパフェです」
「ありがとう」
「あの、私もいただいてしまっていいのですか?」
「構わない。アメノウズメだって、甘いものくらい食べるだろう?」
「ええ、好きですが……」
なんだ、おごられることに抵抗でもあるのだろうか。
そういうやつだっただろうか。
「あの……アマテラスさん、お聞きしたいことが」
「なんだ?」
「本当にあれを渡してしまってもよろしかったんですか?」
「確かに本来は大切なものだが……あれは今彼が持っていた方がいい」
「それって……」
アメノウズメが不安そうな顔をする。
「まあ、少し見えた気がしたんだ。大丈夫、じきに私の手に戻ってくるさ」
「大丈夫……なんですよね?」
「そこは私がいるから問題ないな」
「でも……私少し心配です」
「どちらかというと私はその後の方が心配だがな」
「後、ですか?」
「ああ、彼はそういうことをよくするような人間なのだろう?」
「そうですね、あの時も……」
「……そうか」