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踏まれたカエルのゲコくじょー!最底辺から目指すのは……魔王?  作者: 氷狐
第二章 とりあえず踏み出してみます!
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カエルの弟子は早熟ゴブリン?

「え……と、アン。もう……進化しちゃった。てへ!」

「進化シチャッター! キャハハ!」


 あれから三時間ほど経った、街道沿いの待ち合わせ場所にはすでにアンとモモチが待っていた。

 俺たちの姿……特にムロミだが。を見るアンの視線の冷たさに耐えきれず、可愛らしく白状してみたのだが……。


「アホかーっ! 僅か三時間じゃぞ、それで40以上もレベル上げをして、さらには進化しちゃったじゃとぉ!」

「ムロミカッコイイ!」

「ソウカナァ、キャハ!」


 この反応は仕方ないよな。うん。もちろん俺だってびっくりしたさ……。


 ゴブリンっ子二人は、カエルでスタートした俺に比べれば少しだけ上位の存在ではあるものの、子供でしかも雌の個体であることから種としての『格』はかなり低い。

 そんな二人が自分よりかなり上位の『格』を持つ人種と戦う(一方的に蹂躙したとも言う)。それは二十近いレベルの上昇を彼女たちにもたらすこととなった。


 では、もっともっと格上の遥かに高い『格』を持つ存在と手合わせをしたならば……。


 個体名 ムロミ

 種族 ソルジャーインプ

 レベル 122

 称号 無し

 装備 布

 エクストラスキル 斬撃

 通常スキル 剣術 飛翔 悪寒


 斬撃……両断の上位スキル。剣撃を相手に飛ばすことが出来る。

 悪寒……相手の危機感を刺激する一種の精神干渉スキル。


 ……はい。この通りです。


 バサバサと背中に生えたコウモリのような翼を使い、ムロミは気持ち良さそうに空を飛ぶ。飛行に適応するためか、やや全体的に細身になり、緑だった体色は青っぽくなった。

 耳がさらに長く尖った頭部には額から二本のツノが生えていて、お尻の辺りからは、先っぽがかぎ状になった細長い尻尾。


 そう、まさに図鑑などでよく見る、下級の悪魔そのものなんだよなあ……。


「まあよい。ところで選択肢は何が出たのじゃ?」

「確か、ソルジャーホフゴブリンとソルジャーインプだろ、あとはハーピーだったかな」

「ハ…………。もうよいわ、ハルの話を聞いておると自らが集めてきた知識が信じられなくなりそうじゃからの」


 何ともひどい言われようだが、これはムロミのために俺なりに色々と考え、それを実践した結果だ。

 彼女の希望は空を飛びたいだった。そこで俺が思い付いたのは、じゃあ空で手合わせしてみたらどうだろうか? ということだったのである。

 無論、ムロミは飛べないので、最初は馴らしとして高い高いをした。まあ、俺が彼女を上空に投げ上げて、落ちてきたのをキャッチしただけだが、その高度と落下までにかかった時間は、もう『究極の高い高い』と呼べるものだ。

 最初の一回目こそ、あまりの高度からの落下に気絶してしまった彼女であったが、元より意外と向いていたのかも知れない。回数を重ねる毎にはしゃぎ始め、後半にはもっと高くとねだってくる有り様であった。


 馴れてきたあたりで次の段階に進み、投げ上げたムロミを追って俺も上空に飛び上がって空中で手合わせを開始した。高い高いの過程で、より長く安定して空を楽しめるよう試行錯誤したムロミは、まるでスカイダイビングのように自分にかかる空気抵抗を調整しながら、すぐに手合わせにも対応し始める。


「……で、それをひたすら繰り返したら、ああなったと言うのか。そんなもの実践する馬鹿は、歴史上二度と現れまいよ」


 そもそもハーピーなどという選択肢が出ること自体があり得ないと言われ、訓練方法を説明させられたのだが、結果はさらにアンを呆れさせてしまっただけであった。


 ◆◇


「なあにぃー!ネッコたちがボロボロにされて戻っただとぉ?」


 俺たちがギルドから出て三十分後、訓練所の掃除をしようとギルドの職員が中に入ると、そこにはネッコら、クラン『モブスター』所属の冒険者十名が意識を失い倒れていた。

 施設の結界のおかげで、誰も外傷は全く無いものの、精神的によほど辛い目に遭ったのか、皆苦しそうな顔をして気絶しており、いくら揺り起こそうとしても誰一人目を覚まさない。

 仕方なくギルドから使いが出され、迎えに来た同クランのメンバーにより、彼らは皆やっと連れ帰られたのである。


「ギルドの訓練所って言やあ、あの連中が新人潰しによく使っていた場所だろうが、まさか返り討ちに遭ったってのか?」


 声を荒げているのは身長が一メートルを僅かに越えた程度の小さな男性。だが、頭が異常に大きく四肢もバランスがおかしなほど巨大である。

 何よりも彼を象徴しているのは、その顔中を覆ったモジャモジャの髭だろう。

 彼は人間に『人』として認識された亜人種『ドワーフ』なのだ。


「なにせ、誰もまだ目覚めてませんので話は聞けませんが、ギルドの職員の話だと相手はゴブリンを連れた冒険者だったと……」

「ゴブリンだとぉ! バカにするのも大概にせい! そんな話を誰が信じるか、この役立たずどもがぁ!」


 彼こそはこのクランのリーダー。ランクA冒険者『荒髭』のイグアニス。見た目さながらの乱暴なやり方で幾つかの中小クランを吸収し王都のナンバースリーの組織にまでのし上げた人物である。


「しかし……その冒険者ってのがどうやら例の奴らしく」

「ああん? 図書館で幽霊退治したってあのイカれた格好の魔法使いか。ギルド長のワイズマンが気にかけてるってあの……」


 ハルオキがアンを解放した一件は、開示される情報のあまりの少なさから噂が噂を呼び、回り巡った挙げ句にどうやらの幽霊を退治したという、もっともらしい話に落ち着いている。

 王都で冒険者をする者にとっての憧れであり、目標でもある伝説の冒険者ワイズマン。そんな彼が気にかけているというだけでも、ハルオキの名は良くも悪くも知れ渡っているのだ。


「……ギルとガルを呼べ」

「し、しかし……イグアニスの兄貴! まさか本気で……」


 ギルとガルというのは、このクランに所属する双子の暗殺者である。イグアニスの性格上、このテのトラブルも少なくなく、それらを、秘密裏に処理するのがこの者たちの役割だ。

 クランにはもちろん、それ以前に冒険者の登録さえも行っていないので、そこからクランやイグアニスらに害が及ぶことはない。まさに、裏の仕事のためだけに存在している者たちであった。


「俺たちはいずれ、王都一番のクランになる。その道を妨げる奴は誰であろうと叩き潰すまでだ!」


 ◇◆


「ハル……少々のことでは驚かんつもりだったがな……これはいったい」

「いやあ、魔物って不思議ですね。こんな進化するなんて、俺もびっくりで……」


 王都に戻った俺たち、まあムロミなんだが。その姿を見たマーティンが呆れを通り越して、やや感情のない目で俺を見る。

 ギルドで作った首輪をしているので、ムロミ本人である確認は出来るのだが、半日でゴブリンに羽根が生えて戻れば、こうなっても仕方ないだろう。


「まあいい。今日もお疲れさん」

「ああ、マーティンもな」


 そう言って俺たちはマーティン別れ、宿へと帰っていった。


 ◆◇


『あれが標的だねギル』

『ああ、そうだねガル』


 高い城壁の上から、ハルオキたちを見ている小さな人影が二つ。


『ゴブリンに羽根があったねギル』

『そうだね。でも関係ないさガル』


『僕たちの仕事は……』

『僕たちがやるべきことは……』


『『アイツを殺すこと!』』



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