カエルはテンプレ馬鹿を嘲笑う?
「ひゃっはっは。馬鹿なあんちゃんだ。このBランク冒険者『返り血』のネッコ様に刃向かおうなんてなあ!」
「血まみれの間違いじゃないのか? お前のような雑魚がBランクとは正直がっかりだ」
「くそが、いっちょ前の口叩きやがって! おい職員、訓練所の準備させろ!」
「訓練所? 俺はここでボコボコにしてやってもいいんだが?」
「調子に乗るなひよっ子が! 冒険者同士の殺し合いは即極刑なんだよ! まあ命があるのを後悔するまで痛めつけてやるからついて来な!」
どうやらここにもテンプレラノベでお馴染みの、死なない結界のある訓練所とやらがあるようだ。
しばらくすると職員のひとりがネッコに声をかけ、それを聞いて彼らは移動を始めた。ついて行くと、すぐに地下への階段が見えてくる。
その階段を降りていくと、四隅に石の柱が立てられた石製の舞台がそこにはあった。隣り合う柱から柱までは約五メートルくらいの間隔だろう。
この舞台上でいかな大怪我を負っても、柱の範囲から出れば、それは無かったことになるのだとか。無論、死ぬことも決してないらしい。
……ち、ご都合主義のグロなしでってやつか。切っても元通りとはつまらんな。待てよ……切っても……か。
ネッコの取り巻きたちに脅されて、会場の準備をした職員が追い出された。これで目撃者はいない、心置きなくボコボコに出来る……とか、思ってるんだろうな。
「さあ、邪魔者は消えたぜ! 泣いても許さねえから覚悟するんだな!」
……いや、微妙に心の声と被るなよ!
「ところでひとつ確認だ。これはお前ら全員と俺たち三人ってことでいいんだよな?」
「ぶっ、だぁーひゃっひゃっひゃ。本当に何も知らねえんだな。いいか、俺たちのクラン『モブスター』はな、新興だが今や王都で三番目にデカいクランなんだよ! ここにいる連中だってほとんどランクC以上だ。そんなゴブリンなんざ数えるだけ無駄だってもんだぜ!」
『クラン』というのは、目的が同じだとか、気が合うとかで冒険者が集まって作るコミュニティのことだ。これはギルドにも申請され認可されている公式の組織なので、クエストや依頼の『クラン受け』というのが出来るメリットがある。
クラン受けは、所属冒険者の中でも最高ランクの者が基準となるために、駆け出しがより高ランク用の依頼をこなして、通常より早く昇級するチャンスを得たり、指名依頼を受けたくない上級冒険者が同クラン内の別の者に仕事を振ったりも出来るのだ。
「まあ、クランとかどうでもいい。つまり十対三でいいってことだよな?」
「減らず口を……。構わねえ! まとめて十回くらい死なせてやれや!」
馬鹿どもが、くっくっく……。
俺は、すぐにこの訓練所内を結界で覆った……。
◆◇
「ぎゃああああっ!」
「うがあぁぁーっ!」
「勘弁してくれ、もう止めてくれよう!」
開始から二時間。叫び声がひたすらに鳴り響く室内。
その様相はすでに訓練や嫌がらせなどというレベルではなく、一種の拷問に近かった。
訓練台の上に並ぶのは五人の男たち。
彼らの周りを走り回りながら、俺が奴らから奪った剣を振って『肉』を断つ練習に夢中なのは、ゴブリンのモモチとムロミだ。
俺はと言えば……
「うう、てめえ俺たちにこんなことしてぶひゃっ!」
「よし、モモチ、ムロミ、そいつら止め刺せ! 替え玉のお目覚めだ」
「ワカッター!」
「ハーイ!」
例え訓練台の上であっても、一度死ぬと精神的に強いショックを受けるため、台から降ろしてもしばらくは意識が戻らない。
そこで奴らを五人ずつに分け、台に上げた五人を神経毒で動けなくしてから、チビたちの訓練とレベルアップ用の肉人形にしているのだ。
引き摺り降ろした五人は、目覚めるまではコーチ役の俺の下で椅子がわりである。
「くそ、くそくそくそが! 絶対、絶対ぶっ殺してやるからな!」
「おお、活きがいいなあ。モモチ、ムロミ、そいつは経験値が美味しい獲物だ。たくさん訓練してもらえ」
「ヤッタア!」
「イックヨー!」
「うぎゃあああああっ!」
……確かに美味しいんだよな。
個体名 ネッコ
種族 人間
レベル 85
称号 無し
装備 バトルアックス 革鎧 革の靴 強化の腕輪
エクストラスキル 蛮勇
通常スキル 斧術 肉体強化
『蛮勇』というのは精神強化系のスキルで、要は精神的ダメージに打たれ強くなるということだ。
……まあ、そのせいでいつまでもうるさいんだけど。
ただ、おかげで彼だけは最後まで回復し続けてくれたので二人はこんなに成長しました。感謝!
個体名 モモチ
種族 ゴブリン
レベル 42
称号 無し
装備 布
エクストラスキル 無し
通常スキル 剣術
個体名 ムロミ
種族 ゴブリン
レベル 43
称号 無し
装備 布
エクストラスキル 両断
通常スキル 剣術
つか、擬態用のレベルあっさり抜かれたな……。
ゴブリンとスライムたくさん狩ったし、70位に上げとくか。
まあ、ある意味ゲームなどでも常識ではあるが『大物喰い』が急激なレベルアップの秘訣だよね。
◇◆
「あの、ハルオキさんたち大丈夫だったんですか?」
「ああ、ジャスミンさん。いやあ話せばいい人ばかりで、自分たちが疲れて倒れるまで、この子たちに稽古をつけてくれましたよ」
「そ、それなら良かったです」
その後、さっき作った登録用の首輪を二人に着けてあげた。見た目はこんなだけど、中身は女の子だ。可愛らしい色だとずいぶん喜んでくれていた。
「さてジャスミンさん、これで二人も同行させられるでしょう。さっきの部屋をお借り出来ませんか? 討伐証明がやたら多くて……」
「はあ……構いませんが」
そう言って俺たち三人はジャスミンさんと一緒にさっきの小部屋に入ったのだが……
「いやいや、ワイズマンさん。ギルド長がお茶運んできたらおかしいでしょ?」
「そ、そうかい?」
そう、部屋に入ると、どこで俺がいるのを聞きつけたのか、ギルド長のワイズマンが不自然にお茶の乗せられたトレーを持って入ってきた。
「ささ、私に構わず。どうぞ手続きをはじめてはじめて!」
彼は出ていくつもりはないらしく、そのまま向かいのジャスミンの隣に腰掛ける。
……この爺さん、あの穏やかな顔とやたら丸い口調で、曲者感が半端ないんだよなあ。
「まずはスライムの核です」
「はい……はっ?」
俺がアイテムボックスから、回収したスライムの核をガラガラとテーブル上に置いた。その数はとりあえず五十個。実際は百個近くあるのだが、今後アンのランクを上げるのにも使うかも知れないので残しておく。
「ご……五十個ですね。うち十二個はレア種の核ですので買取り価格が倍になります」
そんなのがあるんだ……。水中が気持ち良かったからきちんとステータスカード見てなかったなあ。
「じゃあ次にゴブリンの討伐部位を……」
「はい、お願いします」
そう言ってジャスミンは金属製の小さなトレーを差し出した。昔あったドカベンの弁当箱くらいの大きさだ。
「えっと……入りきらないと思います」
「はい?」
「いや、だから……こんなトレーじゃ入りきらないと言ってるんです」
その発言にワイズマンの眉毛がピクリと上がる。
「ジャスミン、毛皮受け取り用の木箱があったね。あれを持って来なさい」
しばらく待つと、ジャスミンはちょうどビールケースのような木箱を持って戻って来た。汚さぬためか何枚ものボロ布が敷いてある。
「これなら入るかな……では」
「…………」
「…………」
耳といっても大小様々。中には二十センチ位のもある。
箱いっぱいになったそれらを見て、ワイズマンとジャスミンは完全に言葉を失っていた……。