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踏まれたカエルのゲコくじょー!最底辺から目指すのは……魔王?  作者: 氷狐
第二章 とりあえず踏み出してみます!
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カエル、定番クエストに挑む?

 アンは、最近つきっきりでフランツの料理の先生をしており、その成果なのか、宿の食卓に『毒』は並ばないようになっていた。

 だが、残念なことにフランツは基本スペックが『味音痴』らしく、美味しいという言葉からは程遠い。しかも、家族愛から毒耐性を身に付けてまで彼の料理を食べ続けたアメリアとマリネの味覚もやや壊れているらしく、アンの苦労はまだまだ続きそうだ……。


 俺はというと、ひとりで採集系のクエストばかりコツコツとこなしていて、昨日めでたくEランクに昇級したところである。


「さて、Eランクからは素材や討伐系の定番クエストが受けれるんだよなあ……」


『聖殿の森近辺のゴブリン討伐。最低五体以上より』

『属性持ちスライムの核回収。最低五個』

『ポッポの実採集。魔物出没注意!』


 ……ぶっ! ポッポの実のランク上がってやがる。やはり魔物の影響か?


「すいません。今日はこのクエストをお願いします」

「あら、ハルオキさん。おはようございます。ゴブリン討伐とスライムの核回収ですね。こちらは期日はありませんが、必要数以上集められずにクエストをやめられることになれば、罰金となりますのでご注意くださいね」


 このところすっかり馴染みになった受付嬢のジャスミンが、そう言って手続きをしてくれる。

 ちなみにゴブリンは、左耳を切り取って持ち帰り、それを提出することでカウントされるらしい。さすが異世界。テンプレ通り、ゴブリンに厳しい世界だな……。


「おはようハル。今日もクエストかい?」

「おはようマーティン。今日は聖殿の森とバルサの沼地まで行ってくるよ」

「今日からランクが上がったんだったな。まあ無理は禁物だ」

「わかった。行ってくる」


 そんな会話をマーティンとして出かけたんだが……。


 ◆◇


「これは反則だよなぁ……」


 俺は懐かしのバルサの沼地に到着すると、本来の姿に戻って沼の最も深い場所に潜り、水中から領域を展開して沼地全土をすっぽりと覆う『網』を張る。

 あとは、網の中の存在にフィルターをかけ、スライムのみを選び出し、中でも属性持ちと呼ばれる上位の個体をステータスカードで確認。そいつの体内の核を、領域に開いた『口』から粘着舌を飛ばして奪い取り、そのままアイテムボックスに収納するだけでいいのだ。


 久し振りの沼の水中も気持ちよかったが、とりあえず昼前には岸に上がって日向ぼっこを楽しみ、いい感じに体が温まったところで森に向かった。


「……ここも久し振りだ」


 聖殿と呼ばれる、王家に認められ希少な『転移結晶』を託された者のみ使うことが可能な神殿。

 俺は先日、ダルムとキッシュに話しかける少し前に、この場にて『転移魔法陣』と『封印結界』の一部をつまみ喰いした。

『転移』に関してはまだ試していないが、俺が頻繁に使っている『結界』は、ここでのつまみ喰いから得た『結界作成』というスキルによるものだ。


「これがゴブリンなのか……って、こいつらは?」


 神殿から森に入ると、すぐに領域を展開する。

 ほどなく、ここからもう少し入った森の中に、多数の光点が集まっているのを感知した。そのほとんどはゴブリンと表示されているのだが、まるでそれらに包囲されているかのようにして中心にいる顔見知りの姿を発見する。


「……やれやれ、よく囲まれる奴らだ」


 ◇◆


「キッシュ、ヤバいぜ! 囲まれた!」

「……ふう。やっと気付いてくれましたかダル。だから深追いは止めようって言ったんですが……」


 あれから、いまだにゴブリン討伐のノルマを達成出来ずにいたダルムとキッシュのコンビ。

 久し振りのゴブリンの姿を見つけたのはダルム。あまりに不自然にその姿を見せたゴブリンに違和感を感じ、彼を引き止めようとしたキッシュであったが、相棒はすでに森に駆け込んだあとだった。急いで後を追ったのだが、足を止めていたダルムに追いついた時には、すでにゴブリンが用意した罠の中にいたというわけである。


 ……毎度のこととは言え、今回はさすがに絶体絶命というやつですかね。


 キッシュが視認出来ただけでもゴブリンの数は二十体以上。さらに増え続ける気配さえあり、状況は完全に絶望的だ……。


「あの、ちょっといいですか?」

「……は?」


 いきなり聞こえた、どこか聞き覚えのある声。

 振り返った彼が見たのはさらに信じられない光景だった……。


「な、なんだそいつ、いつかのそう……ハルだったか! いや、そんな場合じゃねえ、バカかお前! 何で? 待て待て、そもそもどうやってここに……」

「……気持ちはわかるが、少し黙ってなさいダル」


 ダルムが矢継ぎ早に質問したくなる気持ちもわかる。

 二人は、いつ一斉に襲いかかってくるとも知れないゴブリンの群れに対して、一体も見逃さないつもりで最大限の警戒をしていたのだ。

 それなのに、いつの間にか彼はそこに……いた。


「あの、すいません?」

「何だい? ゆっくり話をしている場合でもないと思うんだが……」


 ……しかし妙だ。彼が現れてからゴブリンたちの様子が変わった? 興奮、いやむしろ、こちらの動きを警戒している?


「今、ゴブリンのクエストを受けているんですが。倒すのを手伝いますので、何体か分けてもらえないかなあと思いまして……」

「は、はは……。面白い冗談だ。まあ、欲しいなら全部あげたいくらいだよ。私たちをここから逃がしてくれるならね。まあ、そんなこ…………」


 

 ……待て。これは本当に何の冗談だ。



 辺りを見回したキッシュ。彼が茫然としてしまうのも無理はない。何故なら……


「おいキッシュ! 何がどうなったんだよ? な、なんで俺たち……ルミナス街道にいるんだあぁぁぁっ!」


 そう、そこは見慣れた大きな道。しかも、遠くにはぼんやりと王都の城壁が見えている……。


 ……あの一瞬で……なんの詠唱も魔法陣もなしに。


 転移など、国家的な儀式や設備を必要とするまさに『大魔法』。それをいとも簡単に使ってみせた謎の魔法使いの弟子。


「は、はははは。止しましょう。彼は私如きでは……測れません」

「わ、わけわからねえが、とにかく……俺たち助かったんだな! よかった、本当によかった!」


 そう言うと二人は、互いに背中を預けたまま、へなへなと腰が抜けたようにしてその場に座り込んだ……。


 ◆◇


「……大丈夫だったかな」


 大量のゴブリンを集めて、同じクエストをしているとばかり思ったダルムとキッシュ。だが、彼らは目の前の獲物より、その場を立ち去りたいと希望した。

 もとより、あまり戦闘を見られたくなかった俺は、彼らを使って人体実験……もとい、助けるために『転移』を試して王都近くまで飛ばしてみたのだ。


「無事に、到着してますように……」


 俺はなんとなく、王都方面に身体を向け、両手を擦り合わせる。


「……さて、ひと狩りいきますか!」



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