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踏まれたカエルのゲコくじょー!最底辺から目指すのは……魔王?  作者: 氷狐
第二章 とりあえず踏み出してみます!
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カエルは図書館の幽霊と密談する?

『闇』……そう表現する以外にないだろう。


 ぼんやりとしたそれは、格子に手を掛けじっと俺を見ているように見えた。辛うじて人型と形容出来る程度のあいまいな造形。それを構成するのは、薄暗い図書館内に於いてなお暗い、全てを吸い込みそうなどこまでも深い闇である。


 俺の視線に気づいたのか、衛兵のひとりが訝しげにその闇の方を見た。だが、彼らには何も見えないのだろう。不思議そうに肩をすくめると関係ないとばかりに顔を逸らす。

 そんな彼の足下……闇は易々と格子戸を抜け、ついに俺のいる場所に入って来る。光点同様のユラユラとした動きで近づいたそれは、俺の座るテーブルの対面で動きを止めた。


「…………」

『…………』


「…………」

『…………』


 闇には目がないので、正確にはどうだかわからないが、時間にして数分だろうか、俺と闇は互いを見つめ合う。


「……えっと、言葉は通じるか?」


 あまりの気まずさに耐えきれず、こちらから話かけてみた。知性のない存在とかだったら馬鹿らしいだろうが、俺には何故かこの闇が、とても知性的なものに感じられたのだ。


『無論。我と言葉を交わそうとは変わり者じゃの』


 真っ暗な闇に変わり者呼ばわりされるとは、軽くショックだ。だが、まあいい。会話が出来るのはいいことだ。


「俺はハルオキ。そっちは名前とかってあるのかな?」

『……ふむ。名前のう、あるにはあるが。まあ、好きに呼ぶとよい』


 勿体つける気か? ならば好きに呼ばせてもらおうか……。


「じゃあ、闇だから『アン』と呼ばせてもらおう。異論は認めないよ」

『アンか、気に入ったぞ。それで構わぬ』


 マジか。闇の音読みに、ステータスカードのアンノウンまで乗っけてみた安直なネーミングだったのに……。

 まあ、本人が気に入ったならいいか。


「じゃあ本題だけど、アンの本体はひょっとして封印区画に封じられた『何か』だったりするのかな?」

『勘がよいのう。それともハルオキが……』

「ああ、ハルでいいよ」

『ふむ。ではハルが偽りの姿でおるのとも関係しておるのかのう』


 俺の中の警戒レベルが跳ね上がる。

 ギルドの水晶ですらまったく見抜かれなかった擬態を、まさかこうも簡単に見抜かれるとは思ってもみなかった……。


『身構えずともよい。ワシは敵意より、ハルに対する好奇心が尽きぬ。ハルのことをもっともっと知りたいとさえ思うておるよ』


 うん。目の前にいるのがリアル真っ黒く◯すけでなければ、ちょっとドキドキしちゃう発言だ。


『じゃが、残念ながらワシは動けぬのだ。ここに縛られておる故のう』


 さっき、アンも肯定したように、その本体は封印区画に封じられた何かであることは間違いなさそうである。

 変わらず、目の前にいるのはただの闇の塊。だが、何故か俺にはとても悲しく、そして寂しそうにしているように感じられた。

 余計なことに首を突っ込むのもどうかと思うが、さっきも司書のミリーナの寂しそうな表情を見たばかり。幽霊騒ぎの元凶になっているアンの件が解決すれば、またこの図書館も賑わいを取り戻すはず……。


 ……まあ、しょうがないか。


「アン、俺に事情を話してみないか? キミが言うように俺には隠している力がある。それで何かしてあげられないかと思うんだが……」


 俺はそう言って自ら協力を申し出た。

 何が出来るかわからないが、そうすることが一番全て上手くいくように思えたからだ。

 しばらく、何か考えているかのように黙っていたアンであったが、まるで覚悟を決めたかのように俺に事情を話しはじめる……。


 ◆◇


 アンの本体は『魔書』。魔導書やグリモアなどと呼ばれている魔導や禁忌とされる秘術などを記した魔法の本だ。

 これらには、それを読むだけの資格や資質が求められ、資格なき者が読めば魔力を吸い尽くされて死に至ると言われている。

 そんな身の程知らずの手を渡りながら不遇な扱いを受け、幾多の者を殺めて魔力を存分に吸った魔書の中には、それにより自らの自我と命を持つに至るものが極稀に生まれるのだという。


 アンは、そうして生まれた命ある魔書。

 本来は、禁呪を書き記したグリモアであったが、自我を持った時にタイトルを自ら書き換え、その名を……


終わりなき物語(ネバーエンド)』という。


 それからのアンは、魔法や魔導はいうに及ばず、ありとあらゆる知識を求め、また多くの者の人生すなわち『物語』を求めて旅を続けた。

 ある時は人から人へ売買され、ある時は盗みや略奪で奪われて。またある時は、自ら歩いて世の中を渡り旅を続けたアン。


 その知識への探求心と飽くなき物語への渇望は、いつしか持ち主の身を滅ぼし、時にはそれを破壊しようとする者たちを蓮獄の業火によって焼き尽くした。

 かくしてアンは二百年ほど前に、その凄まじい力を恐れた白き竜と人間の賢者。そして当時の魔王という面々により封印され、『竜の巣』と呼ばれる洞窟内に隠されたのだ。


 今では主であった竜が去り、魔物犇めく『迷宮(ダンジョン)』になり果てたかつての竜の巣。そこに入った勇者タツヒコが、偶々これを見つけて持ち帰った。

 だが、どうやっても封印は解けず、ついには彼も興味を失い、この図書館の封印区画にそのまま放置されたというわけである。


 ◇◆


「……なるほどね。つかアン、お前ひょっとしなくても超危険な存在だったりするよな?」

『失礼な。ワシはただ知識と物語をこの身に書き綴りたいだけじゃ。その想いは純粋で一途なもの。欲にまみれた者たちが自ら滅びを選んだに過ぎぬわ』


 ……うん、滅ぼしたのは否定しないんだ。


 さて、いったいどうしたものか。

 本来、自ら移動する時は様々な姿をとっていたらしく、現在の真っ黒な姿は、竜の巣を離れたことで生じた僅かな封印の綻びから魔力を外に出して型を作ったものらしい。

 これを使って退屈しのぎと知識の吸収のために、最初は封印区画にある書物、次に第二区画。ついには一般開放部分にまで出て来て本を読み漁っていたということらしいが……。


 ……魔力だだ漏れかよ。待てよ、第二区画以降の本を全て読んで知識を吸収した?


「なあアンよ、第二区画には調理に関する資料があったはずだ。覚えているか?」

『無論じゃ。一度得た知識はワシにしっかりと刻まれ、決して忘れることはないからの』


 ……これは、思わぬところから情報が手に入りそうだ。


「アン、仮に俺がその封印を解いたとして、お前はどうする? いや、どうしたい?」

『ふむ。知識はここでも腹一杯得たのでな、次は物語を所望する。それも、あれだけの面子が施した封印じゃというに、まるで容易いことのように解くと言ってみせるハルの物語をのう』


「わかった。それは俺に力を貸してくれる(料理を教えてくれる)ってことでいいんだな?」

『うむ。生涯ともにいて我が力をハルのために使う(物語を面白くする)と約束しよう。主従の契約をしてもよいぞ!』


「わかった!契約成立だな……」


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