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踏まれたカエルのゲコくじょー!最底辺から目指すのは……魔王?  作者: 氷狐
第二章 とりあえず踏み出してみます!
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黒髪の青年。カエルはどこに?

「ダル、やっぱり道を間違えたんですよ。一度街道まで戻りましょう」

「大丈夫だって、俺の勘がそう言ってる!」

「はあ、その勘が何度トラブルを呼んだことか……」


 あれから幾つかのクエストをこなし、冒険者としてのランクをひとつ上げたダルムとキッシュは、これまた定番のゴブリン討伐のクエストを受け、『聖殿の森』へとやって来ていた。

 少し前までは大掛かりな警備隊の野営地が設置され、王都から派遣された多くの兵士たちがいたので、魔物もほとんど姿を見せなかったらしいのだが、魔王討伐によって神殿には封印の結界が張られて閉鎖され、兵士たちも撤収している。


 それを知り少しずつ戻って来だした魔物たち。中でも大きな群れになると村々を襲うこともあるゴブリンの数を適度に減らしておくのは、実は意外と重要なことなのだ。


「な、ここは!」

「……はあ、つくづく沼地が気に入っているようだねダル。どこをどう間違えればバルサの沼地に……いけない、すぐにここを離れましょう!」


 ガサガサと生い茂る草を掻き分けて、彼らがたどり着いたのは、目的地とは正反対になるあの沼地であった。

 呆れ顔のキッシュは、現在沼地は立ち入り禁止になっており、しかもこの場所が沼地でも特に危険だとされるかなり奥の場所であることに気付き、ダルムの肩を強く掴んだ。


「いてぇよ!な、何だって言うんだよキッシュ?」


 ……キッシュは、ダルムとの付き合いを今ほど悔いたことはない。肩を掴んだ彼が上げた大声、それで周囲の気配が一変する……。


「……っ!」


 力ずくでダルムを押し倒し、その口を塞いだキッシュ。まるで殺されるかのような彼の剣幕に、さすがに鈍感なダルムも今更ながらいかに自分たちが危険な状況であるかを理解した。


 ……すでに、囲まれましたね。退路は……ご丁寧にそこが一番厚いと……これは、詰みましたか。


 キッシュは、自らの感覚とその視力で周囲の状況を把握していく。それは探れば探るほど、彼らの置かれた状況が最悪であると思い知らされるだけであった。


 ……あんなスライムは見たことも聞いたこともありません。恐らくは例の……『沼地のヌシ』……最悪です。


 彼らの退路を塞いでいるのは、虹色に体色を変える小山のような巨大なスライム。誰も見たことがないため、様々な憶測が飛び交っていたヌシの正体だが、その中のひとつに山のようなスライムという噂もあった。案外それは、随分昔に目撃した者がもたらした真実であったのかも知れない。


 よく見れば、ヌシのスライムをはじめとした上位のスライムによる包囲網の外には、そのおこぼれを狙う何体かのゴブリンが見える。

 探していた相手を見付けたというのに、まさか自分たちが狩られる側になるなんて……。


「……ん?」


 目の錯覚だろうか、視界の端にいたゴブリンの一体が消え……。


「いや、見間違いじゃない!」


 彼の見ている前で、次々とゴブリンが消えて(・・・)いく。さらにそれは、スライムたちにも被害が及び……。


「……は、ははは。これは……夢か」


 時間にしておよそ二分足らず。

 総勢二十はいたであろうスライム及びゴブリンたちは、あの強大なヌシも含めて、全て残らず消え去ってしまった……。


 ◇◆


「はあはあはあはあ……」

「ぜぇぜぇ……かはっ、ひいひい……」


 およそ一時間後。魔物が消えたあと、すぐに逃げ出しあちこち走り回った二人の姿は、神殿とルミナス街道を結ぶ小道にあった。


「ここまでくれば、とりあえず街道へは一本道。迷うこともないでしょう」

「わ、悪かったって言ってるじゃねえか。次からは気を付けるって……」


 ばつが悪そうに言葉がフェードアウトしていくダルム。下手をすれば『次』は永遠に来なかったのだから無理もない。だが、彼にはこういう素直な部分もあり、キッシュは本当の意味では彼を嫌いになれないのだ。


「どうしますか?まだ時間はありますけど……」

「いや、正直今日はそんな気分じゃなくなった。キッシュがいいなら、引き上げようや」


 しおらしくなってしまったものだと、吹き出したいのを堪えながら立ち上がったキッシュが、地面に置いた荷物に手をかけた時……。


「あの、すいません」

「……っ!」

「……ひっ!」


 突然、すぐ傍から話しかけられ、キッシュは身構え、ダルムは軽く悲鳴を上げて尻もちをついた。


「ああ、驚かせてすみません」


 きょとんとした様子で、二人は声の主を見る。

 そこにいたのは、珍しい黒髪黒眼で、やや細身の青年だった。育ちがいいのか体調が悪いのか、肌の色はやや青白く、とても狩人や農夫には見えない。

 やたら仕立てのいい、見たことのない上下揃いの生地の衣装に首からはリボンと呼ぶには太すぎる布を垂らしている。


「……ああ、こちらこそすまない。さっき森で魔物に出くわしたばかりでね。それで……何か?」


 目の前の青年からは、敵意もたいした脅威も感じない。一応(おとり)である可能性も考慮し、周囲から盗賊などが出てこないよう最低限の警戒をしながらキッシュも言葉を返した。


「よかった。実は近くに街か村がないかと思って……」

「それなら王都が一番近い。だが、不思議な服装だね。とても旅人にも見えないんだが……」


 そう言って、青年が履いているピカピカの革製と思われる靴を見る。もし、彼が聖殿の森を抜けてきたとしても、靴があれほど綺麗な状態なのははっきり言って不自然だ。


「実は…………」


 彼の話によれば、捨て子であった自分をある魔法使いが拾い、気まぐれで育てながら修行をつけた。ある日その魔法使いから、もっと世界を見てくるようにと言われ、いきなり知らない魔法で飛ばされて来たのだ、という。


「へぇー、そんなことが……。帰るのに家の場所も教えてないなんて、厳しいお師匠さんがいたもんだね」

「そうなんですよ。それで帰る方法が見つかるまでの間、何か仕事を探さなきゃと思いまして」


 賊の襲撃の気配はないし、何より目の前の青年がそんな嘘をつく理由も見当たらない。それに、彼の態度や服装はまさに世間知らずを絵に描いたようなものだ。


「わかりました。我々もちょうど王都に帰るところです。そこまでご一緒しましょう」


 王都までの道すがら、幾つか彼や師匠のことを聞いたのだが、どれも答えに詰まることもなく、つじつまが合わなくなることもない。

 そうして、後半は逆に自分たちのことや冒険者のことを聞かれながら歩き、夕方前には王都の城門前に到着した。


「はあー、これが王都の城壁なんですね。立派なもんだ……」


 景色の何もかもが珍しいのだろう。道中もずっとキョロキョロしっ放しだった青年は、王都の城壁にはずいぶんと驚いた様子で、大きく口を開けて見入っていた。

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