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よみガエル?

 ……いてっ!


 それは、何かに押し退けられたような感覚がきっかけだった。


 おい……待て、待て待て待て待て……。


 目を開ければ、明らかに異常な視界と違和感のある身体。


 ……はははは、じょ、冗談……だよな?


 俺の目に写っている信じられない光景……それは……


 ……うげえぇぇぇぇっ!


 俺と同じ(・・)大きさの、おびただしい数の化け物がのたうち回っている光景だった。


 ◆◇


 記録的猛暑の文字が各種媒体で飛び交う八月初旬の某日。

 エコを意識したエアコンの二十八度設定ですら、桃源郷だと感じられるオフィスから、何の当て付けか「ついて来い!」の一言で上司に連れ出された俺は、ある巨大な建築現場に連れて来られてしまっていた。

 なんでも、うちの系列会社で開発した新建材を導入することになり、彼はそのプロジェクトのサブリーダーの大任を任されているので、こうして時折現場視察に訪れるのだそうな。


 ……え、他人事みたいだって? そうだよ。

 俺みたいなのがそんな社運を左右しそうなプロジェクトに関われるはずないじゃん。精々、会議用の資料を事務の女性と一緒にクリップ止めしたくらいだよ。


 ……じゃあ何故来たのかって?

 わからないかなぁ……本当は一人で来れば事は済むんだけど、ぞろぞろ部下連れて行く方がなんか箔がつくでしょうが、ただの見栄だよ見栄!


 まあ、そんな訳だから俺自身は何の目的もなく『来客用』と書かれたヘルメットを被って現場内をあちこちまわらされているわけだが……いや、暑い!

 日焼けした職人さん達は、これでもかってくらい汗をかいていて、白いコンクリートからの照り返しは強烈。中には巨大な鉄板敷きの通路とかがあるんだけど、間違いなくあの上で目玉焼きが作れるよ。いや、マジで!

 現場では毎年、熱中症で死者も出るらしいって、これ見たら誰もが信じるよ、絶対。

だってこんなに……ってあれ、なんか景色がぐにゃって……。


「……すいません◯◯部長、あの具合が……あの」


 ヤバい……。誰も気付いてくれない。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 ……ああ、やっぱり鉄板アチいよ。絶対火傷する……ってか地震?

 

インドア派で、外出時には遠回りしてでも空調の効いた地下街や連絡通路を通ろうとするこの俺が、猛暑、それも炎天下の建築現場という過酷な環境に耐えられるはずはなく、あっさりと体調を崩して自分で目玉焼きが出来るとまで言い切った鉄板の上に倒れてしまったわけなのだが、この鉄板、どうやら激しく振動しているようなのだ。


 キュラキュラキュラキュラキュラキュラ……。


 間近に迫ったその音に、首だけ回して振り返ってみれば……


 ……あ、終わったわ俺。


 さっき現場監督さんが自慢気に説明していた、この現場用の特注のクローラクレーン。分かりやすく言えば、巨大なキャタピラで自走が可能な馬鹿デカいクレーン。

 その畳ほどもある幅広いキャタピラが倒れた俺の目の前に迫っている。

 先に行った上司達の姿は見えない、クレーンのオペレーターにも前方で誘導するガードマンにも、倒れた俺は死角になって見えてない。

 身体は……うんダメだ。動かない。


 俺に出来たのは、踏み潰される瞬間に顔を背けることだけだった……。


 びちゃっ!キュラキュラキュラキャラキュラ……。


 ◇◆


 ……でまあ、踏み潰されて死んだ俺がどういうわけか化け物の群れの中にいるんだが……。

 しかし、よくよく見ればこの化け物、どっかで見たような……。


 ……思い出した!


 あまりにたくさんいたので、個々の姿を認識出来ずにいたが、これは間違いない……オタマジャクシだ!


 そして……さっきから唯一俺の意思で動かせているこの……

 ……えっと、尾びれ?


 ってことは……え? どゆことコレ。

 さっきクローラクレーンに踏み潰されて死んだのに、意識が戻ったらオタマジャクシィィィィィィィィッ!


 ……マジか……ああ、また終わったわ俺。



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