カエルですが?
輪廻転生とかって言うじゃないか?
死んでも魂は何かに生まれ変わる……みたいなの。
あれってさ、生前の業が関係するとかって偉い人が言ってたような……。
じゃあさ……
「ゲコゲコゲコ! (転生前の俺が何をしたって言うんだあぁぁ! )」
いやね、わかっているさ誰も聞いちゃいないってことくらい。
だって俺……今、カエルなんだもん。
まあ、正確に言えばカエル型の魔物。
『ヌマヌメリガエル』ってのが正式な名前……今はね。
この流れで大体は想像出来るだろうけど、俺には前世の記憶がある。これでもそこそこな一流企業に勤めてたんだよ……でも、もちろんエリートって訳じゃなかったけど。
『冬籠春起』、これが前世での名前。自己申告するのも変だが、享年二十四歳。独身で……ってこの話はもういいか。
だって今はもうカエルだし。
魔物とかってキーワードでわかるように、ここは生前にいた日本でも、いや地球ですらない。
違う星? いや、かつて部屋に三つの大きな本棚を置き、その七割以上がラノベやそれ系の本であった俺が敢えて言おう。
「ゲコゲコゲ! (ここは異世界であると! )」
何故かって?
そりゃあんなのがうろついてるのが、普通の世界なわけないだろう。そんなことを考えながら俺は一メートルほど先を過ぎ行く相手を、じっと目で追っていた。
赤いゼリー状の体組織を器用に伸縮させながら、ゆっくりとした動きで過ぎ去って行くのは『レッドスライム』だ。スライムなんて定番の魔物がいる以上、ここがファンタジー的な異世界なのは間違いないだろう。
だって地球じゃ聞いたことないし……ん? そういえばアメーバとかってヤツがいたな。あれもスライム的な……って、まあいい。
とにかくファンタジー的な世界に転生したらカエルだったってのが俺の現状。はい、このくだりおしまい!
そうそう、なんで俺が種族名とかがわかるのかっていうと、ここでは相手の存在をこちらが認識すると対象の隣にプラカードみたいものが浮かび上がる。そこに書いてあるんだよ名前が。
こういうところは定番のファンタジーなんだけどなあ……なんで俺、カエル? ちなみにだが、そこに相手のステータスが表示される……なんてことはない。名前だけだ。
「ゲローッ! (いただきまーす! )」
あ……失礼しました。
これは生物としての本能なのでご勘弁を……。
誰に謝っているのかよくわからんが、俺は今目の前に姿を見せた『ヤリヅノバッタ』に向けて粘着性のある舌を伸ばし、捕らえて食べているところ……パリポリ……ごっくん。
俺の体長は周囲の木とか草なんかと比較すれば、およそ三十センチくらい。ラグビーボールをぺしゃんこに潰したような楕円形で平べったい身体つきをしている。
人間だった頃から考えると初めは違和感が半端なかったが、頭のてっぺんと思われる位置(はっきりしないのは全体にぺしゃんこだから)にピョコンと飛び出た目が二つ。あとは水掻きの付いた両手と両足だな。
この目は普通のアマガエルとかより、どちらかと言えばムツゴロウとかに近い感じ。二つの目が寄り添うように並んでいて片方で百八十度、合わせて三百六十度の視界が得られる。今の俺のように泥の中に身体全てを隠し、目だけを出して獲物を待つ、なんて狩りをするのに大変便利なのだ。
ちなみにこれは『全周視認』ってスキルなんだと。
他にも『水棲』『隠蔽』『気配遮断』『粘着舌』『滑液分泌』とかってスキルがある。
なんでわかるかって?
それはさ、俺自身に関してはステータスってのが見えるんだ。自分の中に意識を向けると例のプラカードみたいなのが目の前に現れて、それをタップしてめくっていくと色々書いてあるんだよ。
それで俺の種族名もわかったんだけどね。
個体名 無し
種族 ヌマヌメリガエル
レベル 16
称号 身を潜める者
装備 無し
エクストラスキル 大食漢
通常スキル 水棲 隠蔽 気配遮断 全周視認 粘着舌 滑液分泌
あとは何か数字が並んでたけど、正直よくわからん。
だって、比較しようにもまわりの連中のステータス見えないしね。
とはいえ、まあこんなゲームみたいな要素いっぱいの異世界で俺は今、のんびりカエルやってます!