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11:00~ 大学到着後から

「ふぅ~、あったけぇあったけぇ」


 極寒の屋外や微妙な暖房器具しかない自宅に比べ、大学には暖かい暖房機器が全部屋に完備されている。

 ただ、ここは大学と言ってもキャンパスは存在しない。十階建のビルの中に大学としての機能が備わっている、ただそれだけ。

 その内部の一室には、小さな会社や週一で開かれている華道教室のための和室など、なかなかにフリーダムな施設である。

 それでも都心のど真ん中に建っているのため交通の便は悪くなく、食事や買い物も困らない。


「休憩室にはソファもあるし。お、今日は雪のせいで人が少ないな、ソファ独り占めだ」


 校内の自動販売機で買った500mlのコーラを片手に誰もいないソファへごろんと寝転がると、その気持ちよさからか、ウトウトと目が閉じていく。


(やべ……寝み。まぁ講義までまだ時間あるし、ちょっとぐらいなら……)






ヴゥーヴヴッ……


「おおう……!?」


 何かが震える音がまどろみの中で揺らいでいた意識を呼び覚ます。


「な、なんだ? ……ってスマホか」


 見れば、画面上にはコミュニケーションアプリであるLINEの通知が数件表示されている。


《今大学着いたぜい》


 どうやら友人が大学に到着したらしい。

 その後もいくつか会話が続いており


《お前はまだ講義中?》

《終わったら飯行こうず》


「おー、講義が終わったら飯……ってやべ、時間」


 慌てて寝ぼけていた頭を覚醒させて時計を確認するが、すでに講義開始から30分以上経過していた。


「あちゃー……」


 軽い仮眠のつもりが完全に熟睡してしまったらしい。

 5分10分の遅刻ならまだ弁解の余地はあるが、流石にここまで時間が経てばいいわけも苦しくなってしまう。


(まぁ最後に出席カードを提出すればいいだけだから……)


 再びスマホを操作し、今度は別の友人へLINEを飛ばす。


《スマン、俺の分の出席カード出しといてくれ》


「これでよし……」


 これで出席扱いになってしまうのだから世も末である。


「今日は何食うかな……」


ヴゥーヴヴッ……


 完全に講義の存在を頭から消し去り昼の献立を考えていると、先程の返信がきた。


《終わったら俺も行くから待ってろ》


「了解っと……」


 講義が終わるまで後約1時間。この程度なら駄弁っていればすぐだろう。

 もう一人の友人はタバコを吸うので、全面禁煙の大学の外にいるはずだ。


「ま、眠気を覚ますのにもちょうどいいか」


 空になったコーラの缶を捨て、今度は温かいココアを買って足早に友人の下へ急ぐのだった。







 昼食、それから午後の必修講義が終了し現在はすでに夕刻。

 室内を見回すと、すでにいくつかのグループに分かれこれからの予定を話し合っている姿が多々見受けられる。


(人の少ない学科だからほとんど男と女で分かれてるようなもんだけど)


 二十名いるかどうかの学科の必修講義。

 そんな中でできたグループは"男性グループ"、"女性グループ"、そして……"その他ぼっちグループ"である。


(当然俺はぼっちグループ……じゃないんだなこれが)


 周りには先程とは別の二人の友人。

 あの二人とは学科が違うためこの講義で会うことはない。


「よっしゃ、これからどうする? てか今日は数が少ないな」


 いつもならあと一人二人は集まっているところだが、今日はこの二人……石島 雄吾(以下ユーゴ)と長井 哲(以下テツ)だけ。

 他はもう帰ってしまったようだ。


「皆バイトだっけ? てかユーゴ、そういや今日は自治会の仕事はないんだっけか? テツも軽音は休み?」


 こうして軽いノリで会話しているが、ユーゴは二年にして自ら自治会長に名乗り出た男で、テツはこの大学で一番人の集まる軽音サークルの次期部長という立場にいる。


(特に気にしてないけど、なんで俺こいつらと友達になったんだっけ)


 きっかけは確か……島にいた頃の学園での出来事(特に○○の周りで起こっていたこと)を話したら、「おもしろwwwそれ元にしてギャルゲー作ろうぜwww」といった感じのはず。

 だが、そんなことはもうどうでもよくなるほどこの関係に馴染んでいる。


「あー、今日は俺ら先日知り合った女大の人と飲み会なんだけどよ」

「マジんこ……」


 彼らはその活動故に学外で活動することもそれなりにある。

 おそらくそこで出会ったのだろう。


(こいつら主催のイベントはよく手伝うけど、最近は寒かったから大体断ってたからその時のことか)


 この男、大体他の学科の友人と騒ぎながら楽しく乱入するので他委員やサークルメンバーには謎に知られた存在である。


「じゃあ自治会連中やサークル連中で集まるのか。なら俺はクールに去るぜ」


 狭い空間で大人数でワイワイやるのは実はちょっと苦手だった。

 なのでいつも通りそれとなーく誘いを断ろうと思っていたはずだったのだが……。


「いやいや、今日はそういう集団での集まりじゃなくて、あくまで個人的に飲みましょうって話。友人も連れてきていいっていうからお前もたまには来てみようぜ」

「つか相手側が三人だからこちらも数合わせたいんだよ」


 こういったことはたまにある。


(こいつら今までまるで女っけのなかった俺を面白がってこういう場に連れて行こうとするからな……)


 本人からすればいい迷惑なのだが、100%が悪気ではないため強くは言えない。


「……数が足りないなら鈴木や鹿田に声た方がいいだろ」


 彼らなら場を盛り上げるのが上手いから少なくとも自分よりは適役だろうと思って言った発言だったが。


「いや、あいつらバイトだし」

「ああそう」


 最早逃げ道はなかった。


(まぁ二人には世話になってるし、これからも良好な関係を保っていたいから、ここはひとまず付き合うしかないな)

「しかし合コンとか……正直耐えられる気がしないぞ俺」

「合コンじゃねーって、ただの飲みだよ飲み」


 女性慣れしている二人は気楽そうにしているがそれに対して彼の気分は重くなるばかりである。

 学園時代、多くの女性に囲まれる○○を羨ましいと思いながらも、いざ自分がそういう空間に飛び込むとなると緊張でガチガチになってしまう。


 ……そう、彼はコミュ障なのである。



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