6話目、農学部農地
午前3時、待ち合わせの第1キャンパス正門前で待っていると、部長が軽自動車に乗ってやってきた。
「部長て、運転免許持ってたんですね」
「ミッションとオートマ、どっちでもいけるよ」
そういう部長の車の助手席に乗り込む。
荷物は後部座席に放り出した。
「シートベルト締めてね、捕まっちゃうと厄介だから」
「はい」
おとなしくシートベルトを締めると、車内に目をやる。
今の車ということらしく、やはりというかオートマ車だ。
ただ、なぜかラジオにはカセットデッキが取り付けてあるし、あちこちにガムテープで補修跡が見れる。
「……中古車ですか」
「おー、よくわかったね」
「そりゃ、この惨状をみると、察せますよ……」
初心者には中古車がいいとはよく聞くが、なるほど、経験者でも腕に自信がない人は中古車がいいのかもしれない。
車外に初心者マークが張ってなかったし、部長はもう1年以上は車に乗っているのだろう。
「ちなみに、この車は私が初めて買った車でねぇ……」
聞いてもないのに、とうとうと車を語りだした。
俺はそれを半分以上聞かずに、外をぼんやりと眺めていた。
しばらくして山道を走りだし、そして大きな駐車場へと出た。
「やあ、もうそろそろ始まりそうだね」
「何がですか」
「真夜中の行列だよ」
真夜中、とは言い難いが、深夜帯なのは間違いないだろう。
七不思議の6つ目、農場で見れるそれは、駐車場からも見えた。
「あれのことですか」
「そう、あれ」
俺が聞くとすぐに部長はうなづいてくれた。
車内からもはっきり見える、何個か連なっているライトの群れだ。
不規則に飛んでいるから、なにかしら人魂のようにも見える。
「近寄る?」
「けっこうです」
車外にでようとする部長に、俺はすぐに答える。
でも、気にはなる。
あの正体は何かということに。
結局俺と部長は、車外であのライトの群れを追跡することにした。
気になったからというのが理由だ。
なによりも、ネタにするのであれば、その原因究明はしっかりとしておきたい。
「しかし、かなり歩きますね」
駐車場の周りを囲んでいる森をザクザクと足音踏み鳴らし歩く、しかしライトはこちらを見ようともせずに動き続ける。
ライト、と最初から分かっているのは、どう見ても懐中電灯、それもLEDのような白色光だからだ。
「もうちょっとで多分たどり着くよ」
部長は答えを知っているが、俺に教えてくれることはない。
最後まで自分で探せということだろう。
「よし、ここでいいかな」
途中で光の列から俺たちは離れた。
そして、周りを見渡しやすいような若干高くなってるところから、ゆっくり降りていく。
急に足元が崖のような所へ来ると、目の前は開けた空き地になっていた。
「何しているんですか」
空き地では、石が正六角形に置かれていた。
それも正三角形になるように白色と黒色に塗り分けられている。
そこにライトの人たちがやってくる。
白いフードをかぶり、これまた白いローブを着ている。
顔は真っ黒に塗りつぶされていて、どうやらお面をかぶっているようだ。
とても不気味だと、はっきりと思う。
「あれはね、魔術の儀式だよ」
さらっと驚愕の事実を言われた気がする。
ライトの人らは、その正六角形のちょうど中央で大きな火を起こした。
「魔術の基本は白と黒。白は正、黒は負。この世界はプラスとマイナスが合わさってちょうど0を維持しているということらしいのよね」
「はあ」
それから魔術の説明がうんたらかんたらと続くが、俺は聞いていなかった。
目の前では、その魔術のための儀式が執り行われているということだ。
よく見ると、石同士をつなぐようにして溝が掘られている。
そこにはなにかの液体が流し込まれていて、そこに、火を放った。
アルコールのような青白い炎が見える。
それが合図となって、花火が一発上がった。
白色の花火は、朝焼けに染まりだす空に広がり、ゆるやかに消えていった。
「よし、じゃあ帰ろう」
特に声を抑えることなく、部長が言う。
誰一人としてフードの人たちはこちらを見ることなく、火をすべて消し止めてから去って行った。
駐車場に戻ると、部長が話す。
「本当ならもう一つ、実は第4キャンパスにあるんだけど、七不思議は7つ目を見てしまうと恐ろしいことが起きるっていう話だからね。これでおしまいにしようか」
「わかりました、この2日間、ありがとうございます」
「よし、じゃあ、第1キャンパスの正門前まで送るよ」
乗ってね、と言われたので、俺は迷いなく、すぐに車に乗り込んだ。






