閑話、深夜の電話
それから俺たちは、なんと朝の3時に会うという約束を交わして、いったん別れた。
部長がいうのには、次は第3キャンパスを見に行くことになるんだけど、その時間が朝の5時らしい。
日の出かどうかという時間に行くのにも、七不思議の一つのためらしいのだが、たまたま午前中に授業がないということで、俺はそれにOKを出した。
午前2時、うっすらと意識が現世に蘇る。
簡単に言えば、起きたということだ。
その直後、携帯電話が鳴る。
その着メロは部長からの電話を意味している音だった。
「はい、なんでしょうか……」
眠い目を擦りつつ、俺は部長と思う相手へと聞く。
「今、あなたの部屋の前にいるの」
「はぁ?メリーさんですか?」
メリーさんなら部屋の鍵が閉まっていても、入ってこれますねと言う理由で電話を切る。
下宿先から大学まではだいたい10分。
だから、まだまだ時間はあるわけだけど、外は真っ暗だし、謎の電話もあった。
暇だけれど、外に出るわけにはいかないだろうと判断すると、まず顔を洗い、頭をしゃっきりさせてから、テレビをつけた。
今の時間、録画物や深夜アニメぐらいしか見る物がないということで、適当なテレビに合わせ、音量を少し下げる。
そこまでした時、また電話がかかってきた。
また部長からだ。
「はい、どうかしましたか」
「ねぇ、なんで開けてくれないの?」
「部長がメリーさんなんて古典するからでしょ」
「というよりも、起きていたことにびっくりだよ」
「ああ、今起きたところですよ」
研究室での光の乱舞のあと、俺は今までにないほどリラックスした気分でいた。
そのおかげかは知らないけれど、すぐに家に戻り、あっという間に寝たというわけだ。
「それで、部長も早いですよね。それに俺の家に来るなんて、初めてじゃないですか」
初めて、そう言って気づいた。
「……部長、なんで俺の家知ってるんですか」
携帯は教えたし、メアドも互いに交換している。
でも、家の住所は教えていない。
なら、この電話はどこからかけているのか。
その時、インターホンが鳴る。
ピンポン、ピンポン、ガタガタガタと扉をひっぱる音もする。
「ねぇ、なんで入れてくれないの?」
部長じゃない、そう気づいた時には手遅れだった。
その物の怪は、家へと入ってきたようだ。
玄関あたりから猛烈な寒気が押し寄せてくる。
「祓い給え、清め給え、護り給え、幸い給え」
電話の向こうから、スピーカーにしていないのにもかかわらず声が部屋中に響く。
「……無念」
そう言うと、途端に寒気は消えた。
「あとで、塩でも蒔いておいてね」
部長が電話の向こうで話す。
「え、ということは、この電話の部長は本物?」
途中、明らかに異質なところはあったが、主に通話していた相手は間違いなく部長のようだ。
思わず腰が抜けてしまい、へにゃへにゃとその場に座り込んでしまう。
「おーい、大丈夫かい」
部長の声がなければ、きっと俺は死んでいたか、あるいは喰われていただろう。
「ありがとうございます」
「いいっていいって。それよりも、待ち合わせ遅れないようにね」
「はい」
それで部長との通話は終わった。
でも俺は携帯をしばらく手放すことができなかった。