3話目、法学部G号館
法学部というのは、なにか頭のいい人たちの集まりという気がする。
実際のところ、そんな人はほかの学部同様一握りだけで、だいたいは平々凡々な頭の持ち主だ。
無論、俺も例外ではない。
「ここのどこに七不思議が?」
「こっちよ」
慣れた建物を歩きつつ、今回は部長は上へと向かうことはない。
ずっと、歩きなれている廊下を歩いている。
「ここが、G号館が、この大学で一番古いというのは、知ってるよね」
「ええ、教授が授業中に言ってました」
今は法学部の学部棟の一つであるが、戦前は師範学校だった。
国立手野教育大学は、師範学校からの系譜だという話だ。
戦前も戦前。1920年に開校したそうだ。
大阪府の師範学校の一つとして作られたこの校舎は、木造校舎である。
国内でも、木造校舎で10階建てなのは、ここだけだ。
なお、耐震工事を繰り返しているから、ほんとうのところは純粋な木造ではない。
でも、今歩いている1階部分は、内装はしっかりと木造だ。
その廊下の突当り、右手には上へあがるための階段があるところで部長は立ち止った。
「3つ目の七不思議。法学部棟G号館の謎の扉」
そこは、見慣れない木でできた扉があった。
「戦前、防空壕が全国あちこちにできたってのは知ってるよね」
「ええ。高校で習いました」
「それは、ここも同じことだったわけ。その際に作られた防空壕の一つだと、表向きはされているわね」
「表向き?」
俺はその言葉に引っかかった。
ということは、裏があるということだ。
「察しの通り、ここは単なる防空壕ではないわ。これでも昔ははいれたんだけどねぇ」
「部長、いったいいつからここにいるんですか」
俺はあきれ顔で部長に聞く。
「いいじゃないの。あなたよりは昔ってことで」
まあ、先輩なのだから、俺より前に入学しているのは間違いないのだが。
その思考を遮るかのように、部長は話し出した。
「この学校は師範学校だということは知ってるわよね」
「はい」
「では、この土地はもともと、手野グループの持ち物だったということは知ってるかしら」
「いいえ……」
手野グループといえば、知らない人はいないだろう。
冒頭で話した手野学園も、手野グループの一つだ。
「1800年代後半から1900年代の初頭、この付近は研究所が設定されていたの。当時の政府から言われて開発するために、ね」
「なにを、ですか」
俺はこわごわ尋ねる。
「今は禁止されている、BC兵器よ。この扉の向こう、地下にはそのための研究所が広がっていて、今も、研究をしているという噂よ。第2キャンパスでしないのは、向こうでは別の研究が行われているからだって」
部長は、今までにない真面目な顔つきで話す。
思わず背筋に寒気が走るほどだ。
だが、話し終えると、いつも通りのニヤッとした表情へと戻り、あくまでもうわさよ、と話してくれた。
でも、どう考えても部長の話は真実味があって、それが嘘だとは信じられなかった。
「じゃあ、次のところに行ってみようか。時間、大丈夫?」
俺はそう部長にいわれて携帯を確認する。
「どこに行くんですか」
今はまだ13時ぐらいだ。
時間はまだまだある。
「第2キャンパスへ行くわよ。医学部1号館、それに理学部10号館が次の七不思議の舞台ね」
なにやら生き生きとしている部長は、そのままシャトルバスの乗り場へと元気に歩いて行った。