1話目、教養学部C号館
部長がまず案内してくれたところは、俺らがいる部活棟から歩いて10分ぐらいのところにある教養学部C号館だ。
「ここのね、310教室が面白いのよ」
C号館は、南北に長い直方体のような形をしている。
3階は最上階で、この上は封鎖されているが、屋上が広がっているだろう。
そして部長が面白いと言っていることは、七不思議のうちの一つがあるということだ。
「でも、まだ明るいじゃないですか。本当にこんな時に幽霊か何かって出るんですか?」
俺が聞くと、部長はにんまりと笑って俺を振り向く。
「私が聞いた情報だと、310教室は授業がないのよ。というより、授業ができないというのかな」
「どういうことですか」
一回転、器用にその場で左足を軸にして回ると、再び部長は俺の前、だいたい3歩ぐらいのところをゆっくりと歩いていく。
「問題なのは、ただ一つ」
俺に向かって言っているのだろうが、そんなことをみじんも感じさせない。
まるで独り言をたまたま聞いているという感じだ。
「封鎖はされているかどうか、その一点よ。封鎖されていたら見えないからね」
部長は、とても楽しそうに、まるでおもちゃをもらった子供のように嬉しそうに、俺に話した。
310教室は、俺らが上ってきた南側の階段から一番離れたところにある。
ほとんど誰もいない学校は、とても不気味だ。
だが、外から時折聞こえる笑い声や話し声、さらにはどこかの部活の声が、俺を現実にいさせてくれる。
「お、ここだね」
部長の声で、俺は再び七不思議へと目を向けることになった。
意外ときれいなその教室の扉は、白く輝いて見える。
実際はクリーム色といったところだろうが、なんとなく、白飛びしているように見えるのだ。
「誰もいませんね……」
耳をそばだててみても、中に誰もいないようだ。
「そりゃそうだよ、だって授業ないんだもの」
そういって、ガラリと黒板がある方の扉を開ける。
「やっぱり、誰もいないね」
そう、誰もいないのだ。
それは当然のこと。
なにせここではだれも授業をしていないのだから。
「……部長、確か、ここの教室はずっと授業をしていないんですよね」
「そうよ、ここ1年ぐらいはね」
「じゃあ……」
俺は教室の黒板を指さしていう。
部長もようやくそれに気づいたようだ。
「これよ、いつの間にか書かれている文字列」
黒板一面にみっちりと書かれたその文字列は、何語かすらは別することはできない。
一応掃除はされているはずだから、それ以外のタイミングで書かれたとしか考えられないわけだ。
「七不思議のひとつ、なんですか」
俺は驚きも落ち着いてきて、部長に尋ねる。
「そうよ。これが七不思議のひとつ。この文字は誰にも判別できないといわれているけど、神様についての物語が記されていて、その通りに動くと神様が出てきて、1つだけなんでも願いをかなえてくれるそうよ」
「はぁ……」
部長はそう教えてくれたものの、そんなことがあるわけないと頭は否定していた。
でも、それがあり得るかもしれない、そう思わせてくれる文章でもある。
なにせ、何を書いているのかわからないから、好き放題いえるというものだ。