7話目、部長
車に乗って数分後、俺は思っていたことを部長にぶつけてみた。
「そういえば部長、聞いてもいいですか」
「ん、なにかな?」
車は山道を下っている。
森からすでに住宅街の中へと移っている。
あと信号を3回ぐらい通ったら、第1キャンパスへとたどり着く。
「部長って、顔広いですよね」
「そうだね、いろんなところに顔突っ込んでるからね」
「そうですね、まるですべて見てきたかのような……」
信号が赤信号へと変わる。
車は自然と減速をし、そして、停止線ぎりぎりで止まった。
「……ねぇ、こんな話知ってるかな」
部長が赤信号を待っている間に、俺へと何か話し出す。
空がどんどんと漆黒から群青色へと変わっていく。
でも、口調はどこか独り言のような雰囲気だ。
「昔々、ずっと昔。この宇宙が生まれる前の昔。たくさんの神様がいた。いろんなことをしていて、楽しかった。でも、ある時、そのうちの一人が力を集め、権力を握り、ほかの神様をみんな食べてしまった。あまりに力を欲したその神様は、とうとう生き残った神様から倒され、封印され、二度と起き上がれないようにした。その時の封印の力を維持するために、今の宇宙が生まれた」
「はぁ……」
あまりにも壮大な話しすぎて、想像が追い付かない。
「それでね、その封印された神様。その膨大な神としての力をため続けていて、今でもこの世界に影響を与え続けているらしいわ。あなたも、私も、ね」
部長自身が神様なのかわからない。
でも、確かにその声には、悲しみと、少しの楽しみが混じっていたように感じた。
そして、青信号に変わった。
「それじゃあね」
部長に降ろしてもらい、第1キャンパスの正門前にたどりつく。
助手席側の窓を開け、部長が俺に言う。
「ええ、それでは、また部室で会いましょう」
最後に、部長が一言いってくれた。
「貴方に降りかかる“恐ろしい事”が“楽しい事”に変わりますように」
答える前に部長は車を勢いよく飛ばしていってしまったから、その意味を聞くことはできなかった。
それから1か月後、夏がやってくると部誌を発行することになった。
当然俺は、この時に貯めた七不思議ネタを加工して掲載してもらった。
するとどうだろうか。
いつもは鳴かず飛ばずな部誌ではあるが、なぜか飛ぶように売れたのだ。
ちなみに販売場所は各キャンパスにある生協と近所のコンビニだ。
それでちょっと贅沢な打ち上げができたことが、唯一俺の身に降りかかってきた“恐ろしい事”なのだろう。
だが、俺は気になっている。
たしか部長が案内してくれたのは七不思議のうち6つまでだ。
では、残り1つはいったい何だったんだろうか。
俺が部長になった今でも、それを考えている。




