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狼将軍と花

狼将軍と運命について

作者: aaa_rabit

短文です。

 嘗ては亜種や亜人といった“人間”とは違う生き物達が迫害の末に集まって出来たイルペルス王国だが、現在では殆ど同化してしまっている為に外見や能力もさほど“人間”と変わらない。時折先祖返りする者が居たりもするのだが、そういう者達は同族同士で近親婚を繰り返している貴族に多く、大半は良くてせいぜい能力を一つか二つ受け継ぐくらいだ。


 かくいうグランティルドも祖先に銀狼の血筋を持つが、常人よりも嗅覚と身体能力が秀でている他は普通の人間と大差ない。幸い彼が選んだのは軍人の道であり、生まれ持った肉体と能力を生かす職場に恵まれていたお陰で出世も早かった。これで可愛い嫁の1人でも迎えていればまさに人生勝ち組、と言えるのだが、彼の嫁は今のところ仕事であり、戸籍上はバツ一つ付いた寂しい独り身である。連絡もせず新妻を放置したまま、一年も遠征に行っていれば、嫁に逃げられるのも当然だろう。


「妻とは縁が無かっただけだ」


 一応恋愛結婚だった筈なのに、ただそれだけで済ませる彼も彼である。


 以来、外見が与える冷たい印象もあって、冷淡な男だと見られるようになった。だが、腐っても元は肉食獣の血を引く身である。据え膳は遠慮無く頂くし、身の内に入れた相手に対しては相応に優しい。遊びと割り切って付き合う分には理想の相手として、特に既婚の女性には人気である。来るもの拒まず、去る者追わず。グランティルドとはそういう男であった。




 彼が運命に出会ったのは、とある未亡人の同伴として向かった邸でのことだ。鼻を過る青さに混じる甘やかな香り。グランティルドの思考は今までにない心地良い香りに占められており、気付けば庭の前に1人いた。正体はどうやらこの眼前にある可憐な花の芳香らしい。


「その花がお気に召しましたか?」


 花の精だ、と情緒に疎いグランティルドは現れた少女をそう称した。それほどまでに少女の持つ全てが慎ましく咲き誇るもの達と似通っていたからだ。惚けたままのグランティルドの前にやって来た少女は、繊細な指で一輪摘まむとそっとグランティルドの胸元に飾る。言い知れぬ香りが鼻腔を通り抜けて内を満たしていく。


「この花は、」

「ロサ・アリアンジュ、と言いますの。わたくしの花ですわ」

「アリアンジュ……」


 胸に刻むように呟く。薄紅の髪を持つ少女と同じ色、香り。


「はい」


 はにかむような微笑みを少女が浮かべる。不意に強い感情が湧き上がり、世界の色が瞬く間に色付いた。本能のまま抱き寄せれば、益々香りが強くなる。噎せ返るようなそれに普段の彼であれば鋭い嗅覚を刺激されて顔を顰めただろうが、この香りだけは幾ら嗅いでも満ち足りるだけだ。




こうして狼将軍は一輪の小さな花に囚われたのだ。

一応シリーズものの予定です。

気ままに書き散らしました。

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