カタシロ
「本家を継ぐことを拒否しながらも、都合の良いところだけは利用する、か、我ながらやれやれ、だな」一つの空間の前にたたずみ、かれはそこに手をかざす、「解封」
澄んだ空気というものが在る。その事を実感できる場所。その神社の境内に一つの朱が在る。その朱が一つの人影として形を為す。紗の様な肌、そよ風の中に揺れる絹糸のような黒髪。その頭が つ、とあがり、閉じられた眼差しを男へと向ける。
「神凪」呼ばれた緋の袴の巫女は、玉砂利の上を滑るようにして彼との間を詰めると、ふぁさりと彼を恋い焦がれ待ち焦がれた人かのように抱擁し彼女は二人静謐の中にしばし佇む。
「お待ち、しておりました」
「力を、貸してもらいたい」
「主の望みに否やは無く。ただ、しばしこのままに」
*
その答えはあまりにも残酷、男は失意し、あとには打ち捨てられた人形が残された。
神に似せて創られた人は神にはなれず、人に似せて造られた傀儡もけして人にはなれず。
主の失意に神裂く剣は折れ、神凪ぐ盾は裂け、神を封ずる器はその用を為さず。そのものに夢想を見いだせなくなった玩具は打ち捨てられるが運命だ。
しかし、その奇跡を目の当たりにして、次の奇跡をと願う者は後を絶たず、初めの一人から、今に至る。
それでも彼女達の刻はあの日から止まったまま。所詮は人の造りし箱庭の中、人形に写されし人の夢