本家の人間現る その2
一枚の封書を机の上に無造作に放り出し、「いつもの催促よ、文面から、書いた人物から何から何まで全くの同じ」言って、義務は終わったとばかりにどっかと座をかく。それなりに整った容貌をしているはずではあるのだが、その仕草からは色香というものがまったく感じられない。
「源十郎様っ、お早うですっ!! お客様ですか、こんな朝っぱらから誰ですか、っととりあえず今からお茶入れますねっ、…て、慶子さんっ? いえ、失礼致しました。慶子様、ようこそいらっしゃいました」
「いいわよ、普段通りにしていなさいよ」
「いえ、そのようなわけにはまいりません。ただいまお茶をお持ちいたします」瞬時に、神無は少女然とした雰囲気を霧散させ、まさに人形然とした無機質な動作を残し、粛々と奥へと下がる。
「で、あれが神無というのはどういう事? 随分と変わったものね。豊かな感情表現と自由意志!? どちらも私達の目的とは無縁ね」
「ふむ、本家は、まだ、あの計画にこだわっているのか…」
「生命ある人形をつくるという奇跡、それが成されたなら、次の奇跡もと考えるのは人間の業というものではなくて? 準備はできているはずよ、源十郎様」
いいざま、彼女が飛び退くのと同時、彼女の後ろから放たれた銀光が源十郎の居場所を射抜いた。
「やれやれ、用心、というのは無駄になるに越したことはないん、だがな」が、その人影は何事もなかったかのように、ぼやきながら立ち上がる。
「予想済みってわけ、Victoria!」声と同時、銀の彫像とでもいうべき騎士が彼女の傍らに立つ。対照に源十郎の影がわだかまりヒト型を成す。
「我楽、推参!」
「忍型ね、それでわたしのVictoriaの相手をするつもり、それは戦闘には向いていないはずよっ」
「問題、ない」源十郎の声と同時、縦横に走る黒い線が二人を中心に沸き上がる。
「Victoria!」叫び声に応え、白銀の騎士が動こうとし、叶わず黒い奔流の中に埋もれていく、
「ふむ、この手の|伝心(オーダ-)タイプの人形の弱点は、行動対象が二つ以上の場合、判断に遅延が生じる、という事だな」
「それぐらい承知、NIKE!」声と同時、一条の光が二人の人間の間を疾り、黒い波を切り裂き、転瞬、その光条は、目の前の相手を無視し、何もないと見える空間に突き刺さる、寸前、横合いから投げられた苦無がその光条を叩き落とす。
「逆に彼女は、自分の意志を優先しすぎるきらいがあるわね、源十郎!! だから、こんな幼稚な手にもひっかかる」言葉ととともに断ち切られた黒い奔流は逆に彼らの方へと流れ込む。
「…!」声にならぬ悲鳴が奔流の中で起こり、その中で光の爆発がおこる。
「Victoria!!」その光の奔流の中から呼ばれた女騎士が飛び出し影をつかむ「捕まえた。っと」「じゃ、神無はもらっていくね」
「やれやれ、人形遣いの弱点を識る者はやはり人形遣いというわけか」彼女が去った後の部屋の中で黙然と彼は呟いた。