余
いつもの朝の風景に一つの変化が現れた。源十郎と神無の後ろにしづしづと一つの朱が付き従う。「凪姉様」たまらず少女がその影に声をかけると「主様をお護りするが、我が役目」と整然とした答えが返ってくる。かとおもうと「…というのは建前で、あなただけに主様を独占はさせません」と強い意志を秘めた言葉が返ってくる。
「ううっ、凪姉様怖いですっ。でもでも私も負けてはいられないです。そういうわけで、源十郎様、…えーと、そのわたしともアレして下さい」
「アレとはなんだ?」少女の決死の思いもむなしく男から返ってくるのは無造作とも言える素朴な疑問
「え〜とそういう事は乙女の口から言うのは、はばかられるんですけど、でもでも、え〜と、このままじゃすすまないので、あの〜、その〜、え〜とその、せ、せ、せ、接吻です」
「…したか、そんな事」真剣な眼差しで言う少女に返ってきたのはまたも無情な一言だった。
「ううっ、それは凪姉様とはできるけど私とはできないっていう遠回しな拒否なんですかぁ、源十郎様ぁ〜」
「……あれか、必要だったからやった。ただ、それだけの事だ」泣き出す一歩手前の神無を見てしばし黙考し、思いついたように男は応える。
「え〜、そんなぁぁ、………でもでもという事は必要ならするってことですよね源十郎様」
「必要ならばな」恨めしげな少女の眼差しに応える言葉も端的だった。
「必要ですっ、今すぐ必要ですとも私の心の平穏の為にっ!!」
「神無、主様がお困りです」言って立ちふさがる緋の巫女に「源十郎様は絶ぇーつ対譲りませんからね」と言う叫びとともに女達の闘いが静かに始まった。
つぎはぎだらけの人形、それが神無だ。それでもこの心だけは真実だと思う、彼とともに在りたいと願うその心だけは自分自身のものだと思う。彼がいてその側に自身がいる。このささやかな現実こそが人形の見る夢
源十郎シリーズ、携帯版 第一部終了です。
携帯に対応していませんが、第二部、源十郎シリーズ第五話 ねこねここねこ
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